92. 使命の神託ー(11)
戻った沖田はどこまでもデスラーを追うつもりの様だった。
「ヤマト」が自由の身になると「バレラス」の危機が去った事を知った親衛隊の艦艇が再び「ヤマト」を襲ってきた。
(彼等はデスラーがガミラス帝星毎、「ヤマト」を葬ろうとデスラー砲で狙っているとは露ほども知らなかった。)
「腰抜けどもめ・・・。 『ヤマト』が『総統府』に突き刺さったままなら簡単に撃破出来たろうに、上空から迫る
危険が怖くて『バレラス』上空に侵入出来なかったんだな。 北野、第三主砲と第二副砲で執り合えず迎撃
しろ!」
南部が砲雷長席に座った北野一曹に命令を下した。
「敵艦の数が増えました。 戦艦クラス4、巡洋艦クラス6!」岬 探知観測主任が告げた。
「ヤマト」大スクリーンにもその大艦隊の威容が映し出された。
しかし、かつて、「ヤマト」はカレル163空域で「ドメル」将軍の率いる大艦隊1千隻と戦った事があった。
また、バラン宙域では2万隻の大艦隊を突破した事もあった。
それに比べればたかが、10隻の艦隊など恐るるに足らない規模に思える。
しかし、艦隊戦を幾度と無く経験して来た沖田にはこの「十隻」という数が大きな脅威だった。
「艦隊戦」において一度に完璧に指揮出来る艦の数は「最大十隻」という事が証明されていたからである。
もちろん、「十隻」の艦隊を一隻の艦に見立てれば、百隻、一万隻の艦隊を指揮出来る勘定になるが、実際には
訓練を積み、実戦経験も豊富な乗組員を持ってしても艦隊司令がキチンと把握出来る数は「十隻」だった。
そして、この親衛隊の「十隻」は錬度も高く、「十隻」が「一隻」の様に自在に運動して「ヤマト」に迫って来た。
その陣形は梯陣、その姿は雁が斜め一列になって飛ぶ様を想像すれば良い。
前方にも側方にも火力を集中出来る態勢だった、また、状況によって何時でも一番、指揮のし易い単縦陣に
移行出来るのも強みだった。
<出来る・・・!>沖田には敵の司令官は只者ではない事が陣形を見ても判った。
まだ、距離があるため、北野砲雷長の腕では右に左に「ヤマト」のショック・カノンをかわす敵艦隊に命中弾を
与えられなかった。
南部はじっと耐えていた、<今、自分が北野に代われば、命中弾を与えられるかもしれない。
でも今は回頭中だ、第一、第二主砲塔、第一副砲塔が使えるまで待とう!>彼は北野の成長も気に掛けて
いた。
「回頭終了! 全砲門が使えるぞ!」島が南部に微笑んだ。
しかし、南部が砲門を開こうとした時、信じられない事が起こった。
敵艦隊の一番艦、つまり、旗艦の砲塔付近が爆発して戦列を離れ、地上スレスレで態勢を立て直して後退して
行った。
「雷数4、魚雷です。」岬が警報を発した。
しかし、次の瞬間、訝しげな言葉で報告した。
「魚雷の雷跡は敵艦隊に向かっています。」
その報告が終わるか終らない内に今度は敵二番艦が雷撃を受けて戦闘不能になり後退していった。
さすがに精鋭を集めた親衛隊・艦隊もこの正体不明の攻撃に恐怖を覚えたのだろう、回頭して撤退していった。
「次元潜航艦・・・。」真田副長が計器に映った微小な次元振を見て呟いた。
「艦長! 『UX-01』から通信です。 『 カリ ハ カエシタ ゾ 』・・・です。」相原通信士が報告した。
大気圏内で次元潜航しただけでなく、戦闘までこなした「UX-01」、しかも本土に損傷を与えない様、敵艦が
戦闘不能になる程度の損害に留めた、「UX-01」、その艦長の腕に沖田は唸った。
「しかし、大気圏内で通常空間観測用のプローブを出したら、一気に大気が次元断層内に流れ込んで大変な
事になる・・・。どうやって索敵と魚雷の照準をしたのでしょう? 通信もどうやったら・・・。」副長が疑問を述べた。
「次元アクティヴ・ソナーだ。 奴、いや、『UX-01』はソナーだけで索敵・照準を行ったのだ。
通信は亜空間魚雷に発信機を仕込んだのだろう、それなら一方的な通信は出来る。
しかし、凄い腕前の艦長とクルーだ、前の対戦時には良く『休戦』に持ちこめたものだ。」沖田は自分の手術中に
行われた” 対次元潜航艦戦” について報告は受けていた。
しかし、実際に見た彼等の戦闘ぶりは想像を上回っていた。
沖田艦長はもう、二度と敵に回したくない相手だと思い、汗を拭った。
沖田は今は敵影の無くなったバレラス上空から大気圏外のラグランジェ・ポイントにあると思われる敵の
本拠地に向かって、「ヤマト」を向かわせた。
93. 使命の神託ー(12) → この項、続く