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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

17.「箱舟」計画の開始

 その部屋には4人の男が机を挟んで対峙していた。

どれ位の時間が流れたであろうか、それでも男達は誰一人、口を開こうとしなかった。

かすかにミシッという音がして男達の上にホコリが舞い落ちてきた。

「また、一発命中したか・・・。」一人の男が重い口を開いた。

どこか比較的近い場所に遊星爆弾が命中したのだ。

地球軍は絶対防衛線を月軌道に引き、突撃駆逐宇宙艦による迎撃を行って効果をあげていたが、火星軌道の
防衛システムを失って以来、ガミラスの遊星爆弾はたまにではあるが地球本土を犯し始めていた。

「今のままではいずれ人類は絶滅する・・・、判ってくれ!大山! 『箱舟』は最後の希望なのだ!」もう一人、
別の男も加勢した。

「だからと言って、今、計画中の新型戦艦『やまと』、『むさし』の計画をやめて地球脱出のための・・・
『箱舟』とやらに計画変更するのは俺は反対です。」

「いいですか、 『箱舟』は移民のための船だ。 人員や各種動植物のDNAデータを出来るだけ多く搭載する
必要がある。

 また、今の状況では『箱舟』を衛星軌道上で建造するとガミラスに発見されて攻撃を受ける可能性が
高くなります。

従って地球の地下ドックで秘密裡に建造する必要がありますが、そうすると重力があるから無闇に巨大な船は
作れない。

当然、搭載力には大きな制限が出て来る、目的の荷物があるからそんなに多くの武装を積むわけには
いかないのです。

そして一番肝心なのは我々がまだ自分の太陽系すら出た事がない事です。

いいですか、ガミラスはワープと思われる超光速航行技術を持っているんですよ!

『箱舟』は有重力下で建造可能な最大の船になるでしょうから、地球を発進すれば必ずガミラスに発見され
ます。

陽動作戦を行って隠蔽する事も不可能ではないでしょうが、いずれ発見されるのは時間の問題です。

そして、一度発見されたら、超光速航行の出来ない『箱舟』は間断のないガミラスの攻撃に晒されます。

いくら強力な武装と防御力を持っていても撃沈されるのは時間の問題です。」

大山と呼ばれた男は心の奥にしまっていた思いのたけをぶちまけた。

そして、遠い目をして天井を見上げた。

「そう、この『箱舟』は1949年にそこが死地と判っていながら沖縄に出撃した日本海軍の超戦艦『大和』と
そっくり同じ運命を辿るの事でしょう。

人類にとっては僅か、数週間、寿命が延びるだけなのです。」

「貴様!司令部を馬鹿にするのか!」伊地知参謀長が大山技術大佐を睨みつけた。

「そんなつもりはありませんよ、ただ、俺は地球の事は地球のなかで納めるべきだと思うのです。」

「どういう事かね? 大山君?」先程、一番最初に口を開いた男、藤堂平九郎長官が聞いた。

「地球を脱出した人類は何処にいくのですか? ・・・ まぁ今は決まっていなくても何処か別の星系で居住
出来る惑星を捜して移民するのでしょう・・・。 ですが、それってガミラスのやっている事と基本的には
同じですよね。」

「全く地球と無関係な生態系に地球の生態系を無理やり割り込ませるわけですから、軍事力を使わなくても
これは立派な侵略です。」

「なんという事を! 貴様! 軍法会議にかけるぞ!」再び伊地知参謀長が吼えた。

「伊地知君、静かに。大山君、君の言う事はもっともだ。 だが、大山君、我々、人類はいや地球の生命は
何んとしてでも生き残らなければならない、これは地球に生命が発生して以来、そのDNAに刻み込まれた
至上命令なのだ。

我々、今生きている人類は甘んじて『侵略者』の汚名を着よう、それが我々、今を生きる者の責任なのだ。」
藤堂は強い意志を持って大山俊郎技術大佐を見詰めた。

藤堂は思った、<ガミラスが遊星爆弾の示威攻撃を仕掛けて来た時、地球に『絶滅か、奴隷化か』を
要求してきた。

あの時、『奴隷化』を受け入れていたなら、今の苦境は無かったかもしれない・・・。 しかし、人類のプライドに
掛けて『奴隷化』などと言う要求は呑めるものでは無かった。

