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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

カテゴリ:ヤマト2199 挿話( 143 )

 メルダ・ディッツは独房に造りつけのベッドに腰を下ろしていた。

パイロット・スーツは脱がされ、男もののランニング・シャツとズボンに着替えさせられていた。

そのシャツの胸にはヤマトの官給品である証の様に錨のマークが入っていた。

何んとも粗末ななさけない格好だが、メルダ自身は「ヤマト」を訪れた時の凛とした気高さを
少しも失っていなかった。

独房のベッドのメルダから少しはなれた位置に腰をおろした古代は言った。

「メルダ・ディッツ少尉、君を尋問しに来た。」 メルダは即座に応えた。「メルダ・ディッツ、階級は少尉、認識番号3817529.」

古代は苦笑いした。 「昔、観た映画にもこんな場面があったっけな・・・。 あれ、そういえば君の星にも映画は
あるの?」
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<何を言ってるんだ、この男は?>メルダは古代の問いには答えなかったが、心の底では古代に対して
妙な親近感を抱き始めていた。

 古代はメルダの尋問を始めた。

「君の母星、ガミラス星の位置を教えて欲しい。 我々は無用な戦闘を望んでいない、だから、ガミラス星を
避けるために知りたいんだ。」

「私の名前はメルダ・ディッツ、階級は少尉、認識番号3817529.」メルダは同じ言葉を繰り返した。

古代は急に話題を変えた。

「君の母艦、『EX-178』の艦長は立派な軍人、いや『漢』だった・・・。」古代は遠い目をした。

「私の名前はメルダ・ディッツ、階級は少尉、認識番号3817529.」メルダは再び同じ言葉を繰り返した。

「いや、これは尋問じゃない。 ぼくの想いだ。 彼も憎い敵の一人だった・・・。

でも、ぼくはあんな『素晴らしい漢らしい漢』に出会った事はない。」

「しかも、彼は、ラング艦長は沖田艦長との『漢と漢の約束』を守り通して味方の艦隊の砲火に散った・・・
残念という他はない・・・。」
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古代の頬に涙が一筋流れたのを見たメルダは驚いた。

<卑怯なテロン人の間でも『漢』は絶大な評価をされるのだ。>メルダは意外な発見をした思いだった。

**********************************************

 <ヴァルス・ラング中佐・・・。>メルダは「EX-178」での短かったが興味深かった旅を思い出しいた。

メルダは「EX-178」には配属された訳ではなく、銀河方面第707航空団へ転属するための乗艦だった。

それまでメルダは本国の防空隊はおろか、最前線での激闘を何度も経験し、エースにまで成長していた。

だが、彼女がそこに見たものは一等ガミラス人と二等ガミラス人の間の不協和音だった。

普通、一等ガミラス人達は二等ガミラス人を軽蔑し、信用していなかった。

彼女の見た二等ガミラス人達もまた必要最低限の事も満足に出来ない怠け者ぞろいだった。

この前まで彼女のいた空母でも一等ガミラス人と二等ガミラス人の居住区画は厳重に区分され、パイロットは
全員、一等ガミラス人、二等ガミラス人は機体整備や、補修、空母の運用に必要な雑務に当たっていた。

そして空母の推進機関の管理や、航法、探知通信システムなどの重要な任務は全て一等ガミラス人が
握っていた。
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メルダの居住していた区画から格納庫に出るまでの通路には一部、二等ガミラス人の居住区を通らねばならないところがあったが、彼女はそれが不快でたまらなかった。

難破船の様にカビだらけの壁、何年も掃除されていない床は彼女の靴底に軽く粘着して嫌な音を立てた。

酒瓶が転がっている事すら珍しくなかった。

彼女が格納庫に上がるという事は出撃命令が出ているからである。

一刻も早く出撃しなければならない、しかし、この艦では武装やエンジンなど重要な部分はパイロットが自分で
再度点検しなければ危なくて出撃どころではない事をメルダは上官から聞かされていた。

<エンジンは・・・、よし! 機関砲は・・・?>メルダは舌打ちした。 機首の30mm機関砲の弾丸が補充されて
いなかったのだ。

残りは2門で10発か・・・、まっ、なんとかなるだろう。 左右の兵装ポッドの30mm機関砲やミサイル、13mm機銃には異常がなかった。

そのまま出撃したメルダのツヴァルケは縦横無尽に活躍し戦果を上げる事が出来た。
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だが、帰艦して飛行甲板に降りようとした時、左の着陸脚が下りていないのが計器に表示された。

