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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

 「あ、ホイッと、魚雷命中!最後の一隻、片付きましたぜ!大将!」次元潜望鏡に取り付いていた副長のゴル・ハイニが
勝鬨を上げた。

しかし艦長のヴォルフ・フラーケンは俯いたまま「ああ」と頷いただけだった。

「ゲール艦隊の処理、完全に終わりましたぜ。」ハイニが再び声を掛けたがフラーケンは手元で指を躊躇う様に動かし
続けていた。

ハイニはそれを見て顔をしかめた。

「大将、戦いに勝ったから"散って行った魂" を弔う用意をするのはわかりやすが、相手はあの卑怯で卑劣、冷血漢の
ゲールですぜ! 弔うには値しやせん!」

フラーケンは横目でハイニの方を見やるとそれまで折っていた折り紙を見せた。

その小さな折り紙にハイニの目は引付けられた。

「『ザルツ の 竜』・・・。 それでは弔う相手は・・・。」
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「そうだ、ヴァルス・ラング・・・、ゲールの奸計にはまって殺された俺の親友だ。」フラーケンはやっとその時が来たとの
感慨で一杯だった。

**************************************************

バラン星空域のデブリはゲール艦隊を全て呑み込んでも左程増えた様には見えなかった。

フラーケンはその乗艦、UX-01を比較的デブリの濃度が薄い安全宙域に漂泊させ乗組員を全員上甲板に整列させた。

この時、普段なら艦長であるフラーケンは司令塔の上に陣取り部下達を見下ろして訓示を行うのだが、
今回は彼もハイニと共に上甲板の乗組員の列に加わっていた。

彼は両掌で大事そうに包んで持っていた『ザルツの竜』の折り紙を高く掲げ、乗組員に示した。

そしてそれを隣に立っていたゴル・ハイニ大尉に渡した。

ハイニはそれを一端、目の高さに掲げ持って一礼すると隣にいたベルン機関長に渡した。

その折り紙は次々と乗組員達によって手から手へ渡されていった。

最後にそれを手にしたのはヤーブ・スケルジ(藪 助治)だったが彼は手渡されたその折り紙を見るやあまりの不細工さに
思わず折り紙を開いて折り直し始めた。

「おい!ヤーブ!何をしている!」言葉がまだ不自由なヤーブの面倒を見て居るヨーヘン機関・兵曹長が止めようと
したが、それを制する手があった。

「大将・・・?」ヨーヘンはフラーケンの行動が一瞬、理解出来なかったがヤーブが折り直した折り紙を見るとその簡素で、
それでいて優美で力強いその姿に心を奪われた。

ヤーブはその『折鶴』をフラーケンに手渡そうと差し出したが彼は首を横にふり舷側の彼方を指差した。

ヤーブはフラーケンの想いを全て感じ取った訳では無かったが、自分に何が求められているのか、
それを感じ取れる位の感性はあった。

彼は手にした『折鶴』を宇宙の彼方へ届けとばかりに力一杯投げつけた。

宇宙空間には当たり前だが空気は無い、当然空気抵抗も無い。

大気中では飛ばす事の叶わぬ『折鶴』でも失速する事無く慣性の法則に従って初速を維持したまま飛び続けるのだ。

みるみる小さくなってゆくその姿を見つめつつ、フラーケンは心の中で叫んでいた。

<ヴァルス! お前の仇は確かにとったぞ! 安らかに眠れ!>

こうしてフラーケンの親友、ヴァルス・ラング中佐の葬儀は簡素ながらも武人に相応しい荘厳さの中で行われた。

**************************************************

「とにかくアッカイラ星域に飛んでくれ! あそこで何か問題が起こっているらしい。」
ガル・ディッツ次元潜航艦隊総司令が緊迫した面持ちで連絡して来た。

「その問題とやらは一体何ですか?」フラーケンは一艦長に過ぎない自分に総司令が直接連絡を取って来た事が
不思議だった。

「判らん、唯一判っているのは味方の次元潜航艦が次々と消息を絶っている事だけだ。
君には味方艦の消息不明の原因と出来得ればその排除を頼みたい。」総司令はフラーケンにとんでもない難問を
いとも容易い事の様に命じた。
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「どう思う、ラング大尉。」フラーケンは総司令との通信が切れると副長に尋ねた。

アッカイラ星域には先住民が居たが文明のレベルが低く、ガミラスを天空から来た神と崇めたので平和的にガミラスの
支配下に入った。

しかしこの星系は交通の要所で様々な星域の宇宙船が行き来していた。

ガミラスはそれらの宇宙船を止め、通行税を取っていたが幾つかの星系はそれに猛反発し宇宙艦隊を送って来た。

ガミラスはまだ通常艦艇で構成された航宙艦隊が充実しておらず代わりにガミラスだけが持つ技術、
ゲシュ・バール機関を備えた次元潜航艦でこれに対抗していた。

次元潜航艦は通常宇宙にいる艦艇を攻撃出来るが通常の軍艦は異次元にいる次元潜航艦を攻撃出来ない。

確かに次元潜航の技術は難しい。

ガミラスでも次元潜航に失敗して行方不明になる艦は後を絶たなかったがそれは実戦前の訓練期間の話である。

鍛え上げられて次元潜航艦学校を卒業した者には最早そんな失敗をする奴は居ない。

フラーケンもかつて学校時代次元潜航艦で遭難しかかった経験を持っていたが、今の副長、ヴァルス・ラングの補佐を
受け得難い生還を期し一人前の次元潜航艦乗りになったのだ。

<どこかの星系が対次元潜航艦技術を考案したのか・・・?>まだ若かったフラーケンは敵が通常空間に居ながら
次元断層の奥に届く兵器を開発したと言う思いに囚われていた。

