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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

 「日本の地下都市には夜があるのね。」フローラーはホテルの窓辺で外を見ながら言った。

<姉貴はロマンチストだからな。俺は燦々と太陽が照っていたっていっこうに構わないぜ。>公園のベンチに
座った、フレイヤは古代守の左腕に顔を埋めながら心の中でうそぶいた。

「まさか君が来てくれるとは思わなかったよ。 ワルキューレ・・・。」 守は天井を見詰めながら言った。

<その名前で呼ぶのはやめて・・・。あなたまでヴァルハラに送りたくない・・・。>フローラーは頭を振った。

ヴァルハラとは北欧神話に出て来る大神オーディーンの宮殿である。

戦死した勇者の中でも勇猛な勇者がオーディーンによって選ばれ、その魂を迎えにゆくのがワルキューレと
呼ばれる女神達なのである。

本来、フローラー・ライニック大佐、フレイア・ライニック中佐は欧州連合軍の重巡艦長である。

二人はフローラーがシャルンホルスト、フレイアがグナイゼナウを指揮して2隻で戦隊を組み、土星宙域で
土星から採取した水素とメタンの資源を冥王星へ運んでいたガミラスの輸送船団を狙って通商破壊戦を
挑み、1年半もの長きに渡ってガミラスを悩ませた実績を持っていた。

