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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

185. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(3)

 サーベラーは謎の通信の回線が開くのを待ったが通信回線が混雑しているのか、問題の回線は仲々繋がらなかった。

<”旧知”の間柄・・・か。 私の”過去”に”良い思い出”なぞ無い・・・。>サーベラーは今の地位、ガトランティス帝国の
丞相に登り詰めるまでに行った権力闘争の数々を思った。
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<まてよ? 権力闘争の相手は全て確実に葬ったはず・・・。 今更、生き返って来るはずも無い・・・。

ではその前、私が”苦界”に身を沈めていた”小娘時代”の知り合いか?>サーベラーは一番思い出したく無い少女
・時代の事を思い出してしまった。

 ガトランティス帝国は元々”男社会”ではあったが大帝が帝国を築くと軍が拡張され、従軍する兵士は戦闘に耐える者と
して男が求められ、女は元々あった職業からも追われ、軍人達を楽しませる”サービス業”、”苦界”に生きる糧を求める
しか無かった。

今でこそガトランティス帝国の丞相として数多の将軍(当然、全て男性)を従え思うがままの権力を欲しいままにしているサーベラーだが、その過去には卑しい兵士に身体を委ねなければ生きていけない時期があったのだ。

<あの時代を知る者は誰であろうと生かしては措けぬ!>サーベラーの瞳には業火の様な憎しみが宿っていた。

「回線、確保出来ました。 何時でも通信を開始し出来ます。」部下が回線・接続を報告した。

机上の小さな3D・ビュアラーがサーベラーの知らない少女の姿を映した。

「シファル・姉さま、お見かけする所、お元気で何よりですわ。」 しかし、その見知らぬ少女はサーベラーのファースト
・ネームで親しげに話しかけて来た。

「貴様は誰だ! 私にはお前の様な知り合いは居ない! 何の目的で私に近づく!」サーベラーは相手の落ち着きに
返って苛立ちを募らせた。

「あらあら、あれからまだ8(パクート)年しか経っていないのにもう私の事、忘れてしまわれたのですか? 

レティファンは悲しいです。」”テレサ・テレザート”は親が付けた俗名(レティファン)の方を名乗った。

「レティファン? レティファン・クエシャザード”姫”か! この親不幸者め! 一体、今まで何処を放浪していたのだ!
この”婚儀”の重要性が判らんとは言わせんぞ! セジャード族にとってもガトランティス帝国の部族、No2になれるか
どうかの瀬戸際なのだからな!」サーベラーは吠えた。

「No2って事は頭に絶対的頂点の大帝をいだき、その下にサーベラー、貴女、やっとその次って事でしょ。何の面白味も
無い地位だわ。」”テレサ”はズバリとこの”婚儀”の問題点を炙り出してみせた。

確かにサーベラーの言う通り、No.2に成れるかもしれない、しかし絶対権力を振るう暴君がいる以上、No.2でも
No.100でも頭を押さえつけられる事に変わりは無かった。

いや、却って権力闘争が激しい頂点付近の地位は”安らぎ”を捨てなければ守り切れないものだ。

<そんな”地位”、頼まれたって着いてやるものか!>”テレサ”は内心そう思ったが、ここはまず、友好的に話を進める
べく、二人の8(パクート)年前の思い出を語りだした。 

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”姫”の語る過去を聞く内にサーベラーは少しづつ封印した己の”過去”を思い出していた。

そう、彼女が思い出したくない”苦界”にその身を沈める以前の記憶以前の記憶を。

彼女はシャザード族の王宮付きの”姫”君専用の教育係、兼・身の回りの世話をする役目を与えられていた。

もう長女の”姫”は成人していたので彼女が面倒を見るのは専ら第二王女の”レティファン姫”だった。

サーベラーも”姫”より年長であるとは言え、”少女”である事に代わりは無かった。

当然、”姫”に対する”教育内容”など知る訳も無く書庫で過去の文献を漁ったり、ボ・ルドウに”姫に対する特別講義”を
頼んだりと己の足りなさを補う事に必死な日々であった。