普通なら着艦は諦めて近傍の空間に漂泊して母艦からの回収を待つのだが、メルダは左翼のバーニャを総動員して着艦してみせた。

重力の働いていない宇宙空間ならではの離れ業だった。

格納庫に降ろされた愛機を再度点検したメルダは驚いた。

左主脚の収納孔に工具が置き忘れられており、その工具が引っ掛かって主脚が下りなかったのだ。

呆れて怒る気にもならなかった。

それ以来、愛機の整備が終わる毎に報告させ、その仕事を自分で更に細かく再点検する様になっていた。

点検する度に些細ではあるが整備ミスが見つかった。

<これだからやはり二等は信用出来ん!!>その事を空母の航空団長に報告すると彼は言った。

「二等ガミラス人は被征服民。 元々は敵だった存在だ。 信用する方がおかしい! それより旨く使いこなす
方法を考えたまえ!!」

<旨く使いこなす方法・・・。>そう言われても若いメルダにはまだ判らなかった。

<ドメル中将は名将軍として名を馳せている。 しかし、彼の軍にも大勢の二等ガミラス兵がいるはず。 

それでもドメル中将は彼等と一等ガミラス人を一つに束ね、疾風怒濤の様な艦隊運用で戦果を上げている。
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一体、どうしたら彼の様な指揮官になれるのだろう・・・。>メルダはやがて継がねばならないディッツ家の名跡を
継ぐ事を思うと気が重かった。

                                             漢(おとこ)の艦(ふね)-(3) に続く
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by YAMATOSS992 | 2012-12-28 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)
 古代進がその部屋の前に立つと衛兵がわりの保安部員が直立不動の姿勢で彼を向かえた。

「『メルダ・ディッツ』を尋問する、開けてくれたまえ。」古代が目的を告げると保安部員はすぐさま扉を開けた。

古代が中に入ると扉は直ぐに閉じられ、保安部員の緊張が伝わって来た。

なにしろ、史上初のガミラス人捕虜である、多分、あの保安部員も怒りと恐怖の入り混じった複雑な思いであそこに立っているのだろう。

古代自身も複雑な想いだった。

彼、個人としてはガミラスは兄、守を含め、家族全員の仇であり、地球を滅亡させんとする、憎んでも憎み
きれない存在だった。

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  イソカゼ型突撃宇宙駆逐艦「ユキカゼ」で戦艦「キリシマ」の撤退を殿軍として援護、戦死した古代進の兄、古代守

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     ガミラスの遊星爆弾攻撃によって無残に破壊され荒涼たる風景になってしまった地球。
     失われた命は人類だけでなく生けとし生けるもの全ての生命に及んだ。




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ただ、古代にとってメルダ・ディッツは次元断層を協力して突破した仲間であり、その母艦「EX-178」は
他のガミラス艦隊からヤマトを守る盾となって散華していった借りのある存在だった。
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  次元断層に落ち込んだ「ヤマト」 辺りには脱出出来ず死滅した難破船の残骸が漂っている。


次元断層を突破するには「ヤマト」の波動砲で突破口を形成し、エネルギーを使い果たして動けなくなった
「ヤマト」を「EX-178」が曳航して次元断層を突破する計画が立てられ、実行された。
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途中、一時、牽引ビームが切られ、「EX-178」から怪無電が打たれるという「裏切り行為」ともとれる行動も
あったが、直ぐに牽引ビームは再接続され、2隻は何とか脱出に成功したのだった。
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結束の固い「ヤマト」幹部の内でも今回の協力には否定的な見方があった。

しかも、「ヤマト」に波動砲を撃たせて脱出口を形成させた以上、ガミラス艦「EX-178」の方では敵である
「ヤマト」を牽引してやる必要は全く無かったのだ。

たぶん、あの時、ガミラス艦内では「ヤマト」協力派と単独脱出派の間で争いがあったのだろうと古代は想像
した。

だが、ガミラス艦「EX-178」の艦長、ヴァルス・ラング中佐は『漢』だった。
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どんな犠牲を払ったかは判らなかったが沖田艦長との『漢と漢の約束』を守り通した。

そして脱出直後に出現したガミラス艦隊から「ヤマト」への射線上から退去する様に求められた時、メルダが
まだ帰還していない事を理由に退去を拒み、ガミラス艦隊の集中砲火を浴びて爆沈して果てた。
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<『漢の中の漢』・・・>古代はその言葉を実際に見せ付けられた思いだった。 しかも敵であるガミラス人に・・・。