二人は、補給の為、訪れた木星のエネルギー・プラントで古代守に出会った。

しかもその時、古代は「ゆきかぜ」で宇宙空間を漂っていた。

ガミラスの通商破壊艦隊を撃滅したが自らの艦隊も推進剤切れで漂流する羽目に陥っていたのである。

呆れた二人であったが、フローラーは推進剤をプラントまで辿り着ける量、分けてやった。

 プラントに着くと僅かな暇を盗んで何事にも積極的なフレイヤは直ぐに古代守に粉をかけた。

本来なら単なる恋人同士になるはずだった。

しかし、ライニック姉妹は普通の姉妹ではなかった。

守は知らないがフレイヤ姉妹は二人で一人なのである。

恋心など強い感応力で直ぐに判ってしまう。

フレイヤもまた姉のフローラーが守に強い恋心を抱いているのを感じていた。

無理も無い、二人は大型戦闘艦の艦長とはいえ、まだ20代の女性なのだ。

だが古代守の心にはすでに一人の女性が住んでいた。

彼女はもはやこの世の人ではない。 ガミラス遊星爆弾の犠牲になったのだ。

守は彼女に地球防衛のためその身を捧げる事を誓っていた。

愛を告げるフレイアに守はその事をはなし、フレイアの愛を受け入れられない事を告げた。

<死んだひとに何を義理立てしているの!>フレイアはもう少しで叫びそうになった。

しかし、フローラーの心がそれを押し止めた。

<この戦いは苦しい、絶望的ですらあるわ。 戦い続けるには、誰しも理由が必要なのよ。>

<俺達の理由は、いや俺の理由はどうなるんだい!>去ってゆく古代守の後姿を見詰めながらフレイアは
思った。

**********************************************

 「真田君、紹介しよう。 欧州連合の防衛軍、フローラー・ライニック大佐とフレイア・ライニック中佐だ。

今回の奇襲作戦で君を作戦宙域まで運んでくれる。」沖田は真田にライニック姉妹を紹介した。

「真田さん? 欧州連合でもお名前は窺がっております。 今回、作戦に協力出来て嬉しいですわ。」
フローラーが挨拶した。

「残念ながらまだ、作戦の詳細は発表出来ない。 しかし、少数精鋭である君達の協力が是非必要なのだ。」
沖田は辺りに気を配りながら言った。

ここは防衛軍の施設ではなく、地下居住区の片隅だった。

何故、沖田は会見の場を防衛軍施設内にしなかったのか、ライニック姉妹は不審に思った。

しかし、真田は技術者らしく、説明を始めた。

「沖田提督のおしゃる通り、詳細はまだ、話せません。 しかし、大まかなお話はしておかねば、お二人の
協力は得られません。」

「今回、我が地球防衛軍、日本艦隊は全力をもって、ガミラス冥王星前線基地を攻撃します!」

ライニック姉妹は息を呑んだ。

「冥王星! 無茶だ。あんな遠くで行ける軍艦は無い!」 フレイアは思わず叫んでいた。

「沖田提督、まさか武装を降ろして、航続距離を伸ばすつもりですか?」フローラーは落ち着いてはいたが、
その声には非難がこめられていた。

確かに今の日本艦隊の艦艇でも積めるだけ推進剤の増装を積み、武装を降ろして軽量化に努めれば辿り
着けない距離ではない。

しかし、それではただでさえ性能に差のあるガミラス艦隊とどう戦うと言うのだ。

「これは日本の伝統、特攻じゃないのかよ?」フレイアは抗議した。

「そうだ、この作戦だけしか行わなければ・・・な。 この遠征は陽動だ。 本命は別にいる。」沖田は落ち着いて
応えた。

「陽動? まさか本命と言うのは・・・。」フローラーが戸惑いを見せた。

「真田君と君達だよ。」沖田は事も無げに言った。

**********************************************

 欧州連合の重巡、シャルンホルスト、とグナイゼナウで編成された特別遊撃艦隊がひっそりと地球から
旅立ってから三日後、艦隊は火星と木星の間に散らばる小惑星帯に到達していた。

「やれやれ、艦長席とは随分座り心地の悪い椅子だな。」大山はグナイゼナウの艦長席に座らされていた。

「贅沢だぜ。 大山さん、計器の付いている席で今開いているのはそこだけだ。

そこはこの艦のあらゆる部署からの情報が一点に集まる唯一の場所、お客さんのあなたには都合が
良い場所じゃないのかい?」フレイアは主躁艦席からおかしそうに話かけた。

確かにここに座っていればこの艦の内外の状況は手に取る様に判った。

これから大山は冥王星前線基地戦略攻撃の指揮を執るのだ。

ここは小惑星帯だが決して岩塊が密集して漂っている訳ではなかった。

宇宙空間の他の宙域に比べれば漂っている岩塊が濃いと言う程度であったが、それでも複数の岩塊が
数個、固まって漂っている所もあった。

大山はそうした小惑星密集帯の一つに艦隊を着けさせた。

「これから本作戦の詳細を説明します。」大山は作戦室に集まったライニック姉妹他、艦隊幹部士官を
一通り見渡した。

「まず初めに本来、来るはずだった真田技術少佐は防衛軍ドック関係者に大幅な欠員が出たため、転属に
なってしまいました。

私は「箱舟」計画の実務責任者、大山技術大佐、今回、私が本作戦を指揮します。」

「「箱舟」計画?」フレイアが不振な顔をした。

「大佐!それは軍機です!!」部下が慌てて制した。

「お偉方が何と言おうとかまわん! 我々の間に秘密があっては本当の協力は出来まい!」分厚いメガネの
レンズの下には男の目があった。

フローラーは古代守とは違った男の魅力に頬を赤らめた。

大山は語った。

地球防衛軍、日本艦隊では迫り来る地球滅亡の時に備えて地球脱出計画を立てている事。

その「箱舟」のエンジンとして捕獲したガミラス艦のエンジンを拡大コピーした物を積む予定である事。

そのエンジンは超光速航行を可能にするワープの技術が使われている事。

そのエンジンの解析は終わっており、理論は確率した物の、実地試験を行わないと真に実用化出来ない事。

今回の戦略攻撃はその実地試験を兼ねたものである事を告げた。

「その「箱舟」とやらで日本人だけが逃げるつもりなんだな?」フレイヤが詰問した。

「知らん!」大山はただ一言、言って笑った。

「少なくとも俺は乗るつもりはない。 俺の分、人なりDNAデータなり積んでいけばいいさ。」

<男の決めた事 ・・・か>

「負けよ。 フレイア 、さあ大山大佐、作戦の説明を続けてちょうだい。」フローラーは大山を促した。

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同行してきた工作艦「明石」から技術者達が出てきて宇宙空間に六角形の構造物を作っていた。

