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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

39. 漢(おとこ)の艦(ふね) (5)

  「一体何が起こったのでしょう。」ゲシュ=タム・ジャンプを設定した航宙士は戸惑っていた。

「EX-178」は基地を出航してから1週間たった時点で異常に見舞われていた。

あと2回ゲシュ=タム・ジャンプをすればバラン基地に到着出来るというのに、ジャンプを終わっても通常空間に
戻れないのだ。

辺りにはこの空間から脱出出来ずに死滅した難破船が多数漂っていた。

「次元断層・・・。」ラング艦長は腕組みしたまま、ひとり呟いた。

パレン・ネルゲ親衛隊大尉が血相を変えて艦橋に飛び込んで来た。

「艦長! 一体どうしたのだ。 あの無数の難破船はなんだ。 バラン基地とも連絡が取れないが、ここは一体
どこなのだ。」

「大尉、どうやら我々は次元断層に落ち込んだらしい。」ラング艦長は搾り出す様に言った。

「私は若いころ次元潜航艦乗りだった。 その昔、潜航した艦から見た光景と今、見ている光景はそっくりだ。」
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「じゃあ、脱出できるんだな。」ネルゲ大尉は喜んだ。

「悪いが大尉、この艦には次元潜航艦がもつゲシュ=ヴァール機関の様な特殊機関はない。」

「それじゃ、脱出は不可能ということか?」大尉は蒼くなった。 

「今のところはそうだ。」ラングは落ち着いた声で言った。

「ああっ、だから俺は二等ガミラスの艦なんて乗るのは嫌だったんだ。 新型艦なら難なくぬけだせたろに!」
ネルゲは頭を抱えた。

「一等ガミラスの新型艦でも抜け出せはしない、いや、新型艦ほど脱出は難しいだろう。

この空間から抜け出せる可能性のあるのは前にも言ったが次元潜航艦くらいだ。」ラングは悔しそうに言った。

「次元潜航艦なんてそんな旧式な兵器が役に立つのか。」ネルゲが不審げに尋ねた。
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次元潜航艦が旧式兵器か・・・。 確かに今の充実した航宙艦隊を持つ今のガミラスにとっては無用の長物かもしれない。

だが、ガミラスが大マゼラン星雲の征服に懸命だったころ、周辺の星系国家の通商路を脅かし、その経済を破綻させて降伏に追い込むのに力があったのが次元潜航艦だった。

敵の勢力圏内に長期に渡って留まり続けても発見されず、敵の輸送船のみならず軍艦艇にも脅威を与える
恐るべき兵器だったからだ。

特に集団で敵の船団や艦隊を襲う群狼戦術は効果が高く、幾つもの星系国家を屈服させて来た。

しかし、反面次元潜航の技術は難しく、その空間特有の設定を見出さないと次元潜航したは良いが通常空間に
戻れない事も珍しくなかった。

ただ、この辺りの事情は長距離航行に用いるゲシュ=タム・ジャンプでも同じでジャンプしたまま行方不明になる艦も後を絶たなかった。

もっともゲシュ=タム・ジャンプはガミラスの勢力拡大戦略の中心技術だったので日々の改良が行われ、
ジャンプ距離の延長と共に性能の安定化が図られ、長短自在のジャンプが可能になったため、通商破壊の
任務はケルカピア級航宙高速巡洋艦に移ってしまった。
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こうして次元潜航艦は過去の兵器としてガミラス艦隊の第一線から消えた。

<俺も旧式ってことか・・・。 まっ、旧式なら旧式ならではの対策を考えるまでだ。>そう思った艦長は自室に
戻って何冊かの多次元物理学の本を引っ張り出すと真剣に読み始めた。

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「やはり、無理です。 確かに艦長のおっしゃる通り、本艦に3基あるゲシュ=タム・ジャンプ用のジェネレーターを交互運転してゲシュ=ヴァール機関として運用する事は可能だと思います。 

しかし、それにはかなり大幅な改造になり、ドック規模の改造設備が必要となります。」機関長は艦長に意見を
言った。

ゲシュ=タム・ジャンプ機関を次元潜航艦用のゲシュ=ヴァール機関に改造出来ないか、艦長は機関長に
相談しているのだ。

「3基のジェネレーターをそれぞれ単独で運転出来る様に制御プログラムを変えれば良いのではないかね?」
艦長は3D表示されたゲシュ=タム・ジャンプ機関の模式図を示しながら言った。

「それでは、次元断層を脱出した後、通常のゲシュ=タム・ジャンプが出来なくなります。」機関長は反論した。

「次元断層から脱出、通常空間に復帰出来れば、いくらでも救援を呼ぶ事が出来る。 ここから脱出する事が
最優先なんだ。」 艦長は1つ1つ問題を片付けてゆく考えなのだ。

