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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

169.イルダ・走る!-(14) (最終話)

惑星イスカンダルの王都、イスク・サン・アリアの中央に聳え立つクリスタル・パレスの女王居室でスターシャ・
イスカンダルは旧式な通信機を使って何処かと連絡を取っていた。
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しかし、目の前のスクリーンは黒く、”SOUND・ONLY”(を意味する文言)が表示されてた。

妹の顔を見て話したかったスターシャは”黒い画面”に文句を言った。

「可愛いいユリーシャ、顔を見せて頂戴、これで”はデスラー総統”と話しているみたいで気分が悪いわ。」彼女は気軽に問いかけた。

デスラーも何故かホット・ラインでは音声通信のみを多用していた。

しかし、返って来た答えはやけに堅苦しい物だった。

「イスカンダル女王、スターシャ・イスカンダル猊下に措かれましては御機嫌麗しゅう事、 
このガミラス皇室、女皇・ユリーシャ・ガミロニア、心よりお喜び申し上げます。」

「通信の件に付きましては今ガミラスは復興作業に技術者達が皆、邁進しており、この”ホット・ライン”の改善に力を
割く事が出来ない状態にあります。 どうか、御理解下さい。」ユリーシャの声は事務的だったが彼女の姉を思う気持ちに
嘘は無かった。

「やはりそちらは大変なのですね。 しかし、貴女は大きな力を手に入れたようですね。 その力、平和と安定に使うなら
この上ない威力を発揮します。 でもそれを領土の拡張や侵略・略奪に使う様なら貴女自身だけでなく臣民全部を
巻き込む災厄に発展しますよ。」さすが、イスカンダルの女王、スターシャ・イスカンダルだった。

「やっぱりダメ、ヒスには悪いけれど、こんな堅苦しいしゃべり方、私には出来ないわ。
姉さんも気が付いていたのね?」ユリーシャは鎌を掛けた。

「気が付きました。 サンザー系内の精神空間がこれほどザワついたのは私が生まれて以来初めてだったからです。

で、どうします? 大きな”力”を持つ精神個体が二つも覚醒してしまった。 これを放置して置くとガミラスの支配圏は

二つに別れて争いが起こり兼ねませんよ。」彼女はユリーシャを試す様に言った。

「”二つ”じゃありません。 覚醒した”精神体”は”三つ”です。でも、これで”天下三分の計”が行えます。」

「”覚醒した精神体は三つ”? ”天下三分の計?”ユリーシャの言葉に眉を顰めた。

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”天下三分の計”とは西暦二百年前後に地球の中国で唱えられた戦乱を収める為の一方策である。
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大きな勢力が中国全土の派遣を争っていたが故に戦乱が長く続いていた訳だか、それを三つの国(魏、呉、蜀)で天下を分割して治める事により力の均衡を保って天下に平和をもたらす事を”蜀”の軍師・諸葛孔明は画策した。

即ち、一国が天下統一を目指すと他の二国がそれを抑えると言う考え方である。

現実には国力の差などの問題があって実現は出来なかったが、その思想は「三竦み理論」として今でも色々な場面で
適用されている。

「成程、”ジレルの総体”、”イルダ・ディッツ”は判るけど、もう一つは何?」女王は興味を魅かれた様だった。

「はい、それは”私”です。 ガミロイドはNetワークで繋がっています、しかし、その精神は芽生えに過ぎず、
”ジレルの総体”や”イルダ・ディッツ”の侵入を簡単に許してしまいます。

でも私はガミロイドNetワークに物理的に侵入出来ますので、もし、そのような”干渉”があった場合、
直ぐに対処出来ます。」スターシャ・イスカンダルは妹がヤマトとの旅で如何に成長したか、それを実感した。

「その”力”を使って今度の旧デスラー支配圏を巡る”行幸”を行うのですね。」スターシャは妹がかつての
ミーゼラ・セレステラ専用艦を「皇室ヨット」に改装させている事も知っていた。

「いいえ、今回は”精神文明”に頼った戦いは一切しません。

物質文明による攻撃は同じ物質文明で排除しなければ相手は決して納得しないからです。

精神文明の”力”は未知の”力”、不用意に使えば、悪戯に”未知なる恐怖”を広げるだけです。

 
エーリク大公・時代の様に・・・。」彼女は妹が再び砲火の前に立とうとしているのを知ってスターシャは愕然とした。

「大丈夫よ、姉さん。 ”ジレルの総体”はガミラス人の心の片隅で静かに眠る事を欲しているし、”イルダ・”は
”星一つ滅ぼす力”を持ちながら普通のガミラス人で居たいと望んでいます。 両者とも、もはや敵対関係では無いわ。」
ユリーシャがスターシャを慰めた。

