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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

 また体調を崩し更新が滞ってしまい申し訳けありません。

 本来ならヴァルス・ラングがドメル艦隊に引き抜かれてドメルの元で活躍する話と運命のEX-178艦長就任による
ヤマトとの交流、そしてゲール艦隊の攻撃による最後までを描くつもりでしたが、異次元断層での一件は
散々2199挿話で描いてきましたし、ドメル艦隊での活躍は「疾風の漢(おとこ)」の繰り返しになる事に気が付き、
その構想はひとまず置き、久しく書いていなかった太陽系関連、それも第一次、第二次の内惑星戦争について物語を
綴ってみたいと思います。

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                                          211.第一次内惑星戦争秘話ー(2)この項続く
# by YAMATOSS992 | 2017-10-31 21:00 | ヤマト2199 挿話
ラング司令指揮のもと軽巡洋艦ゲットランは小破し、かつ、魚雷・ミサイルも尽きた駆逐艦ZR-101を僚艦に
先程の襲撃艦の追撃態勢に入った。
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「大分遅れちまったが、奴はまだ近くに居やがるんだろうか!」バーガー中尉が親友のライル・ゲットー大尉の仇を
撃たんとうずうずしていた。

「それよりあれは囮の攻撃だったのではないでしょうか? 我々を輸送艦隊から引き離すのが目的なのでは・・・。」
ディラー少尉が作戦に疑問を差し挟んだ。

「我々が引きずり廻されている間に本隊が襲撃される事を心配しているのか?」バーガーが横目で自分の副官を見た。

「ゲットランからゲシュタム・ジャンプの座標が届きました。」通信士が報告する。

「航法士に廻せ!」間髪入れず副長が命じた。

「艦長! 指定座標はゴトランド星系Y軸方向一光日の外宙空間です。 この距離をジャンプするためにはゲットランとの
機関・同調が必要です。」航法士が問題点を告げた。

「何か問題があるのか?」バーガーが今度は首だけ捻って航法士に問いかけた。

「いえ、機関・同調が必要なジャンプなど光年単位の長距離航行しかした事が無かったものですから、つい・・・。 
すみません、機関・同調作業に入ります。」航法士は機関部との打ち合わせに入った。

<これが目的で戦闘力の無いこのポンコツを連れ出したのか・・・。>バーガーはラングの思慮の深さに嫉妬した。

ガミラスは単にサンザー星系のみならず多数の殖民星や併合惑星国家を持っている。

そしてそれらをしっかり掌握する為には強大な軍事力が必要だった。

しかし、版図が広がるにつれ被征服民もガミラス軍に組み込む必要が出て来た。

しかし、力づくで征服した他星系の人間に艦艇などの強力な武器を与える事はガミラスにとって危険と考えられ初期には
被征服民は陸戦隊など艦艇を用いない部隊に限られていたが、人員の不足は如何ともしがたくガミラス帝星の版図
拡大に大きな影を落としていた。

しかし、ある時、ゲシュタム機関の共振現象という現象が開発局で発見された。

これは二台以上のゲシュタム機関を同時運転すると単独で運転した場合よりはるかに長い跳躍距離を得る事が出来ると
言う物であった。

これは軍の人員不足に悩む軍需省に朗報として迎えられた。

単艦での跳躍距離を光時単位に抑え、二艦以上軍艦が集まれば軍事遠征に必要な跳躍距離を得られるのでは?と言う希望であった。

そうすれば、反乱分子が軍艦を乗取って逃亡しても単艦では遠くに行けず、二隻以上の追撃艦隊に簡単に追いつかれて
制圧されてしまうのだ。

だが問題もあった、二隻程度の艦隊では光日単位が精々で実用上必要な跳躍距離を得る為に常にガミラス艦隊は
多数の艦艇がひしめき合う大艦隊とならざるを得なかった。

ラングはこれを利用した。

健全なゲシュタム機関さえ装備していれば小破して弾薬も尽きている駆逐艦ZR-101でもゲットランが長距離ジャンプする
為の僚艦として充分役に立つ。

だが、火力の発揮出来ないZR-101は危険には曝せない、だからラングは一度ゴトランド星域を一望出来る宙域まで
距離をとり、敵艦を発見したら近傍まで再度、艦隊ゲシュタム・ジャンプで接近、ゲットランだけが突撃して敵艦を一撃で撃沈する決意だった。

「敵艦発見! 重巡クラスです。小惑星RS-213の陰に隠れています。」測的主任が報告した。
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「よし、本艦とZR-101は短距離ジャンプで距離10,000まで接近、その後ZR-101はその位置で待機、
本艦は敵左舷後方より接近、ビームを浴びせつつ、魚雷を全弾叩き込む!」ラングが作戦の詳細を指示した。

「最終ジャンプ終了! 本艦は攻撃位置に着きました!」航法士が突撃開始位置にゲットランが到着した事を告げた。

「突撃開始! バーガー中尉、後を頼む!」ラングの言葉はバーガーには別れの言葉に聞こえた。

「本艦も突撃に参加する!」<このまま二等如きに名を成させてたまるか!>バーガーの負けじ魂に火が付いた。

ラングにはバーガーの考えが手に取る様に判ったが、今は議論している暇は無かった。

敵・ゴトランド・ゴースの艦隊型重巡を逃がす訳には行かなかったからだ」。

今仕留めねば、ゆくゆくこの宙域を荒らす交通破壊艦として跳梁跋扈する事を許す事になってしまう。

特にゲシュタム・アタック(一撃離脱戦法)を熟知していると考えると更に厄介な存在だった。

「突入速度を更に10ゲック上げろ! 主砲はまだ撃つな、魚雷方位盤セット完了したか?」ラングの声が狭い艦橋内に
響き渡る、一等ガミラス人の戦術士官が魚雷・方位盤の意味が解らず複雑な顔をしたが艦橋にいたハイデルン中佐が
雷撃・管制装置の事だと耳打ちしてやった。

