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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

38. 漢(おとこ)の艦(ふね) (4)

  メルダが部屋に案内されるとそれは想像していたのとは全く違ってすごく奇麗な小部屋だった。

飾り気はなかったが、床も壁もきちんと磨かれており、少しも不快感を感じる事はなかった。

ベッドに敷かれたシーツも洗濯したての真新しいものだった。

メルダはパイロット・スーツから将校服に着替えようとしてふと自分の愛機の事が気になった。

昔なじみのオルグ・シュバッハが整備すると言っていたのだ、間違いはなかろうが、それでも長年実戦で感じた
二等ガミラス兵への不信感はなかなか消えるものではなかったのだ。

メルダが格納庫に戻ってみると格納庫の中は無重力だったが、与圧され、ヘルメットの必要はなかった。

メルダは愛機に遊泳して近づいていったが何か違和感があった。

<これが私の機か・・・?> そこにあった空間格闘戦闘機DWG262ツヴァルケはまるで新品かのごとき
輝きを放っていた。

コクピットを開けると計器やレバーの隅々まで磨かれ、一番気になっていたペダルや床の粘着汚れも全て
落されていた。
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「少尉も苦労されたようですな。」後から声を掛けられ振り向くとオルグ・シュバッハ軍曹が浮いていた。

「オルグ!!」メルダは張り詰めていた糸が切れた様にオルグに抱きつき一筋の涙を流した。

「少尉・・・。誰かが見ています。」そんなメルダを両手で肩をつかんでそっと引き離した。

「エンジンが大分やれていますな。 ツヴァルケの仮配属を聞いてエンジン周りの予備部品を揃えておいて
良かった。」

「私の配属転換を知っていたのか?」メルダは驚いた。

「まさか、配属転換は軍機です。 でも今度来るパイロットが赤いツヴァルケに乗っているという噂は流れて
いましたけどね。」 オルグは片目を瞑って見せた。

「明朝は出航です。 今晩中にはエンジンのオーバー・ホールを完全に終わらせておきます。 明日からは
全力で飛べますよ。」

オルグの言葉にメルダは困惑した。 

オルグだけでは完全なオーバー・ホールなど出来はしない、何人もの優秀な部下がいてこそ、初めて出来る
ことだったからだ。

今まで彼女がいた空母の二等ガミラス人達には考えられない勤勉さだった。

「オルグ、昔なじみのよしみで教えてくれないか・・・。何故、そこまで出来るのだ?」メルダは心の底に溜まった
疑問を打ち明けた。

「それは皆、自分の仕事に誇りを持っているから・・・でしょうな。」オルグはエンジンのメンテナンス・ハッチを
開けながら言った。 

「少尉の居られた空母の二等ガミラス人達は信用されていないのに命をかけさせられていると感じてやる気を
なくしていたのでしょう。

直接戦闘をしなくても空母が撃沈されでもしたら宇宙の塵になってしまうのは同じですから直接戦闘に
係われない分、不安も大きかったのかもしれません。

おっと、こんなセリフ、親衛隊の連中にでも聞かれたら、ただじゃすみませんな。」

オルグの周りにはいつの間にか部下達が集まってきてメルダのツヴァルケのエンジンをオーバー・ホールし
始めていた。

誰ひとり、言葉を発することなく、かといって仕事は流れる様に見る見る進んでいった。

メルダはしばらくその様子を見ていたが、何だか、彼等の仕事を監視している様で自分が恥ずかしくなって
その場を立ち去ろうとした。

しかし、メルダは黙ってその場を立ち去るのは嫌だと言う思いが胸のうちを駆け抜けるのを感じた。

次の瞬間、メルダは両手をひろげ、自分でも思いもよらない言葉を大声で発していた。

「私はメルダ・ディッツ!これは私の翼だ! みんな、よろしくたのむ!」 自然と頭も下がった。

「オーッ」と整備兵達も歓声で応えてくれた。

<それでいいんですよ。お嬢様。> オルグは手をふりながら格納庫から出てゆくメルダの後ろ姿を目を
細めて見送った。

**********************************************

自室に戻る際、通路でパレン・ネルゲ親衛隊大尉に出合った。 彼は今度も二人の女性随行員を連れていた。

メルダは敬礼すると同時に道を開けた。 
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「なんだ。まだ着替えていないのか、少尉?」ネルゲ大尉はメルダの身体を嘗め回す様に見詰めた。