「私? 私の心理操作能力はまだ弱い、ですが、私を狙う”精神生命体”は”イルダ”が排除してくれます。
物理的な力に対しては、どう対処するのか? それは、あの「ヤマト」が教えてくれました。」

ユリーシャは沖田を初めとするヤマトの乗組員の顔を懐かしく思い出していた。
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「そうね、あの『使命の信託』を持つ船、「ヤマト」に範を取るなら大抵の危機は避けられるでしょう。」

あの総統デスラーがヤマトの波動砲と同じ原理のゲシュ=ダールバムを持って自星系の兄弟星エピドラを消し去り、
また、ヤマトを葬る為には手段を選ばず、最初は巨大質量を落としバレラス毎ヤマトを葬ろうとし、更にその大質量を
ヤマトが波動砲で迎撃すると今度は修理の為ったゲシュ=ダールバムで再びヤマトを狙った事を思い出していた。

結局、原因不明の事故でデスラーのゲシュ=ダールバムは暴走し、軌道衛星都市第二バレラス毎、吹き飛んでしまい、目的は果たせなかったが、同じ”兵器”を持ちながらその使い方はデスラーは”破壊”、ヤマトは”救済”、と、全く真逆の
使い方をしていた。

スターシャはかつて沖田が告げた言葉「兵器その物に善悪はない、その”力”を生かすも殺すも人の”心”しだいです。」
と言った事を思い出していた。(『使命の神託ー(17)』)

<『使命の神託』、あのデスラーもかつては確かに持っていた。 だから私は彼の帝星膨張政策にも反対しなかった・・・、
でもどこかでボタンの掛け違いが起こったのね・・・。>スターシャはデスラーの自分に向けられた一途だけれど
”一方的な愛”が、これまでの惨禍の遠因だと思うと居ても立っても居られなかった。

**************************************************

「女皇、ユリーシャさま。 出立の用意が整いました。」ユリーシャの個室に女衛士が迎えに来た。

「分かったわ、エミル、ちょっと待って頂戴。」それに応えるとユリーシャは頭に付けたヘッド・セットを通して
ガミロイド・Netワークに潜って行っていた会談を続けた。

<失礼しました。 会談を続けましょう・・・。>

<では女皇がお出掛けの間、人々の人心収攬は我々”ジレル”に任せて頂くと言う事で宜しいのですな。>この前、
ユリーシャの感情の爆発による”精神的な津波”で”ジレルの聖域”から流されそうになった”ジレルの総体”は
ユリーシャの力を思い知っていた。

<その”監視”と他の精神体の侵入の監視が私の役目ですね。>イルダ・ディッツもユリーシャの”力”の凄さには
一目置いていた。

「姉には”天下三分の計”は力の”均衡”だと説明したけど私はあなた達を信頼しているわ。

これは寧ろ、”分業”と考えて、頂戴。」彼女は二人(?)の役割をはっきりと告げた。

 <ザー・ベルク!  ガーレ・ガミロニア(高貴なる女皇)お気を付けて!>二人(?)の懐刀に見送られて
女皇ユリーシャ・ガミロニアはガミラスの支配圏内を巡る”行幸”に出かけて行った。
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イルダ・ディッツはユリーシャに宛がわれた住居の中で寛いでいた。

<しかし、あの姫様がガミラスの指導者、”女皇、ユリーシャ・ガミロニア”になるとは思っても見なかったわ。 しかも、
ほとんど非武装の単艦でガミラス帝星領内を巡回して回るとは大した度胸ね。>

イルダは過去に幼い彼女を遠目に見た事があるだけだったが、それでも現在の彼女の成長振りは驚くべき物があった。

”ヤマッテ”での旅、イルダは、それがユリーシャを単なる”お姫様”から”女皇”に変えたのに気が付き、短い間だったとは
言え、”ヤマッテ”に乗り込めた姉、メルダを羨ましく思った。

<それに引き換えこっちは”魔女の館”かよ!>ユリーシャからイルダに与えられた新居はあのミーゼラ・セレステラ
宣伝・情報相がかつて住んでいた家だった。

こじんまりとして飾り気も無い屋敷だったが、きちんと清掃されており、物理的な面での不快感は無かった。
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ただ、ここがガミラス帝星全土に”ジレルの魔女”としてその名を轟かせていた「最後のジレル人」ミーゼラ・セレステラの
住居だったと言う事は彼女に実質的心理操作能力が無かったのを知っていてもイルダにとってあまり気持ちの良いもの
では無かった。