「雷撃・管制装置セット完了! 敵艦をロック・オンしています。」

「おう! 全発射管発射(オール・シュート)!」今度はラングが専門用語の違いに戸惑いながらも正しく判断し直して
攻撃を命じた。

「艦首、艦尾全ての発射管、魚雷を発射しました!」先程の戦術士官が報告する。
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「航法士、最大戦速、魚雷との距離を出来るだけ縮めろ!」この命令にはさすがのハイデルンも胃の辺りに冷たい物が
入ってくる感じを否めなかった。

<このままでは敵艦が近接防御火器で魚雷を迎撃、爆発させられたら本艦も巻き添えになってしまうぞ、この男、何を
考えているんだ!>とラングの命令に疑問を持ったハイデルンだったがラングの次の命令でその疑問は氷解した。

「発射した魚雷群の直後まで追いつきました!」探知主任が報告する。

「よし!前甲板、艦底の砲塔、射撃開始!敵艦にこちらの魚雷を迎撃する猶予を与えるな!」ラングの命令一下、
ケルカピア級軽巡に備わった三基の三連装陽電子ビーム砲塔の内、前方指向の出来る砲塔が次々と火を噴いて敵艦を
射すくめた。

敵艦はその艦体表面に無数の近接防御火器を備えていたがラングの仕掛けた立体攻撃の前にそれらは悉く本来の
役目を果たす事無く沈黙していった。

そして近接防御火器の無効化が果たされると殆ど同時にゲットランの放った魚雷群が敵艦に次々と突き刺さっていった。

湧き上がる爆炎、その中にゲットランは何も躊躇う事無く突っ込んでいった。

それを見ていた駆逐艦ZR-101の副長は悲鳴を上げそうに成ったがバーガーが肩に手を廻しながら言った。

「雷撃の極意はな、魚雷を発射したら一緒に目標に突っ込む事だ。」

「 ビビッて手前で回避しようとして敵に腹や側面を見せたら魚雷は当たってもテメェがお陀仏になっちまうぞ。」

バーガーが言った通り、第二次大戦で日・米・英の雷撃機は魚雷投下後も敵艦に突っ込み続けて敵艦に晒す前面投影面積を最少にする事で雷撃を成功させると同時に雷撃機も生き残る事に成功したが他国、特にイタリア空軍は魚雷を
投下直後反転して脱出を試みたが敵の直前で面積が極大である下面を敵の砲火に晒すと言う愚を犯し、
多数の雷撃機を失った。

また、対空砲火の届かない所で魚雷を投下する事も試みられたが、今度は魚雷の着水地点が遠く成り過ぎ魚雷の
命中率は最低になってしまった。

近接・魚雷投下と敵艦・突撃を組み合わせた日・米・英の雷撃隊のみが戦果を残せたのだ。

そんな事をラングやバーガーが知っていたはずは無かったが、彼等も魚雷発射と敵艦・突撃を組み合わせて実行、
魚雷の着弾による爆炎に彼等は何の躊躇いも無く突っ込んでいった。

爆炎に覆われ何も見えなく成ったスクリーンを見たディラー少尉は自分の人生が終わったと思った。

「文字通り、炎の洗礼だな! これでお前も一人前の宙雷屋だ。」バーガーがディラー少尉の背中をどやしつけた。

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ハイデルン中佐は事の顛末を第六機甲師団副指令、エルク・ドメル下級少将に報告した。

「信じられるか? 輸送艦隊とその護衛が付け狙う敵の交通破壊艦や宙雷戦隊を退けただけで無く、ゴトランド星系を
封鎖していた敵艦隊を突破、更に襲って来た重巡も始末しただと! そんなに都合良く事が進められるものか? 
カリス! どう考える?」ドメルにはハイデルンの報告が大量の積荷を失った第11輸送艦隊の司令、バーガー中尉と
護送艦隊司令、ラング少佐を庇っているとしか思えなかった。
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「はっ、事件全体を見るととても信じられない出来事ですが、個々の戦闘を見ると宙雷戦術的に基本的で堅実な
作戦です。同じ宙雷屋である私はこの戦果を信じます。」カリス・クライツェ大尉が応えた。

「お前もか、ゲットーなぞ興奮して事情聴取も満足に出来なかったが、やはり司令にはハイデルンの申し立て通りに
報告するしか無さそうだな。」ドメルは諦めた様に目を瞑り肩をすくめた。

「ヴァルス・ラング少佐、その働きは真っ事”疾風の如き漢(おとこ)”じゃな。」ドメルとクライツェが声のした方を振り向くと
老人が一人、立っていた。

「御師匠!」老人はドメルの上官らしかったがドメルの呼び方はとても上官に対するものとは思われ無かった。
                                      
                                       209.疾風の漢(おとこ)ー(6)この項 了                                                                

# by YAMATOSS992 | 2016-06-25 21:00 | ヤマト2199 挿話
やがて先遣の軽巡洋艦が接触して来た。

バーガーの駆逐艦ZR-101は魚雷を撃ち尽くし、VLSのミサイル弾庫もスッカラカン、艦底に付いた280mm連装
陽電子ビーム砲塔も旋回不能という有様であった。

もう一隻の駆逐艦ZR-102も同じ様な状態でとても戦闘が出来る状態では無かったが第六空間機甲師団から派遣されて
来た軽巡洋艦はビーム砲塔を油断なくこちらに向けつつ、接近を図った。
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バーガーが無礼にも真直ぐ高速で接近してくるケルカピア級軽巡の所属と目的を誰何した。

第六空間機甲師団所属・第一偵察艦隊・旗艦 "ゲットラン" 、目的は輸送艦隊の受入・臨検との返答が来た。

「けっ、こちとら荷物を命懸けで運んで来てやったと言うのに”臨検”かよ!ふざけやがって!」バーガーは臨検の為の
士官を乗せた内火艇がこちらに来るのを見ながら毒づいた。

