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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

155.夢幻の 宇宙戦艦・・・『扶桑』 (フソウ) ー (20)  (最終話)

 「敵艦隊発見! 前方十二時方向、距離十万km、五隻が横陣にて高速接近中!」『シャルンホルスト』からの警報が
船団中に響いた。

「敵艦は宙雷戦隊、駆逐艦のみで構成された部隊だ、間もなく魚雷攻撃を仕掛けてくる物と思われるが、各艦、迎撃は
光速兵器のみで行い、反物質弾頭・魚雷は温存せよ!」フローラー・ライニック大佐の凛とした声が船団を護衛している
護送艦隊中を引き締めた。

護送艦隊の最先端に位置した『グナイゼナウ』は三連装のレーザー砲塔を片舷・二段に装備していたが、上段の砲塔と
下段の砲塔を少しずらして角度を持たせるとその状態で二組の砲塔の位置関係はそのままに28cmの大口径レーザーを
放ちつつ、砲塔全体をスイングさせた、光速兵器特有の”撫で斬り”効果だった。

遙か前方の空間で爆光が煌めいた、かなりの数のガミラス・魚雷を迎撃したが、まだ取り溢しの魚雷が船団目指して
迫って来ていた。
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今度は土方の指揮する『コンゴウ』と『ハルナ』が36cm口径三連装高圧増幅光線砲塔三基を使ってその取り溢しの
ガミラス・魚雷を迎撃した。

しかも、今度は”撫で斬り”では無く、一点集中する事で高圧増幅光線砲の欠点、有効射程の短さを補う日本宇宙海軍、
伝統の”狭い散布界”を実現する秘儀を見せ、確実に船団に迫る魚雷を一発、また一発と処理していった。

同じころ距離七万kmまで迫った敵艦隊・本隊の一艦は『シャルンホルスト』からの攻撃を受けていた。

28cmの大口径レーザー十二条による集中砲火である。

しかし、高圧増幅光線砲のビームも受け付けないガミラス艦の装甲は幾ら大口径でも一昔前の兵器であるレーザーの
攻撃など、蚊に刺された程にも感じないはずだった。

しかし、そのレーザーを被弾した駆逐艦は方向制御を失って迷走し始めた。

フローラーは七万kmの大遠距離から敵駆逐艦の艦橋を射抜いたのである、艦体は無事でも艦橋の窓を通して入ってくる
大口径レーザーの威力は大幅に削がれていたとはいってもそこにいた艦橋要員を殺傷するには十分過ぎる力を残して
いた。

土方の指揮・迎撃で、接近する魚雷は四十発以下までに抑えられていたが、その数はまだまだ、脅威だった。

<フレイア、あなたの出番よ、 私は船団防空に専念する! 敵駆逐艦隊本隊の迎撃をお願い!>フローラーが
”念話”でフレイアに告げた。

<待ってました! さっきはこっちの火器管制システムを乗っ取って魚雷を迎撃しやがったもんな、”貸し”は返して
貰うぜ!>フレイアは舌舐めづりをすると操縦桿を握り、姿勢制御して敵艦隊に艦首を向けるとフル・スロットルで
ガミラス艦隊に向かった、慣性制御があるとはいえ、それを上回る加速Gが艦橋を襲う、艦橋の一際高い場所である
艦長席に座らせてある小ぶりの”テディ・ベア”が転げ落ちた。

「艦長! ”大佐”が転げてますよ! Gのかけ過ぎです! 本艦はビンテージ物ですからぶっ壊れますよ!」
コ・パイロット席で身をよじりながら副長が悲鳴を上げた。

確かに『シャルンホルスト』級の建造計画は2169年、艦齢三十年の第一次内惑星戦争の落とし子だった。

「”大佐”は”ぬいぐるみ”だ、床に転がろうが、真空に晒され様が痛くも痒くも無い!放っとけ!」フレイア・
ライニック中佐はそう言い放つと艦を右方向に急ロールさせた、グナイゼナウが今までいた空間をガミラスの
陽電子ビームが舐めてゆく、正に光速兵器の行筋が見えている様だった。
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「前部対艦ミサイル発射用意! 但し、一基だけだ!」フレイアは姉の禁じた対艦ミサイル攻撃を行うつもりだった。

ガミラスの放つ陽電子ビームを上下左右に最少限度の動きでかわしながら、彼我の距離を詰める、『グナイゼナウ』の
艦橋直前の艦体に三ケ所ある対艦ミサイル・ランチャーの内、一か所の長方形をしたそれが僅かに持ち上がり内側に
吊るされた三基の対艦ミサイルが顔を覗かせた。

