99. 使命の神託ー(18)
『コスモ・リバース・システム』 の搭載が終わった証の様に 『波動砲口』 には蓋がされ、”封印”が貼られて
いた。
「ヤマト」 は帰りの旅を、『波動砲』 を封印したまま、 行おうとしているのだ。
<大丈夫なのか、本当に危険はもうないのか?>メルダには人事とは思えない理由があった。
何故なら、彼女もまた、父、ディッツ提督より、「大いなる力」 を託されていたからだ。
しかし、この 「力」 は今の彼女にとっては 「重荷」 以外の何物でもなかった。
それは 「ヤマト」 に 「連絡将校」 として乗艦する事をディッツ提督により、命じられた時、渡されたものだ。
メルダの任務は、表向きは ”テロンの文化・文明の学習” だった。
しかし、”密命” がもう一つあった。
その内容は ”ユリーシャの護衛” だった。
そして、その内容は ”過激” だった。
”ユリーシャを守るためなら 『ヤマト』 も更に 『同胞』 であっても躊躇わず排除せよ!” と言うのだ。
ただ、その方法がメルダを驚かせた。
ディッツ提督は自分の軍服の前を空け、ペンダントを一つ、取り出してメルダの首にかけた。
妖しく金色に輝くそれは何か、禍々しさを漂わせていた。
「これは我が家に代々伝わる由緒ある ”家宝であり、最終兵器” だ。 その正体は 超小型反陽子爆弾 ・・・。
爆発すれば ”バレラス” ですら消滅する・・・。」
「お前が ”ユリーシャ” 様を 「お守り」 する為の 「力」 だ。 使い方は・・・。」 そこまで聞いたメルダは首から
そのペンダントを引きちぎると床に叩きつけた。
「私は御命令通り、『テロンの事』 を学習し、『ユリーシャ様を護衛』 します。その為には『同胞を殺す事も躊躇い
ません。
ですが、大恩ある 『ヤマト』 に害なす事など、しかも 『ユリーシャ』 様を道連れに 『自爆』 するなど、もっての他
です。
どんな危機に会っても、例え 敵の手に落ちたとしても 『ユリーシャ』 様の 『命』 は 『ユリーシャ』 様の物です!
我等、『ガミロン』 如きが勝手にどうこうして良いものではありません!」 メルダは怒りに震えていた。
「そんな考え方から抜けられなかったからこそ、『デスラー』や『セレステラ』、『ギムレー』や『ゼーリック』と言う、
”奸物” 供の跳梁を許して来たのではないですか!」 今まで何事も惑わず、忠実に父に従って来たメルダ
だったが、「ヤマト」 の人々や 「EX-178」 の艦長、ヴァルス・ラング中佐 と そのクルー達、彼等との充実した
”触れ合い” が、彼女の内の ”何か” を変えていた。
ディッツ提督は床に落ちた ”家宝” を再び拾うとそれを握った拳をメルダに突き付けた。
「良く言った! それでこそ、我が娘だ。 しかし、まだ、”若い”、”若いな”。」
「どう言う意味です?」 メルダは率直に父に聞いた。
「私はお前に 『ユリーシャ様を道連れに自爆しろ!』 などと言うつもりは毛頭無い。」ディッツは愛娘の頬に手を
やった。
「お前は『ヤマト』 が、『波動砲』 という、『大量破壊兵器』 を搭載しているのは知っているな。」 ディッツは
メルダに確かめる様に聞いた。
<知っているも何も、『ヤマト』 の 『波動砲』 には、二度も助けられた。 忘れるはずもない・・・。>メルダは
短く応えた。
「はい、知っています。 提督。」
「わしが知る限り、『グリーゼ581』 での 『デスラーの罠』 からの脱出と、お前も経験した 『次元断層』 突破
作戦だ。」
<何故・・・父は次元断層突破の件を知っている・・・? 『ヤマト』 がバラしたのか? いや、そうだったらあの
『会談』 の時、私の事を 『知らぬフリ』 などしなかったはず・・・。>
「『ヤマト』 の捕虜になっていた話を誰から聞いたのか、不審に思っているな。
まぁ、なんだ、わしも ”提督” と呼ばれる ”古狸” だ、独自の情報網くらい持っておる。
<情報源は『UX-01』、フラーケンはシラを決め通したが、その部下達は一杯、飲ませれば全てを 吐いた。>
詳しい事は言えんが、少なくとも 『ヤマト』 の ”誰か” から仕入れた情報ではない。
彼等の事をお前は信じているのだろう・・・。」 メルダが思わず頷くと父は娘に”ペンダント”を再度、手渡した。
「そして、『ヤマト』 は ”ドメル” との決戦、”七色星団会戦” の時、あれだけの大損害を受けつつも 『波動砲』 は
使わなかった。
勿論、 ”ドメル” が 『波動砲』 を使わせない様、旨く作戦を組み立てた事もある、しかし、もし、 ”ドメル” が
『波動砲』 封じの作戦を採らなかったとしても 『ヤマト』 は 『波動砲』 を使わなかったろう・・・。
理由は判るな?」 ディッツは娘に念を押した。
「良いか、メルダよ、『波動砲』 も、その 『超小型反陽子爆弾』 も ”罪深い” 大量破壊兵器 だ。
しかし、どちらも 単なる ”物” であって、そこに ”心” は無い。
その ”物が持つ力” を ”生かす” も ”殺すも” それを使う人の ”心” 次第だ。
人は ”誤ち” を犯す、だから、そんな 「大量破壊兵器」 は ”危険” だとして排除してしまう事も出来る。
しかし、”力” を恐れて ”排除” すれば、その ”力” による ”恩恵” までも失ってしまう事になる。
今、与えた ”力” を 『いつ使うか』 、『どう使うか』 、『何の為に使うのか』 、それはお前が自分で考えなくては
ならないのだ。
お前なら、必ずや、それを 『生かした』 使い方が出来ると信じている。」 ディッツは力強く言った。
「父上、私は 『バレラス』 を消滅させる程の 『力』 の使い方など、判りません・・・。」 メルダは途方に暮れた。
「そうだろう、だが、今は、それでいいのだ。 『その力を・生かす・使い方』 が決まった時、使えば良い。
だが、それが決まらぬ内は、たとえ、自分が 『死』 に瀕しても決して使ってはならないぞ。」 ディッツは
今度こそ、メルダに退室を促した。
100. 使命の神託ー(19) → この項、続く