その結果、今度は人類が『侵略者』になる・・・、本当に人類は抗争好きな宇宙の癌なのかもしれない・・・。>

いままで黙って話を聞いていたもう一人の男、沖田十三が口を開いた。

「大山君、今、君が計画している新戦艦は『やまと』、『むさし』の2隻だが、『箱舟』計画に切り替えるとしたら
どうするのかね?」

「それは『やまと』一本に絞ります。超遠距離、超長時間の旅を前提とした設計が必要になってきますから
今の『やまと』、『むさし』の建造資材を全部1隻に絞っても間に合うかどうか、判りませんから・・・。」 大山は
当然の如く応えた。

しかし、沖田は驚くべき提案を出した。

「それは目一杯の移住民と各種生物のDNAを運ぶと仮定した時の場合じゃろう、移住民もDNAだけにして
乗組員はその船を維持、ガミラスと戦闘出来るだけの最少人数に絞ったら、2隻作れるのではないかね。」

「沖田君!君は今生きている人々を見捨てるというのかね!」伊地知参謀長はど怒髪天を突く勢いで怒った。

沖田は静かに言った。 「誰を選ぶのかね?」 「えっ・・・。」伊地知は言葉に詰まった。

今の地球の実力では重力下で建造可能な宇宙船では武装なしで移住者だけを運ぶとしても最大限に
見積もっても1000人の人間を運ぶのがやっとだった。

それが、ガミラスと戦闘しながら航行するとなると更に人員は絞られてくる、冷凍睡眠等の技術を使っても
武器やミサイル等の消耗兵器の製造設備やその資材の格納場所などを考えると一度に運べるに人数は
約300人が限界だった。

「全世界から、たった300人の人間を選ぶ事など出来はしない。 むしろ、この事を発表しただけで地球陣営は
内部分裂する。」

伊地知参謀長は言葉に詰まった。

<確かに、これは一時の感情で処理できる問題ではない・・・。>石頭で通った伊地知であったが、流石に
沖田の言い分はもっともだと思った。

「しかし、『箱舟』を2隻作るというのはどういう意味があるのかね。」藤堂長官が沖田に尋ねた。

「戦艦は1隻より同型艦がもう1隻あった方が色々と運用に幅が出てくるのです。」

沖田はまだ戦闘艦が海の上を走っていた時代の例を引いた。

日本の明治時代、日露戦争の山場、日本海海戦に日本海軍が大勝した事の一環に戦艦6隻、
装甲巡洋艦6隻をそれぞれ準同型艦として性能を揃えた事があった。

性能が揃った艦隊は提督の意志のもと、まるで1隻の船の様に行動する事を可能とする、対して
ロシア海軍の戦艦隊は性能がバラバラで統一した指揮をするのには全く向いていなかった。

また、海軍軍縮条約が大海軍国の間で結ばれようとした時、日本海軍は世界初の16インチ(正41センチ)砲、
戦艦「長門」と同型艦「陸奥」の保有を強行に主張したが列強は連携して「陸奥」が未製であるとして、
廃棄を迫った。

だが、日本はアメリカや英国に新設計の正16インチ(40.6センチ)砲戦艦の建造を認めてまで戦艦「陸奥」を
保有する事に拘った。

これはいかに強力な戦艦でも1隻では本来の設計値以上の性能は出せないが、同型艦が2隻いてその2隻が
旨く連携して作戦する時、設計には出ない効果をあげる事が知られていたからだ。