「艦長、この命令を受けるのは良いんですが、今までの作戦行動で魚雷を消費してしまい、前方発射管ー連射分六本
しかありません。 後方発射管に到っては皆無です。

一度補給を受けた方が宜しいかと考えます。」ラング副長が進言した。

「ヴァルス、この指令は時間が命だ、何、相手を撃滅する必要は無い、何が起こっているのか、
それだけを掴んで報告すれば良い。
敵艦の撃滅は航宙艦隊の戦艦の仕事だ。
まずはアッカイラ星域に跳んで侵入、生き残りの僚艦に連絡を取って情報を得よう。」フラーケンは事態を
軽く考えていた。

ラング副長は一度言い出したら他人の意見など聞かないフラーケンの性格を良く知っていたので魚雷補給の進言は
それ以上行わず代わりに別の指示を出しに艦橋をこっそりと抜け出した。

**************************************************

「フーム・・・。怪しい物は見当たらないが・・・。」アッカイラ星域ににゲシュタム・アウトしたUX-01をフラーケンは即座に
次元潜航させ次元潜望鏡や亜空間ソナーによる情報収集にあたらせた。

「アッカイラ駐屯艦隊旗艦 "チラン・ケラン" より入電!」通信士が報告した。

<チラン・ケラン?だと・・・。>フラーケンが訝し気な顔を向けるとラング副長も「頭がグラグラする様な名前ですね。」と
おどけてみせた。

しかし、その通信内容は深刻なものだった。

『アッカイラ星域にはガミラス以外の他星系が送り込んで来た艦艇が出没、交通破壊戦を挑んで来ているので厳戒を
求む!』その通信が終わるか終らない内に探知主任が叫んだ。

「魚雷が次元境界面を突き破った反応を探知! 雷数八!」

「何! 発射艦の方位は判るか?」フラーケンは次元境界面の突破反応があったと言う事は敵艦の目標は通常空間に
居る "チラン・ケラン" だと判断し、次元潜望鏡をその方向に向けた。
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次々に被雷する "チラン・ケラン" 、八個の光球が消えた時、そこには威風堂々としたガミラス戦艦の姿は既に無かった。

<八射線・・・か。本艦は六射線、敵の火力は本艦の1.5倍のと言うところか・・・。>フラーケンは冷静に分析した。

と、 "チラン・ケラン" が最後を遂げた通常空間から少し離れたところにに赤い裂け目が生まれ、ガミラスの次元潜航艦と全くデザインの違う次元潜航艦が浮上して来た。

次元潜望鏡でそれを見ていたフラーケンはその姿に見入ると「おかしい・・・。ラングこれを見てみろ!」と言って
次元潜望鏡の眼視孔をラングに譲った。

「前甲板に大口径四連装ビーム砲塔2基ですか? これは確かにおかしいですね。」ラングも首をひねった。

次元潜航艦は自ら次元断層を作り出してそこに潜んで敵を攻撃する艦艇だ。

通常空間にいる敵は次元潜航艦の居場所が解らず、また敵が偶然にこちらを探知出来たとしても攻撃手段を
持たないのでこちらは一方的に攻撃出来るのだ。

だから次元境界面を越えられない通常のビーム兵器など幾ら装備しても何の意味も持たない。

更には次元断層内は "ゲシュタムの門" の "回廊" と同じくビーム兵器は無効である。

そして敵は "チラン・ケラン" を撃沈するのに亜空間魚雷を使った。

明らかに戦艦である "チラン・ケラン" とビーム兵器を撃ち合う愚を避けた事は明らかである。

「敵は今、通常空間にいる、我が方は次元潜航中だ、亜空間魚雷の射角を六十度ずつずらして敵艦を包囲する様に
発射すれば確実に仕留められるぞ! 前部発射管全門斉射!」フラーケンは勝利を確信して命令した。

「艦長、敵艦の出現で報告が遅れましたが魚雷が一本推進器が不調で発射出来ません。」ラング副長が
申し訳なさそうに報告した。

「五本で構わん!グズグズするな!」潜望鏡から目を離すとフラーケンは再度攻撃命令を発し、発射された五本の魚雷が次元境界面を突き破った。

「ん!」フラーケンが潜望鏡に目を戻すと漂泊していた敵次元潜航艦が動き始め、みるみる内に次元境界面を越え
次元断層の奥に消えていった。

UX-01の発射した五本の魚雷は目標を失って宇宙の彼方に消えていった。

しかし敵潜は次元潜望鏡の有視界面からは消えたが亜空間ソナーや次元断層振動波検出器には捕らえられていた。

<しまった!敵潜はこちらの攻撃を誘っていたのか! まんまと引っ掛かってしまった。>フラーケンは自分の判断の
甘さに歯噛みした。

「艦長、あなたのせいではありませんよ。敵はこちらの魚雷を消耗させようとしただけです。」ラング副長がフラーケンの
耳元で囁いた。

「だがおかげでこちらには魚雷は一本も無くなってしまった!反撃などおぼつかんぞ!」まだ若かったフラーケンは
焦りまくっていた。

「ここで焦って脱出を図れば敵の思う壺です。 敵は確かにこちらの魚雷を浪費させましたが、
こちらが丸腰になっている事までは気付いていません。」ラングは冷静に状況を分析してみせた。

「敵艦、右舷より接近! あ、奴が右へ転舵しました!」探知主任が報告した。

<魚雷発射管は艦首と艦尾に装備しているはず・・・・何故それが使えなくなる方向に転舵するのだ?>フラーケンには
この敵潜の行動は解らない事だらけだった。

「操舵手!敵潜に艦首を向けろ! 急げ!」ラング副長が切羽詰まった声で命令した。

UX-01はガミラス艦の中では小型の部類に入るがそれでも空間戦闘機の様なきびきびとした運動性は無い、のろのろと
艦首を敵艦の方に廻している内に敵潜が魚雷を放って来た。