<あれがワープ・ゲートになるのね。>フローラーは自分達の作戦の要になる装置の建設を見やった。

「姉貴、俺たちの作戦宙域はもっと冥王星よりだぜ。 そろそろ出発しなければ予定時刻に遅れちまうぜ。」
フレイアが急かした。

「そうね。私達は私達の仕事をしましょう。 ゲルハルト、作戦宙域へ前進半速!」フローラーの命令を受けた
バルクホン大尉はシャルンホルストを巡航速度まで加速させた。

 今回のガミラス冥王星前線基地に対する戦略攻撃は極秘である事を必要とした。

万が一にも地球側がワープ技術を手にしている事をガミラスに知られてはならないのだ。

そのため、発射される戦略誘導弾は通常のミサイルではなく、ガミラスと同じ遊星爆弾を使用する事になった。

そしてワープ機関は遊星爆弾にではなく、ワープ・ゲートとして宇宙空間に設けられた。

工作艦「明石」は火星ー木星間にある小惑星帯から岩塊を加速、ワープ・ゲートを使って冥王星近傍に岩塊を
運ぶ。

超空間を潜りぬけた遊星爆弾は楕円軌道を描きながら冥王星前線基地を襲うはずだった。

シャルンホルストとグナイゼナウは航続距離の許す限り、冥王星に近づいて弾着観測を行うのだ。

単に攻撃だけで良ければ弾着観測は必ずしも必要ではない、しかし、今回は「箱舟」のエンジンの実用化と
いう大きな使命があった。

危険を冒してでも弾着観測は絶対に行わなければならなかった。

そしてライニック姉妹にとってははもっと大きな意味があった。

日本艦隊の残存艦全てによる陽動作戦である。

<一体、何隻が帰れるのだろう・・・。>楽観的なフレイアですらその任務の困難さに顔を曇らせた。

日本艦隊には古代守の「ゆきかぜ」も参加する事を姉妹は確信していたからである。


                                                     ヤマト出撃まで145日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-24 21:00 | 本文
「また、一つ遊星爆弾が地表まで達したか・・・。」藤堂司令はスクリーンに写しだされた遊星爆弾の着弾映像を
見て溜息をついた。

「このままでは「箱舟」計画の実施前に地球は滅亡してしまうぞ・・・。」絶望的な思いにかられ、つい弱気な事を
言ってしまう藤堂であった。

「その事ですが、長官、遊星爆弾の発射、ないしはコントロール基地の位置が判明しました。」総参謀長の
伊地知少将が報告した。

「何! それは本当か!」藤堂長官は意気込んで聞いた。

同席していた沖田提督もその言葉にキッと鋭い眼差しを伊地知総参謀長に送った。

「これまで飛来してきた遊星爆弾は太陽系の最外縁を取り巻く彗星の雲と呼ばれる軌道上、ランダムな
位置から発射されている様に観測されていました。

しかし、火星軌道にあった遊星爆弾の防衛ラインがガミラスによって撃滅されると発射位置が冥王星周辺に
偏って来たのが観測されました。」

「伊地知君、それは冥王星が発射基地だと言う事かね?」藤堂は参謀長にたたみ掛けた。

「はい、冥王星の地表から発射されている可能性はほとんどありませんが、少なくともコントロール中枢は
冥王星にあると思って間違いありません。」伊地知総参謀長は得意げに応えた。

「冥王星か・・・。 遠いなあ。 沖田君、どうだ。 敵の遊星爆弾コントロール基地を叩けるかね。」藤堂は
長年の親友でもある沖田提督に問うた。

「叩かなくてはならないでしょう。 何がなんでも・・・。 地球を今のままにはしておけません!」沖田は力強く
言った。

「とはいえ精神論だけではこの作戦は成功しません。 また、今の地球防衛軍の残存戦力を考えると
乾坤一擲の作戦になるでしょう。 もはや後はないと考えざるをえません。 藤堂司令、少し時間を下さい。」
沖田は藤堂に猶予を求めた。

しかし、伊地知総参謀長はそれを許さなかった。

「沖田提督、何を考えると言うのだね。 残存戦力を全て投入して作戦を実施する・・・。それ以外に
何があるのかね!」伊地知総参謀長は乱暴に言った。

「それは特攻するに等しい無謀な作戦です。 確かに冥王星は遠い、遠すぎます。 だからこそ作戦が
必要なのです。」沖田提督は穏やかに言った。

「伊地知君、沖田君に任せてみようじゃないか・・・。 沖田君、基本計画を3日後までに提出してくれたまえ。」 

「判りました。 それでは三日後に基本計画を提示します。」沖田は約束すると地球防衛軍本部を後にした。

防衛軍本部入り口の前には志願兵の長い列が出来ていた。

ここに到っても諦めようとはしない人々がこんなにもいるのだ・・・。

見ておれ!悪魔め! お前達の思い通りには決してさせないぞ !!

