82. 使命の神託ー(1)
ガル・ディッツ提督はその艦(ふね)の側面に穿たれた幾つもの大破口に目をやって歩みを止めた。
その戦いの跡の凄まじさにドメル夫人は悲しそうに目を伏せた。
彼女の夫、エルク・ドメル将軍はまさにこの艦と戦って戦死したのだ。
しかも、夫はこの艦にこの大損害を与えるも万策尽き、この艦の艦底部に取り付いて自爆して果てた。
それでもこの艦は生き延びた、そう、彼女にとってこの艦は夫の「仇」であり、「悪魔」そのものだった。
しかし、夫はこの艦の艦長と「漢と漢の繋がり」を持った様だった。
それは二人の「漢の対話」の映像をこの艦の長が見せてくれた事でわかった。
だが、そこに映っていた夫の最後の顔は実に清々しく、この世に何も未練など無いと言った顔付きだった。
<男は皆、勝手! 後に残された者の事などどうでも良いのね・・・。>彼女は夫の行動に憤りを感じたが、次の
瞬間、自分には自分のやるべき事があるのを思い出した。
<エルクが私を忘れたのなら、私もエルクを忘れよう、ガミラスの民のために・・・。>彼女は再度、決意を固めて
顔を上げた。
先程、彼女とガル・ディッツ提督を含む反デスラー政権組織、真ガミラス同盟(エル・ガミローナ)はテロン艦
「ヤマト」と共闘の道を探る会談を「ヤマト」艦内で持った。
しかし、惑星「テロン」(地球)再生の道を求めて惑星「イスカンダル」を目指し、旅を急いでいる「ヤマト」には
「ガミラス」の内情に係わっている余裕はなかった。
また、真ガミラス同盟の方もガル・ディッツ提督はガミラスの高官だったとはいえ、反逆の罪を着せられて、
収容所送りにされ、今は無官、真ガミラス同盟はまだまだ少数派に過ぎなかった。
ドメル夫人やディッツ提督が収監されていた様な収容所は他の惑星にも幾つも散らばっている。
そこに収監されている政治犯や戦争捕虜達を解放し、真ガミラス同盟の力を増やさなければ、強力な親衛隊に
守られているデスラー政権を打倒する事など、とても不可能だと考えられた。
そこで取り合えず、お互いにその行動に対して「不干渉」を貫く旨の取り決めだけがなされた。
<『ヤマト』は化物だ・・・。 ガミラス帝星のデータを渡したのは良かったのか、悪かったのか・・・。>
「ヤマト」の大破口から目を離すとガル・ディッツは一つ、大きく溜息をつくと仲間の待つハイゼラード級一等戦艦
の方に歩み去った。
83. 使命の神託ー(2) → この項、続く