その数、八射線、先程 "チラン・ケラン" を撃沈した時と同じ雷数である。

UX-01はラングの命令で向かってくる魚雷と正対しており被雷する確率は低かったが真面に魚雷に正対する事は並の
胆力で出来る事では無かった。

全ての魚雷とすれ違うとフラーケンはラングの作ってくれたチャンスを生かすべく次の命令を発していた。

「ベント開け、深々度潜航、最大!」幾ら次元潜航艦といえども本来いるべき空間で無い次元断層に潜っているのである、自ずとその深度には限界があった。

「最大深度に達しました。」潜航士官が報告する。

「よし、無音潜航。 各部、音を立てるな。 測的手は敵潜から目を離すな!」フラーケンは自分の最も苦手とする
我慢比べをする覚悟を決めた。


                                     201. アッカイラ 鮫達の狂宴ー(2)→ この項続く


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# by YAMATOSS992 | 2016-04-23 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)
 パイロットが目的地周辺宙域に空間跳躍した事を告げた。

<この宙域が私の幽閉地なの・・・?>テレサは窓の外を見た。

しかし、彼女の思いに反して窓の外には緑色の美しい惑星があった。
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<・・・>テレサは大帝やサーベラーの考えが解らなかった。

テレザリアム(テレサの幽閉カプセル)を宇宙空間に置けば生命維持装置を持たぬテレサはテレザリアムを離れる事は
出来ぬし、艦砲射撃でテレザリアム毎葬る事も容易いはずだ。

訝しがるテレサの元にサーベラーからの文書通信が入った。

” この惑星は気に入ってくれたものと思う。大気は有毒だが腐食性は無い。この惑星の地下深くの空洞にテレザリアムを配置する。”

テレサは何故こんな手の込んだ事を彼等はするのだろう・・・と疑問を持った。
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確かにテレザリアムを宇宙空間にに配置した方が防御はし易い、しかしその防御は一段しか設定出来ず破られればそれまでだ。

しかし重力井戸の底である惑星内部におけば違った種類の防御網を何段にも敷く事が出来る。

それに気づいたテレサはこれは大帝の指示では無く、サーベラーの用意周到さの表れだと感じた。

そして彼女は携帯通信端末を手に取ると短い言葉を打ち込んだ。

<この惑星の名は『テレザート』とします。>

それを受け取ったガトランティス中枢部は大混乱になった。

「テレザリアムはどの様な通信も遮断して外部に漏らさぬ構造のはず、何故テレサが通信出来るのだ!」
サーベラーはテレザリアムを設計した技術陣を締め上げていた。

<いや、それよりも我々の現在位置から数万光年離れたテレサがその距離を例の "空間跳躍の技" で埋めたとすれば
その方が恐ろしい・・・。」

その狂態を冷たく眺めていた大帝は今度テレサとあいまみえる時は互いの存亡を賭けた死闘になるであろう事を
強く感じていた。

「サーベラー、重臣達と技術者の長を全て集めよ!」大帝には何か腹案がある様だった。

**************************************************

漆黒の宇宙空間、その暗黒を切り裂いて一条の光が走っていた。

それは巨大な彗星だった、しかしその進行方向に恒星は無かった。
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通常、彗星の尾(エンベローブ)は恒星からの太陽風によって氷の塊である彗星の表面が融かされ恒星と反対方向に
延びるものである。

だから恒星から彗星が遠ざかって行く時など進行方向側に尾が伸びる事もある。

恒星が無いのに尾を引いているこの彗星は天然の物では無く、人工のものであるからであった。

「この都市帝国は中性子ガスで覆われています、そして大帝の玉座は巨大戦艦から別の場所に移しました。
これであの "女" も陛下の居場所を特定出来ず、途方にくれる事でしょう。」サーベラーが自信たっぷりに言った。
   
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「うむ」大帝は短く相槌を打ったが心のうちではテレサにこんな子供だましが通じるはずが無いと思っていた。

**************************************************

「間も無くアケーリアスのGATEに接近します。」サーベラーが状況を報告した。

ガミラスが管理しているのは大小マゼラン雲近傍のゲートだけなのでガトランティスは銀河系内に在るGATEを使う事は出来た。

しかし大戦艦クラスはまだしも超巨大戦艦や都市帝国は大きすぎてGATEは潜れなかった。

<大き過ぎるのも問題だな、通常艦艇ならGATEを使って目の前の星雲など既に平らげている物を・・・。>大帝は
テレサの述べた思想の方が正しいのではないかと思い始めていた。

「陛下、先遣艦がGATE近傍空間で漂流物を回収した様です。」サーベラーがつまらなそうに報告した。

「何を回収したのだ?」大帝は彼女と違って何か興味を持った様だ。

「ガミラスの物と思しき艦艇の一部です。ただし生存者は居りません。」サーベラーは唯の残骸、価値など全く認めて
居なかった。
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「合い解った!」大帝はそう言うと玉座からスックと立ち上がった。

                                        

                                          199. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(17)→ この項了 
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# by YAMATOSS992 | 2016-03-12 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)
 <何だ、この停戦条項は我々の無条件降伏に等しいではないか!>サーベラーは大帝とテレサの遣り取りを
成文化しながら憤っていた。

停戦の条件は以下の如くであった。

① ガトランティス軍はガミラス帝星の領内から即時撤退し今後、未来永劫に渡ってその矛先を ガミラス帝星に
   向けぬ事。

② 配下から独立しようとする部族の行動を妨げない事。 また独立を検討している部族の独立を妨げない事。

③ ・・・ ・・・

延々と続く条文は大帝側の譲歩の連続だった。

サーベラーは丞相と言う地位の職責上、その全てに目を通さなければ為らなかったのだが、その作業は彼女にとって
苦痛以外の何物でも無かった。

<何故、大帝はこんな屈辱的な停戦条項を呑んでしまわれたのだろう・・・。>今まで対等な立場で交渉すると言う事の
無かったサーベラーにはこの条件を呑んだ大帝の心の内は判らなかった。
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しかし、この停戦条件にはテレサ側の大きな譲歩があり、大帝はそれを得る為に小さな譲歩を重ねていたのだ。

