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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

8.土星宙域での反撃

2012/09/09 図版交換

 廊下の突き当たりに木製の重々しい立派な扉があった。

ライニック姉妹はその前で止まり、扉をノックすると中から入室を促す声がした。

フローラーは入室すると海軍式の敬礼をし、出頭を申告した。

「シェーア大将、フローラー・ライニック少佐、フレイア・ライニック大尉出頭しました。」

「うむ、木星航路の防衛戦、良い働きをしてくれているな。 感謝する。」シェーア大将は微笑んで椅子を勧めた。

「ガミラスの攻撃は執拗を極めてきています。

こちらも重巡クラス以上の艦を投入しないと対処しきれません。」フローラーは前から思っていた事を
シェーア大将に告げた。

「今、我が艦隊には重巡は『プリンツ・オイゲン』と『ブリュッヒャー』しかない、通商保護には出せんな。 
艦隊の方が手薄になってしまう。」 シェーアはにべも無くフローラーの意見を却下した。

「艦隊保全策を取って成功した例はないぜ! 折角、持っているものは使わなきゃ価値がないよ!」フレイアも
噛み付いた。

確かに日露戦争時の旅順艦隊、第1次大戦の帝政ドイツ高海艦隊、第2次大戦の日本の戦艦部隊等、
ただ悪戯に引きこもって自滅した艦隊の例は多い。

海軍は陸軍と違って艦艇という設備がなければ戦い様がない。

そのため、手持ちの戦力(設備)をなるべく傷付け無い様に戦いを進めたがる傾向がある。

その極端な例が艦艇を軍港の奥から出撃させない艦隊保全策である。

しかし、戦う為の兵器である軍艦を戦闘に参加させないのは矛盾を通り越して無駄以外の何物でもない。

この辺りの事をきちんと理解していたのは海賊帝国と呼ばれた英国、幾ら艦艇が沈められてもそれを補える
工業力を持っていた米国、自らの2倍の戦力と対峙せざるを得なかった明治時代の日本帝国海軍位であった。

シェーア大将は艦隊の耳目となる重巡を艦隊から外してしまうと後にガミラスが木星圏侵攻をして来た時、
それを迎撃するのに支障があると考えていたのである。

「今回、君達を呼んだのはこんな事を議論するためではない。 新しい辞令だ。 受け取りたまえ。」シェーアは
2通の封筒を2人に渡した。

「フローラー・ライニック少佐、少佐を免じ ・・・大佐に任じる!」フローラーは驚いた。

「俺は中佐だぜ!」大尉のフレイアも驚きを隠せなかった。

「二階級特進・・・ですか? これは一体・・・。」 ライニック姉妹の驚きも無理は無かった。

二階級特進は普通、戦死した時のみ、その功績を称えて行われる処置だったからである。

「二階級特進は何も戦死した時のみに限った事ではない。 まぁ極めて稀な事には違いないがな。」シェーアは
悪戯っぽく笑った。

「来たまえ。 君達に見せたい物がある。」シェーアはライニック姉妹を奥の部屋に誘った。

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 フローラーの目の前のモニターには土星の輪がまるで氷原の様に広がっていた。

<全く、シェーアのオヤジも無茶言ってくれるよなーっ>例によってフレイアが無言でぼやいた。

<そうでも無いわよ。 私達は護衛の巡航艦を引き付けておけば良いだけよ。 何も全部、撃沈する必要は
無いわ。>

<今までのガミラス艦隊はどの艦隊も全滅するまで喰らい付いてきたぜ。 それに今の護衛は
巡航艦だけど、戦いが長引けばその内、戦艦が出て来るかもしれない・・・。 いや、きっと出て来る。>

