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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

209.疾風の漢(おとこ)ー(6) (最終話)

ラング司令指揮のもと軽巡洋艦ゲットランは小破し、かつ、魚雷・ミサイルも尽きた駆逐艦ZR-101を僚艦に
先程の襲撃艦の追撃態勢に入った。
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「大分遅れちまったが、奴はまだ近くに居やがるんだろうか!」バーガー中尉が親友のライル・ゲットー大尉の仇を
撃たんとうずうずしていた。

「それよりあれは囮の攻撃だったのではないでしょうか? 我々を輸送艦隊から引き離すのが目的なのでは・・・。」
ディラー少尉が作戦に疑問を差し挟んだ。

「我々が引きずり廻されている間に本隊が襲撃される事を心配しているのか?」バーガーが横目で自分の副官を見た。

「ゲットランからゲシュタム・ジャンプの座標が届きました。」通信士が報告する。

「航法士に廻せ!」間髪入れず副長が命じた。

「艦長! 指定座標はゴトランド星系Y軸方向一光日の外宙空間です。 この距離をジャンプするためにはゲットランとの
機関・同調が必要です。」航法士が問題点を告げた。

「何か問題があるのか?」バーガーが今度は首だけ捻って航法士に問いかけた。

「いえ、機関・同調が必要なジャンプなど光年単位の長距離航行しかした事が無かったものですから、つい・・・。 
すみません、機関・同調作業に入ります。」航法士は機関部との打ち合わせに入った。

<これが目的で戦闘力の無いこのポンコツを連れ出したのか・・・。>バーガーはラングの思慮の深さに嫉妬した。

ガミラスは単にサンザー星系のみならず多数の殖民星や併合惑星国家を持っている。

そしてそれらをしっかり掌握する為には強大な軍事力が必要だった。

しかし、版図が広がるにつれ被征服民もガミラス軍に組み込む必要が出て来た。

しかし、力づくで征服した他星系の人間に艦艇などの強力な武器を与える事はガミラスにとって危険と考えられ初期には
被征服民は陸戦隊など艦艇を用いない部隊に限られていたが、人員の不足は如何ともしがたくガミラス帝星の版図
拡大に大きな影を落としていた。

しかし、ある時、ゲシュタム機関の共振現象という現象が開発局で発見された。

これは二台以上のゲシュタム機関を同時運転すると単独で運転した場合よりはるかに長い跳躍距離を得る事が出来ると
言う物であった。

これは軍の人員不足に悩む軍需省に朗報として迎えられた。

単艦での跳躍距離を光時単位に抑え、二艦以上軍艦が集まれば軍事遠征に必要な跳躍距離を得られるのでは?と言う希望であった。

そうすれば、反乱分子が軍艦を乗取って逃亡しても単艦では遠くに行けず、二隻以上の追撃艦隊に簡単に追いつかれて
制圧されてしまうのだ。

だが問題もあった、二隻程度の艦隊では光日単位が精々で実用上必要な跳躍距離を得る為に常にガミラス艦隊は
多数の艦艇がひしめき合う大艦隊とならざるを得なかった。

ラングはこれを利用した。

健全なゲシュタム機関さえ装備していれば小破して弾薬も尽きている駆逐艦ZR-101でもゲットランが長距離ジャンプする
為の僚艦として充分役に立つ。

だが、火力の発揮出来ないZR-101は危険には曝せない、だからラングは一度ゴトランド星域を一望出来る宙域まで
距離をとり、敵艦を発見したら近傍まで再度、艦隊ゲシュタム・ジャンプで接近、ゲットランだけが突撃して敵艦を一撃で撃沈する決意だった。

「敵艦発見! 重巡クラスです。小惑星RS-213の陰に隠れています。」測的主任が報告した。
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「よし、本艦とZR-101は短距離ジャンプで距離10,000まで接近、その後ZR-101はその位置で待機、
本艦は敵左舷後方より接近、ビームを浴びせつつ、魚雷を全弾叩き込む!」ラングが作戦の詳細を指示した。

「最終ジャンプ終了! 本艦は攻撃位置に着きました!」航法士が突撃開始位置にゲットランが到着した事を告げた。

「突撃開始! バーガー中尉、後を頼む!」ラングの言葉はバーガーには別れの言葉に聞こえた。

「本艦も突撃に参加する!」<このまま二等如きに名を成させてたまるか!>バーガーの負けじ魂に火が付いた。

ラングにはバーガーの考えが手に取る様に判ったが、今は議論している暇は無かった。

敵・ゴトランド・ゴースの艦隊型重巡を逃がす訳には行かなかったからだ」。

今仕留めねば、ゆくゆくこの宙域を荒らす交通破壊艦として跳梁跋扈する事を許す事になってしまう。

特にゲシュタム・アタック(一撃離脱戦法)を熟知していると考えると更に厄介な存在だった。

「突入速度を更に10ゲック上げろ! 主砲はまだ撃つな、魚雷方位盤セット完了したか?」ラングの声が狭い艦橋内に
響き渡る、一等ガミラス人の戦術士官が魚雷・方位盤の意味が解らず複雑な顔をしたが艦橋にいたハイデルン中佐が
雷撃・管制装置の事だと耳打ちしてやった。