沖田は自分の負った責任の重さに身震いする思いだった。

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「やっぱり「栄光」の損失は大きいな。」山南大佐は「英雄」の艦橋で今日、仕留め損なった遊星爆弾の事を
思った。

「寺内君、すまない、今日も完全な防空は出来なかった。」 沈んだ「栄光」の艦長だった寺内大佐に心の中で
詫びた。

18インチショック・カノンの威力は絶大だったが、1隻では破壊力が限られてしまう。

「英雄」は3門のショック・カノンを艦首に同心円状に配置しており、破壊力は大きかったが、遊星爆弾も
大型化しており、突撃宇宙駆逐艦が反物質弾頭で砕いてもまだ破片は大きく、「英雄」1隻の
ショック・カノンでは一撃で粉微塵にするには足りず、2~3連射が必要だった。

「栄光」が健在なら2隻での連携射撃でかなり大きな破片でも一撃で粉微塵に出来、地球上にまで達する
遊星爆弾は無くせるものを・・・。

「英雄」1隻でどこまで持ち堪える事が出来るか・・・。 


山南大佐は遊星爆弾が飛来する方向の宇宙空間を何時までも見詰めていた。

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 ガミラス側も初めて体験したショック・カノンの威力に対策の必要を感じていた。

シュルツは一隻しかない砲艦に何が出来ると相手にしていなかったが、ガンツ中佐はあの砲が量産されて
それを積んだ戦艦がこの基地に襲来する危機感に囚われていた。

しかし、ここは前線基地、仮に新技術は開発出来ても量産は出来ない。

それでもガンツ中佐は撮った記録を技術士官に見せ、対抗策を講じる様、命令を下した。

限られた技術しか使えない技術士官達は困ったが、何とか対策を一つ生み出す事に成功した。

もともとガミラスの艦隊主力は駆逐型デストロイヤーと呼ばれる汎用の戦闘艦で量産が効くのと同時に
この大きさの戦闘宇宙艦としては非常に重防御で、小型戦艦、ないしは重防御駆逐艦と呼べるものであった。

これは地球側には無い艦種で地球側は戦艦だと思っていた位である。

この地球の戦艦には無い、高機動、強兵装、重防御は地球側の知らないオーバー・テクノロジーに
由来していた。

それはエネルギー転換型装甲だった。

ガミラス艦の装甲は単なる金属板ではないのだ。

エネルギーを与えれば与える程、強度が増すしろものだった。

もちろん、発生エネルギーには限りがあるから絶対無敵の装甲にはならないのだが、それでも通常の装甲
とは違って、発生出来るエネルギーに限りがある軍艦のエネルギーの効率的運用を可能にする技術だった。

つまり、航宙時は推進機関に多くエネルギーを廻し、攻撃時には兵装に、防御時には装甲にエネルギーを
廻すという方法で限られたエネルギーをより効率的に使うという思想のもと、量産された傑作艦だったのである。

但し、航宙、攻撃、防御、それぞれの行動時その部分の分配比率が増すだけで、航宙時には攻撃も防御も
出来なくなる訳ではなく、普通、航宙時、航宙に6、攻撃に2、防御に2、位の割合でエネルギーを分配していた。

戦闘時は 攻撃に3、防御に4、航宙に3、位の分配だった。

しかし、これではショック・カノンの攻撃に耐えられそうも無かった。

そこでガミラスの技術士官のひとり、ミッターマイヤー技術少佐の班は思い切った案を出した。

地球艦隊を迎撃する必要があるのは冥王星近傍の空間での戦いだけである。

他の空間、例えば木星宙域に地球艦艇が進出して来た場合は機動部隊で充分対抗出来ると考えたのだ。

冥王星近傍での迎撃戦に戦いを限定すればガミラス側は圧倒的に有利になる。

地球から冥王星を攻撃するには地球艦隊はワープ出来ないので長躯遠征しなければならず、機動部隊に
よる斬減作戦が使える。

更に、地球艦隊は冥王星にまで達する事が出来ても、帰還を考えると高機動は出来ない、すなわち航宙能力が
限定されると言う事だ。

こうした事を考えると航宙能力を落としてより装甲にエネルギーを廻す事が出来そうだった。

その案を部下から聞いたミッターマイヤーは更に大胆な改良をガンツに進言した。

それは冥王星空域まで遠征して来た地球艦隊の迎撃時、エネルギー転換装甲の転換率を100%にすると言う
ものだった。

地球艦隊は長躯、遠征して来ているので高機動は出来ない、それならば装甲と兵装にエネルギーの大半を
廻してしまい、更に防御時には装甲に100%のエネルギーを、攻撃時にはフェーザー砲に100%の
エネルギーを廻してしまうと言うものだった。