それは大帝の率いるガトランティスの略奪・生計を認める事である。

テレサはガトランティスの略奪・生計を否定し、星間貿易立国を図りたかったのが本根だったが、いきなりそんな綺麗事を
押し付けようとしても長年、楽をして生計を立てていた人々が力による外交を捨て去る事が簡単には出来無い事を
彼女は理解していたので条文化はしないものの条文の行間に今までの生計の立て方を認める事を感じ取らせる様に
配慮していた。

「・・・以上、これらの条項を我がガトランティス帝国と新生ガトランティス王国の間で結び、双方これを尊重、
厳守するものとする! ズオーダー大帝、宜しいですね。」サーベラーが締結条項を読み上げ読み上げ終わると
大帝の方を向き承認を求めた。

その放漫な態度にガルダ・ドガーラはテレサの傍らで怒りを抑えるのに必死だった。

「良い!」テレサは配下を明るく抑えると大帝の方を見やった。

大帝は見つめるテレサに頷くと満足そうに微笑んだが次にサーベラー丞相に厳しい目を向けた。

その刺すような眼差しにサーベラーは敢えて尊大に告げた。

「この約定は "古への星の海往く船乗りの約定" に基づくもの、更にこの約定を完全な物とするため”輪廻の雷”なる物の引き渡しを申し受けたい。」この言葉に新生ガトランティス王国側の面々は闘志を剝き出しにして抗議しようとした。

それを片手で制するとテレサは口上を述べた。

「ズオーダー大帝殿、停戦条約の締結いたみいる。 さて、先程、丞相閣下が求められた追加条項の件であるが
残念ながら認める事は出来ない。 何故ならこの条約の実効性を保証するものが "輪廻の雷" の威力だからだ。」
テレサはこの条約が王国側が帝国側を脅迫する事で成り立っている事を隠そうともしなかった。

「しかし、帝国側としては一方的に脅しつけられ、不平等な条約を結ばされたとあっては大帝陛下の面子はもちろん、
サーベラー丞相閣下もその立場を失いかねない。 その事を恐れているのであろう?」サーベラーはテレサの
慇懃無礼な態度に心の内で歯ぎしりした。

「我が名はテレサ・テレザート、"愛もて統べる者"、その様な不満を残したまま停戦条約を結ぶ訳にはいかぬ。 
かといってこの条約の実効を保証する "輪廻の雷" を帝国の手に渡す事も出来無い。」テレサは交渉の行き詰まりの
問題点を指摘した。

「そんな事は判っておるわ!  "輪廻の雷" とやらが渡せないとあらば、そちがその身を持ってこの条約を贖って
見せるか!どうじゃ、そんな事は出来まい!」サーベラーは嘲笑した。

「丞相閣下、その様な事で良いのであればこの身を帝国に委ねる事に妾は何の躊躇も無い、さあ何処ぞなりと連れて行き、幽閉するが良い。」テレサの決断は速かった。

「しかし、 "輪廻の雷" を手にしたままでは何処に幽閉しようが自在に抜け出せてしまう、そんな事は無意味じゃ!」サーベラーは即座に否定した。

「フッ、疑い深い奴・・・。」テレサはそう呟くと自らの甲冑を脱ぐとサーベラーの足元に放り投げた。

「なっ・・・。」テレサのあまりに唐突な行動にサーベラーは二の句が継げなかった。

「この甲冑には生命維持装置が組み込まれている。 従って妾の幽閉先を宇宙空間にすればいくら "輪廻の雷" の力を持ってしてもこれを脱いだ妾は幽閉先を脱出する事は叶わぬ。 どうじゃこれなら帝国側の危惧も無くなるであろう?」
テレサは全裸になっても堂々と大帝の前に直立していた。

「テレサ様! それではこちらが、新王国側が圧倒的に不利になり申す! 貴女様がいてこその新王国です!」
"迅雷" のガルダ・ドガーラが猛烈に抗議した。

「控えい! ズオーダー大帝、サーベラー丞相の御前であるぞ!」テレサはドガーラの顔を見据えると叱責したが、
次の瞬間テレサの目は和らぎ、ドガーラは彼女の真意を受け取って無言で引き下がった。

「大帝閣下、サーベラー丞相殿、妾は "輪廻の雷" を携えたままこの身を帝国にお預け申す。 しかして我が臣下のみ
ならずガミラスを初めとする他勢力は帝国が妾の身を得た事で攻撃的態度に出る事を心配している。」テレサは一度
ここで言葉を切った。

「しかして、大帝陛下、その様な所業をなさらぬ事を "古への星の海往く船乗りの約定"に基づき確約して貰いたい!」
テレサは直立しつつ、胸を反らし、両腕を腰の辺りに広げ自らの身体の全てを隠さずに言った。

その姿にその場にいた一同は声を失った。
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<美しい、美し過ぎる・・・。>サーベラーは同性を見ている事も忘れてテレサの裸身に見入っていた。

<はっ、大帝閣下は・・・。>サーベラーは大帝がテレサの裸身に見入っている姿を想像してしまい、玉座の方を見るのが
憚られた。

大帝も男である、鼻の下を伸ばした顔を晒している事を恐れたのだ。

しかし、大帝は大笑いをするとテレサの行動に感嘆の意を述べた。

「テレサ・テレザート、何と潔い女性(にょしょう)よ。 ここまでやられては腹も立たん、笑うしかあるまい、
のうサーベラー。」大帝は一段下に控えた丞相に声を掛けた。

サーベラーは大帝の意を酌むと部下が用意したポンチョ様のドレスをテレサに差し出した。

テレサは能面の様な表情のままそれを受け取ると頭から被った。

「なっ、これは!」ガルダ・ドガーラやボ・ルドウ達、テレサ側の側近達は屈辱に色めき立った。

何故なら渡されたドレスは極度に布地が薄くテレサの裸身は殆ど隠し切れない物でしか無かったのである。

テレサの側近達は大帝が主人を晒し者にしようとしていると受け取り怒りを露わにしたのだった。
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「待てい!」テレサが左手を肩の高さまで上げ、掌を後方に居る側近達の方に向けて彼等を制した。