「陛下、宜しいのですか? あの者は”王道”が何かも知りません。 ”姫”の教育係としては余りに未熟かと
思いますが・・・。」王宮の高官の中にはサーベラーの事を余り快く思わない者も多かった。

「よい! これで良いのじゃ、”姫”は”帝王学”を着実に学んでおる!」 ”姫”の父・王 グエゼ・クエシャザードは
そんな讒言などには取り合わなかった。

だが、サーベラーを獅子身中の虫と考える一部、部族・幹部は彼女の排除の機会を窺がっていた。

そしてその機会は意外と早くに訪れた。

直属・配下の五部族の内、三部族が結託して王家に反旗を翻したのだ。

この混乱はシャザード族を中央から追い落とすに十分な力があった。
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混乱が収まった時、中央政権を握っていたのは最早シャザード族では無く、新興勢力の”大帝”であった。

そしてサーベラーは王家の人々が落ち延びる時に混乱の内、逸れてしまい、一人で生きて行く必要上、安酒場の扉を叩かざるを得なかったのだ。

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「苦労されたのですね。 シファル・姉さま・・・。可哀想。」テレサは心から同情した。

「儂には確かな”今”がある! 安い同情はいらん!」サーベラーは通信用の小型モニターを掴むと床に叩き付け様と
した。

「待って、まだ話さなければならない事があるわ、通信機を壊さないで!シファル・サーベラー!」テレサはサーベラーの
激昂に水を掛けた。

「フム、確かにいささか情に走りすぎたな。 ところでレティファン・クエシャザード姫、お前は今何処にいる、”大帝”への
輿入れよもやいぞんがあると言うのではあるまいな!」サーベラーは小型ビュアラーの画面を顔に引き寄せて凄んだ。

「シファル姉さま、私は改名しました。 最早、レティファン・クエシャザードではありません。 当然、シャザード族の籍も
離れております。」テレサはズバリと本題に切り込んだ。

「ほう、何を世迷言を・・・。 幾ら名前を変えた所で”お前”は”お前”だ他の何者出も無いさ。」サーベラーは”姫君”の
気紛れには付き合い切れんと言った態度を示した。

「私がシャザード族の籍を離れた以上、この婚儀、政治上の意味は無くなったと私は判断しますが、そちらにもそちらの
体面がおありでしょう、一度、”大帝”御方に御目見えする位の譲歩はするつもりです。」テレサは”大帝”の正体に迫る
計略を見透かされない様、注意して発言した。

「ほう、嫁ぎ先の夫の姿を見たいとな。何様のつもりじゃ!この小娘が!」サーベラーは一喝したが、
最早、”使命の神託”を得ていたテレサは決して怯まなかった。

「良人となるかもしれぬ殿方の事を少しでも知りたいのが”女心”と言う物です。せめて御顔位拝見させて頂きたい物
ですわ。シファル姉さま。」

二人の間には女の意地が見えない業火となって渦巻いていた。

「良い! サーベラー、レティファン・クエシャザード姫に合おう、段取りを付けよ!」何処からかこの通信を傍受していたの
であろう、”大帝”の命令が上方から降って来た。

「”大帝”、こんな小娘の申す事、聞くに値しません!」サーベラーはあくまで謁見に反対だった。
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「レティファン・クエシャザード”姫”、謁見を楽しみにしておるぞ、いや御身の”真の名”は”テレサ・テレザート”だったな。
ウワッハハハハ。」豪快な高笑いを後に残して”大帝”の気配は消えた。

「”テレサ(愛満る者)、テレザート(統治者)・・・テレサ・テレザート(愛もて統べる者)だと? ふざけおって!」
サーベラーは卓上小型ビュアーの画面を睨み付けたが最早通信は切れていた。


                                         186. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(4) → この項・続く

by YAMATOSS992 | 2015-04-11 21:00 | ヤマト2199 挿話

by YAMATOSS992