『グナイゼナウ』の射撃・指揮官、ロン・シュナイダー大尉はフローラー・ライニックに次ぐドイツ艦隊きっての射撃・指揮官
であり、かつ、フローラーと異なって射撃より、ミサイル管制に優れた力を発揮する男だった。

彼が放ったたった一基の『反物質』ミサイルは一隻のクリピテラ級航宙駆逐艦の前方魚雷発射管四基、VLS八基が
集中して装備されている区画にもろに命中した。

反陽子弾頭ミサイルが詰めてあったVLSはプラント攻撃で使い切り、空であったが、発射管の方は接近戦になったら
使うつもりで圧縮陽電子弾頭・魚雷が一連射分残してあった。

この為、『反物質弾頭』と圧縮陽電子弾頭が誘爆をおこし、その爆炎は左右を突撃する僚艦も包み込んだ。

前にも記したが『反物質弾頭』の爆炎は破壊効果を保ちつつ広がる、フレイアはその名の如く、辺りを炎で嘗め尽くした。

これでライニック姉妹は五隻の敵艦のうち、四隻を葬った事になる、残る一隻は転移(ワープ)すると撤退していった。

「すげェな、おい、あの姉ちゃん達、ミネルバ(戦いの女神、軍神マーズの妻)の生まれ変わりかい?」ライニック姉妹の
働きを見た菅野少尉は誰に言うとも無く呟いた。

しかし、自分の乗艦の直ぐ前を航行していた同型艦の後部に背負い式に搭載された12,7cm連装レーザー砲塔が
迅速に回っているのに気が付いて後方監視スクリーンを見た。

彼等、菅野と古代 守の乗艦、艦隊型駆逐艦『さみだれ』の砲塔も虚空の一点を指向しようとしていたが、射撃・指揮官の
古代はそうはさせまいと砲塔の手動操作ハンドルを抑へ込んでいた。

「おい、古代、何をやってるんだ!」菅野は古代の行動を咎めた。

「俺はこの艦の射撃・管制官だ、その俺が操作してもいないのにこの砲塔達は勝手に廻って行きやがる!
それを止めるんだ!」古代は馬鹿正直な応えをした。

「馬っ鹿じゃないの? 何を『お姉ェ』いや、ライニック大佐の邪魔をしてるの! 駆け出しは隅っこにすっこんで
いなさい!」

通信用モノ・クロ・スクリーンに文字通り怒りに髪を逆立てた美女の姿があった。

「誰だあんたは! 何の権利があって俺の指揮権を奪う!」古代 守は彼女の肩章が中佐である事に気付いてはいたが
無視して噛みついた。

「馬鹿もん! 何をしとるか!」美女の映像が消え、沖田宙将の怒声と顔が映った。
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「フローラー・ライニック大佐の射撃は”神技”だ、その技を良く見て覚えるんだ。」沖田は静かに諭した。

「フローラー・ライニック・・・? どこかで聞いた名前だな? あっ!」菅野はその名前に聞き覚えがあった。

<彼女は確か、冬季オリンピック、バイアスロン競技の常勝、金メダリストだったはず、しかし、一隻なら兎も角、これだけ
多数の軍艦の射撃・指揮・管制を行えるとは思えないが・・・。>菅野は沖田の言葉とはいえ個人競技と艦隊戦を同列に
考える事は出来なかった。

「艦隊、各艦、姿勢制御、そのままの位置で進行方向に対し九十度姿勢を変更、全砲門を使って接近する敵・魚雷を
迎撃する!」ライニック大佐の命令は即座に実行に移された。

地球艦はほとんどどの国も両舷に最大火力を集中出来る様に設計されていた、艦隊型駆逐艦『かげろう』型十隻、
12,7cm口径レーザー、六十門、軽巡『エムデン』級四隻、15.5cm口径高圧増幅光線砲八門、『コンゴウ』級戦艦三隻、
35.5cm口径高圧増幅光線砲三十六門の濃密な弾幕がガミラス・魚雷の接近を阻み、ただの一発も船団に辿り着かせは
し無かった。

「すげェ~な。これだけの数の砲、IT制御でもしなければリンクさせる事など不可能だぞ、欧州連合の艦隊はそう言った
システムを積んでいたとしても日本艦隊はそんな装備も訓練もしていなかったんだが、一体どうやってこのリンク射撃を
実現したんだ?」古代 守は自分も砲雷長(火器・管制官)と言う役目がら、彼女のやった事が如何に奇跡的な事なの
かが判った。