<しめた!>サーベラーはテレサがドレスを着用したのを確認すると手の内に隠し持った小さなリモコン・スイッチを
押した。

しかし、何も起こらない、彼女は焦ってリモコンを眼前に持って来てテレサに渡したドレスを拘束衣に切り替えるボタンを
連打したが何も変わらなかった。

「見苦しいぞ! サーベラー。下がれ!」大帝の叱責の声が飛んだ。

「はっ。」サーベラーはリモコンをマントの内に隠すと大広間から退いた。

<大帝、喰えない男だ。妾に拘束衣を着せようとしたのは自分のくせに、その試みが失敗すると部下に責任を
押し付ける、典型的な独裁者のやり方だ。> テレサは大帝の支配者としての器の大きさを見誤っていたと感じた。

<くそっ、テレサ・テレザートは空間跳躍の技を持って電磁波の遮断も出来るのか!>サーベラーは歯軋りしたが実際は
テレサといえどその様な事が出来るはずも無く、ドレスを受け取った時 "輪廻の雷" から大電流を導き出してドレスに
仕込まれた変形回路を焼き切っただけの事であった。

しかしテレサの空間跳躍の技の数々を見せつけられているガトランティス側は勝手にこれも空間跳躍の技の一つと
誤解したのである。

その事に期が到来した事を感じたテレサは大声で宣言した。

「方々、妾の力をこれで充分に認識された事であろう、妾ごとこの力を封印する事は帝国、新王国のみ成らず、
ガミラスにも平和をもたらす物じゃ!」テレサは大胆に大帝を指差した。

<テレサ様、本当にこれで良いのですか?> "迅雷"のガルダ・ドガーラは自ら幽閉の道を選んだ主人の心が
解らなかった。

<姫、脱出するなら今ですぞ!>旧侍従長ボ・ルドウもテレサの真意が解らなかった。

<爺、ドガーラ、そなた達なら今は解らなくとも必ず解ってくれると信じておるぞ・・・。>テレサは最早ドガーラやルドウの方を見やりもしなかった。

だが、その口元には笑みが浮かんでいた。

「ヤマト・・・。」それは誰にともなく語られた。

「え? ヤマッテ・・・?」サーベラーが問い返した時テレサは既に謁見の間から姿を消していた。


                                        199. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(17)→ この項続く

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# by YAMATOSS992 | 2016-03-05 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)
 <皆、生命の無駄使いをしおって・・・。>テレサは種族の垣根を越えて自分を支えてくれる人々がこんなにも居る事が
嬉しかった。

「しかし、このままでは行かん! この馬鹿げた戦いを終わらせねばならない!」テレサはキッと表情を引き締めると
"輪廻の雷" を取り出した。

ドガーラはそれを見て驚いた、いや "輪廻の雷" を取り出した事にでは無い、彼が驚いたのはその数だった。

その数は四つ、テレサはその内の三つを小さく縮めると指輪の様に左右の指にはめた。

そうすると、"輪廻の雷" には見えず単なる綺麗な光輝く指輪にしか見えなかった。

テレサは一つ残った "輪廻の雷" を自分がくぐれる大きさに広げると中に身体を押し込もうとした。

「テレサ様、どこへ行かれる御積りですか?」ドガーラはテレサの行動に嫌な予感を持ったのだ。

「決まっておる! この無駄な抗争をやめさせなければならない!」テレサは何を判り切った事を聞く?と言うそぶりを
見せた。

「テレサ様、貴女がここから退去して頂ければこの戦いは自ずと収まります。
彼等は貴女の脱出の為に奮闘しているのですよ!」テレサの身勝手がドガーラは許せなかった。

「妾がここを黙って立ち去れば確かに今行われている戦闘は収まるかもしれない。 
しかし、ガミラスの方はともかく、そちやナーカスは大帝、いやサーベラーの詮議を受けるだろう、何しろ仇敵ガミラスと
手を組んだのみならず旗艦を合同で攻撃したのだからな。」ドガーラはテレサが一歩先を読んでいる事に驚きを感じた。

「妾はこれより、この艦の艦橋に戻る、そこで大帝と交渉して来る! そちも駆逐艦で早々に退避せい!」
テレサの行動は大胆だった。

二の句が継げずに立ち尽くすドガーラを尻目にテレサは "輪廻の雷" をくぐった、その時であるドガーラも床を
蹴って跳び 、"輪廻の雷" が閉じ切る前に自分も "輪廻の雷" が作る空間跳躍回廊に飛び込み消えて行った。

**************************************************

「旗艦の直営艦隊はどうした? 何処で何をしている!」サーベラーは艦橋に怒鳴り込んで来た。

「はぁ、それが一隻も連絡が付かない有様でして後方に待機している船団護衛艦隊をこちらに廻す様、手配中です。」
艦長がこの状況にも冷静さを失わない態度でサーベラーに応えた。

「致し方無い、早うせい!」艦長の平静な有様にサーベラーは気押されたが、それを周囲に知られたく無かったので
自らも平静」を装った。

「慌てるで無い! ゆっくりで良い、ゆっくりでな。」艦橋に艦長達の知らない声が広がった。
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<テレサ・テレザート、まだ艦内に残っていたのか・・・。>艦橋の中が騒然とする中、サーベラーはその声の主が誰だか
解った。

