199. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(17) (最終話)
<この宙域が私の幽閉地なの・・・?>テレサは窓の外を見た。
しかし、彼女の思いに反して窓の外には緑色の美しい惑星があった。
テレザリアム(テレサの幽閉カプセル)を宇宙空間に置けば生命維持装置を持たぬテレサはテレザリアムを離れる事は
出来ぬし、艦砲射撃でテレザリアム毎葬る事も容易いはずだ。
訝しがるテレサの元にサーベラーからの文書通信が入った。
” この惑星は気に入ってくれたものと思う。大気は有毒だが腐食性は無い。この惑星の地下深くの空洞にテレザリアムを配置する。”
テレサは何故こんな手の込んだ事を彼等はするのだろう・・・と疑問を持った。
しかし重力井戸の底である惑星内部におけば違った種類の防御網を何段にも敷く事が出来る。
それに気づいたテレサはこれは大帝の指示では無く、サーベラーの用意周到さの表れだと感じた。
そして彼女は携帯通信端末を手に取ると短い言葉を打ち込んだ。
<この惑星の名は『テレザート』とします。>
それを受け取ったガトランティス中枢部は大混乱になった。
「テレザリアムはどの様な通信も遮断して外部に漏らさぬ構造のはず、何故テレサが通信出来るのだ!」
サーベラーはテレザリアムを設計した技術陣を締め上げていた。
<いや、それよりも我々の現在位置から数万光年離れたテレサがその距離を例の "空間跳躍の技" で埋めたとすれば
その方が恐ろしい・・・。」
その狂態を冷たく眺めていた大帝は今度テレサとあいまみえる時は互いの存亡を賭けた死闘になるであろう事を
強く感じていた。
「サーベラー、重臣達と技術者の長を全て集めよ!」大帝には何か腹案がある様だった。
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漆黒の宇宙空間、その暗黒を切り裂いて一条の光が走っていた。
それは巨大な彗星だった、しかしその進行方向に恒星は無かった。
延びるものである。
だから恒星から彗星が遠ざかって行く時など進行方向側に尾が伸びる事もある。
恒星が無いのに尾を引いているこの彗星は天然の物では無く、人工のものであるからであった。
「この都市帝国は中性子ガスで覆われています、そして大帝の玉座は巨大戦艦から別の場所に移しました。
これであの "女" も陛下の居場所を特定出来ず、途方にくれる事でしょう。」サーベラーが自信たっぷりに言った。
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「間も無くアケーリアスのGATEに接近します。」サーベラーが状況を報告した。
ガミラスが管理しているのは大小マゼラン雲近傍のゲートだけなのでガトランティスは銀河系内に在るGATEを使う事は出来た。
しかし大戦艦クラスはまだしも超巨大戦艦や都市帝国は大きすぎてGATEは潜れなかった。
<大き過ぎるのも問題だな、通常艦艇ならGATEを使って目の前の星雲など既に平らげている物を・・・。>大帝は
テレサの述べた思想の方が正しいのではないかと思い始めていた。
「陛下、先遣艦がGATE近傍空間で漂流物を回収した様です。」サーベラーがつまらなそうに報告した。
「何を回収したのだ?」大帝は彼女と違って何か興味を持った様だ。
「ガミラスの物と思しき艦艇の一部です。ただし生存者は居りません。」サーベラーは唯の残骸、価値など全く認めて
居なかった。
「合い解った!」大帝はそう言うと玉座からスックと立ち上がった。
199. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(17)→ この項了