しかし、沖田が<よく見て学べ!>と言った事には何をどうやって学べば良いか、見当も付かなかった。

**************************************************

 フレイアは艦橋の床の片隅に浮かんでいた熊のぬいぐるみを手に取って拾い、艦長席に再度、座らせると今度は
急なGの変化にも飛ばされる事の無い様、四点式シート・ベルトで固定してやった。

「”大佐”、さっきはごめんなさい、今度は大丈夫よ、これでもう飛ばされないわ。」先程の戦闘で見せた荒い気性は
どこへやら、やけに少女趣味のある所をみせたフレイアだった。

「艦長、ずいぶんとしおらしいんですね。 見直しましたよ。」副長のケラン・クランケ少佐がからかった。

「し、仕方ないでしょ!私は艦長だけど中佐、本来は軽巡の艦長が精々よ、熊の”大佐”が必要なの!」普段の自分らしく
ない言動に自分でも戸惑った彼女は訳の分からない言い訳をした。

本来、重巡や戦艦の艦長は”大佐”がなるものである、シェーア提督の計らいでフレイアは”中佐”でありながら
重巡『グナイゼナウ』の艦長を任されていた。

「散々、敵・味方のビームの下を一緒に潜った俺達にはあなたが”中佐”だろうが”大佐”だろうが、そんな事はどうでも
良い事です。
あなたは”フレイア・ライニック”であればそれで良い! それが”戦場”でも”銀板の上”でも関係ありません!」初老の
ベテラン副長、クランケ少佐は親指を突き出した握り拳をフレイアの方に突き出してウインクした。

<ケラン、あなたは私の過去を知っているのね・・・。>フレイアは自信に満ちてスケートリンクを滑っていた時の事を
思い出していた。

<あの時の方が遙かに厳しかった、今は敵は倒せばいなくなるけど、フィギャア・スケートの選手権を争っている時は
ビームもミサイルも飛んで来ない代わりに最強の敵、”自分”と戦い続けなければならなかったのだから。>フレイアが
しばし、感傷に耽っているとそれを打ち破るかの様に探査主任の声がガミラス艦隊の接近を告げた。

「ガミラス艦隊出現! 本艦と船団の中間空域です!」思いも依らない空間点に出現したガミラス艦隊にフレイアは姉、
フローラーに”念話”で状況を報告した。

<敵艦の勢力は同じく宙雷戦隊、しかし、数は十個ですって! そんな大量の魚雷、処理し切れないわ!>フローラーは
事態の深刻さに唇を噛んだ。

<大丈夫だ、姉貴、先程、襲って来た宙雷戦隊は一個、こちらの手の内を探る威力偵察だったのは明らかだ。 
だとすればこれが敵の主力、こいつ等を叩けばもう敵の襲撃は無い!>フレイアは勝利を確信した。

『グナイゼナウ』が進行方向を変えぬまま、艦首を後方のガミラス艦隊に向けた、ロン・シュナイダー射撃・指揮・管制官は
『シャルンホルスト』級の最強の武器である『反物質弾頭・対艦ミサイル』を隠していた艦首前方の三連装ミサイル・
ランチャーを三基とも全開にすると同時に九発の対艦ミサイルを宙に放った。

まさか、後ろから攻撃されるとは思っていなかった、ガミラス艦隊は一気に九隻の駆逐艦を失った、しかも彼等は
宙雷戦隊一個毎に鶴翼陣を組んでいたのでロン・シュナイダー大尉は隊長艦を推定して攻撃を加えたのである。

しかし、惜しむらくは最前列で鶴翼陣、先頭をきって突撃していた総司令、ルミナス少将のクリピテラ級を撃ち漏らした事だった。

通常だったら指揮系統をズタズタにされたガミラス艦隊は大混乱に陥った事であろう。

しかし、ルミナスは宙雷戦のベテラン、こうした事態にも充分、対応出来る様、部下を訓練していた。

各宙雷戦隊では二番艦が直ぐに隊長艦を引き継ぎ、混乱は殆ど見られなかった。

そして小ワープによる全艦接近を命じた。

一艦、また一艦と消えてゆく様子は彼等より内惑星に近い宙域にいた『グナイゼナウ』のフレイアより、フローラーに
伝えられていた。

もちろん、『グナイゼナウ』は『反物質ミサイル』を最後の一発まで使って敵駆逐艦の接近妨害を図ったが、残り二十発の
ミサイルで撃沈出来たのは五隻が精一杯だった。

フローラーは敵が接近戦を仕掛けてくる事を予想し配下の『エムデン』級軽巡に船団周囲に『反物質ミサイル』を各艦、
十基、遊弋させておく様、指示した。

かつて、彼女が木星ー地球間の交通路をガミラスの通商破壊艦から『Z』級駆逐艦を用いて守っていた時に多用した戦法だった。
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ガミラス艦はワープが出来る、これはワープの出来ない地球艦にとって決定的なハンデである。