通常、”臨検”とは交戦国の軍艦が相手国の艦船を捉え、その積荷と船舶・書類を比べて不備が無いか、戦略物資を
運んでいないかを調べる事を指す。

従ってバーガー中尉にしてみれば友軍に”臨検”される事などあってはならない屈辱的な出来事であった。

ゲットランからの”臨検”目的の内火艇が輸送艦隊の旗艦、輸送艦101号へ横付けした。

輸送艦101号のボーディング・ブリッヂが内火艇のエア・ロックに向けて伸ばされそこを通って一等ガミラス人の将校が
二人乗り移って来た。

一人は初老の域に掛かった無骨な傷だらけの隻眼の中佐だったが、もう一人は若い、如何にも貴族的な顔をした
少尉だった。

<なんでこの艦は通路に所狭しと配線がはみ出しているんだ?>艦橋へ案内される途中、初老の中佐はこの艦は
規律が乱れていると感じ眉をしかめた。

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一行が艦橋に案内されるとラングとバーガーそしてそれぞれの副官が待っていた。

「第11輸送艦隊・第112護送駆逐艦隊・総合司令、ヴァルス・ラング少佐であります。」ラングは如何にも歴戦の戦士と
いった風貌の隻眼の男に敬礼した。

「私はヴェム・ハイデルン中佐だ。 だが、勘違いするな、ラング少佐、私はこの士官の役目の見届け役だ。居ない者と
思って欲しい。」ハイデルン中佐は答礼しつつ言った。

「ではこちらの少尉殿が”臨検”士官ですか?」ラングは初めての厳しい役目にコチコチになっている貴族の子息然とした
若者に敬礼した。

「ハインツ・ルーデル少尉であります。 この度はゴトランド・ゴース艦隊の妨害を排し良くぞ補給・輸送を成功させて
頂けました。 感謝します!」ルーデル少尉は英雄を見る眼差しでラング達に敬礼していた。

「こちらも少々複雑な事情を抱えていておりまして・・・。」ラングは積荷の摘み食いを如何に報告・説明するかを
考え口籠った。

「ラング司令、ここまで来たら始まらねえ、正直に全てを話すしかないだろ。 おっと俺の申告がまだだったな。
俺は第11輸送艦隊司令、フォムト・バーガー中尉だ。よろしくな。」バーガーもルーデル少尉に敬礼した。

「では搬送・積荷のデータを現物と照合します。 宜しいですね?」臨検・少尉は当然の様にその役目に従った。

なる様になれとそっぽを向いて口笛を吹くバーガー、ラング司令は覚悟を決めたが如く腕組みをして目を瞑っていた。

「えっ!」”書類”のデータと実際に積載されている魚雷やミサイルの数を照合していたルーデル少尉が手にしたタブレット
端末から顔を上げ、腕組みしているラングに当惑した視線を浴びせた。

それもそのはず、積荷の魚雷やミサイルは二十発づつコンテナーに収められ、それが一隻当たり十梱包積んでいたはず
だったが書類上積載している魚雷やミサイルはそのことごとくが『戦闘による行方不明』となっていた。

「ラング司令、『戦闘による行方不明』とは被弾によるものですか? それにしては輸送艦の被弾跡はほとんど無かった様ですが・・・?」ルーデル少尉が戸惑いながら尋ねた。

「それについては第11輸送艦隊司令の俺が答えよう。」バーガーが本来の自分の責任を取るべく手を挙げた。

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「それではゴトランド回廊を固めていた敵艦隊を中央突破する為に積荷の魚雷・ミサイルを投棄して身軽になったと言う事
ですか! それでは戦線離脱と同じです。軍法会議ものです!」ルーデル少尉は呆れていた。

強固な敵守備艦隊を退けて輸送を成功させた英雄と思っていただけに落胆も大きかった。

「少尉、積荷の投棄を命じたのはこの私だ。 バーガー中尉に責任は無い。」ラングは話が複雑になる前に二人の問答に
割って入った。

「おおよそガミラスでは上官の命令に従って行動した者が軍法会議に掛けられた例は無い、違うかね少尉。」ラングは
複雑極まる事の顛末を一つ一つ丁寧に解きほぐして行った。

「うははは! これは痛快だ。 貴様らは輸送艦隊を身軽にして敵艦隊の中央突破を図った。
しかもその積荷・魚雷の捨て場所は敵艦隊中央だったと言うのか!」それまで黙ってルーデル少尉の”臨検”作業を
見つめていたハイデルン中佐が高笑いした。
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「迂回コースを取らせていた別働隊と連絡が取れました。イオン嵐宙域を航行して来た艦隊は全艦無事です。 
重力井戸宙域を迂回した艦隊は敵小艦隊の待ち伏せに会い二隻を喪失、自衛の為手持ちの魚雷・ミサイルは全部使用
したとの事です。」通信士が朗報と凶報の両方を伝えた。

ガミラス軍内では輸送艦が宇宙気象や重力井戸、敵艦隊から退避する為に積荷を投棄する事は認められている。

そうでなければラングが使用させた輸送艦の迅速積荷投棄装置など初めから装備されているはずも無かった。

だが、辿り着いた補給先で渡す物資が全く無いと言うのでは任務は失敗である。

そしてその場合、軍法会議を経て銃殺される恐れが高かった。

しかし、ラングが指揮する第11輸送艦隊・第112護衛艦隊は大きな損害を出しつつも敵・封鎖艦隊を排除し、
最初の数分の一になってしまったが積荷の輸送に一応、成功した。