そして後に廻って尻にさわった。

メルダの着ているパイロット・スーツは後から見るとまるでヌードであるかの様に見え、艶っぽかった。

「大尉・・・。 お止め下さい。」メルダは悪寒が走るのを我慢してやっと搾り出す様に言った。

「フム、分かった。 ガミラス標準時21:00に我が部屋に出頭せよ。話がある。わかったな。これは命令だ。」
ネルゲ大尉は笑い声と共に去って行った。

二人の女性随行員はメルダに感謝と悲しみのこもった眼差しを送りつつ、ネルゲ大尉に従って通路の奥に消えていった。

 メルダは自室に戻ると直ぐにシャワーを浴びた。

今までの汚れを落したかった事もあったが、一番落したかったのはネルゲ大尉に尻を触られた感触だった。

将校服に着替えるとそれを待っていたかの様に食事が運ばれてきた。

「粗末なものしかお出し出来なくて申し訳有りません。航宙艦隊提督御令嬢、メルダ・ディツ様。」給仕役の兵が言った。

「お嬢様は止めてくれ。 自分は一介の少尉に過ぎない。 食事だって君達と同じものが食べられればそれで
充分だ。」 メルダはお嬢様扱いされるのが苦手だった。

自分がディッツ家の名跡を継がねばならない、その思いがメルダに必要以上に男性的な行動をとらせていたのかもしれない。

食事が終わって給仕兵がワゴンを下げようとするとメルダはそれを呼び止めた。

「次の食事は他の士官達と共に士官食堂でしたい。 主計長に許可をとればいいのかな?」メルダは軽い
気持ちで聞いた。

しかし、給仕兵は慌てた。 この艦に来た一等ガミラス人で二等ガミラス人と食卓を共にしたいと言った者は
いなかったからだ。

「か、艦長の許可が必要と考えます。 主計長では一等ガミラス人の方々同士での会食を計画するのが
精一杯かと・・・。」

「そうか・・・。 判った。 忘れてくれ。 これからも今日と同じでかまわない。」メルダは給仕兵の困惑ぶりに
かえって慌てた。

<あの親衛隊大尉と顔を付き合わせて食事をするのでは旨いものも不味くなる・・・。 私が士官食堂で食事を
する様になるとあの大尉も士官食堂で食事をする様になるかもしれない、見栄っ張りな様子だったからな。 
それでは返って他の乗員の迷惑になるに違いない。   他の兵との親睦は別の方法でとるとしよう。>