<その時はその時、今は今の事を考えましょう。>フローラーは意外と落ち着いていた。

今、ライニック姉妹は重巡航艦に乗って土星空域にいた。

フローラーは「シャルンホルスト」、フレイアは「グナイゼナウ」の艦長に任命されていたのだ。

しかもこの2隻は曰く付きの重巡だった。

と言うより、この2隻は今の区分こそ重巡航艦だったが本当の建造目的は通商破壊用装甲艦だったのだ。

2168年、欧州連合の重要な構成国だったドイツ連邦は政権をネオ・ナチスに奪われ、欧州連邦を脱退した
歴史を持つ。

そして周り中を敵に廻したドイツは自国の独立を守るためと称して軍拡を進めた。

しかし、ドイツ宇宙軍、いや海軍は歴史的伝統的に対立する国と力で決戦する事は極力避ける方針だった。

それが艦隊保全主義に繋がり、水兵の反乱を招いて帝政ドイツは崩壊したのだが、それとは別に独特の戦略を
持っていた。

第1次、第2次大戦共にドイツの主な敵対国は英国だった。

そして英国は戦争遂行に必要な物資を海外からの輸入に頼っていた。

すなわち、物資を運んでくる船を英国に辿り着かせなければ、その内、英国は干上がって戦争遂行は
覚束なくなる。

そのためにドイツは多数の潜水艦や水上艦を通商破壊の目的で七つの海に放ったのだ。

結局はドイツは英国に敗北したが後一歩で滅亡させると言う所まで追い詰めたのだ。

2169年代のネオ・ナチス政権も直接的に自国や自国プラントを防衛する宇宙艦隊は最小限度にし、代わりに
木星ー地球間の航路を狙う通商破壊艦を多数建造した。

これはドイツと対立する国には恐るべき脅威となった。

戦艦に砲力は劣る、速力は巡航艦と同等か少し下回る位のつまらない船という見方も出来る。

しかし、実際には自分に追いつけるどんな艦よりも強く、自分より強いどんな艦よりも速い、という敵に廻すには
真にやっかいな存在だったのだ。

ドイツは最初15インチ・フェーザー3連双砲塔を2基持ち、速度を戦艦より速く、巡航艦よりは遅くした
「ドイッチェ・ランド」クラスの装甲艦を装備したが外国の新型戦艦の速度が高めに設定されると旧式化し、
新型艦の出現が待たれた。

そして満を持して出現したのが「シャルンホルスト」クラスの通商破壊艦だった。

しかし、「シャルンホルスト」、「グナイゼナウ」が完成したところでネオ・ナチス政権は倒れ、ドイツは欧州連合に
復帰した。(2171年)

新生ドイツは欧州連合の1員に帰り咲くに当たり、ネオ・ナチス時代の悪夢の象徴として多数の通商破壊艦の
廃棄を決め、これらの艦艇は全てスクラップにされたはずだった。

少なくとも表向きは・・・。

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 フローラーは土星の輪に艦を潜ませながらガミラスのエネルギー・資源運搬タンカーの船団を待ち伏せていた。

土星会戦の時に観測された土星上空に建設中と思しき施設が後の人工惑星のフライ・バイ偵察で
エネルギー採取プラントだと判明した時、ガミラスが何故、地球文明の急所というべき木星のプラント群を
直ぐに攻撃せず、木星ー地球航路の通商破壊に力を注いでいるか、判ったのだ。

彼等は自分達の攻撃準備が整うまでの間、地球陣営の体力を極力奪う方針なのだ。

遊星爆弾による示威攻撃もその一環と思われた。

あれ以来、一個の遊星爆弾も観測されなかったが地球陣営としては警戒を緩めるわけにはいかず、この警戒、
迎撃準備態勢を維持するだけで地球側の体力は相当奪われる事になった。

ガミラスの方針が予想出来た以上、その計画は断固、阻止する必要があった。

それはガミラスが地球陣営に対して仕掛けてきている攻撃、通商破壊工作をそっくり、そのまま仕掛け返す事
だった。

しかし、今の地球陣営には冥王星まで足を伸ばして通商破壊工作を行える艦艇は無かった。

但し、ネオ・ナチス時代のドイツが建造した各種の通商破壊艦ならば冥王星は無理としても土星までならば
長期通商破壊工作活動が出来る事が判っていた。

しかし、その各種通商破壊艦は既に廃艦となり、スクラップ化されていたはずだった。

だが、実際は月面の裏にあった廃艦駐機場でスクラップにされる順番を待っている状態だった。

ドイツ艦は堅牢な造りが解体業者に嫌われ、そのほとんど全部、スクラップ化が後回しになっていたのだ。

欧州連合の宇宙軍はすぐさま解体業者から通商破壊艦郡を買い戻し、整備の上、再度、任務に付ける事に
なった。

フローラーが少佐から大佐、フレイアが大尉から中佐と2階級特進したのも重巡航艦以上の艦艇の艦長は
大佐がなる慣例になっていたからであった。

フレイアが中佐で艦長を務めるのは特例事項でフローラーが指揮する第1特務艦隊の2番艦、
「グナイゼナウ」の艦長であると言う事を考慮した結果だった。
(まさか3階級特進という超特例はつくる訳には行かなかった。)