しかし、ガミラス艦がワープして実体化した時にそこに別の物体があったらどうなるか、物質重複を起して大爆発を起し、
全ては光子となって飛び散るのだ。

運よくミサイルと物質重複を起さなかったとしても自艦の至近にある『反物質ミサイル』は自動的にホーミングを始め、
その敵艦を逃す事は無かった。

だが、この迎撃は敵艦のワープ終了点を正確に予想する必要があり、『昏き狙撃手』、フローラー・ライニックと言えども
完全には予想し切れなかった。

十一隻のガミラス駆逐艦が生き残った、ルミナス総司令も悪運強く生き残っていた。

「やってくれたな、我が精強を誇った宙雷戦隊・部隊ももはや十一隻か、テロンの勇者よ、天晴だぞ! だが、ここまで
接近すればこちらの勝ちだ!」ルミナスは勝ち誇った。

「もはや、『Z作戦』に掛けるしかない! 軽巡、艦隊型駆逐艦は持てる全ての『反物質ミサイル』を発射、船団周囲に
『反物質』の弾幕を張れ! 沖田提督! 『Z作戦』の発動指示を!」フローラーは指揮権を沖田提督に戻した。

船団の前後左右を固めた軽巡部隊がその恐るべき破壊力、一艦、九十基、四艦・合計360基の反物質ミサイルを
放った。
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破壊力を秘めた爆炎が辺りの空間に広がってゆく、その様子を満足気に見つめたフローラーだったが、ミサイル
発射後の軽巡部隊の姿に訝しげに眉をひそめた。

「ミューラー中尉、艦体姿勢を攻撃態勢から、航行態勢に戻しなさい! それでは敵ミサイルの良い”的”です!」
フローラーはその艦、『エムデン』の艦長を呼び出した。
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「今までお世話になりました。 あなたの元で働いたのが私にとって人生最良の時でした。 本艦は攻撃力を
使い果たしました。 後は一基でも多くの敵・魚雷を引き付けて船団に辿りつかせない様にするだけです。」
通信モニターに映ったミューラー中尉は告げた。

「私はあなたが”好き”でした。フレイア、意気地の無かった私を許して下さい。」そこまで言うと通信モニターはプツリと
切れて暗黒になった。

「『エムデン』、『ゼーアドラー』、『フランクフルト』、『ケーニヒスベルク』、軽巡部隊、全艦が船団の”盾”となって
爆沈しました。」副長であり、航法士のゲルハルト・バルクホン中尉が悲しげに報告した。

<あの馬鹿! なんでこんな時にコクるの! 卑怯よ!>直接、通信を受けていなかったフレイアがフローラーの
頭の中で感情を爆発させた。

<彼、”あなた”と”私”の特殊な関係に気付いていたみたいね・・・。>フローラーは人の想いの深さがもたらす
底知れぬ力に脅威を抱いていた。

**************************************************

 <フッ、『小娘』め、やっと音を挙げたか・・・。しかし、相手が『宙雷戦隊』とはいえ、よくぞここまで対抗した。>土方が
口蓋の縁を歪めつつ、微笑したが心の奥では驚愕が渦巻いていた。
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「土方、高圧増幅光線砲の全艦リンク射撃の用意を! 乱戦になるから敵味方識別に注意しろ! 艦隊型駆逐艦は
”特殊ミサイル”を敵艦に叩き込め!」沖田は淀みのない司令を発した。

日本艦隊の艦隊型駆逐艦は『カゲロウ』級だったので『反物質ミサイル』を搭載したVLSは十八基持っていたが、
それは全て先程のフローラーの弾幕形成命令で発射し、既にその中身は空だった。

しかし、『カゲロウ』級十隻はその他に両翼に張り出したパイロンに三基づつ、計六発の『特殊ミサイル』を装備していた。

そして通常は自艦が突撃する事などない艦隊型駆逐艦がまるで猛禽の様にガミラス艦隊に襲い掛かった。

ルミナス総司令はそれを見てニタリとした、<あの”強力弾頭ミサイル”や”反陽子弾頭ミサイル”はこれだけ船団に
近くては使えまい、それ以下の破壊力では我が艦隊の装甲を破る事は不可能だ!>ルミナスは勝利を確信した。