ふと顔を見上げると壁には時計が掛っていた。 それはガミラス標準時20:50を指していた。

<いけない! パレン・ネルゲ大尉の部屋にいかなくちゃ!>メルダは立ち上がると部屋を飛び出していった。

**********************************************

メルダは廊下に出ると左手首に巻いた情報端末に<パレン・ネルゲ・部屋>と入力した。

情報端末の画面に部屋番号と方向表示が出た。

メルダの部屋は艦載機に搭乗する必要上、艦尾にあったが、パレン・ネルゲの部屋はなんと艦橋の中に
設けられた貴賓室だった。

元々は軍の上級幹部が乗艦、滞在する場合使う部屋であり、いくら親衛隊・情報将校とはいえ、大尉風情が
使って良い部屋とは思えなかった。

頑丈な大扉にとまどいながらメルダはノックした。

「パレン・ネルゲ大尉、メルダ・ディッツ少尉、命令により、参上しました。」

「おおっ、ディッツ少尉、来たか、入れ、入れ。」メルダはなんだか酒に酔ったようなろれつの廻らない言葉で
入室を促された。

「ザ、ザー・ベルク、そ、総統万歳・・・。」部屋に入ったメルダは狼狽した敬礼をするのが精一杯だった。

部屋はメルダの部屋の倍位の広さだったが、その部屋の真ん中にはWベッドとしても大型な豪華なベッドが
しつらえてあった。

だが、メルダが驚いたのはそのベッドの上に乗っている全裸の美女二人と彼女達を左右にかしづかせて腰掛ている腰布を巻いただけのネルゲ大尉の姿だった。

「今夜は大いに楽しもう!」ネルゲは目の前にあるテーブルからガミラス・ワインのグラスをとるとメルダに
渡そうとした。

「自分は酒は嗜みません。 お話とは何でしょうか?」メルダは嫌な予感を感じながらネルゲに問うた。

「女が居て酒があり、ベッドもある、 しかも今は夜だ。やる事は一つだろう。 パーティさ。」ネルゲは両手を
広げつつ、辺りを示した。

「私は軍の重責を担う家系の一員です。 この様な淫らなパーティには参加出来ません。 失礼します。
ザー・ベルク、総統万歳!」

それだけ告げるとメルダはその場を去ろうとした。

「命令だ!」ネルゲは唐突に言った。 「 ディッツ少尉、このパーティへの参加は私の命令だ!」 

『命令』という言葉に軍人気質が骨の髄まで沁みこんでいるメルダの足は止まってしまった。

「艦長も言っていたろう、ここは軍だ、階級が全てを決める。 私はしがない商人の息子だが親衛隊大尉。 
メルダ・ディッツ、おまえは航宙艦隊総司令の娘かもしれんが少尉、将校の一番下っ端だ。 どちらの意志が
通るか判るだろう?」ネルゲは嫌らしく笑った。