だから、今回のメルダへの処遇にはやりきれない想いがつきまとっていた。

だが、これも任務なのだと自分を納得させ、部屋の奥に進んだ。

                                             漢(おとこ)の艦(ふね)-(2) へ続く
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by YAMATOSS992 | 2012-12-27 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)
 <ヤマト主計科ー飛行班ー戦闘係 >

「戦術長、ちょっと話があるんだが・・・。」当直明けで第1艦橋を出た古代進に声を掛けた男がいた。

主計科、主計長、平田一だった。

「なんだい改まって・・・。」古代と平田は同期だったから公の場以外では名前で呼び合う仲だった。

「それは・・・。」口ごもる平田に古代は言った。

「場所を変えよう。」そう言って平田を艦橋後部の展望室へ連れ出した。

「さては、平田、『恋』でもしたか?」古代は展望室の宇宙を見ながら平田に悪戯っぽくたずねた。

「いや、これは公務に関する事なんだ。」平田は言い出しかねる様に遠慮がちに言った。

「公務? 主計科のお前が戦術科の俺に何の用があるんだい。 俺が頼みに行く事なら一杯あるんだが・・・。」
古代は笑って平田の肩を叩いた。

「確かに戦術科は色々と物を無くしてくれる、ヤマトの積載量が今までの戦艦とは比較にならないとはいえ、
旅は長丁場だ、物は大事に使ってくれよ。」平田も少し緊張がほぐれて来たようだった。

「で、その公用とはなんだい?」古代はズバリと切り出した。

古代はまだるっこしい事の嫌いな、良く言えば「熱血漢」、悪く言えば「やかん」だった。

「先日、エネルギー伝道管の修理に使うコスモナイトの探索を土星の衛星タイタンで行ったよな。」
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「ああ、あの時は初めてガミラスの地上部隊と一戦交える羽目になった、航空隊の到着がもう少し遅れたら
探索隊は全滅していたかもしれなかった。」古代は綱渡りの様な指揮をして探索部隊を救ったのだ。

しかし、土星の衛星タイタンは完全に敵地、「ヤマト」の警護が優先するのは止むをえなかった。

「要するに、このような場合、航空隊の護衛を必ず付けて欲しい・・・。それがお前の要求だな。」古代は平田の
希望を一言で言い当てた。

古代もあの時、航空隊を付けてやるべきだったと後悔していたからだ。

平田は黙ってうなづいた。

「艦長に相談はしてみるが、多分、常時、主計科の船外活動に護衛を付けるのは無理だろう。

戦術科の飛行隊はチーム編成だ、1機欠けてもその活動には支障を生じる。

人間は物と違って補給は利かないからな・・・。

まあ、そういう時は出来るだけ俺が支援に出る様にはするつもりだ。 それで了承してくれよ。」古代は平田に
戦術長として出来る最大の譲歩をしてやった。

「そ、それは駄目だ!」平田は慌てて両手を突き出して掌を激しく振った。

「戦術長のお前が席を空けて良いのは余程の時だ。 主計科の船外活動の度に出動していたら限がなくなる!
この話は無かった事にしてくれ!」そう言うと平田は自分の部署に帰っていった。

**********************************************

 宇宙戦艦「ヤマト」が出発する10年前、まだガミラスの侵略が始まる1年前の事だ。

ガミラス戦で勇名を馳せた「ライニック姉妹」、フローラー・ライニックとフレイア・ライニックは共にまだ、15歳、
高校生になったばかりだったが、後年の才能はもう芽吹いていた。

フローラーは射撃の名手、フレイアは帆走機(グライダー、特にソアラー)の達人として将来を期待されていた。
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「来たわ!直ぐ着陸用の誘導灯を点けてもらって!」フローラーは夜間双眼鏡を見ながらスタッフに言った。

ここはアメリカ大陸、メキシコの砂漠にある小さな飛行場だ。

そこに夜の闇に1点、小さな光が音も無く近づいて来た。

見る見るうちにその光は滑走路に点された僅かな光を頼りに高度を下げて来た。

地上数mになったところでそれが白く長い翼と細い胴体を持ったグライダー、(いや最上機種なのでソアラーと
言うべきか、)である事が判った。

そのソアラーは左翼の前縁、ほぼ中心に着陸灯を備えていた。

先ほど見えていた夜空を駆ける光の点はこの着陸灯のものだった。

通常、グライダーは夜間飛行はしない、だから着陸灯など付いているものはなかったのだが、
この「グルーナウ・ベイビーⅡ」は別だった。

この機は今年、ドイツで開催された「ハンナ・ライチェ杯」、グライダー選手権の長距離滑空部門の参加機
だったからだ。

グライダーはエンジンが付いていない、だから自力では離陸出来ないが、一度、空に駆け上がる事さえ
出来れば、後は操縦者の腕と気力、体力の続く限り、飛ぶ事が出来る乗物だった。