攻撃時には装甲板は本来の金属板の耐性しかなくなるが、もともとが軍用艦なので構造強度を上げる目的で
厚めの外板を持っていたため、そこそこの防御力を発揮する事が期待された。

この案はガンツ中佐のみならず、シュルツ司令にも承認され、実行に移された。

そしてこの改良は地球防衛軍にとって致命的な損害を与える事になるのである。

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「沖田君、この作戦計画、本気かね?」藤堂長官は額に汗を浮かべながら言った。

前回、沖田を批判した伊地知総参謀長ですら、息を呑んで何も言えなかった。

「ええ、私としてもこんな無茶な作戦はやりたくありませんが、物理法則には勝てません。 

それだけ、冥王星が遠いという事です。」 沖田はガミラスを攻撃する作戦を説明し終わるとスクリーンから
振り向いた。

沖田提督の出した案は遠征艦隊の各艦に推進剤の増装を出来るだけ沢山付けるだけではなく、兵装を
極力降ろして艦の軽量化を図るというものだった。

今、地球防衛軍、(といっても日本艦隊だけであったが・・・)が派遣出来るのは戦艦1、突撃駆逐宇宙艦15隻
が精一杯だった。

突撃駆逐宇宙艦の主兵装は誘導弾なので決定的な戦力の低下にはならないが、戦艦「英雄」は
フェーザー砲を大半降ろしてショック・カノンと誘導弾のみに兵装を絞ろうと言うものだった。

伊地知総参謀長は沖田提督の覚悟に呑まれながらも反論を述べた。

「こ、この作戦には一つ欠点があります・・・な。」

いぶかしげな藤堂長官の顔つきを無視して彼は言葉を続けた。

「ショック・カノンは外して行って下さい。 もし「英雄」が撃破された時、ガミラスに秘密が漏れたら、
「箱舟」計画に支障を来たします。」

「いい加減にしたまえ! 伊地知総参謀長! そんな詰まらん事に拘っていたら成るものも成らんぞ!!」流石に
藤堂長官は怒った。

しかし、沖田提督は達観していた。

「確かに機密は漏れては困りますな。 どの道、ショック・カノンでは艦隊戦は難しい・・・。フェーザー砲塔1基と
誘導弾でガミラス艦隊に立ち向かう事にします。 それとこの作戦、実は陽動です。」

沖田は思わぬ事を言った。

「陽動・・・!?」藤堂と伊地知は二人ともあっけにとられた顔をした。

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 三日前、沖田提督は地球防衛軍本部から帰る途中、地球防衛軍技術部に寄った。

そして、真田技術少佐に面会した。 「真田君、どうかねガミラス艦の駆動機関の解明は進んでおるかね。」

「はあ、解明は済んでおり、理論は確率したつもりですが、実動試験が禁じられているので、それが本当に役に
立つものなのか、判らない状況です。」真田は唇を噛んだ。

「やはり「箱舟」計画優先か・・・。」沖田の頭の内には伊地知総参謀長の顔が浮かんだ。

「地球防衛軍上層部は「箱舟」計画をぶっつけ本番でやるつもりなのでしょうか? ワープは空間を弄る
技術です。

小規模な実験を行って何が起こるか、確かめないと危険すぎます。」 真田は幾ら伊地知総参謀長に
説明しても聞いてもらえなかった不満を沖田提督にぶつけた。

「そこだ、もしワープに失敗した場合、何がおこるのかね?」沖田は真田の思いもしない事を聞いた。

「ワープ機関の規模にもよりますが、もし、「箱舟」クラスの船がワープに失敗すると3次元と4次元の間に
挟まってこの宇宙そのものが消し飛ぶ恐れがあります。 だから小規模な実験がどうしても必要なのです!」

真田は沖田に詰め寄った。

「箱舟」が地球を脱出した後、ガミラスの追撃を振り切るためにワープした時、もしワープに失敗すれば自らが
爆沈するに留まらず、この宇宙そのものを道連れにする危険があるのだ。

伊地知総参謀長はそうなれば憎いガミラスも同時に滅ぼせるのだから本望だとうそぶいていた。

「ガミラスがワープを実用化している以上、その危険は少ないな。 もし、その危険が深刻なものならガミラスに
よってとっくにこの宇宙は消滅しているはずだ。」 物理学者でもある沖田提督は落ち着いて分析してみせた。