「姿を現せ! 卑怯だぞ!」サーベラーは大声で呼ばわった。

「そんな大声を出しては喉を痛めるぞ、サーベラー殿、場所を変えよう、ゆっくり話せる場所でな。」テレサは抜け目無く
サーベラーを一人にする事を画策した。

「 "謁見の間" が良かろう、ついて参れ、どうせ大帝陛下にも話を聞いて頂く積りであろう?」サーベラーが再び罠に誘った。

「宜しいですわ。 大帝の御前で話合い、同意致します。」テレサは殊勝に応えたが、彼女は油断なく目配せをして
ドガーラに斥候を命じていた。

ドガーラはその意を無言で酌むと影の様にその場から走り去って行った。

**************************************************

「こちらが、兵を引く条件は二つ、一つ目は今回、妾の救出に尽力したガトランティス人とその部族の詮議を行わない事。
もう一つはガミラスの支配圏への侵攻を止める事だけです。」テレサは大帝がとても呑むとは思われない条件を
突付けた。

「何を馬鹿な、お前とお前の仲間に残されているのは無条件降伏の道だけじゃ!
この旗艦たる超巨大戦艦に僅かばかりの傷を負わせたからと言って調子に乗るで無い!」サーベラーはテレサの
尊大な態度が許せなかった。

サーベラーは衛兵を呼び、テレサを取り押さえようとしたが、何か様子がおかしいのに気が付いた。

"謁見の間" を守る衛兵の気配が無いのである、テレサが身の安全を図る為に何かしたとしか思えなかった。

「だらしない者共だ。たった一人の間者に惑わされて衛兵共は皆倒された。サーベラーこれはお前の失態だぞ」尊大な
声が闇の奥から響いて来た。

「ははぁ、大帝陛下、お叱りは後で受け賜ります。ですが今はテレサ・テレザートとの交渉中です。今しばらくの御容赦を
賜りたく存じます。」サーベラーは冷や汗をかいていた。

大帝は衛兵と間者の闘争を知っていた、それは彼がこの部屋に居た事を意味する。

この部屋は "謁見の間" としての性格上、監視カメラも盗聴器も仕掛けられていない、大帝が闘争を知っていると言う事は彼が直に見聞きしたと言う事だ。

<良く闘争に巻き込まれ無かったものだ。>サーベラーは大帝の胆の太さ鋭敏な判断力に感心した。

**************************************************

「テレサ・テレザートよ、停戦に関するそちらの条件は判った。しかし、別に我が方はそち等と停戦しなければならない
理由を思いつかんのだが・・・。」大帝が尊大に告げた。

「陛下! この様な成り上がり者と言葉を交えては成りませぬ!」サーベラーは自分抜きで交渉が進むのが
許せなかった。

「良いではないか、それにここにおわすはセジャード族、第二王女レティファン・クエシャザードその人だぞ、決して
下賤の者では無い、十分立派にお前の代わりは務まると儂は考えて居るぞ」そう言って大帝はサーベラーの貌を
青ざめさせた。
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<陛下、私を捨てるとおっしゃるか!>サーベラーは今まで大帝に尽くして来た日々は何だったのかと悔し涙を流した。

「案ずる事は無い!サーベラー殿、妾は大帝の下僕になぞ成りはしない。」テレサは手にした "輪廻の雷" を頭上高く
放り投げた。

「サーベラー殿、本艦の左舷、前方よりの空間をモニターに映し出されよ!」テレサの指示に誇りを傷つけられた
サーベラーは何か言い返そうとした。

しかし、大帝は右手を挙げてサーベラーを制止しテレサに許可を与えた。

「良い! 面白い余興、楽しみにしておるぞ。」大帝は不敵に笑った。

「ではお言葉のままに!」テレサは左手薬指にはめていた別の "輪廻の雷" を外して先程投擲し空中に浮かんだままの
"輪廻の雷" の中央めがけて放り投げた。

すると後から投擲した "輪廻の雷" は既に空中にあった "輪廻の雷" の中央をくぐり、空間回廊を抜けて先程テレサが
指示した空間に空間跳躍により出現した。

大帝の前、謁見の間の奥にある巨大なスクリーンには小さく光る "輪廻の雷" が確かに映し出されていた。

「何をしようと言うのか? レティファン姫よ。」大帝の言葉にテレサは応えず、スクリーンの真下に移動して膝を着き、
最敬礼をした。

「御覧あれ! 我が力の一端を!」テレサはそう叫ぶと一端、上に挙げた両手を合わせ、次に勢い良く両手を左右に
伸ばした、すると指輪大でしか無かった二つ目の "輪廻の雷" は大きく広がり傍にあったククルカン級駆逐艦の残骸を
包み込んだ。

次の瞬間、猛烈な閃光が走り、その残骸は綺麗さっぱりと消えていた。

「・・・。」あまりの事に大帝もサーベラーも言葉を失った。
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「今の技はどんな目くらましか!説明せい!」サーベラーは恐れを打ち消そうとするかの様に呼ばわった。

「静かにせい! サーベラー、丞相らしくしかとと構えよ!」流石に大帝は落ち着いていた。

「姫、そなたの力は違う物質世界とこの世界の間に回廊を開けるのだな。」大帝は物理学にも堪能だった。

「そうです。 妾の操る "輪廻の雷" は本来この宇宙の中だけで空間跳躍を行う回廊を開く物です。
しかし、ある時偶然に "負の物質界" に回廊が繋がってしまったのです。
妾はその座標を記憶しておき、必要に応じてその世界との間の回廊も開ける様にしたのです。」テレサは言葉を選んで
説明した。

<それはこの超巨大戦艦の中に反物質の奔流を呼び込む事が出来る、と言う事か!>さすがのサーベラーもテレサの
能力に戦慄した。

「大帝陛下、貴方々に取っても停戦した方が良い理由、お判かり頂けたでしょうか?」テレサは自信に溢れた言葉を
告げた。

「小賢しい、その程度の能力、陛下が恐れると思ってか!」再びサーバラーが吠えた。

「確かにこれは堪らんな・・・。しかし、我等もそちらの条件を鵜呑みにする訳にはいかん、こちらにも体面があるのでな。」
大帝はテレサとの交渉に乗って来た。

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<これがガトランティスの長が指揮する旗艦だったのか・・・。>メルダ・ディッツはそのあまりにも巨大な艦影に、
今まで闇雲に戦っていた自分達が愚かに思えた。

