84. 使命の神託ー(3)
「失敬な! 艦長はおろか、副長も出迎えに来ないのか! 提督の来訪だぞ!」メルダが怒りを爆発させた。
「申し訳けありません。 副長は内部のシステム復旧に全力で取り組んでいます。 艦長は・・・。」星名が言い
淀んだ。
「まぁ、いいじゃありませんか、ここはあなた方の設備です。 訪問だなぞと遠慮なさらずご自由に我等の
仕事ぶりを見てやって下さい。」榎本掌帆長は真ガミラス同盟の幹部諸氏を内に案内した。
内部に案内されたディッツ達はドックの縁に立つとドックの下を見下ろした。
収容所の建物から見える部分はほぼ修理が終わっていたが、艦体の修理必要部分はまだ残っていた。
だが、前回、会談の為に『ヤマト』を来訪した時とは比べ物にならない位、修理は進んでいた。
「いやぁ、助かりました。 こんなちゃんとした設備をお貸し戴いて感謝しております。 提督。」榎本掌帆長は
改めてガル・ディッツ提督に敬礼した。
「下の作業も見たいのだが・・・。」ディッツは唖然としながら希望を言った。
「どうぞ、どうぞ、こちらです。」榎本は一行をドックの底部に案内した。
ドックの底部に行くには一度、ドックの縁から離れ、底部に向かうエレベーターに乗る必要があったので一行は
建物の内部に戻った。
そこは真に戦場の様な喧騒に満たされていた。
ドメル夫人や部下達には判らなかったが、ディッツ親子は本来、修理作業を行う甲板員以外にも他の部署の
者も修理に参加しているのが判った。
「ヤマト」の部署構成員は制服の色で区別されていたからである。
ディッツは軍人だったから兵が任務別に色分けされている意味は直ぐに判った。
戦闘時、指揮命令系統の混乱を最少限度に収めるための工夫である。
しかし、ガミラスではその様な区分けは任務が専門化しすぎて返って組織の硬直化に繋がるとして採用されて
いない制度でもあったのだ。
しかし今、この現場ははっきりとした任務の区分けなど意味が無い程、雑多な部署が修理に参加していた。
彼がざっと見渡して数えただけで九部署が修理に参加している様だった。
メルダは父には内緒にしていたが、「ヤマト」に「捕虜」として滞在して事があったので「ヤマト」の乗組員は任務
によって制服の色分けがなされている事は知っていた。
( 件の会談の時は「空気」(?)を読んだテロン人達は知らない顔をしてくれた。)
だが、当事、捕虜だった彼女には制服の色分けが「テロン人」のセクト主義の現れとして感じられ、侮蔑の対象
でしかなかった。
でも今、彼女の見ている光景は乗組員全員が心を一つに合わせ「ヤマト」を蘇らせようとしている姿だった。
それは負傷した「猛獣」がじっと身体を横たえつつ、その体内では各臓器が連携して全力で回復に努める姿を
思わせた。
<やはり『ヤマト』は『竜』だ・・・。 それもとてつもなく強い『巨竜』だ。>メルダはその思いを新たにした。
85. 使命の神託ー(4) → この項、続く