しかも投棄した魚雷・ミサイルはただ捨てたのでは無く敵艦隊に叩き込み壊滅的損害を与えていた。

更に僅かではあったが無傷の魚雷・ミサイルの輸送にも成功していた。

これで取りあえず、第六空間機甲師団も一息つける事が出来たのだ。

「・・・。」ルーデル少尉はラングの顔とハイデルンの顔を交互に見た。

さすがに少尉のすがり付く様な眼差しにハイデルンは助け舟を出す事にした。

「ルーデル君、ラング司令は間違った事はしておらんよ。 彼の行動を戦略的視点で考えて見たまえ。」ハイデルンの
『戦略的』と言う言葉がルーデル少尉の顔の曇りを取り去った。

ラングの指揮する第112護送駆逐艦隊はバーガー中尉の指揮する第11輸送艦隊を守って第六空間機甲師団へ
武器・弾薬を届ける事が任務であった。

そして第六空間機甲師団は他の機甲師団と協力して惑星ゴースとその所属するゴトランド星系を制圧する任務を持っている。

だからラングが第六空間機甲師団へ弾薬を補給しようとする時、妨害して来る敵艦隊に運んでいる魚雷を叩き込んで
届けるべき積荷を消費してしまってもその消費によって敵艦隊の勢力をそぐと言う意味ではゴトランド星系を制圧、
惑星ゴースを併合すると言うガミラスの大戦略から外れた行為と言うよりは適切な援護攻撃と言えるのである。

「ラング司令は単に魚雷を輸送した訳では無い、それを使った”戦果”を届けてくれたんだ。」ハイデルンはラングの
左肩に手を置き、その戦功を讃えた。

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 第11輸送艦隊の残存艦は軽巡ゲットランに先導され、後方左右に第112護送駆逐艦隊を従えて進んでいた。

「後少しで本隊の泊地だ。 破損した艦の修理も行えるぞ!」ラングがバーガーが手荒く扱った為、廃艦寸前の
第112護送駆逐艦隊、各艦に檄を飛ばした。

「司令、嫌な兆候が超空間通信に出ています。」通信士が報告した。

「何! ゴトランド・ゴースの”ジャミング”が始まったか?敵艦隊の攻撃を厳戒せよ!」ラングは全艦隊に警戒警報を
流した。

しかし、その行動も虚しく先導艦の軽巡ゲットランの近傍に一瞬、影の様な物が現れたなと思う間もなくその影はビームを
放つと再び宇宙の闇に消えた。

「ゲシュタム・アタックか!(一撃離脱・攻撃)」ラングはまだ敵艦隊が無力化されていないのを感じた。

「ゲットラン、被弾! 損害の模様は不明!」情報士官が報告した。

「ゲットランどうした! 損害状況を知らせ!」ラングは何度も呼びかけた。

「こちらヴェム・ハイデルン少佐。敵の奇襲を受け艦橋要員に死傷者多数、応援を求む。」
ハイデルンが応えた所を見ると設備敵な損害より人為的な損害が大きい様だった。

<艦橋窓から敵ビームが侵入したか!>襲って来た敵艦はそれほど大きくない戦闘艦だった、だから放ったビームが
ガミラス艦の装甲を貫けないのは承知で艦橋の”窓”を狙って乗員の殺傷を図ったものと考えられた。

「ゲットランの艦橋要員は全滅ですか? しかし通信を送って来た所を見ると設備敵損害は少ないと判断されます。
だったらこちらの艦で航行出来るが戦闘不能なKR-101の艦橋要員を送りましょう。」副長のカウト大尉がラングに
進言した。

「了解した。カウト・ロゼム大尉、救援隊を率いてゲットランにおもむけ!」ラングの命令に副長は静かに首を振った。

「お言葉ですが私は司令が先程口にされた”ゲシュタム・アタック(一撃離脱・攻撃)”なる物の詳細を知りません。 ここは
少しでも多くの情報を持つ人が行くべきだと思います。」副長の主張はもっともだったがラングにしてみれば再度持ち場を
離れる越権行為を促されている様で苦笑した。

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「ゲットー! ライル・ゲットー中尉、しっかりしろ!俺だ、バーガー中尉だ。」バーガーは床に艦橋の床に倒れていた
旧友を助け起こした。

「見っとも無い姿を見せてしまったな。救援を感謝する。」傷ついたゲットーが弱々しくバーガーの手を握った。

「それとな、すまんが俺はもう中尉じゃない、大尉だ。」ゲットーは力なく微笑むと目を瞑った。

「ゲットー!」バーガーが焦って友を常世の世界から呼び戻そうと声を掛けた。

「バーガー中尉、友を気遣う気持ちは判るがまずは任務に専念したまえ、それが友を救う最短の道だ。」ラングが前と
違った厳しい言葉でバーガーに任務遂行を促した。

「彼なら大丈夫だよ。 右手首の優先タグを見て見たまえ。」友を気遣うバーガーにゲットーに付けられた救急優先
ストラップの色が”緑”である事を示した。

普通、至急要搬送者には”赤”、念のための搬送者軽傷者には”黄”、搬送の必要が無い軽傷者には”緑”、そして死者は
”黒”のストラップが右手首に巻かれる、そして今回の襲撃でほとんどの艦橋要員は軽傷者ばかりであったが、
艦橋最前部に居た操舵手だけは戦死してしまった。

多分、敵ビームは艦橋窓正面からでは無く、艦橋側面に命中、拡散して正面窓から侵入した物と考えられた、
そうでなくてはこの物的・人的損害の少なさは説明出来なかった。

「”技師(エンジン)! この艦の装備はまだ使えるか! 特に探知装備に問題はないか、良くチェックしてくれ!」
ラングは今回も”技師(エンジン)ことホッファー・キルリング技術少佐を伴っていた。