しかし、テレサ・テレザートはそのガトランティスの長、大帝と交渉して停戦に持ち込んだのだ。

<底の知れないお人だ。>メルダはテレサの実力の強大さを思った。

メルダはテレサの人と成りを、僅かな接触だったとは言え、予め知っていたからこそ、ドガーラの要請により、
ナーカス艦隊との戦闘を即座に止め、テレサ救出作戦に参加したのだ。

しかし、どの様な交渉をしたか解らないがあれ程激しかった超巨大戦艦の反撃は止んでいた。
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そしてメルダやナーカスにも停戦の要請がテレサからの直接連絡で来ていた。

「司令、我々の役目は終わりました。 即時帰還命令をお願いします。」ルルダ・メッキラ艦長が督促した。

「まだだ、この化物の行先を確認しない内は任務は終わったとは言えん!」メルダは大帝を全く信用して居なかった。



                                         198. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(16)→この続く
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# by YAMATOSS992 | 2016-02-27 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)
 <しめた! メルダ殿、ナーカス殿、感謝しますぞ!>心の中で大帝の注意を引付けてくれている盟友達に感謝した
ガルダ・ドガーラは旗艦防衛の為出撃し、ガラガラに空いた駆逐艦用船着き場に自分の駆逐艦を止めた。

申し訳けばかり駐在していた衛兵も着いたのがククルカン級駆逐艦で降りて来たのがガトランティス人だった為、
安心したのか、形ばかりの誰何でドガーラの率いる小隊を通してくれた。

「ドガーラ様、テレサ様の行方はどうやって確かめる御積りですか?>部下の一人が訊ねた。

「なあに、あの恐れを知らない "姫様" の事だ、我々に合流出来なかった時点で脱出の方針は捨てたはずだ。」
ドガーラは不敵な笑みを浮かべた。

「では、我々は何処に向かえば良いのですか?」別の部下が不審な気持ちを表した。

ドガーラは手書きの旗艦の略図を広げると艦橋を無言で指差した。

彼には部下達の息を呑む音が聞こえた様な気がした。

「心配するな、ここに行くのは俺一人だ、お前達はここに残って退路を確保して欲しい。」ドガーラの作戦は決して
無茶なものでは無い、テレサは個人用空間跳躍装置、"輪廻の雷" を持っている、ドガーラはテレサと合流出来
次第、"輪廻の雷" でテレサと共に空間跳躍して自分達の駆逐艦に戻れば良いと考えていた。

かえって部下達が居ると空間跳躍に手間取り脱出が失敗する可能性が高いと判断したのだ。

それより部下達は寡兵とはいえ、駆逐艦発進・着艦口を首尾している衛兵群を制圧し、脱出の足となる駆逐艦を
守るべきなのだ。

ドガーラの作戦を理解した部下達はドガーラと時計を合わせると船着き場の各所に散っていった。
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部下達が着・発進口に繋がるエア・ロックに消えたのを見届けるとドガーラは意を決して艦橋を目指し通路を走り始めた。

**************************************************

「ええい! まだ敵艦隊は殲滅出来んのか! この艦の巨大砲は殲滅戦艦メダルーサの備砲と同じ物だぞ! ”雷鳴”の
ゴラン・ダガーム如きが敵艦隊を殲滅したのに何故、本艦はそれが出来ぬ!」サーベラー丞相は猛り狂っていた。

しかし、殲滅戦艦の主砲は火炎直撃砲、巨大砲のエネルギーを空間跳躍させて選んだ敵に直接ぶつける兵器である。

砲身があさっての方向を向いていても跳躍終了点の座標が敵艦に合って居さえすれば命中するのである。
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反対に旗艦の巨大砲は口径こそ大きく発射出来るエネルギーも莫大であるが、そのシステムは通常の火砲と
なんら変わりが無く、射線を敵艦に正しく向けなければ決して命中は覚束ない、また砲塔の旋回速度も巨大であるが
故に遅く、素早く跳び廻る敵艦に追従出来ないのだ。

その事を理解しろと言うのは軍事の専門家では無く、兵器に精通していないサーベラーには無理な注文であった。

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<ドガーラ殿、テレサ様救出はまだか!こちらは "自在雷" 放出用のエネルギーがもう尽き掛けている!>ナーカスは
今だ成らぬテレサ救出に痺れを切らしていた。

「自在雷に廻せるエネルギーは底を尽きました!」機関部長が冷徹な報告をした。

「航法士、慣性航行に切り替えろ! "自在雷" を含め砲撃を絶やすな!」ナーカスは航行を止めても火力は絶やさない
方針だった。

慣性航行に切り替え、等速で移動するナーカス艦隊は幾ら火力を維持していても超巨大戦艦の巨大砲にとって
止まっているも同然の良い目標だった。

超巨大戦艦の巨大砲がゆっくりと廻り、ナーカス艦隊にピタリと照準を付けた。

<俺の武運もここまでか・・・。>ナーカスはこれまでの苦しい戦いの数々に想いをはせた。

しかし、次の瞬間、ナーカス艦の艦橋・メインモニターにはガミラス艦の姿が大写しになり、大帝の超巨大戦艦の姿は何処にも見えなかった。

<・・・。>事態の見えないナーカスに向けて言葉を放ったのはメルダ・ディッツ大佐であった。

**************************************************

「ナーカス艦隊、高機動戦闘を止め、慣性航行・戦闘に入りました。」探査主任が報告した。

<むぅ、航行エネルギーまで火力に廻さなければならない位、エネルギーが欠乏して来たか!>メルダは事態が
深刻な物になって来たのをひしひしと感じた。

<このままでは自滅する・・・ここは一端、距離を取って艦も兵も休ませなければならない!>メルダは冷静に状況を
分析した。

「短距離・ゲシュタム・ジャンプ! 超巨大戦艦とナーカス艦隊の間に割って入れ、ジャンプ終了後、ゲシュタム・
フィールドを全力で展開、極力広い宙域を防御し、味方艦隊の撤退を援護する!」メルダはにとって
"古への星の海往く船乗りの約定" を交わした者はその出自を問わず仲間だった。