現に「グルーナウ・ベイビーⅡ」はドイツのグルーナウ(グライダー競技の聖地)を出発して、上昇気流を次々と
捕まえながら、約3000 km離れたメキシコまでほぼまる1日を掛けて飛んで来たのだ。

「グルーナウ・ベイビーⅡ」は見事な着陸を見せ、滑走路の中ほどで停止したが、パイロットは降りてこなかった。

フローラーを初めとしてスタッフは慌てて駆けつけ、コクピットのシールドを開けるとフレイア・ライニックが昏々と
眠っていた。

「やったぜ・・・。2,960km・・・。 世界新だ。」寝言の様に呟くフレイアにフローラーとスタッフは顔を見合わせて
笑った。

翌朝、フレイアは自分が粗末ではあるがキチンとしたベットで目覚めて驚いた。

「おはよう、フレイア、よく頑張ったわね。」フローラーがフレイアの目覚めに気が付き様子を見に来た。

「姉貴、俺がここに居るって事はちゃんと着陸できたんだな。」多分、体力的な限界まで飛んだのであろう、
フレイアは昨晩の着陸の事を全く覚えていなかった。

「そうよ。2,960km飛んで、長距離滑空部門で一応、優勝したわ。 世界新記録よ。」フローラーは
残念そうな顔で言った。

「その、一応・・・ってなんだよ。」フレイアは訝しげな顔をした。

「残念だけど、3,002kmの記録を作った人がいるの。 もっとも、彼女、年齢規定に達していなかったので
記録は非公認になったけれどね。」
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「年齢規定に達していない・・・。 俺は規定の最低年齢だぞ。 その娘の齢は幾つだったんだ!」

「10歳だって、日本のAkira=Yamamotoって娘みたいよ。 世界は広いわね~っ」フローラーは両手を
広げて首を傾げた。

「10歳! 俺が初飛行したのは13歳だぞ! そんな幼い娘がグライダーを操縦するってのだけでも
信じられないぞ!」フレイアは悔しくて堪らなかったのだ。

「はいっ、これ!」フローラーは自分の発展型iPadでフレイアの目の前の空中にNetの情報を映して見せた。

フレイアは3D動画でにこやかにインタビューに応える可憐な少女に開いた口が塞がらなかった。

**********************************************

 「戦術長・・・。ちょっといいですか?」古代は主計科の士官、山本 玲に呼び止められた。

「おいおい、今日は主計科にやたらもてるな、今度は一体、何だい?」古代は控えめなその少女が士官だと
いう事が不思議だった。

「飛行隊に転属させて下さい。」怜はポツリと言った。

「えっ、あっ、そうか、タイタンで100式空偵を操縦したのは君か!」古代はタイタンで主計科のコスモナイト
採掘隊がガミラスの地上部隊に襲われた時、武装が全く無い100式空間偵察機でヤマトの航空隊が支援に
駆けつけるまで時間を稼いだ猛者が目の前にいる儚げな少女だと言う事が信じられなかった。
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「あの時まで私、主計科でもヤマトで飛べるだけで満足でした。 