「もう済んでまっせ! 全探知系、通信系、電子戦装備もバッチリや、いつでも全力で戦えますぜ、大将!」
”技師(エンジン)が力強く応えた。

「よし、これより敵・襲撃艦を殲滅する。 駆逐艦ZR-101は本艦に同航して作戦に参加せよ!」ラング司令の命令は驚くべきものだった。

ラングが率いていた第112護送駆逐艦隊は先程のゴトランド・ゴース艦隊との戦闘で大損害を出しており、
ZR-101は主砲塔回転不能、全魚雷・ミサイル残弾無し、ZR-102は主砲は無事だったが、」やはり全魚雷・ミサイルは
撃ち尽くしていた、ZR-103に到っては撃沈され全損していた。

「何故、戦力を残しているZR-102では無く戦力にならないZR-101を同航するんだ?」バーガーは再び駆逐艦・艦長に
指名されたがそれが戦えない艦である事が大いに不満だった。

「作戦はまず、ゴトランド星域を眼下に一望出来る宙域まで長距離ゲシュタム・ジャンプで離れ、敵艦の位置を特定、
ピンポイント・ジャンプで至近距離に接近・攻撃、殲滅します。」ラングが作戦を説明した。

「ゲシュタム・ジャンプで逆落しか、随分と大胆な作戦だな。」ハイデルン中佐はラングの作戦説明を聞いて感心した。



                                       209.疾風の漢(おとこ)ー(6) この項 続く




                                               

# by YAMATOSS992 | 2016-06-18 21:00 | ヤマト2199 挿話
 ゴトランド・ゴース艦隊の司令官はちっぽけなガミラス艦隊が自分達の方に向かって突っ込んで来るのを見て鼻で
笑った。

「奴らは自殺する気かのう! これだけの戦力差を物ともしない武勇は買うが、何の工夫も無く突っ込んで来るだけとは
武人としては落第じゃな。」司令官は副官を見て顎をしゃくった。

確かに彼の目算は当たっていた。

ゴトランド・ゴース艦隊は戦艦十隻、巡洋艦五隻、駆逐艦二十隻、その他補助艦艇数隻からなる大艦隊なのに比べ、
ガミラス艦隊は中型輸送艦一隻、駆逐艦二隻の小艦隊、しかも艦隊の構成艦艇からしてこの艦隊が輸送艦と
その護衛・駆逐艦からなる戦闘を目的としないものである事は明らかだった。
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「敵艦隊に異常! 艦隊の規模が数倍に膨れ上がりました!」探知主任が驚いた様に声を上げた。

ゴトランド・ゴース艦隊は緩やかに取り舵を取りつつ艦首を殺到する魚雷やミサイルの方向に向け、被弾面積を減らす
努力を行った。

しかし、「遅いわ!」バーガーは闘志を剝き出しにして言った。

「司令、敵艦隊の誘導に成功しました! 敵艦隊はもはや拡散艦隊ではなく通常の密集艦隊に移行しつつあります。
こちらの誘導・魚雷の発射タイミング、慎重に図って下さいよ。」副官のディラー少尉も味方が圧倒的に不利な状況に
あるにも関わらず負ける気がしなかった。

「こちらの囮・魚雷が五十基、敵艦隊に突入します。」情報士官が冷静に告げた。

<さて、こちらの思惑通りに対魚雷・ミサイル(ATM)を使い果たしてくれれば良いのだが・・・。>ラングもバーガーも
スクリーンに見入った。

猛烈な爆炎が辺りの宙域を包みゴトランド・ゴースの艦隊の姿は一瞬、視界から消えた。

しかし、それはゴトランド・ゴース側にしても同じでガミラスの動向を見失っていた。

爆炎が晴れた時、ゴトランド・ゴース艦隊には次の対艦・魚雷の群れが指呼の間に迫っていた。
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第一群の魚雷の迎撃に対魚雷ミサイル(ATM)をほぼ使い切っていた敵艦隊は近接防御火器を使って弾幕を張るしか
無かったが、前の囮・魚雷群とは違って駆逐艦が放った誘導魚雷に率いられた大型魚雷群は巧みに敵の弾幕の
薄い所をぬって次々と敵艦に命中した。

ゴトランド・ゴースの探知主任はガミラス輸送艦隊が膨れ上がったと報告したが、これは本当に船が膨らんだ訳では無く
積んでいた魚雷とミサイルを投棄システムを使って艦隊の周りに展開させていた物を点火し発進させたものだった。

一回目は敵の迎撃ミサイル群を引付け、爆発させてしまう囮だったが、二群目は駆逐艦が発射した誘導・魚雷の出す
ビーコンに導かれて誘導・魚雷が狙った目標に一緒に突っ込んだのだ。

通常のガミラス駆逐艦は一隻あたり、前方発射管・四門、後方発射管・二門、前甲板上の垂直発射管(VLS)・八門、
合計十四基の誘導ミサイルを発射出来る。

つまり一基の誘導・魚雷は十~二十基の大型魚雷を導けるので通常の駆逐艦の場合、もし一隻しか居なかったら、
全発射管の魚雷を集中しても大型戦艦を撃沈する事は難しい。
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しかし、ラングが指示してホッファー・キルリング技術少佐とそのスタッフが実施した輸送・魚雷の急造プログラムによって
残った二隻のガミラス駆逐艦はその持てる火力を十二分に発揮出来たのだ。

しかし、問題もあった、基本的に襲撃目標は誘導・魚雷任せなのだ。

つまり、最初、ガミラス駆逐艦は目標を指定して誘導・魚雷発射するが、目標に接近すると魚雷は独自のプログラムに
従って目標を追尾する一種の”撃ち放し型”なので戦艦クラスの大物に魚雷が集中し、中型艦以下は撃ち洩らす恐れが
あったのだ。