<2階級特進させたって言う事は戦死するまで帰ってくるなって事かな・・・。>フレイアがポツリと言った。

<私達はまだ良いわよ。 次にくる第2特務戦隊は船も乗組員も新品よ。 まともに戦えるかどうか心配だわ。>

「シャルンホルスト」クラスは通商破壊艦として非常に勝れた設計であった。

そこでその設計を殆ど流用して更に2隻の通商破壊艦が造られていた。

「デアフリンガー」と「リュッツオー」である。

この2隻はネオ・ナチス時代に起工されたが進宙式を迎えた所で廃艦が決まり、武装などの艤装が
施されないまま、廃艦駐機場に放置されていた。

スクラップ業者は「デアフリンガー」の解体を始めたがそのあまりにも頑強で複雑な構造に手を焼き、解体を
中止、他のドイツ通商破壊艦の解体も他国のやり易い物件から片付けて、先延ばしにしていた。

ガミラスの侵攻が異星文明の侵略だとはっきりした時点で欧州連合は過去に廃棄した艦艇でまだ解体されて
いない、ないしは戦闘可能なまでに復帰出来る艦艇を求めて廃艦駐機場に調査官を派遣した。

その結果、ドイツが廃棄したはずの通商破壊艦、装甲艦4隻、重巡4隻、軽巡8隻を発見したのである。

欧州連合の艦隊上層部はすぐさまこれ等の艦の買戻しと復元を決め、一大戦力を手にした。

装甲艦4隻は武装は強力だったが、速度が遅く、航続距離も劣るため、地球ー木星航路の防衛に廻し、
重巡2隻と軽巡4隻で1戦隊を組み、ガミラスの土星ー冥王星航路を襲う事になった。

その第1陣がライニック姉妹の指揮する第1特務戦隊であった。

その内訳は重巡は「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」の2隻、軽巡は「「ゼーアドラー」、「エムデン」、
「ケーニヒスベルク」、「フランクフルト」の4隻である。
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ガミラスは土星以外にもエネルギー・プラントを保有している可能性はあったが、今の所の人工惑星による
戦略偵察では確認出来なかった。

もし、天王星や海王星にプラントを作られていたら地球艦隊には手も足も出ない、遠すぎるのである。

元々、ガミラスは初期には天王星からエネルギーを得るプラントを持っていたが、土星圏の制圧に成功すると
そのプラントをそっくり引き上げ、土星プラントの増強に廻してしまったのである。

ガミラスの冥王星前線基地司令、レッチェンスは本来、予備として天王星プラントは残して置きたかったのだが、
ガミラス本国はその必要を認めず、レッチェンスは仕方なく、全プラント設備を土星に移さざるを得なかった。

彼は地球ー木星航路の通商破壊活動を重視していたのが決して土星ー冥王星交通路の防衛を
軽視していた訳ではなかった。

だが、本国に要請した12隻の重巡の増強は拒否され、大型戦艦の配備時護衛に着いて来た軽巡4隻を
土星ー冥王星航路の防衛に当てざるを得なかった。

<こちらの航路の防衛にも重巡が使えれば安心なのだが・・・。>レッチェンスは一人ごちた。

しかし、彼は地球ー木星航路でガミラスの重巡戦隊と死闘を演じている地球の護衛艦の殆どが駆逐宇宙艦で
あるとは予想もして居なかった。

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「目標補足!(ゲッタ・ブリップ!!)」シャルンホルストの艦橋に情報士官の声が響いた。

「大型タンカー2、巡航艦2、冥王星方面から飛来、距離10万!」

<さぁーて、お客さんが来たぜ、姉貴 どう御持て成しする?>フレイアがワクワクしながら語りかけて来た。

毎度の事ながら妹の好戦的態度にフローラーはあきれたが、部下達にそんな顔は見せられない。

落ち着いた態度で司令を発した。

「全艦、前進微速、そのまま接近!」

2隻の重巡、4隻の軽巡は土星の輪に身を潜めたまま、ガミラス船団との距離を詰めた。

「敵の方が速度が速い! このままでは目の前を素通りされます!」情報士官が状況報告をした。

「仕方ないわね。『シャルンホルスト』、『グナイゼナウ』は輪を出て最大戦速!敵船団の前に回りこんで!」
フローラーは間髪入れず敵の頭を抑える様、命令した。

細長いマッコウクジラを思わせる優美な艦体を持つ2隻の重巡が姿を表した。

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僚艦「グナイゼナウ」 ( 第一特務戦隊所属 )
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ガミラスの巡航艦も2隻に気付き、砲塔をめぐらすと遠距離からフェーザーを打ちかけてきた。