「雷撃・管制装置セット完了! 敵艦をロック・オンしています。」

「おう! 全発射管発射(オール・シュート)!」今度はラングが専門用語の違いに戸惑いながらも正しく判断し直して
攻撃を命じた。

「艦首、艦尾全ての発射管、魚雷を発射しました!」先程の戦術士官が報告する。
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「航法士、最大戦速、魚雷との距離を出来るだけ縮めろ!」この命令にはさすがのハイデルンも胃の辺りに冷たい物が
入ってくる感じを否めなかった。

<このままでは敵艦が近接防御火器で魚雷を迎撃、爆発させられたら本艦も巻き添えになってしまうぞ、この男、何を
考えているんだ!>とラングの命令に疑問を持ったハイデルンだったがラングの次の命令でその疑問は氷解した。

「発射した魚雷群の直後まで追いつきました!」探知主任が報告する。

「よし!前甲板、艦底の砲塔、射撃開始!敵艦にこちらの魚雷を迎撃する猶予を与えるな!」ラングの命令一下、
ケルカピア級軽巡に備わった三基の三連装陽電子ビーム砲塔の内、前方指向の出来る砲塔が次々と火を噴いて敵艦を
射すくめた。

敵艦はその艦体表面に無数の近接防御火器を備えていたがラングの仕掛けた立体攻撃の前にそれらは悉く本来の
役目を果たす事無く沈黙していった。

そして近接防御火器の無効化が果たされると殆ど同時にゲットランの放った魚雷群が敵艦に次々と突き刺さっていった。

湧き上がる爆炎、その中にゲットランは何も躊躇う事無く突っ込んでいった。

それを見ていた駆逐艦ZR-101の副長は悲鳴を上げそうに成ったがバーガーが肩に手を廻しながら言った。

「雷撃の極意はな、魚雷を発射したら一緒に目標に突っ込む事だ。」

「 ビビッて手前で回避しようとして敵に腹や側面を見せたら魚雷は当たってもテメェがお陀仏になっちまうぞ。」

バーガーが言った通り、第二次大戦で日・米・英の雷撃機は魚雷投下後も敵艦に突っ込み続けて敵艦に晒す前面投影面積を最少にする事で雷撃を成功させると同時に雷撃機も生き残る事に成功したが他国、特にイタリア空軍は魚雷を
投下直後反転して脱出を試みたが敵の直前で面積が極大である下面を敵の砲火に晒すと言う愚を犯し、
多数の雷撃機を失った。

また、対空砲火の届かない所で魚雷を投下する事も試みられたが、今度は魚雷の着水地点が遠く成り過ぎ魚雷の
命中率は最低になってしまった。

近接・魚雷投下と敵艦・突撃を組み合わせた日・米・英の雷撃隊のみが戦果を残せたのだ。

そんな事をラングやバーガーが知っていたはずは無かったが、彼等も魚雷発射と敵艦・突撃を組み合わせて実行、
魚雷の着弾による爆炎に彼等は何の躊躇いも無く突っ込んでいった。

爆炎に覆われ何も見えなく成ったスクリーンを見たディラー少尉は自分の人生が終わったと思った。

「文字通り、炎の洗礼だな! これでお前も一人前の宙雷屋だ。」バーガーがディラー少尉の背中をどやしつけた。

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ハイデルン中佐は事の顛末を第六機甲師団副指令、エルク・ドメル下級少将に報告した。

「信じられるか? 輸送艦隊とその護衛が付け狙う敵の交通破壊艦や宙雷戦隊を退けただけで無く、ゴトランド星系を
封鎖していた敵艦隊を突破、更に襲って来た重巡も始末しただと! そんなに都合良く事が進められるものか? 
カリス! どう考える?」ドメルにはハイデルンの報告が大量の積荷を失った第11輸送艦隊の司令、バーガー中尉と
護送艦隊司令、ラング少佐を庇っているとしか思えなかった。
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「はっ、事件全体を見るととても信じられない出来事ですが、個々の戦闘を見ると宙雷戦術的に基本的で堅実な
作戦です。同じ宙雷屋である私はこの戦果を信じます。」カリス・クライツェ大尉が応えた。

「お前もか、ゲットーなぞ興奮して事情聴取も満足に出来なかったが、やはり司令にはハイデルンの申し立て通りに
報告するしか無さそうだな。」ドメルは諦めた様に目を瞑り肩をすくめた。

「ヴァルス・ラング少佐、その働きは真っ事”疾風の如き漢(おとこ)”じゃな。」ドメルとクライツェが声のした方を振り向くと
老人が一人、立っていた。

「御師匠!」老人はドメルの上官らしかったがドメルの呼び方はとても上官に対するものとは思われ無かった。
                                      
                                       209.疾風の漢(おとこ)ー(6)この項 了                                                                

by YAMATOSS992 | 2016-06-25 21:00 | ヤマト2199 挿話

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