「ウーム。」しかし、機関長に着いて来た最古参の機関兵は難しい顔を崩さなかった。

「どうした。 ウイリッヒ、何か問題があるのか?」ラングは老機関兵に話しかけた。

「誰がプログラムを書き換えるのですか?」ウイリッヒ・バンデシュトルム機関兵は艦長の顔を見た。

「ゲシュ=タム・ジャンプのプログラムは非常にデリケートです。
 
通常は造船部でプログラムしてその後は他の者が手を加えられない様、ブラック・ボックス化されています。

残念ながらこの船にはゲシュ=タム・ジャンプのプログラムを変更出来る技量を持った人間はいません。」
彼は下を向いて頭を左右に振った。

ラング艦長は目を瞑って腕組みし、しばらく考えていたが、ハッと気が付いた様に顔を上げると副長に命令した。

「パレン・ネルゲ親衛隊大尉を呼んでくれたまえ。」副長は敬礼するとネルゲ大尉の部屋に向かった。

ガミラス人が蒼い顔をするというと変な表現だが次元断層の脱出を検討している会議に自分が呼ばれた意味が
分からなかったパレン・ネルゲ大尉はおどおどしていた。

しかし、そんな事には構わず艦長は言った。「ネルゲ大尉、君は親衛隊情報将校だな。」 

「そうだが・・・。」 戸惑いつつ、ネルゲは答えた。

「だったら、コンピュータの専門家と考えて良いな。 このプログラムは解析出来るか、どうだ?」

ラングはネルゲをモニターの前に座らせるとゲシュ=タム・ジャンプ機関のプログラムを映し出した。

確かに情報将校は情報戦のプロであり、敵地のコンピューターから密かにデータを抜き出したり、
ハッキングしてプログラムを書き換えたり、と、情報操作においては専門家と言えた。

ラングは情報将校のネルゲにシステム・プログラムを解析させようとしているのだ。

「この作業は次元断層の脱出に必要なのだな。」 ネルゲはさすがに親衛隊将校だった。

ラングが黙って頷くとネルゲは猛烈な早さでキー・ボード操作を行い始めた。

「これは相当重要なシステムだな。 幾重にも侵入防止ブロックが掛けられている。」額の汗を拭きながら
ネルゲはプログラムに取り組んだ。

数時間後、ネルゲは解析を終了させた。

「艦長。 これは、もしやゲシュ=タム・ジャンプ機関のプログラムではなかったのか?」ネルゲは顔を
しかめながらラングにたずねた。

「これは超一級の軍事機密だとだけ答えておこう。 この次元断層の脱出後に君が親衛隊情報将校として
機密漏えい罪で私を告発するのは君の自由だ。」ラングはニヤリと顔を崩した。

「そして私も同罪という訳か!」ネルゲは嵌められたと言う顔をした。

「大丈夫です。 解析作業を行ったのは機関部の責任でです。 それに実際に解析したのは長期に渡って
機関の細部に渡ってあらゆる事を知り尽くした、この老骨、ウイリッヒ・バンデシュトルム機関兵です。 

親衛隊大尉のあなたにこんな細かい解析は不可能だといえば誰も疑う者はいません。」老機関兵は笑った。

「どうしてだ! どうしてそこまで自分を犠牲に出来るんだ! 貴様等、皆、偽善者だ!」ネルゲは顔を
ゆがめると立ち上がった。

「生きるためだ。 今を生きるためには我々は何でもする・・・、それだけだ。 さあ、ネルゲ大尉、仕事は
まだ終わっていないぞ!」 ラングはネルゲの肩を押さえてコンソールの椅子に押し戻した。

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「ネルゲ大尉はどうしてる。」ラングは座り込んで肩を落していた。

「あれから三時間、部屋に篭りっきりです。 ・・・。」副長が仕方なさそうに答えた。

「酒びたりにでもなっているのか・・・。 監視カメラでの様子はどうだ。」ラングは再度、尋ねた。

 あれから、ネルゲはゲシ=タム・ジャンプ機関をゲシュ=ヴァール機関に使えるプログラムに変更する
作業に没頭した。

もちろん、ネルゲには航行や機関の専門知識はなかったのでそれらの専門家と意見を交わしながらの作業
だった。

だが、自分本位な性格のネルゲにとって他人と協力して進めるこの作業は苦痛以外のなにものでも
なかった様だ。

そして、プログラム変更がほぼ完成しかけた時、悲劇は起こった。

長時間の作業に疲れたネルゲはキーボード操作を間違い、変更したプログラムを全て消去してしまったの
である。

この艦に付いている主コンピューターのメモリーはもともとのゲシュ=タム・ジャンプ・プログラムの
バック・アップに全てまわしていたので変更プログラムの方はバック・アップを取れなかったのだ。

消えてしまったデータも通常ならある程度サルベージ出来るものだが、悪いときには悪い事が重なるもので、
この艦にはサルベージ・ソフトなどあるはずもなく、また、ネルゲの持っていた個人用のソフトではとてつもなく
長い時間がかかる事が予想された。

「少し、休む・・・。」それだけ言うとネルゲは部屋に戻ってしまった。

ラング達も落胆したが、ラングはネルゲの落胆が誰よりも大きい事を承知していた。

副長がネルゲの部屋を監視カメラで覗いてみるとやはり、ネルゲは酒瓶を抱えてベッドに腰掛けていた。

<やはり、すこし、そっとしておこう・・・。>副長は艦長にネルゲの様子を報告した。

「一度やった作業だ。 再現するのはそう難しくあるまい。 ただ、今は一晩、ゆっくり休ませてやろう。 幸い、

ここには大きな危険はなさそうだ。」 <時間だけはたっぷりある・・・。>ラングは長期戦を覚悟した。

「副長、ネルゲ大尉を除いた本艦にいる将校と各部門の長を会議室に集めてくれないか。」ラングは意を
決して言った。

                                             漢(おとこ)の艦(ふね)ー(6) に続く
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by YAMATOSS992 | 2012-12-31 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)