81. 灼熱のデート・スポット (4) (最終話)
「ああ、しばらく後方勤務だったが、最前線の小マゼラン雲方面の防衛を命じられた。」バーガーも呟く
様に応えた。
小マゼラン雲は殖民惑星も被征服惑星も殆どない、不毛の星雲だったが、近年、謎の宇宙艦隊の侵攻が
何度と無く繰り替えされていた。
これはガトランティスという侵略集団である事が後に判るのだが、今はまだその正体は不明であり、その
軍事力は多大な脅威をガミラス帝星に与えていた。
そのため、小マゼラン雲防衛軍が増強される事になり、後方任務で休息していたバーガー大尉にも召集が
掛ったのだ。
イルダは父親にバーガーの転属を取り止める様に頼んだ。
しかし、イルダやメルダの父、ガル・ディッツ提督は娘の願いを聞き入れてはくれなかった。
それどころか、メルダにも最前線に向かうガイペロン型多層空母の戦闘機隊勤務を命じた。
「ディッツ家はガミラス帝星とデスラー総統の為に戦って死ぬのが定め、イルダ、お前も士官学校を卒業
したら直ぐにも前線に行ってもらう。
そして、フォムト・バーガー大尉も優秀な、そして勇気ある士官だ。
当然、今度の蛮族の大侵入阻止には絶対必要な人材だ、外す訳にはいかん!」とにべも無かった。
「ねえ、フォムト、お願いがあるの。 最後のお願い・・・。」イルダはバーガーにベタベタに甘える様に
なっていた。
「何だい、改まって、お前らしくもない・・・。」バーガーはイルダの肩を抱きながら尋ねた。
「私、あなたの子供が欲しい。」イルダはとんでもない事を口走った。
自分が妊娠すれば、その父親であるバーガーは後方勤務に回されると踏んだ浅知恵だった。
だが、バーガーはやはり、根っからの戦士だった。
「それは良い。 戦士の務めの第一は家族と仲間を守る事。 父親になればより任務に励みが出ると言う
ものだ!」そう言うとバーガーはイルダの衣服を脱がしに掛った。
野外でいきなり事に及ぼうとするバーガーにイルダは慌てた。
「ちょ、ちょっと、もう、アンタにはムードって物がないの! ああっ、もう、これだから戦闘馬鹿は嫌よ!」
イルダは乱れた衣服を手早く整えるとバーガーの前から立ち去って行った。
後に残されたバーガーは夜空に浮かぶイスカンダルに照らされながら去ってゆくイルダの後姿を
見つめながら思った。
<これで良かったのだ・・・。 俺は今度の出陣で多分、戦死する・・・。 あの娘に涙は相応しくない。>
フォムト・バーガー大尉、二十五歳の決断だった。
( この項、了 )