でも、ガミラスを相手に100式を駆った時、思い出したんです。 あの感覚を・・・。
 
私、8歳の時からガミラスの遊星爆弾攻撃が激しくなって飛べなくなるまで兄と一緒に一日も休まず、
飛んでいたんです。」

「お兄さんはヤマト航空隊にいない様だが・・・。」古代は嫌な予感がした。

「ええ・・・。航空隊の加藤隊長の部隊にいましたが、昨年、戦死しました。」玲は俯いて応えた。

「しかし、それじゃあ、加藤が戦闘が主体の航空隊入りを認めるとは思えないが・・・。」古代は玲に同情しつつ、
玲の希望にそえない事を伝えた。

「それじゃぁ 加藤隊長が認めてさえ、くれれば転属させてくれるんですね!」玲は喜んで古代の前から
飛ぶように消えていった。

「どうするんだい、戦術長?」古代はまた別の男に声を掛けられた。

「榎本さん! 聞いていたんですか?」古代に声を掛けたのは榎本 勇、ヤマトの掌帆長だったが、
彼は古代や島の訓練教官でもあった。

「あの娘の気持ち、空を飛んだ事のあるお前、いや、あなたなら判るでしょう。」榎本はいやに改まった口調で
言った。

「やめて下さいよ。 榎本さん、あなたには適わないなぁ。」古代はそういいつつ、榎本の言葉の重さを感じて
いた。

 空を飛ぶ、それは人類の夢であったが、一度それを成し遂げてしまうとそれは麻薬の様に人を虜にするもの
だった。

そして、戦争に負けて飛ぶ事を禁じられてもその情熱は更に激しく燃え上がるものだった。

山本 玲が10歳の時、大記録を打ち立てたハンナ・ライチェ杯、それは第2次世界大戦を挟んで世界の空、
狭しと飛び回った、偉大な女性飛行家(特にグライダー)を記念して創られた競技会だった。
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彼女は第2次大戦中はテスト・パイロットとして世界初のロケット戦闘機、メッサーシュッミトMe163を
飛ばした事でも勇名だった。
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当然、空軍の中にも知り合いが多く、ウーデット航空機総監もその一人だった。
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彼は第1次世界大戦時のエースでもあったのだが、航空機総監というその地位ゆえに飛行を禁じられて
しまっていた。

ある時、ウーデットはライチェに「もはや、地位も名誉も軍服もいらない! 私に空を返してくれ!」と嘆いた。

空を飛ぶと言うことはそれ位、人を捕らえて離さないものなのだ。

<山本 玲もその一人なんだ・・・。>古代は本気で同情している自分に気付いて榎本に照れ笑いをしてみせた。

「戦術長、加藤隊長はあの娘を決して自分の隊に入れ様とはしないだろう。」榎本は古代の心配をズバリと
言い当てた。

「ええ・・・。 どうしたものか、俺には判りません。教えて下さい。」古代は元教官につい、甘えてしまった。

「戦術長! もはや俺はあんたの教官じゃない! そしてあんたは戦術科の長だ。 これ位、自分で考えろ!」
そう言うと榎本は立ち去ろうとした。

しかし、彼は思い出した様に立ち止まって言った。

「そうだ、あの娘は主計科だよな? 平田に相談してみるんだな。」榎本はウインクすると今度は本当に自分の
部署に帰っていった。

「平田・・・。そうか!」古代は自室に飛んでいった。

**********************************************

「これでどうだ。 お前の希望は適うし、玲の希望も適う、加藤の顔も立つし、そして何よりもヤマトは強力な
戦士を得るんだ。」古代は主計科の事務室で平田に自分のアイディアを説明していた。

「しかし、こんな事が許されるのかな、俺には信じられん・・・。」平田は古代の案の突拍子無さに呆れていた。

そこへ、山本 玲が帰って来た。 そして何事もなかったかの様に自分の仕事を始めた。

「加藤の所へは行ったのか?」古代は率直に聞いた。

「ええ・・・。行きました。 でも『女は戦闘機には乗せない!』とはっきり断られました。 それと『乗せたくても
乗せる機がない、余っている機はない!』、だ、そうです。」山本の頬には涙の後があった。

「君の飛行経歴は調べさせて貰った、飛行時間は14、600時間。対するに加藤は6、270時間、加藤の倍も
飛んでいる計算だ。

しかも、グライダー競技、小型機速度競技、模擬戦闘競技とあらゆる飛行競技で優秀な成績を収めているな。

何故、軍に入らなかったんだい。」古代は不思議だった。

「兄が、私の兄が入隊を許さなかったんです。」玲は悔しそうにいった。

「失礼だが、お兄さんが戦死された後も入隊希望は出さなかったのかい?」

「出しました! でも何故か、受け付けられず、今度の『ヤマト』計画時にも飛行隊を希望しましたが主計科に
回されました。」古代と平田は顔を見合わせた。

<裏で山本 怜の航空隊入りを阻んでいる動きがある・・・。>

<ちくしょう、こんな小細工に俺達は負けないぞ!>古代は平田と山本を連れて格納庫に行った。

「戦術長、格納庫は下ですが・・・?」山本は上へ向かうエレベーターに乗る様、促され、とまどった。

「加藤が言ったろう、『99式コスモ・ファルコンに予備機はない。』と、あれは嘘じゃない。 君を乗せると誰かを
降ろさなくては成らなくなる。 

だから君には『コスモ・ゼロ』に乗ってもらう。 

こちらは俺が乱暴な男だと心配してか、予備機が1機、用意してあるんだ。」古代は平田の顔を見て笑った。

「それに格納庫が戦術科の『99式』とは別だからトラブルも起こりにくいだろう。」そういいつつ、コスモ・ゼロの
格納庫に入って来た一行は数人の甲板員が折り畳まれて格納されているコスモ・ゼロの周りで何かしているのを見て驚いた。