「敵戦艦群はほぼ殲滅出来ましたが中型艦以下はほとんど無傷です!」情報士官がバーガーに報告した。

「予定通りだ! 次群の誘導・魚雷の発射準備は良いか! 目標、敵中小艦艇群!」バーガーは再び敵艦隊に魚雷の
雨を降らせて殲滅するつもりだった。

「旗艦、いや輸送艦101号から通信が入りました。」通信士がバーガーを呼んだ。

「おう、おっさんいや失礼、ラング司令、あんたの作戦通り事がはこんでいるな、喜ばしい限りだ。 だが、作戦はまだ
終わっちゃいない、俺の行動に口出しするな!」バーガーは勢いに乗っている今の状況を二等臣民に乱されるのが
面白く無かった。

「興が乗って居るところ、申し訳けないんだが右翼へ迂回させた船団と左翼に迂回させた船団が両方とも音信不通に
なった。

作戦計画では敵艦隊の中央突破する部隊は手持ちの魚雷とミサイルを全部使う予定だったのだが、迂回させた
船団群に残した魚雷やミサイルを第六空間機甲師団に渡せないと我々の任務は失敗という事になってしまう。

今現在我々が保有している魚雷やミサイルは後、一斉射分しかない、これを全部発射する訳にはいかないのだ。」
ラング司令の言い分はもっともだったがバーガー中尉にしてみれば散々積荷を摘み食いしておいて今更僅かばかりの
魚雷やミサイルを差し出して任務完了とするのは彼の矜持が許さなかった。

しかし、司令の状況判断に基づく命令を無視する訳にはいかないのもバーガーは重々承知だった。

<魚雷やミサイルが使えないならあとはビーム兵器しか無い。>幸いガミラス駆逐艦の陽電子ビーム砲はゴトランド・ゴース側で言えば戦艦クラスの大口径砲であった

但しに砲塔は一艦に連装砲塔が一基しかなく、しかも艦体下面という死角の多い場所に設置されていたので
ガミラスの駆逐艦乗りは皆、魚雷やミサイルを主力とした戦法を執っていたがそれが許されなければ仕方がない、
バーガー中尉はもう一隻の残存・駆逐艦ZR-102に命令を発した。

「敵艦隊の残存兵力を掃討する、貴艦は本艦とバック・トゥ・バックを執り死角を無くして敵に突撃を敢行する。
ガーレ・ガミラス!」本来ならガーレ・デスラー、ガーレ・フェゼロンとか言うべきなのだろうが、バーガーはそれらが持つ
特権階級的な響きが嫌いだった。
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「司令、やはりバーガー隊はこちらの援護をあてにしているんでしょうか?」副長がスクリーンから目を離してラングに
話しかけた。

「それならば放っておくだけだがあの隊形を見たまえ、ランツ君。」ラングはスクリーン上で敵残存艦隊に
吸い込まれてゆくバーガー隊を指差した。

「馬鹿な! 彼等は駆逐艦でビーム砲戦を行うつもりですか!」副長も決して新兵では無い、だからバック・トゥ・バックの
態勢で突撃するバーガー隊が陽電子ビーム砲で勝負しようとしている事に気が付いた。

<仕方ない! 彼等、ガミラスはザルツ星系を併合した存在だ。しかし、今は我々も二等とはいえガミラス臣民となった。 
彼等を見殺しには出来ない・・・。>バーガー隊がビームを閃かせ始めたのを見るとラングは”技師(エンジン)を呼んだ。

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ドーン、バーガーのいる艦橋が大きく揺さぶられる、「クソッ、どこをやられた!甲板長(ボースン)!」副長の怒号が
轟く中、バーガーの心の内は自分でも驚く程に冷静だった。

<これでやっと大事な物を救う事も出来ず、生き残ってしまった罪を清算出来る・・・。>
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だが、しかし、そんな想いを打ち消すような熱い願いがボロボロになったバーガー隊を飛び越え、敵・残存艦隊に
突き刺さっていった。

ラング司令が輸送艦に残すつもりだった最後の魚雷とミサイルを全弾発射したのだ。

今度は先の攻撃の様に駆逐艦の発射する誘導・魚雷は使えない、そこでラングは”技師(エンジン)ことホッファー
・キルリング技術少佐に魚雷やミサイルに元々組み込まれている簡易型の撃ち放しプログラムを有効にする様に依頼、
発射したのだ。

勿論、頼りは敵味方識別装置のみなので同士討ちは避けられたが、前回の攻撃の様な効率良い目標選択なぞ
望むべくもなく、同じ目標に多数の魚雷が集中してしまったり、殆ど被弾しなかった敵艦があったりとムラの多い
攻撃だったがそれでも青息吐息だったバーガー艦隊の援護としては十分にだった。

自艦隊を飛び越してゆく多数の魚雷やミサイル群を見て部下達は歓声を上げていたがバーガーの心は生き残れた
喜びと自分の悲しみを清算出来なかった苦しみに千々に乱れていた。

無数の魚雷とミサイルを浴び、再び爆炎に包まれる敵艦隊、三度に渡って無数の魚雷とミサイルの雨を受ける事など
通常の会戦では考えられない事なので彼等はもはやパニックに陥いり、動ける艦はちりぢりに母星へ潰走して行った。

**************************************************

敵艦隊が去ったのでゴトランド宙域を満たしていた超空間通信すら無効にする広域電波妨害(バラージ・ジャミング)が
消え、敵が自軍の為の通信や探査の為にバラージをスポット・ジャミングに短時間切り替えた時のみ回復出来た
超空間通信も常時、通じる様になった。

「第六空間機甲師団が迎えの軽巡をよこすからそれまで現状位置に待機せよとの命令をよこしました。」通信士がラングに伝えた。

ラングはそれに了解した旨、返信をさせた。

バーガーは自艦いや護衛駆逐艦ZR-101の応急修理の指揮にてんてこ舞いだったが、それでも第六機甲師団が
すぐさま自分達の受け入れをしてくれないのが面白く無かった。

                                       208.疾風の漢(おとこ)ー(5) この項 (続く)