だが、地球・駆逐艦がガミラス・駆逐艦に接近、発射したミサイルは通常の物では無かった。

それはその弾頭に詰められていたものは粘着性の液体だった。

それはガミラス艦の砲塔やミサイル・ランチャーにこびりつき、旋回を妨げ、また、外部監視装置の幾つかを殺した。

「総司令、敵艦のビーム攻撃を受けて、我が艦隊は炎上しています!」副官が信じられないと言った顔で報告した。

「炎上? ここは宇宙空間だぞ! 酸素も無いのにどうして艦が炎上するんだ!」ルミナスは自分達の置かれている
状況が理解出来なかった。

<日本海軍伝統の”水軍戦法”の一つ、”火打ちの計”だ。>沖田は秋山の知恵に感服していた。

日本海軍が戦った戦争の内、勝てるはずの無い戦いが二つあった。

日清戦争と日露戦争である、日清戦争は清が保有する二隻の装甲艦、『定遠』、『鎮遠』の二隻は装甲が厚く、
日本海軍の保有する艦艇の砲ではその装甲を破る事が出来ず、必敗は免れ得ないものと思われた。

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しかもその対策として建造した三隻の特殊防護巡洋艦、『三景艦』はものの見事に役に立たなかった。

だが、日本海軍の使用する砲は最新式の英・アームストロング社製の速射砲だった。

この砲は口径が12cmと小さい代わりに発射速度が11発/分とべらぼうに早く、(当時の標準砲は毎分1発)これで
『清・艦隊』の非装甲部分を炎で嘗め尽くし、戦闘力を奪い、勝利した。

『鎮遠』、『定遠』の装甲内部は全く被害は無かったがそれ以外の部分はスクラップ状態になるまで叩きのめされていた。

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日露戦争時、ロシアのバルチック艦隊は何故あのような大航海を、しかも執拗な英国の妨害を受けてまで成したのか、 
疑問を持つ人も多いと思う。

旅順艦隊が健在だった頃は合流出来れば日本海軍の倍の勢力となり、充分、政治的な道具となるはずであったが、
旅順艦隊が絶滅した後もバルチック艦隊の総司令、ロジェストヴェンスキー中将は何故、ウラジオストック入りに
拘ったのであろうか?

それは当時の装甲の防御力と砲の攻撃力が全くバランスしておらず、当時の砲戦距離八千~一万m付近では
装甲の防御力が圧倒的に勝っており、当時の常識では戦艦は砲では沈められないと思われていたからだ。

だから彼は日本海軍から逃げ切ってウラジオストックに入港し、日本海に睨みを利かす第二の旅順艦隊に
なれるつもりでいたのだ。

実際、日本海海戦でも日本側が徹甲弾を用いだしたのは彼我の距離が二千mを切ってからである。

しかし、日本側が砲戦を開始したのはかの有名な”敵前大回頭”を行った後で砲戦距離は約六千mであった。

先程記した様にこの距離では徹甲弾は使えない、だから、日本海軍は着発信管(伊集院信管)を付けた榴弾を用いて
「焼き討ち」戦術に出た。
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榴弾には日本独自の新発明「下瀬火薬」が詰められ、バルチック艦隊は文字通り炎に包まれた。

ロシアの水兵の一人は自艦の主砲が鉄製にも関わらず、炎を上げて燃えている様を見て戦意を喪失した。

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実際は砲が燃えていた訳では無く、砲身を塗装したペンキが燃えていただけなのだが、敵そのものでは無く、
敵の「人心」を攻める事を旨とした日本海軍の方針が間違っていなかった事を示す逸話である。

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 ガミラス艦隊にも同じ事が起こっていた、真空中での火災というありえない事態に遭遇した十一隻にまで減じていた
クリピテラ級航宙駆逐艦は各艦、ルミナスの命令も無いまま、勝手にゲシュタム・ジャンプしてこの場を離れ、炎から
逃れようとした。