と、地球艦隊の2隻は全く違う行動を取り始めた。

「シャルンホルスト」はゆっくり回転を始め、ガミラス艦に艦底を見せて止まった。

「グナイゼナウ」は猛烈な速度で突進し、距離を詰めて来た。

ガミラス護衛艦隊の司令は地球艦隊は一体、何をしようとしているのか、判らず判断に迷った。

普通、2隻の軍艦が戦隊を組んで行動する時、相手が1隻なら二手に分かれて挟み撃ちという方法も
考えられたが、この場合、敵味方同数である。 

挟み撃ちには到底出来ない、かえって自らの戦力を分散して不利になるだけである。

しかし、ガミラス側の司令は2隻の行動を好機と捉えた。

特に「シャルンホルスト」が底部をこちらに向けているのは故障か、何か、不備な状態に陥った結果だと判断し、
「グナイゼナウ」の迎撃に全力を上げる事にした。

しかし、実際は違っていた。

この底部を敵に向ける態勢こそ、「シャルンホルスト」クラスの装甲艦の攻撃態勢なのである。

「シャルンホルスト」は大抵の戦艦と同じ位か、少し厚めの装甲を持っていた。

だが、その装甲は底部のみで他は装甲されていない、というより細長い装甲板の上に兵装や機関、艦橋が
乗っているのだ。

そして、主兵装の11インチ大口径レーザー砲を3連双2段の砲塔に積み、この2組の砲塔を船体左右に
張り出して、底部の装甲板ごしに敵を攻撃する様になっていた。

この配置の場合、有人の艦橋は戦闘面から一番離れた位置となり、安全性も増す効果もあった。

フローラーは自ら艦橋直下の装甲板中央に開いた穴に設置されている装甲球にセットされた
カール・ツァイスの大望遠鏡で「グナイゼナウ」に迫ってゆくガミラス艦を捕捉し、艦の全長を利用した
大型測距儀で距離を測り直すと、12門の大口径レーザーを手前のガミラス巡航艦に浴びせた。

普通のレーザー射撃だったら簡単にガミラス艦は弾き返しただろう。

しかし、フローラーが放った一撃はガミラス艦の機関部近辺を打ち抜いた。

幸運な事にその一撃が当たったのは機関部のメンテナンス・ハッチだったのだ。

超一流の名人だけが引き寄せる事が出来る幸運だったのかもしれない、ガミラス艦は爆発して果てた。

もう1隻のガミラス艦が慌てて「シャルンホルスト」にフェーザーを打ちかけて来た。

しかし、並の戦艦より厚い装甲はいくらガミラス艦とはいえ、軽巡のフェーザーでは反対に弾き返されて
しまった。

もう一射、打ちかけ様とした時である。

「シャルンホルスト」にかまけて見過ごしていた「グナイゼナウ」が思い切り、距離を詰めてきていた。

「艦長!本艦は重巡です! 単座戦闘機ではありません!」 フレイアの乱暴な操艦に航宙士がコ・パイ席で
悲鳴を上げた。

「いただき! ミサイル斉射!」フレイアはガミラス艦を下から突き上げる強引な躁艦ですれ違った。

ガミラス艦は艦底部に9発もの反物性ミサイルを受けて重力崩壊を起こして消失していった。

「戦闘終了! ガミラスの輸送船2隻も軽巡部隊が片付けたわ。 次もこの調子でいきましょう。」フローラーは
快活に言って再び艦隊を土星の輪の中に潜ませた。

<次に来る船団の護衛は重巡、いや戦艦かもしれない・・・。>と言う恐れを部下に見せない指揮官の
苦悩を味わいつつ、部下達に仮眠を取らせて自分は一人、スクリーンに写る冥王星方向の宙域を見詰める
フローラーだった。


土星空域で地球艦隊が反撃を始め、地球ーガミラス双方とも辛抱強い通商破壊戦の応酬を始めた。

                                                    ヤマト発進まで2434日
by YAMATOSS992 | 2012-04-09 21:00 | 本文

by YAMATOSS992