167.イルダ・走る!-(12)
告げた。
<”総体”の意識が宿ったガミラス人同士が結婚し、子を成した場合、その子の遺伝子にジレル人の遺伝子の一部が
入る事が解った。 もちろん、心理操作する能力の部分とジレルの記憶の部分だけだが・・・。>”総体”の言葉にイルダは
両肩を腕を交叉させて震えた。
<私の中にも”総体”が居る・・・。>それはまだうら若い乙女にとっては気味悪い事この上ない事だった。
<いや、君と私は独立した存在だ、だからこうしてお互い精神感応で話しているんじゃないか。>
<だが君の身体の細胞の内の遺伝子には”ジレルの総体”を形作る部分があるのは確かだ。>”総体”はイルダを
慰めようとしているのか、絶望させようとしているのか、良く解らない話をした。
<ウイルス、他の生物の細胞に取り付き、自分の遺伝子を注入して自分を量産させ、最後にはその細胞を喰い尽す
ウイルスだ! お前達は!>イルダの怒りは収まらなかった。
<心外だな、ウイルスは”宿主”を殺してしまう寄生物だ。 しかし私はガミラス人の心の片隅を借りて存在を守っている
だけで”宿主”に害は与えて居ない。>”総体”は自分の正当性を訴える事でイルダの心を”総体”内に取り込もうと
考えていた。
<確かにガミラス帝星に害は与えてはいないが恩恵も与えては暮れてはいないな! これでは本当の”共生”とは
言えない。>イルダはバッキリと”総体”がガミラス帝星に”寄生”する存在だと告げた。
”イルダ”と”ジレルの総体”、二つの巨大な”力”が対峙し、一発触発の状態になった。
クスクスと微笑む声をイルダは感じた。 ”ジレルの総体”も第三者が近くに居るのを感じた様だ。
<誰だ! そこに居るのは!>二人は揃って尋ねた。
<あらぁ、気が付いちゃった~っ 二人とも何て禍々しい気配を放っているの。 コワイ、コワイ。でも・・・。>
<部外者の私ですら気が付く程の強大な”力”を持っているのにそれを民の為に使おうとは思わないの?>声の主は
二人を強く糾弾した。
<だから、誰だと聞いている! ”ジレルの聖域”にこんなにもたやすく入って来た貴様は一体何者だ!>イルダより
”総体”の方が動揺していた。
<まぁ、精神文明に偏った貴方には私が誰だか何時までも判らないでしょうね。 でもイルダ、イルダ・ディッツ、
あなたの方は私が誰だか気が付いたんじゃなくて?>その”声”は決して大きくは無かったが女王の様な威厳を持って
辺りを圧した。
<貴方は・・・ユリーシャ・イスカンダル・・・違いますか?>イルダは恐る々尋ねた。
イルダはガミラス高官の娘としてイスカンダル王室に対する忠誠は骨の髄まで叩き込まれていた。
<スゴイ!スゴイ!やっぱ判っちゃた! ウ~ン、若い子は頭が柔軟ね。>声の主はやはりユリーシャ・イスカンダル
だった。
<私はお前がどうやってこの”聖域”に入ったと聞いている!>”総体”は彼には理解不能の状況に戸惑っていた。
<貴方はもう一つの入り口があるのを忘れている様ね、自分も利用している癖に・・・。>彼女はおかしな事を告げた。
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三人(?)は近くの工事現場に心を飛ばした。
そしてそこで働くガミロイドの心(?)に侵入した。
<ほら、彼らの内にチラチラした小さな炎の様な輝きが見えるでしょ。>ユリーシャが一つの事実を指摘した。
<馬鹿な、あれが”ガミロイド”の”心”だって言うんですか? ガミロイドは機械ですよ。 それもジレル人に心理操作され
ない様、主なコマンドは遠隔操作で行う様に設計されています。>イルダは反論した。
<確かにガミロイドは対ジレル人用の兵器として開発されたわ、でもジレル人の掃討が終わった今でも量産は続いて
いる・・・これはどういう事かしら?>ユリーシャが切り返した。
<それは・・・ガミロイドは人型を模したものなので人の使う装置や武器がそのまま使えるます。
だから、ガミラスの領土拡大に伴う人的資源の不足に対応するのに最適だったのです。>イルダの答えにユリーシャは
拍手した。
<良く理解しているわね。 でもその答えでは七十点しか挙げられない。>ユリーシャはイルダの答えに不足している
部分を付け加えた。
ガミロイドは標準的なAIを備えたオートマタ(自動人形)であり、単純なプログラムを膨大な多重処理によって人間と
同じ様な複雑な行動を可能にしている。
初期のガミロイドは対ジレル人用の兵器だったので心理操作されない兵士として主なコマンドを遠隔操作で行って
いたが、ジレル人掃討作戦が時と共に下火になっていった時、ガミラス人達はガミロイドの”汎用性”に着目し、
戦闘以外の下級兵士が行う任務位はこなせる様、ガミロイドにどんどん新しいプログラムを付け加えて行き、結果として
操作盤からの指令は優先されるものの、操作盤からの指令が来ない時は完全自立型のAIを備えた、プログラムの
膨大な積重ねによって動くオートマタ(完全・自動人形)となった。
<過剰な多文書多重処理によってガミロイドに”心”が芽生えたとおっしゃるのですか! 殿下>イルダにとって
ユリーシャの言葉は衝撃的だった。
<事実だ、もっとも私には理屈は判らないが彼女が言った通り”ガミロイド”には”心”がある。>”総体”が新たな証拠を
提示した。
<イルダよ、我々がディッツ提督救出の為、戦艦を一隻態々新造し、運航するにも下級兵士はガミロイドで代用したのを
覚えているな?>”総体”はかつてはぐらかしたイルダの質問に正面から答えた。
<私なら彼らガミロイドを心理操作出来たからさ。 そうでなければあの作戦に必要な人数は集まらなかった。>
動かぬ証拠を突き付けられたイルダはプライドを大きく傷つけられた。
<彼等の処理系に我々と同種の”意識”は芽生えない、貴女はそう信じたい様ね。 でも事実は違う、当時、私は事故で意識を失ってしまい、姉様からの使命であったテロンの船をイスカンダルに導く事が出来なくなっていた、だから
テロン人は仕方なく、テロン艦、ヤマッテの自動航法装置なる機械に私の脳を繋ぎ、イスカンダルへの航路を私が眠って
居ても導き出せる様にしたの。>彼女は重大な秘密を明かした。
<そんな、非道な、テロン人はやぱり野蛮人だったのですね。>イルダは怒りに燃えた。
<彼等も必死で生存の為の努力をしただけよ。 あなた達、ガミラスの非道から故卿を守る為にね。>
<でも先に発砲して来たのがテロンの方です! それも宣戦布告も無しに!>ユリーシャはイルダの子供の様な主張
には答えず話しを続けた。
<私の意識は確かに身体を動かせる状態では無かったけれど自動航法装置を介してヤマッテの艦内Netに侵入する事は簡単に出来たわ。
そしてヤマッテの隅々まで探索出来た。
しかし有る時テロンのテクノロジーとは全く異なった存在に出会った。
今思えばあれはヤマッテが捕獲修理したガミロイドだったのね。
168.イルダ・走る!-(13)→この項続く