しかし、艦体に張り付いた粘着物質は適度な酸素を含み、ゆっくりと燃焼しながらガミラス艦の艦内温度を上昇させ
続けていった。

<ぬう、腰抜け共め!>敵前逃亡を図る部下達の姿に怒りを隠せないルミナスだったが、眼前に広がる光景に息を
呑んだ。

一隻のクリピテラ級・駆逐艦が敵・船団の只中にゲシュタム・アウトし、そのままエンジンの耐熱限界を超えたのであろう、
数隻の脱出船を巻き添えに爆発して果てた。

ルミナスは勿論、艦橋に居た全員はそのクリピテラ級・駆逐艦(最早、名前も判らなかったが)の奮戦ぶりに敬礼して
いた。

「本艦の状況を報告! ゲシュタム・ジャンプはまだ出来るか?」ルミナスもまた、かの艦と同じ様に船団中央に転移、
船団を巻き添えに爆沈する覚悟だった。

「駄目です! 機関室の温度が上がりすぎて最早、ゲシュタム・ジャンプは出来ません! 一刻も早く突撃命令を!」
機関長はルミナスの心を読んでいるかの様に一斉突撃命令を促した。

「ようし、皆、行くぞ、最後の突撃だ! テロンに目に物を見せてくれるわ!」唯一隻残ったルミナス艦は魚雷は
使い尽くしていたので280mm連装陽電子ビーム砲、133mm陽電子速射砲、防御ミサイル発射ランチャーから
辺り構わず破壊を振りまきつつ、突撃した。

燃える粘着物質に絡め取られていたのでその照準は出鱈目だったが、少しでも最後の目標に辿り着くための助けに
なればそれで良かった。

そして彼、ルミナス総司令が最後の目標に選んだのは『シャルンホルスト』だった。

『シャルンホルスト』は最早、反物質ミサイルは使い尽くしていた。

突入態勢を完成させた今レーザーでブリッジを射抜いても敵艦の突撃は止める事は敵わなかった。

<フレイア、今まで有難う、後は宜しくね。>フローラーは覚悟を決めていた、<お姉ェ、諦めるのは早いぜ、艦体を
ロールさせてやり過ごせ!>フレイアの悲鳴に似た”念話”がフローラーの頭の中に響いた。

<駄目よ! 私がよけたら奴は船団に突っ込んで甚大な被害が出る! 幸い、敵は本艦を狙って突撃して来ている。 
本艦は『盾』の役を降りるわけには行かないのよ!>フローラーの決意は固かった。

フレイアは直ぐにでも姉の元に駆けつけたかったが、冷徹な物理法則はそれを許してはくれなかった。

ここで減速しては再度船団の速度に合わせるのに新たに推進剤が必要になるのだが、その推進剤は既に先程の突撃で
使い切っていたのだ。

欧州人であるフレイアはこうした事を冷静に分析し、姉の為に部下の命まで懸けさせる訳には行かないと決心し、
唇を噛むのだった。

「お姉ェ!」”念話”では無く、フレイアは実際に悲痛な叫びを挙げていた。

「『重力震』確認! 何者かがワープ・アウトして来ます!」情報士官の言葉にフレイアの顔は凍りついた。

地球艦にワープ出来る艦は無い、ワープ・アウトして来る艦はガミラス艦なのは間違いなかった。

<ここまで来て戦局がひっくり返されるのか!>沖田も苦渋の表情を浮かべた。

だが、ワープ・アウトして来る艦艇は無く、代わりに一条の極太・陽電子ビームが煌めき、『シャルンホルスト』の真近まで
迫っていたルミナス艦を貫き爆沈させた。
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だがその陽電子ビームを放った艦はワープ・アウトする事無く、『重力震』もいつの間にか消えていた。

<一体、何が起こったんだ・・・。>フレイアは事態を飲み込めずにいた。

<あの陽電子ビーム、色がガミラスの物と異なっていたわ、地球艦なら我々を助けてくれた意味は判るけど・・・。>地球艦でワープの出来る艦は未だ無い、フローラーも思考が混乱していた。 

そんな中、記録映像を繰り返し見た沖田と土方は一つの結論に達していた。

あの陽電子ビームの色は地球製の高エネルギー密度・陽電子砲のものだ、しかも複数のビームに縁りを掛けて一本に
絞った様なビームは『フソウ』の物に間違い無いと。

しかし、秋山艦隊は敵戦艦隊との戦闘で敵艦隊を全滅させるも僚艦は全て全滅、『フソウ』も行方不明になっていた。

<死んだものと思っていたが、我々の戦いをどこからか見てくれていたんだな・・・。秋山真彦>沖田は手元の写真から
顔をあげて静かになった宇宙を見つめつつ言った。

「その智謀、湧くが如し。・・・か。」<正にあの日本海海戦を完全勝利に導いた作戦を立案した『秋山真之』作戦参謀の
子孫に相応しい男だった。>最後の攻撃はどの様に行われたものか、沖田や土方にも不明だったが、その方法が
どうあれ、秋山真彦参謀総長ならどんな不可能も可能にしただろうと沖田は信じて疑わなかった。