『 "刃雷" の戦士、ヨダム・ナーカス殿、死ぬのはまだ先です! 我等は "迅雷" の戦士、ガルダ・ドガーラ殿から託された
役目を果たし終えておりません!」メルダはナーカスに無駄死を戒めた。

その間、メラ・ドーラⅡ(ア・ルー)は超巨大戦艦の巨大砲から送られる破壊ビームを一身に受けてナーカス艦隊の
楯となっていた。
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<ふっ、"イルダの贈り物" ?が役にたったわ!>メルダはバラン星域でクリピテラ級駆逐艦の主機関を三基回収する
つもりだったが、結局二基しか回収出来ず、残りの一基はクリフ・ラッド大尉が持って来てくれた、"イルダの贈り物" 、デストリア級重巡の主機関を装備した。

おかげでガイデロール級の艦体にそれが収まりきらず外部に出っ張ってしまったので第二砲塔様のカバーを付けざるを
得なかったのだが一基だけとは言え、出力が大幅にアップ出来たのは僥倖だった。

この余力が巨大砲の猛威からメラ・ドーラⅡ(ア・ルー)自体だけで無く、ナーカス艦隊まで含めて防衛出来たのだ。

「メルダ殿・・・。」ナーカスはメルダの身体を張って自分達を艦隊ごと守ってくれた事に言葉を失った。

「何をグズグズしている! 早く距離を取って安全を確保しろ! 態勢を整えるのはそれからだ!」メルダの強い言葉に
ナーカス艦隊は次々と空間跳躍して安全圏内に撤退して行った。

「我々も一度撤退しますか?」ルルダ・メッキラ艦長がメルダの指示を仰いだ。

「いや、我々まで撤退してしまったら敵の注意を引付ける役が居なくなってしまう、今の状況でそれはまずい!」メルダは
更に大胆な作戦を告げた。

「敵艦の至近距離に本艦をゲシュタム・ジャンプさせる。
敵の火砲は図体が大きい分、至近距離にいる艦を目標にするのは難しいはずだ!」メルダはメラ・ドーラⅡ(ア・ルー)が
指揮戦艦である事を最大限に利用するつもりだった。

自艦が敵との距離が近すぎて攻撃出来ない場合でも配下のデストリア級重巡戦隊は自由に誘導出来る、
また、ナーカス艦隊の撤退で開いてしまった穴は "反射遊星砲" や "光の花園" で補う考えだった。

**************************************************

<なんと大胆な奴だ! ここまで接近されてはこちらの火砲は殆ど役に立たない!>超巨大戦艦の艦長は舌を巻いた。

巨大砲より大分小ぶりの口径を持つ輪動砲だけがメラ・ドーラⅡ(ア・ルー)に直撃弾を与える事が出来たが、短時間なら
巨大砲のビームすら弾くゲシュタム・フィールドを貫くには及ばなかった。

<なんとしぶとい、巧妙な戦い方だ! ガミラス恐るべし!>艦長は大損害こそ受けなかった物の、ブスブスと刺さって
来るヤブ蚊の様なガミラス艦の攻撃に次第に広がって来る損傷が艦長の不安を煽り、艦橋にいた全員の注意を艦外に
引付ける事に成功していた。

<メルダ殿、ナーカス殿、ここまで頑張ってくれるとは! 感謝しますぞ!」ドガーラは艦内集中情報管理室を制圧、
艦内監視カメラ網のネット・ワークに割り込んでテレサを捜していた。

衝撃音と共に艦が大きく揺れた,メルダの率いるガミラス艦隊の攻撃が超巨大戦艦の比較的弱い部分に命中したのだ。

ドガーラの居た情報管理室の中は長年部屋の隅や機器の上や後ろに溜まった埃が舞って一寸先も
見えない状況になった。

やがて視界が開けてくるとドガーラの目の前に信じられない人がいた。

「テレサ様、ここで一体何をしておられるのです?」ドガーラが不審そうに訊ねるとテレサは無言のまま、照れ隠し笑いをした。

彼女は情報管理室の天井付近に走っている電路や光ファイバー回線を収めた配管の上に潜んで情報収集を
していたのだが先程の被弾による衝撃で床に振り落とされてしまったのだ。

幸い、後から来たドガーラが情報管理室を有無を言わせず制圧してくれていたので改めて闘う必要は無かった。

「来たか、私なぞ放り出して置いても良かったのだが・・・。」テレサは話をそらす様に言った。

「そうは行きません! 貴女を "改革の星" と定め、慕っている者が大勢います! 簡単に見捨てる訳には参りません! 貴方はガトランティスだけで無くガミラスからでさえ有望な "指導者" として期待されているのです。」ドガーラの言葉に
テレサは船外監視モニターの一つに走った。

そこにはメルダ艦隊、デーリアン少将率いる "殲滅回廊" 守備隊残党、そしてヨダム・ナーカスの艦隊が船縁を揃えて
超巨大戦艦を攻撃している様が映し出されていた。

「ガミラス艦隊の総司令はメルダ・ディッツ大佐、ガトランティス艦隊の指揮官は "刃雷" のヨダム・ナーカス、私の古い
友人です。 皆 "古への星の海往く船乗りの約定" に従って集まった友軍です。 私がこの艦に忍び込み、貴女を
助け出すまでの間、時間を稼いでくれているのです。」ドガーラはテレサの質問を待たずに告げた。







                                       197. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(15)→この続く

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# by YAMATOSS992 | 2016-02-20 21:00 | ヤマト2199 挿話 | Comments(0)