「よう、話はついたようだな、こっちもじき終わる。」榎本掌帆長だった。

「これは・・・。」山本 玲が駆け寄ってコスモ・ゼロの機首にさわろうとした。

「おっと、まだ触っちゃなんねぇ。塗料が乾いてないからな。」榎本が言うとおり、コスモ・ゼロ2号機の機首は
オレンジ色に塗り替えられていた。

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「主計科、飛行班、戦闘係だ、この色が一番相応しいだろう。」榎本は得意げに言った。

**********************************************

古代 進と平田 一、山本 玲、加藤 三郎は艦長室へ沖田十三に呼び出されていた。

「今回の騒動の主犯格は古代、お前だな、新しい組織を作ろうとは随分思い切った事をしてくれる
じゃないか・・・。」沖田は怒っている様な言場使いだったが、その顔には笑みが表れていた。

「艦長、失礼ですが、私は今のヤマトの人員配置はとりあえずの仮のものと考えています。

これから先、1年にも渡る長い旅ですから記録に残っていない個人の特性や欠点が現れてくる場合があります。

その時、欠点はともかく、長所は出来るだけ伸ばす様にすれば、ヤマトの旅にとってより有益なものになります。

特に、山本 玲はあのフレイア・ライニックですら負かした事のある飛行士です。

是非、ヤマト航空隊への転属を希望します。」古代は真正面から沖田に望みを述べた。

「戦術長、ただ飛ぶのと飛んで戦う事は違います。私は認めませんからね。」加藤も真正面から反対した。

「あの、艦長、これは山本を飛行隊に入れるかどうかの問題ではなくて、主計科に飛行隊を設けても良いか?
との申請なんですが・・・。」平田が遠慮がちに言った。

「主計科、飛行班、戦闘係と言うわけか・・・。主な任務は主計科の船外活動時の護衛だな。 

後は大きな作戦で戦術長がコスモ・ゼロで出撃する時、僚機となってその活動を支援するのも重要な任務だ。
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どうだろう、真田君、この案、まんざら悪くないとわしは思うんだが・・・。」沖田は第1艦橋で今の会議を
聞いていた真田に意見を求めた。

真田は今は第1艦橋を空ける訳にはいかなかったので会議にはインターコムで参加していた。

「超変則的ですが、今回の場合、実験的に主計科に飛行班を設けてみてもいいんじゃないですか。」

「判った。 ありがとう。 真田君。」インターコムを切った沖田は一同に言った。

「平田主計長、主計科に飛行班を作る事を承認する。 人選は君にまかせる。 古代、コスモ・ゼロの予備機を
主計科に貸し出す用意をしろ。 加藤、主計科が選んだパイロットの訓練を君が担当しろ! いいな。 
解散。」沖田はさっさとその場を取り仕切った。

艦長室を出る時、加藤 三郎は物凄い目で古代の事を見つめた。

「加藤、おとしまえって、やつをつけたいのなら殴ってもいいんだぜ。」古代は本気で言った。

しかし、加藤は直ぐに穏やかな目に戻り、古代に言った。

「負けましたよ。 主計科で飛行班を持っている船なんて歴史上、『ヤマト』が初めてでしょうね。」

「いいんだよ。 『ヤマト』は初めて尽くしの船だ、いまさら1つ位、それが増えてもどってことあるまい。」古代は
笑った。

「確かに! それはそうだ!」加藤も笑った。

その声は厚い扉を通して沖田の耳に届いていた。

「思惑どおりにいきましたね。」真田の声がインターコムから聞こえた。

「ああ、皆、成長している、喜ばしい限りだ。」

沖田の机の上のスクリーンには「ヤマト」の人員配置が映っていたが、山本 玲の所属は元々飛行隊と
なっていた。


                                                

                                    メ2号作戦の前にヤマトに強力な戦士が加わった。
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by YAMATOSS992 | 2012-06-28 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(2)