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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

86. 使命の神託ー(5)

 ディッツはふと外の様子をマジック・ミラー越しに見ると不審そうな顔をした。

「どうかされましたか? 提督?」真田副長が尋ねた。

「いや外の作業者達は我々と違う食事をしているようだが・・・。
しかも書類や端末に目を通しながら食事をしているがあれで休憩になるのかね?」ガミラスの風習では
食事中に例え仕事といえども他の事をするのは行儀が悪いとされ、子供の頃から厳しくしつけられて来た
ディッツはテロンの風習に違和感を覚えたのだ。

「いや~っ。悪い物を見られてしまいました。 確かに食事中に別の事を同時に行うのは地球でも礼を欠いた
下品な行為とされています。」真田副長が頭を掻いた。

「だが、彼等が手に持っている食物は片手で食べる事が前提に調理されている様だが・・・。」ディッツの
観察力は鋭かった。

作業者達に配られていたのはサンドイッチやオニギリといった、日本の昔ながらの「弁当」だったからだ。
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「はい、そうです。 飾っていてもしかたありません。 それだけ我々は急いで『ヤマト』の修理を終え、
イスカンダルに向かわねばならないと言う事です。」真田副長は『ヤマト』が置かれた切迫した事情を再度説明
した。

『ヤマト』は今、殆ど全部の乗組員が何かしらの修理・修繕の役割を与えられ、三交替勤務で全力で艦体補修
に当たっていた。

「ヤマト」の食堂まで帰ればきちんとした食事も出来るのだが、ドックと「ヤマト」食堂を往復する時間が
かえって作業者には煩わしかった。

かといってドックに仮設した食堂では主計科が「ヤマト」の厨房でつくる「弁当」が精一杯の食事だったのだ。

「今、この仮設食堂で食事をとり、休憩している乗組員はこの直の半分の人員です。
残りの半分は今も現場で修理作業を続けています。休憩している者も決められた時間がたったら働いて
いる者と交替します。これを時差休憩と言います。」真田の言葉は切迫した殺気の様な物をディッツに感じ
させた。

 デザートのアイスクリームが運ばれて来て給仕担当の主計科員が真ガミラス同盟の面々の目の前に
置いた。

「これは?」ディッツが不審そうな顔でアイスクリームを見つめた。
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「デザート、食後に菓子を食べる習慣が地球にはあるのです。」真田は軽い気持ちで説明した。

「菓子? それは嗜好品という事か?」ディッツの顔が険しくなった。

「地球では嗜好品はタバコや酒(アルコール飲料)・・・ですが、それとは違います。

子供も食べる、大好きな食品です。」真田はディッツが急に不機嫌になったのに戸惑いながら説明した。

「真田副長、申し訳けないが、これは辞退させて戴く。 

ガミラスではタバコやアルコール飲料と並んで楽しみの為だけに食べる食品、『菓子』も立派な『嗜好品』
なのだ。

そして私を含め、ここに居るガミラス人は皆、軍と何らかの関係を持つ者ばかりだ。

軍人にとって『快楽』は『堕落』を生む『温床』として最も避けねばならない『誘惑』だ。

『任務』に支障をきたす恐れがあるので軍の重責を担う我が家では厳しく禁止してきた、そしてそれは
今も変わらない。

そうだな、メルダ・ディッツ少尉・・・!」ガル・ディッツ提督は左隣りに座った娘の顔を見つめて言った。

「はい、その通りです。 提督・・・。」とメルダは胸を張って応えたが、目の前にある物がディッツ家では
長らく禁止されて来た『菓子』と言う物であるのを知るとちょっと味見をしたいと言う誘惑に駆られた。

「場」に気まずい空気が流れた。

<これがカルチャー・ショックと言うやつか・・・。>真田副長は配慮不足で一行を迎えたのを反省した。

気が付くと外の作業員達の時差休憩も終わった様であんなに沢山いた作業者の姿は食堂から消えていた。

「時差休憩は完全に終わりました。 もう外に出ても大丈夫です。」時計を見た榎本掌帆長は言った。

「おお、丁度良い、見学を再開させて戴きますかな。」それを聞いたディッツは見学の続行を申し出た。

彼も自分の頑固さが「場の空気」を悪くしたのをまずかったと思っていたのだ。

真田副長は一行の案内を再び榎本掌帆長と星名保安部長代理に任せて艦内のシステム復旧に戻って行った。

食堂を出る時、メルダは一つのテーブルの片隅にポツンと置き忘れられている皿を見つけた。

良く見るとそれは先程、食べ損ねたアイスクリームと同じ皿だった。

中身はなくなっていたが、融けたアイスクリームが少し残っていた。

テロンではディッツが軍人の「堕落」の温床として嫌悪している「嗜好品・・・菓子」は極く普通の食品であり、
「ヤマト」の様な軍艦であっても一般の乗組員ですら当たり前の様に楽しむ事が許されているらしかった。