今度の場合、戦闘を目的とした航行ではないが、2隻でお互いをカバーする様な戦術を用いればかなり
生存性を増す事が出来る。

また、1隻づつ、全く別の方向に脱出すれば、ガミラスの攻撃力を半分にする効果があると考えられるのだ。

「大山君、この方向で作業を進めてくれんかね。」沖田は大山の方に強力な意志を秘めた視線を向けた。

下を向き両手を直角に挙げて負けたという意志表示をした大山はそれでも言った。

「脱出戦艦『やまと』と『むさし』を設計するのは承知しました。  

但し、条件があります。」

”条件”という言葉に伊地知だけでなく、沖田も藤堂も訝しげな表情になった。

しかし、大山は吹っ切れた顔でその”条件”を口にした。

「俺はどんな形であれ、脱出船には乗りません。 地球に残って最後まで生存の努力をします。 

それで良ければ、この計画に参加しましょう。」

「それは困る、新しい船だ、どんな不具合が起こるか判らない! 最上級の技術者が乗っていなければ
心配だ。」伊地知参謀長が再び意義を唱えた。

しかし、沖田はそれを抑えて大山の方に向き直って言った。

「良く言った。それが男の言葉だ。 伊地知君、設計する事とそれを運用しつつ、手直しする事はまた別の
技術だ。 

それは修理の分野の仕事と考えてくれたまえ。 いいですな、長官。」

藤堂も無言で頷いたが、次に発した言葉は少々、大山を腐らせた。

「それでは、この『箱舟』計画の実務責任者は伊地知参謀長とする。いいね。沖田君、大山君、」

「はっ、謹んでお受けします。」伊地知参謀長がシャチホコばって敬礼した。

唖然とする大山の肩を沖田は苦笑いしながらポンと叩いた。

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 新型戦艦「やまと」型はガミラスとの最初の戦闘であった土星会戦の戦訓を基に設計された初めての戦艦
だった。

地球軍の艦艇はガミラス艦に比べると小型でその分、機関の出力が劣り、当然の結果として光速兵器、
ビーム砲やフェーザー砲の出力が劣り、より接近しなければ効果を挙げる事が出来なかった。

また、装甲もガミラスの方が勝れており、ガミラス艦の残骸を調査した結果、装甲の厚さはむしろ、
ガミラス艦の方が薄いくらいであった。

敵のビームがこちらの装甲をブスブス貫けるのに、こちらのビームは相手の装甲に弾き返され、相手の装甲を
貫けるまで接近するのは至難の業だという事が一番の問題であったのだ。

ただし、ミサイルは地球側が勝れており、単なるエネルギー供給式の爆発型ではなく、小型ブラック・ホールを
利用した爆縮型で相手の装甲の素材が何であろうと小型ブラック・ホールのシュヴァルツ・シルト半径内に
入った物は全て吸収、穴を開けてしまう特性はガミラスも知らないものであった。

このミサイルは「反物性ミサイル」と呼ばれ、ガミラス艦との戦闘が予想される艦艇には必ず積まれていた。

当然、新型戦艦「やまと」型もその武装は大半「反物性ミサイル」であり、効果の薄いフェーザー砲、
レーザー砲は小口径にして敵ミサイルなどを防ぐ、近接防御火器として装備する計画であった。