「総参謀長も同じ意見でした。 提督、提督も小規模実験には否定的なのですね。」真田は残念そうな顔を
隠さなかった。

「確かにわしも単なる実験には否定的だ。 しかし、君の技術は実戦に使ってもらいたい。 実は今日は
その相談に来たのだ。」沖田は真田の思わぬ事を言った。

「実戦・・・ですか?」沖田の大胆な発想に舌を巻く真田であった。

**********************************************

 「地球最後の防衛艦隊の行動が陽動? どういう事かね? 沖田君」藤堂長官はいぶかしげに沖田に問うた。

「はい、長官、我々は遊星爆弾による戦略核攻撃に絶滅寸前に追い詰められています。

しかし、戦略攻撃はなにもガミラスの専売特許ではありません。

こちらも長距離誘導弾を用意して敵の遊星爆弾のコントロール中枢を戦略攻撃するのです。

そしてその誘導弾弾の到達時間と艦隊攻撃の時間を微妙にズラせば、艦隊の攻撃に気を取られたガミラスは
本命の誘導弾の攻撃を迎撃出来ないだろうと考えられます。」

沖田は大胆な作戦を口にした。

「まだコントロール中枢の場所は冥王星のどこだか特定できていないはずだが・・・。」藤堂長官は大きな疑問を
沖田にぶつけた。

「長官、伊地知総参謀長がそれを掴んでいないはずはないではありませんか、そうでしょう。総参謀長!」

「もちろん、掴んでいますとも、でなければ地球最後の防衛艦隊はどこへ向かえば良いのか、
判らなくなります。」伊地知総参謀長は判明したガミラス冥王星最前線基地の場所を慌てて付け加えた。

「それでは作戦の詳細の検討に入ってくれたまえ。頼むぞ!沖田君」藤堂長官は沖田提督に命令した。

                                                     ヤマト発進まで153日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-23 21:00 | 本文
 「なんたる事だ! 第4番惑星軌道上の迎撃部隊は排除したはずだぞ! 本星の第3惑星の艦隊や設備にも
大打撃を与えたはずだ。  どうして遊星爆弾の着弾率が低いのだ。」冥王星前線基地のシュルツ司令は
怒り狂っていた。

「なんとかしなければ、ガンツ!我々は処刑されるぞ!」

「司令、その事でしたら木星の浮遊大陸に置いた前哨基地から新たな情報が入っております。」ガンツは
新情報を報告した。

**********************************************

 「沖田君、『英雄』と『栄光』の大改装は成功したようだね。」藤堂長官が沖田提督に話しかけた。

「ええ、一応、遊星爆弾を「箱舟」の建造エリアに近づけない事には成功しています。

しかし、地球上に落ちる遊星爆弾の全てを迎撃出来ている訳ではありません。

地球上の汚染は確実に進んでいます。 残念ながら「箱舟」計画の実施は避けられないでしょう。」沖田は
付き合いの長い藤堂長官には無念な本心を隠す事無くさらけだした。

「ウム、確かに・・・。残念だが・・・そうだな。 とはいえ、南部重工業が開発した・・・新兵器、ショック・カノンと
いったかな?

すごい威力がある様だな。

あれを使えばガミラス艦も一撃で葬れるとか聞いておるが?」藤堂長官は自分の不安も打ち消す様に言った。

「ええ、今までのガミラス戦艦なら確実に撃沈出来ます。 それだけが唯一の光明です。 「箱舟」の脱出に
きっと貢献するでしょう。」 沖田は遠くを見る目になった。

しかし、歴戦を誇る沖田提督もガミラスの戦艦だと思っていた艦が実はガミラスの量産型の標準戦闘艦であり、
駆逐型デストロイヤーと呼ばれる重防御型駆逐艦とも言うべき地球にはない艦種だという事は知るよしも
無かった。

**********************************************

「それで、浮遊大陸の前哨基地は一体なんと言って来たのだ?」 シュルツ司令はガンツ中佐に発言を促した。

「どうやら敵は大型の砲艦を建造して遊星爆弾の迎撃を行っている様です。 

今までどおり、突撃艦による迎撃も行われていますが、かなり大型の遊星爆弾ですら、突撃艦と砲艦の
連携作戦で防衛されているのが浮遊大陸から発進したパトロール艦によって観測されています。」ガンツ中佐は
大遠距離から撮影した第1戦艦戦隊の映像をスクリーンに写しだした。