<そう、ぼやき為さんな、ユリーシャ様など、元・セレステラ専用艦を改装して”行幸”にお出掛けになったんだよ。>
”ジレルの総体”が精神感応で話しかけて来た。

<使えるものは何でも使う・・・か! これはユリーシャ様らしいや!>イルダは自分の”怯え”が根拠の無い馬鹿々しい物
であるのに気が付き高笑いした。

<それより、何だ? お前が私に接触して来るとは何かあったか?>イルダは軽い気持ちで聞いた。

<頼みがある、イルダ・ディッツ、私をやはり”ギルティ”と呼んで欲しい。そして何時までも私の傍らに居て欲しい!>
”総体”の申し出は余りにも以外なものだった。

<はぁ! それは告白か? お前は”ジレルの総体”は男なのか?>あまりの申し出にイルダは笑い飛ばした。

確かにジレル人も雌雄一対の種族だった、しかし、種族全員の心が一つに溶け合ってしまった今では総体の性別など
意味の無い物になっていた。

まして、”総体”としての”肉体”などあろうはずが無かった。

だが、単独・覚醒したイルダと行動を共にし、その能力開発を行っている内に今まで余り感じて居なかった”再び孤独”に
なる恐怖を”総体”は感じる様になっていた。

イルダの”心”は本来、能力開発が進むにつれ、”総体”に取り込まれるはずだった。

現に何人もの”覚醒者”が確実に”総体”に吸収・同化していた。

しかし、イルダの場合は”総体”と融合する気配は微塵も無かった。

その理由を考えた”総体”は自分が、お互い”同等の存在”として付き合える相手を欲している事に気が付いたのだ。

しかし、ユリーシャ・ガミロニアは怪し過ぎてて手に負えそうも無かった。

やはり、体内細胞にジレル人のDNAの一部を宿したガミラス人、イルダ・ディッツの方が”相方”?には相応しかった。

<私は”恋”をするつもりだし、結婚もしたい、子供だって生むつもりだ、勿論、女皇の懐刀としての任務は優先する、
しかし、私には”寿命”がある、お前の様に何千年もの間、生きる訳では無いんだぞ!>イルダは冷たく言い放った。

<その点は大丈夫、私は”精神”の領域にしか興味は無い、お前の”肉体”が何をしても関係無い、その点について
完全にお前は自由だ。 それにお前の肉体が滅びてもその”心”と”記憶”はジレル・Netワークの内に残るから
ガミラス圏が続く限り、お前も私も不滅だ。>”総体”はイルダの不滅性を保証した。

<ちょっと待て! ジレル人の”記憶と心”を宿したガミラス人が肉体的に死んだ場合、”記憶”はNetワーク内に
保存されるが”心”の方は新しい者が入って来ると古い者が捨てられ、新陳代謝すると説明されたぞ!私の”心”も幾許も
無く消滅するのではないのか?>イルダは前に聞いた説明と異なる内容を聞いて訝しんだ。

<私とお前が両者共に強く”融合”したい!と強く願わない限り、我々が一つになる事はない、>彼は確約した。

<私達の気持ちしだい・・・ねぇ・・・。>イルダは複雑な気分だった。

確かに初めから精神体が一体ならば”孤独”を知る事は無いだろう、しかし、同じような”精神体”と何度も”接触”すると、今度はそれと離れた時、今まで自分が如何に”孤独”であったかを思い知る事となる。

異種族との交際なんてまっぴらだわ、虫唾が走るわ!イルダの心ははっきりしていた。

<確かに、落ち着いて考えてみれば私も”お前”と位近い精神的な接触をした事は無いわ、姉や父とも長い時間を
掛けたから判り合えるけど、確かに普通の人とではチョット付き合った程度じゃここまで判りあえないわね。>イルダは
本心を偽って彼に話した。

<では、私の傍らに居てくれるのか! 永遠に!>彼は驚喜した。

<今の状態が続くと言う事はあなたの望みが叶うと言う事だわ。>イルダは冷静に分析した。

<でも、普通のガミラス人は”心”が肉体に”閉じ込められて”いるからこそ、相手の心を知ろうとして”努力”する。 
”恋”に酔い、”恋慕”の情があればこそ”猜疑心”に苦しんだりもする。 相手の”心”が読めないからこそ、”判り合おう”と
する事も”恋”の”楽しみ”の一つなのよ。>イルダはフォムト・バーガー少佐との短かった”恋”を思い出していた。

<人は”判りあえない”から”判りあおうとする”、”一つの精神に纏まって、”個人”と言う存在がなくなれば、今度は
”判りあえない”存在を求める、”知性”とはなんと身勝手で贅沢な”存在”なのだろう。>とイルダは思った。

<そうは思わない”ギルティ”?>イルダは悪戯っぽく問いかけた。

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by YAMATOSS992 | 2014-12-18 21:00 | ヤマト2199 挿話

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