その事にオルト・ドルメン大佐も気が付いた様子だった。

二人は無言で顔を見合わせ、この事は今はディッツ提督には黙っていようとお互い、同時に頷いた。

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 簡単な視察のはずだった真ガミラス同盟の訪問は朝から始まって日が暮れるまで続いた。

しかし、何か得る物があったのであろう、彼等もやっと満足したのか、何かに取り付かれた様な顔付でドックを
後に帰っていった。

 「やれやれ、やっと帰ってくれました。 流石にちょっと堪えました。」星名保安部長代理はつい、昨日まで寝て
いた簡易ベッドの上から部下の天海聖子保安部一等宙曹に言った。

「全く、あまり無茶しないで下さいよ。 保安部長・・・。」天海一曹が星名の強引さにあきれて言った。
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「ええ、折角少し良くなったのに、またベッドに逆戻りしちゃいました。」星名 透は苦笑いしながら応えた。

「それと僕は『保安部長代理』っです。 『保安部長』ではありません。」その言葉に天海一曹は眉をしかめた。

「まさか、死んだ『あの男』にまだ義理を立てておられるのですか・・・?」天海一曹は不審に思った。

天海一曹はメルダ暗殺に失敗し、本当の黒幕であった伊東保安部長の罪も一身に被って営倉入りしたのだ。

しかし、まぁ、そのお陰で惑星「ビーメラ」での「イズモ派」の蜂起には参加せず、拘束されなかった数少ない
保安部員として星名を助けるNo.2として活躍しているのだが・・・。

「『伊東』さんと僕は進むべき道の方向が少し違っていただけです。 

僕にとって任務をこなす上での上司はやっぱり、『伊東』さんだけです。」 星名はきっぱりと言った。

確かに「伊東」保安部長ならいくらガミラスを憎んでいてもそれを顔に出す事も無く、今度の様な任務も表向きは忠実にこなしたろう・・・。

天海一曹は自分の制止も聞かず、やっとベッドから出られる様になったのに真ガミラス同盟来訪時の警備
任務をやって、再び身体を壊してしまった星名を<バカな奴・・・。>と思った。

しかし、真ガミラス同盟の訪問者の内にはメルダ・ディッツの名前があった事を思い出した。

<私は暗殺の専門家だ・・・。 失敗したとはいえ、あの時、顔を見られた可能性はない、だが、工藤二曹に
妨害されて暗殺が失敗した後、自分から謝罪をした・・・。>天海一曹は大きな問題がそこにあった事に気付
いた。

<もし、私が警備主任としてメルダの前に姿を表した時、彼女は私を放って置いただろうか? もしあの時の
暗殺者が私だと提督に告げたら・・・。>天海一曹は星名が大変な無理をしてまで自分を庇ってくれたのに
気付き、戸惑いを覚えた。

<”殺し”しか能の無い私なんかの為に何でここまでやる・・・。>天海は危うく、涙を見せそうになった。

「どうしました。 何か悪い事を言いましたか?」星名はキョトンとした屈託のない笑顔でたずねた。

「いえ、何でもありません。」彼女は言葉に詰まった。

艦内放送でワープ警報が流れた。

「 まもなく最後の大ワープです。 失礼します。」そう言うと敬礼をして天海一曹は星名のもとを辞した。
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<流石に藤堂長官の懐刀、小柄で頼りない外見に騙されていた・・・。 これからは本気で補佐を務めなければ・・・。>保安部の女子詰所に戻った天海一曹は最後の大ワープに備え、船外服を着用しつつ、思った。

<それにイスカンダルを目前にした今、もはや『イズモ』計画の意味はない・・・。>『イズモ』計画の真のNo,2、
天海一曹は後に希望を繋ぐため、惑星ビーメラでの蜂起時にも敢えて彼女を営倉から開放しようとしなかった
『伊東保安部長』に別れを告げた。

                                         87. 使命の神託ー(6) → この項、続く
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by YAMATOSS992 | 2013-09-10 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)