そして『扶桑』はもはや失敗戦艦の代表ではない、人は言うだろう、奇跡の戦艦、いや、時空さえ越えて見せた

『夢幻の宇宙戦艦 「扶桑(フソウ)』 と。


                                  
                                 155.夢幻の 宇宙戦艦・・・『扶桑』 (フソウ) ー (20)→ この項 了

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by YAMATOSS992 | 2014-08-27 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(22)
Commented by 宇宙零戦 at 2014-08-28 16:19 x
フソウシリーズ、感動の結末でした!ところで、次の作品のコンセプトは決まっているのでしょうか?
Commented by YAMATOSS992 at 2014-08-28 17:09
 ダメ戦艦「扶桑」をヒーローに持ち上げるには苦労しました。
次作は2199ヤマトの重要なテーマである「心の在り様」について語ってみたいと思っています。
ただ、それが「考察」になるのか、「物語」を綴るのか、それはまだ未定です。 しばらく考察させて下さい。
Commented by モー太郎 at 2014-08-28 21:53 x
夢幻の 宇宙戦艦・・・『扶桑』シリーズ完結ありがとうございます。
楽しまさせて頂きました。

多少、地球サイド贔屓気味(笑)ではありましたが、火器技術の継承という部分では納得の展開でした。
ドイツ姉妹、フローラーを助けたのは、
YAMATOSS992さんが男性だからなのか(笑)、
次作への伏線なのかなと思いました。

次作楽しみにお待ちしております。
Commented by YAMATOSS992 at 2014-08-29 07:19
モー太郎さんいらっしゃい。
「フソウ」の物語、「コンゴウ」「ハルナ」「キリシマ」以外の金剛型は全て外惑星戦で失われたとの設定と
他の金剛型が全て「山名」なのに「フソウ」だけ「旧国名」である理由を設定する為に創作した様なものです。
ライニック姉妹はこの後ヤマトが居ない太陽系の防衛に土方提督の元で力を尽くします。
(30.冥王星防衛戦線、31.ガミラス艦隊迎撃戦、参照)
だから、ここで死なす訳には行かなかったのです。
Commented by モー太郎 at 2014-08-30 12:01 x
なるほど!!時系列で、生き残っていないと困りますね。