<ひきょうな!!>メルダは心の底からこの大尉を軽蔑した。

「ネルゲさま、こんなお堅い少尉さんなんていなくたって私達が十分楽しませて差し上げますわ。」左にいた
美女がネルゲの肩に顔を埋めた。

「そうですわ。 今宵は3人だけの時間に・・・。」もう一人の美女がネルゲの唇に自分の唇を合わせた。

だが、ネルゲはその二人を振り払うと立ち上がってメルダの顎に手を掛けた。

「白い肌の女はもうたくさんだ。 自室へ下がれ! 俺は高貴な青い肌の女を抱きたいんだ!」ネルゲは
下舐めずりした。

「さあ、メルダ少尉。 命令だ。 衣服を全部脱いで俺の前に立て!」

名誉臣民の女達が衣服を持って慌てて出てゆくのを確認するとメルダは将校服の上着を脱ぎ始めた。

ネルゲはその様子をにやけた顔で見詰めていたが、次の瞬間、その顔は凍りついた。

メルダは上着の内側から小ぶりのナイフを取り出したからだ。

「ま、まて・・・。」ネルゲは後ずさった。

しかし、メルダはナイフの切っ先をネルゲには向けず、自分の頚動脈に何の躊躇いもなく切りつけた。

ネルゲは辺りに飛び散る鮮血を避けようと飛び退った。

だが、血の匂いはせず、代わりに辺りを圧する別の気配が伝わって来た。

ネルゲが恐る恐る顔を上げるとメルダのナイフの刃は後からがっしりした男の手で握られており、メルダは
生きていた。

メルダも困惑した顔でその男の顔を見上げていた。

ヴァルス・ラング艦長だった。

彼は非難する様にネルゲの顔をにらんだ。

「な、なんだ。 自分はあんたが命令は絶対だと言ったから少尉を呼んだんだ。 何も悪い事はして
いないぞ!」ネルゲは言い訳した。

だが、ラング艦長は穏やかに言った。

「大尉、勘違いしてもらっては困る。 命令が絶対なのは任務に関してだ。 部下は決して召使いでも奴隷でも
ない。

少尉もだ。 あまり自分の命を粗末にするな。 さ、上着を着て自分の部屋に戻りたまえ。」

ラングは床に落ちていたメルダの将校服の上着のホコリを払うと彼女の肩にかけてやった。

「ザー・ベルク、総統ばんざい!」ネルゲが敬礼したが、ラングは応えず代わりに彼の肩に手を置き、耳元で
囁いた。

「敬礼はなしだ。 大尉、君は今、軍服をきていない。 それに今の出来事は無かった事にしたい。
 
ディッツ少尉の名誉のためにも、君の経歴のためにもな。」そう言われてネルゲは悔しさに顔をしかめた。

<何故、こいつはこんなにタイミング良くここにあらわれたのだ・・・。>ネルゲは、「はっ」と気が付いた。

「艦長! 貴様等、二等ガミラス人のクセに一等ガミラス人の私の部屋に監視カメラを仕掛けたな!!」ネルゲは
怒り狂ってラングに詰め寄った。

ラングはメルダの肩を押しながら大尉の方を振り返って事も無げに言った。

「軍人にプライバシーなどあると思っているのかね。 ガミラス艦では艦長の部屋も含めて全部の部屋を
監視するのが決まりなのだ。

これは貴賓室のお客とて例外ではない、いや、むしろ保安の必要上、お客さまこそ監視の第一対象になるのだよ。 大尉。」

「ただ、女性の部屋は音声のみで映像は切ってある。 もし、君が随員達とお楽しみをしたいのなら、君の方から
彼女達の部屋を訪ねるんだな。」ラングは今度は振り返りもせずネルゲに告げた。

背後でネルゲが腹立ち紛れに扉を閉める大きな音を聞くとメルダはラングに礼を言った。

「・・・ありがとうございました。」

そして「艦長。右の掌は大丈夫ですか? ナイフの刃は入りませんでしたか?」と聞いた。

ラングはメルダに掌を開いて見せた。 そこには薄っすらとスジがついているだけだった。

「私の掌は皮が厚くてね。」片目をつぶりながらラングは冗談を言った。

だが、少女時代、護身術を習っていたメルダは知っていた。

刃物で切りつけられた時、刃そのものを強い力で押さえてしまえば切れなくなる事を。

だが、それはよほどの技量と強い覚悟がなくては出来ない荒業だった。

ラングはメルダを彼女の部屋まで送ってくれた。

<一体、この男は何者なんだろう。>去ってゆくラングの背中を見つめてメルダは思った。

**********************************************

 パレン・ネルゲの随行員の名誉臣民の女性二人が死んでいるのが翌朝、発見された。

お互いを短刀で突き合っての自殺だった。 現場には「申し訳ありませんでした。」とだけ書かれた遺書が
残されていた。

メルダは前の晩の事件以来、ネルゲに付き従っているこの二人を名誉臣民の名を汚す売女として軽蔑して
いた。

しかし、メルダは二人が自分の前でネルゲに媚を売って見せたのは自分を守ろうとしての事だったと気付き
愕然とした。

現場を途中で去らざるをえなかった彼女達はメルダがネルゲの犠牲になったものと思い詰め、自らの命を
絶ったのだ。

海兵隊員にこっそりと運びだされる二人の遺体にメルダは涙が止まらなかった。

「名誉臣民とはいっても権利だけが一等ガミラス人になるわけではありません。 義務もまた一等ガミラス人と同じになるのです。

彼女達は二人とも夫が戦死して二階級特進し、その家族として名誉臣民になった様です。

ですが、戦死した夫の階級が低かったので二階級特進しても尉官にならず、もらえる軍人恩給だけでは
高い税金を払いきれずに、他の家族のため身体を売る様なまねをせざるを得なかったのでしょう。

しかし、それでも、彼女達は誇り高いザルツの女でした。」現場処理にあたっていた海兵隊のベラダ・トゥング
中尉は言った。

「やるべき事は何か、守るべきものが何か、それを我々に思い出させてくれたのです。」

メルダには彼女の言った意味が判らなかった。 

<私の貞操? 私の命? そんなものは彼女等には関係ない・・・。>

「私には判らない・・・。」メルダは下を向いて首を左右に振った。

大柄なザルツ人女性海兵隊長、ベラダ・トゥング中尉は膝まづいてメルダの肩を掴み、言った。

「今は判らなくて良いのです。 でも、いいですか、これだけは覚えておいて下さい。 

今は一介の少尉に過ぎないかもしれませんが、メルダ様、あなたは何時か人の上に立つべきお方です。

何があろうとも、どんな屈辱を受けようとも絶対、死んではなりません。

そして生きて返って我々を導いて下さい。 お願いします。」それだけ言うとベラダ・トゥング中尉は自分の仕事に
戻っていった。

                                             漢(おとこ)の艦(ふね)-(5) へ続く
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by YAMATOSS992 | 2012-12-30 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)