大山造艦技官は悩んでいた。

元々、「やまと」型は冥王星前線基地を攻撃するために設計していた艦である。

その航行期間は長くても数ヶ月、短ければ数週間であった。

だからこそ、主武装を反物性ミサイルにして艦内の容積の殆どをその格納に使えたのである。

しかし、今度はいくらDNAの情報データだとはいえ膨大な量のペイロードが加わる事になった。

当然、ミサイルの搭載量は減る、しかし、反対に航行期間は年単位、ないしは数百年単位になるかもしれな
かった。

頭を抱える大山の基に古くからの因縁がある男、真田志郎が訪ねてきた。

真田は大山の悩みを聞くと大山を造船部門の部屋から連れ出した。

そして司令部の会議室の一つに大山を連れ込むとその部屋の監視システムを切った。

これは藤堂司令長官や沖田提督も知らないパス・ワードを知っていたから出来た事だ。

彼は仕事柄、司令部はおろか、世界中のネットワークを管理するサーバー・コンピューターは全てハッキング
して自由に情報が取れる様にしていたのだ。

「お前、これって悪くすると反逆罪だぞ・・・」大山は呆れたが、そうまでして真田が自分に伝えようとしている事の
重要さが良く判った。

「大山、俺達は今までの戦闘で撃破されたガミラスの兵器の調査、分析を行ってきた。

だが、戦闘場所は宇宙、中々、重要な資料は得られなかった。

しかし、ついに殆ど無償のガミラス艦のエンジンを手に入れたんだ。」

大山の背中にドーンとカミナリが走った。

「そ、それで解析は出来たのか・・・。」そう言うのがやっとだった。

ガミラス艦のワープの秘密が解かる! そう考えただけですぐさま、現場へ飛んでいって確認したくてしょうが
なくなっていた。

「残念まがら、俺たちのレベルでは理解出来ない部分が沢山ある、だが、もしかしたらお前ならもう少し
突っ込んだ理解が出来るのではないかと考え、今日は相談に来たんだ。」真田は大山の目をのぞきこんだ。

彼の目はもはや真田の顔を見ていなかった、たぶん捕獲したガミラス艦のエンジンを想像してそれを
見ているのだろうと思った。

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 「伊地知提督、基本設計が終了しましたので、1週間ほど休暇を頂きます。」大山は伊地知参謀長に報告
した。

「そうか、そうか、とうとう出来たか、で、わしと家族が乗れる様に特別な配慮をしてくれたろうな。」
やはり伊地知は卑怯な男だった。

しかし、大山はそれを不快に思ったがそれをおくびにも出さず言った。

「それはもちろん、この任務をお受けした時の最初のお約束です。配慮してありますから御心配なく。」

だが、そんな細かい設計が基本設計の段階で盛り込めるものではないのを知っている大山は心の中で
ペロリと舌を出していた。

「基本設計の説明をします。」大山がそう言ってスクリーンに「やまと」の基本図面を写しだした。

「細かい説明は良い。 わしと家族の席は何処に用意してあるんだ。」伊地知は説明をせかした。

「ここです。」大山はいたずら心を起こして艦の中央部、艦橋の構築物が積み重なった最上部の艦長室を指差
した。


「ここは艦長室ではないのか?それにこんな艦から飛び出した所、敵に狙われたら一発でお仕舞いでは
ないか!」伊地知は大山を睨みつけた。

「参謀長、藤堂長官も沖田提督も『箱舟』には乗らないとおっしゃっています。となると、この艦に乗る者で
最高官位を持っているのはあなただ。 艦長はあなたがなるのが当然です。

また、『やまと』は目的の星を見つけられたら着陸しなければなりません。だから艦底部はその他の部分より
ずっと分厚くしなければ艦が持ちません。

しかし、着陸のためだけに分厚い装甲を持つのは非合理的です。 すなわちこの一番厚い艦底部の装甲を
メインの装甲と考え、敵が来る方向に常に向け続ける様にすれば、非常に良い防御装甲になります。

こちらの攻撃兵器は反物性ミサイルですから別に敵に直接狙いを付けなくても装甲の陰から誘導してやれば
充分、用を果たします。

そして、敵に艦底部を向けている時、艦橋構造物の最先端にある艦長室は敵から一番離れた安全な位置に
なるのです。」

大山はいかにももっともらしい事を言ったがその言葉の大部分は嘘ではなかった。

現に欧州連合の装甲艦「シャルンホルスト」級はこの考えで設計されており、大きな実績を上げていた。

伊地知参謀長はこれを聞くとご機嫌で大山に1週間の休暇をくれた、特に『自分が艦長で艦長室が一番安全』と
言うところが気に入ったとみえた。

よくよく、俗物な男だと大山は思ったが、彼もまた生物の本能に従って自分のDNAを残そうとしているだけ
なのだと思い直した。

そして、彼は司令部に併設されていた造船部を後に、非常灯もまばらな地下都市の闇に消えていった。


                                                    ヤマト発進まで1213日
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by YAMATOSS992 | 2012-05-29 21:00 | 本文 | Comments(0)