# by YAMATOSS992 | 2016-06-11 21:00 | ヤマト2199 挿話
ゴトランド・ゴース宙雷戦隊が後回しにした機関不調の輸送艦の艦長は実は輸送艦隊司令ヴァルス・ラング少佐だった。

彼は秘策を持って業と僚艦一隻を連れ、輸送艦隊から落伍したのだ。

そして敵艦隊が自分達を追い越して行った後に行動を起こした。

「輸送艦101号から102号へ "花火" の用意は出来たか?」ラングの問に102号から直ぐに返事が来た。

「全弾発射準備でけましたで。何時でもいけまっせ!」強いザルツの地方訛りで男は応えた。

「よし!”技師(エンジン)”全弾発射せよ!」ラングの命令一下、輸送艦101、102号は積荷である空間魚雷を次々と
放出し始めた。

ガミラスの輸送艦と言えども必要な局面で危険な積荷を投棄出来る仕組みを持っていた。

そうでなければ危ない荷物を扱える希少な人材が失われるからだ。

だから、ゴトランド・ゴースの宙雷戦隊の監視員も落伍したガミラス輸送艦は戦闘時の通常業務を行っている物として
取り立てて艦長に報告しなかった。

しかし、輸送艦は見掛けの様にただ積荷の魚雷を投棄している訳では無かった。

両艦合わせておおよそ二十基の魚雷が投棄された時一斉に魚雷が火炎の尾を引いて敵・宙雷戦隊を目指した。

ゴトランド・ゴース宙雷戦隊は分散したガミラス輸送艦隊の構成艦を一隻づつ追いかけ様としていたが、旗艦の艦橋は
後ろから迫る大型魚雷の群れに恐慌をきたしていた。

<しまった!あの落伍艦は伏兵だったのか!>敵宙雷戦隊の司令は自分の迂闊さに臍を噛む暇も無く大量のミサイルに対する対応に追われた。

だが、駆逐艦が装備している防御火器の数などたかが知れている、ゴトランド・ゴースの駆逐艦隊は辺りの宙域を炎に染める大量のガミラス魚雷の爆発に呑まれていった。

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ゴトランド・ゴース交通破壊艦に突撃を仕掛けるバーガーの駆逐艦隊からでもラングが仕掛けた罠、大型魚雷の
大量爆発は観測出来た。

<おっさん、やるなぁ、ではこちらも負けずに魚雷で勝負だ!>ラングの作戦を聞いた時はそんな与太話、
聞いてられるかと相手にしなかったバーガーであったが、実績を見せつけられては自分達も奮い立たない訳には
行かなかった。

三隻の駆逐艦が一隻に見える位に重なった隊形で突撃するバーガー隊、確かにこの隊形では先頭艦以外主砲の280mm連装砲塔は使えない、しかし、前方四基、後方二基の魚雷発射管、全甲板上八基のVLS(垂直発射管)は直前に僚艦が居ようと居まいと関係なく発射出来るのだ。

一隻で合計十四基、三隻で四十二基の魚雷がゴトランド・ゴース交通破壊艦を襲った。
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交通破壊艦も充実した対空兵装を持っていたので幾つかの魚雷は迎撃出来たが撃ち洩らした数本の魚雷の直撃を
受けて大破した。

「駆逐艦ZR103が隊列を離れて輸送艦隊の方へ戻ろうとしています!」バーガーはその報告を受けるとすぐさまマイクをってその駆逐艦を制止しようとした。

「馬鹿野郎!ドナー少尉!すぐ戻れ!」

「バーガー中尉、私はこの駆逐艦で暴れる機会を与えてくれたヴァルス・ラング少佐とその部下達を見捨てる事は
出来ません!許して下さい!」ドナー少尉は輸送艦隊がいた宙域で起こった大爆発を観測しており、本隊が大損害を
受けた物と勘違いしたのだ。

「あれはこちらの作戦だ! お前も出港前の打ち合わせに参加していただろう!」バーガーは教育だけは受けていても
実戦経験の無い士官の役立たずさ加減に苦笑いした。

と、バーガーが見ていた通信スクリーンがブラック・アウトした。

<?>戸惑うバーガーに情報将校が悲報を伝えた。

「司令! 駆逐艦ZR103が撃沈されました。 隊列を離れたため、敵艦の砲火に晒された様です。」
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「何! 敵艦は大破させたんじゃなかったのか!」バーガーは怒りをぶちまけた。

「全艦主砲斉射だ! 今度こそ遠慮するな!」バーガーの復讐の矢が四筋閃き、今度こそゴトランド・ゴースの
交通破壊艦は完全に沈黙した。

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「この宙域を通るのは危険だ。 交通破壊艦、宙雷戦隊と二重の待ち伏せを受けている。」ラング司令は今後の方針を
バーガー達、幹部と打ち合わせていた。

「右に行けば縮退星団とイオン嵐、左へ行けば中性子星団とブラック・ホールの海、駆逐艦ならともかく、輸送艦では
どちらにいっても船体が持たないぜ。ここは中央突破だろう。」バーガーが選択の余地は無い事を告げた。

「敵艦隊の司令もそう考えるだろうな。順当な考え方だバーガー君。」ラングは何か秘策を持っている様だった。

「ローレン君、この航路を封鎖している敵艦隊の規模はどれくらいだ。」ラングは再度情報士官に確認した。

「はっ、確認されているだけで戦艦十隻、巡洋艦五隻、駆逐艦二十隻、その他補助艦艇数隻であります。 しかも彼等は
ガミラス艦隊の様な密集隊形では無く、各艦の間を20,000は開けた拡散隊形を取っています。」情報士官は驚くべき事を
伝えた。