それにしてもテロンこと、地球人類の好戦性は際だった今回のエピソードになりますね。
戦艦級ですら、戦闘機的運用を厭わず、戦うという執念。
まあ21世紀になっても、狭い地球上で、そこらじゅうで殺し合っていますから。
いやはや、救いがたいですね。
Commented by YAMATOSS992 at 2014-08-30 13:11
その救い難い人類を救わなければならない使命を帯びて発進したヤマト、その旅路で色々の経験をする事で
自分達を滅ぼそうとしているガミラスさえ許し、救った後、共存の道を探ろうとする2199ヤマトは色々と不満は
ありますがSFアニメの金字塔の一つには違いありません。
Commented by モー太郎 at 2014-08-30 21:52 x
そういえば ヤマトに同型艦が無いことが 以前から不満でした。
急造戦艦ながら、結果的に、もっとも成功した戦闘空母であるヤマト。
アンドロメダなど登場しましたが、戦艦に特化し、意味不明の拡散波動砲2門積み。
まあアニメですから、しょうがないですが、
是非YAMATOSS992さんのワールドで、その不満に対する回答のようなエピソードも期待しています。
同型艦への言及に、勝手に期待が膨らんでおります(笑)
Commented by YAMATOSS992 at 2014-08-31 08:23
 ヤマトに同型艦が無い理由は本編記事No.21.脱出戦艦「むさし」の最後 、同型艦があった場合の設計、
SBA-140,141がどの様なものであったのか、記事No.19、20、で一応、私案は示しています。
また、ヤマトが海上船舶型の設計に成らざるを得なかった理由もそれらの記事で示しておりますので参考にして下さい。
アンドロメダと主力戦艦の存在に対する回答はその内物語で発表するつもりなのでお楽しみに!
Commented by YAMATOSS992 at 2014-08-31 08:39
(追記)日本海軍は同型艦で戦隊を組んで戦う事に拘りました。
だからその末裔である日本宇宙海軍もその考えに基づき「ヤマト」の同型艦を計画していたのは疑いの
ない事です。                
(コンゴウ級8隻ムラサメ級9隻以上、イソカゼ級12隻以上、)
ただ、『波動コア』が入手出来たのが1個だったのでどの道単艦での出発は避けられなかった事でしょう。
Commented by the-blue-memory at 2014-09-13 11:01
旧日本海軍の「天才」と呼べる活躍をした将校は他に誰がいますか?
Commented by YAMATOSS992 at 2014-09-13 14:42
 異論はあると思いますが、私は明治以降の陸海軍、政治家に殆ど見るべき人は居なかったと思っています。
よく山本五十六が英雄視されますが、負けると判っている戦いを始めた提督が名提督とは思えません。
(敗戦による国の構造改革まで考えていたのなら別ですが)
秋山真之は第一次大戦の視察から帰ると今後の主力は航空機と潜水艦であると主張しましたが当時大鑑巨砲主義に凝り固まった海軍には受け入れられませんでした。
Commented by 古世人 at 2014-09-14 10:18 x
まだ次の考察、かかりますか?
Commented by YAMATOSS992 at 2014-09-14 11:43
一歩間違うとヤマト世界を壊しかねないものである事に気付きましたので今、慎重にドラマ仕立てで物語を
煮詰めている所です。
Commented by 古世人 at 2014-09-20 15:11 x
最新情報によると、「星巡る方舟」で早速「火炎直撃砲」が登場するそうです。その火炎直撃砲に使われている物質は何だと思いますか?
※私は反陽子か反水素か・・・、という具合で上手くまとまっておりません(苦笑)
Commented by YAMATOSS992 at 2014-09-21 07:19
「火炎直撃砲」にしろ、拙作の「転移砲」にしろその要は使用方法にあり、「転移させる破壊力」の種類は
なんでも良いのです。
ただ、私は「超遠距離」から「壊したい目標」だけを選んで「攻撃」出来る事がこの種の兵器の利点と考え
「転移砲」を考えました。
Commented by 宇宙零戦 at 2014-09-22 19:38 x
そういえば、ケルピテラ級軽巡洋艦も雷撃戦主体でしたよね?ルミナスさんの乗艦としては、クリピテラ級よりふさわしいのではないでしょうか?
Commented by YAMATOSS992 at 2014-09-22 20:19
 ケルカピア級は軽巡洋艦ですから宙雷戦隊の旗艦に相応しいのですが、実は本編を読んで頂ければ判るのですが、ライニック姉妹との土星宙域通商破壊戦で損耗してしまい、ルミナスはクリピテラ級を座上艦とせざるを得なかったとご理解下さい。
Commented by 宇宙零戦 at 2014-10-01 16:54 x
次の挿話、まだかかりますか?
Commented by YAMATOSS992 at 2014-10-01 21:18
今、生活がゴタ付いており、執筆に集中出来ない状況にあります。
拙作をお楽しみにしていて下さる方々には申し訳けありませんが今少しのご猶予を賜りたいと存じます。
Commented by 古世人 at 2014-10-04 14:02 x
何故メ一号作戦でショックカノンが使用されなかったか、私なりに後設定を考えてみました。
その後設定とは、機関部からのバイパス(?)への負荷の大きさ故に、「(いつ来るか分からない)アマテラス(サーシャ・イスカンダル)の囮」の任務に支障が出るのを沖田さんは恐れた、というものですが、どうですか?
追伸
先生に執筆に集中してもらいたいので、新作開始まではコメントは致しません。
Commented by 古世人 at 2014-10-04 18:00 x
補足します。
>バイパスへの負荷の大きさ故に・・・
これは、あくまで連射した場合のリスクです。
Commented by YAMATOSS992 at 2014-10-04 19:43
沖田がメ号作戦で一番留意したのはアマテラスの太陽系侵入空間からガミラス艦隊を出来るだけ長時間
遠ざけておく事だったと思います。

アマテラスからの一方的な超光速通信によって大体の到着時間は知らされていても正確な時間が判らない内での作戦でしたから出来るだけ長時間ガミラス艦隊を引き付けておくには短時間で決着のつくショック・カノンの様な決戦兵器は使えなかったのではないでしょうか?
そして地球艦隊がもしもショック・カノンを使って勝利し、敵艦隊を敗走させたとします。
敗走して行くガミラス艦隊がアマテラスを発見してしまったら作戦目的は失敗です。
アマテラスは非武装、クリピテラ級駆逐艦でも撃沈するのは簡単です。
(ガミラスがイスカンダルを崇拝していたのが判ったのはずっと後です。ディッツ提督との会談時)
そういえばカ2号作戦が地球側が勝利した唯一の戦いだったと言われますが、このメ号作戦も戦術的には大敗しましたが、作戦目的は果たせたので戦略的には立派な勝利だと私は考えます。