「拡散隊形? そんな艦隊形状聞いた事もないぞ? 奴等は何を考えているんだ!」バーガーの副官が当惑した質問を
発した。

「いやディラー少尉、これは新しい戦術、ゲシュタム・ジャンプの実用化に伴って出現した新しい艦隊形式なのだ。」
ラング司令が部下の疑問に応えた。

通常、海上でも宇宙でも艦隊は僚艦を有視界に収める密集隊形を執る事が多い。

但し、自艦と僚艦の間は互いに爆沈しても損害を与えない位には離すのが常識だ。

そして全艦で一つの生き物の様に運動するのが今までの艦隊運用だったのだ。

しかし、転移航法(ゲシュタム・ジャンプ)が実用化すると艦隊運用の事情が変わって来た。

艦隊を構成する艦の間隔を今までの常識では考えられない位広げた場合、単艦で処理出来ない場面が出て来たら
直ぐに超空間通信で僚艦を呼べばゲシュタム・ジャンプで駆け付けてくれる。

もちろん、敵勢力に合わせた戦力を集中・運用させる戦略・戦術・管制装置、と超空間通信システムが充実している事が
必要だが、それさえ克服出来れば非常に有望な戦術なのだ。

今回のゴトランド・ゴースの艦隊が取っている各艦の間隔が20,000と言うのは通常の艦隊では考えられない位、広いが
新しい艦隊運用法においてはむしろ狭い位である。

これは封鎖すべき宙域が比較的狭かった事が大きな要因だった。

「敵の、ゴトランド・ゴースの艦がそれ程大きくジャンプ出来ないのかも知れません。」バーガー付きの情報士官が
推測を述べた。

「かと言ってあの封鎖線をこちらが艦隊を組んだまま突破しようとすれば、周り中から敵艦がジャンプして来て包囲、
撃沈されるし、艦隊を解いて各個に封鎖線を突破しようとすれば各個・撃破されてしまうのは明らかだ。 
ラング司令、速やかな御採決をお願いしたいところですな。」バーガーはここに到ってもまだ斜に構えたままだった。

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「今度の司令は人使いが荒いですなーや!」ランツ・シュナイファー技術士官補が愚痴を言った。

「アホ! こんな面白う作戦、やりとうてもなかなかやれるもんやおまへん! がたがた抜かしておるとケツの穴から
手、突っ込んで奥歯ガタガタ言わしちゃるぞ!」”技師(エンジン)”とラングが呼んだ男、
ホッファー・キルリング技術少佐は手元のキーボードを目にも止まらぬ速さで打ち続けながら言った。

「しかし、我々が運搬している魚雷、全てのプログラムを書き換えろとは一体どういう心積もりしてはるんでしょうや? 
大将、まさか運搬中の魚雷全部使うつもりなん?」
シュナイファー技師補はまだ自分のやるべき事が納得出来ない様だった。

「コラ! 滅多な事言ったらアカン! 我々は魚雷・弾薬輸送艦隊やこの荷を待っている第六空間機甲師団に何が何でも
届けなアカン! 勝手に使える訳無いわい!」キルリング技術少佐はそう言いつつ心の中で舌を出していた。
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「こんな馬鹿な作戦は許されません! 我々の任務は第六空間機甲師団が今の戦局で必要としている武器・弾薬を
届ける事です。 自らが戦果を挙げる事ではありません!」バーガーの副官、ディラー少尉は
どこまでも生真面目な男だった。

「私だって無傷で積荷を輸送艦に積んで渡したい。 しかし現状選択可能なルートは三つ、しかもその内一つは縮退星が
造るイオン嵐の宙域、もう一つはブラック・ホールと中性子星の星団が造る重力井戸の星域、この二つは武器・弾薬を
満載した動きの鈍い輸送艦にはとても通過不能だ。
最後に残ったルートはゴトランド・ゴースの艦隊が拡散隊形の艦隊で塞いでいる。
さて、君ならどのルートを取るね?ディラー少尉。」ラングは新米の少尉に戦略と言う物を教え様としていた。

「ゴトランド・ゴース艦隊の中央突破以外に方法はありません!
運が良ければ十数隻の輸送艦は突破に成功するでしょう。」若者らしい真直ぐな意見にラングの頬は緩んだ。

「それじゃ駄目なんだよ。やられた艦の武器・弾薬は先方に届けられないだろ?
俺達、第11輸送艦隊の補給量が減れば第六空間機甲師団は不利になる、全く届けられなければ撤退を
余儀なくされちまう。
それじゃまずいだろ? 少し位、武器・弾薬を摘み食いしても残りの大半をちゃんと届けて勝利に繋げれば
問題は無いのさ。」壁にもたれて立ったバーガー中尉がディラー少尉を諌めた。

「だがどうする? この若造が言った様に中央突破に賭ければ敵の新たな戦術、拡散艦隊の網に引っ掛かって
集中攻撃を受けるぞ。 艦隊を分散してもこの網には通じない、分散して戦力が少なくなったとはいえ戦闘艦と輸送艦の
戦力差は埋めようがないぞ。」バーガーにもラング司令の腹の内は読めなかった。

「まず輸送艦隊を三つに別ける。」ラング司令はスクリーンへ作戦宙域の模式図を映し出した。

「イオン嵐の宙域を抜ける組、重力井戸の星域を抜ける組、そして中央突破を試みる組だ。」

「護衛艦隊はどうしやす? 今までの戦いで損耗してもはや護衛に使える駆逐艦は二隻ですぜ!」 バーガーは
この作戦の無謀さに呆れていたがガミラス軍人として敵を前にして手をこまねいている事など考えられなかった。

「大丈夫だ。勝算は十二分にある! 安心したまえ!」ラングが右手で胸を叩いて自信の程を示した。

しかし、その作戦内容がラング司令の副官、ランツ・シュナイファー少尉から詳細に説明されるとその内容の破天荒さに
さすがのバーガーも言葉を失った。


                                       207.疾風の漢(おとこ)ー(4)この項 続く

# by YAMATOSS992 | 2016-06-04 21:00 | ヤマト2199 挿話

by YAMATOSS992