そこには遠距離で詳細は判らないものの、突撃駆逐宇宙艦を10隻ほど従えた大型艦が映っていた。

映像は動画で接近する遊星爆弾を突撃駆逐宇宙艦が粉砕すると地球落下軌道にある破片に向かって
大型艦がビームを発射、迎撃していた。

「この大型艦は木星会戦の生き残りではないのか?」シュルツ司令はガンツ中佐に尋ねた。

「たぶんそうでしょう・・・。しかし、何らかの改装を施して攻撃力を上げている様です。」

「改装?・・・か・・・。」シュルツは一人ごちた。

「記録映像は遠くて詳細はわからないのですが、ビームの色をみると今までのフェーザーより
かなり高エネルギーなのが判ります。

これは用心して掛らないと返り討ちに遭いかねません・・・。」ガンツは不安を隠しきれない様だった。

「戦艦クラスでは機動部隊による攻撃は効果が薄い・・・か? 宙雷戦隊によるワープを使ったヒット・エンド・ラン
(一撃離脱)攻撃は相手も突撃駆逐宇宙艦を擁している以上、迎撃される可能性が高いな。」シュルツは
再び腕組みをし直しした。

シュルツはもともと大マゼラン雲にあるガミラスの殖民星の出身で1兵卒から叩きあげて今の地位を築いた男
だった。

そのせいで若い頃は出世欲が強く、独断専行の常習犯だったが、歳をとってそこそこの地位を築くと今度は
保身に汲々とする様になっていた。

しかし、それは良く見れば慎重で頭を使った戦い方をする様になったとも言えた。

木星会戦はガミラスの戦略的勝利で終結したが、ガミラスは総司令のレッチェンス提督が戦死し、彼が
率いていた駆逐型デストロイヤー10隻と護衛の突撃艦多数、ガンツ少佐(当時)の別働隊でも
駆逐型デストロイヤー2隻を失っていた。

別の地区での戦闘で偵察用の重巡も4隻失っており、ガミラス側は戦術的には負けていた。

喪失分は本国に増援の艦隊を要請し、補給はされたが、その後の戦闘で更に5隻の駆逐型ミサイル艦を
失っていた。

増援要請をして数ヶ月も経たずに、また増援要請など出来るはずがなかった。

ガミラス冥王星前線基地の名誉にかけて・・・!

「ここは奇策をとるか・・・。」シュルツは顎をなでながらニヤリとした。

**********************************************

 「遊星爆弾の群れが火星軌道を突破しました。 個数は10個。 超大型です。」 火星軌道に派遣している
軽巡「神流(かんな)」からの警報が月の地下深くに設けられた遊星爆弾迎撃司令部を通して月の陰に
隠れていた第1戦艦戦隊に伝えられて来た。

「第1宙雷戦隊、先行して遊星爆弾を攻撃せよ。」 「英雄」の艦長、山南大佐は配下の突撃駆逐宇宙艦隊に
突撃を指示した。

「了解しました。 後始末はよろしくお願いしますよ。」古代守は山南に敬礼すると宇宙の彼方を目指して消えて
いった。

「第1戦艦戦隊も所定の位置まで前進する。 第1戦速で加速せよ!」山南も第1戦艦戦隊を遊星爆弾の
最終防衛線として定められた位置まで急速に移動する事を司令した。

遥か宇宙の彼方で10個の爆発が次々に観測された。

超大型になった遊星爆弾はもはや反物性ミサイルの様な効果が限定される武器では粉砕出来ず、もはや
旧式兵器として使われなくなっていた核爆弾や反物質爆弾が再び用いられる様になっていた。

こうした爆発型の兵器は遊星爆弾を粉砕すると同時に粉砕された破片を地球落下軌道から外す効果が
あったのだ。

そしてそれでもまだ地球落下軌道にある大型の破片を第1戦艦戦隊がショック・カノンで狙撃、最低でも
「箱舟」エリアへの落下を防ぐのが彼等の任務だった。

「地球落下軌道にある地表まで達する恐れのある破片は4個です。」 司令部からもデータが伝えられてくる。

「砲術長、射撃シーケンス発令、ショック・カノンによる迎撃を始めよ。」山南艦長が司令を下した。

「よし、ショック・カノン、照準プログラム用意、「栄光」とのデータリンク良好か?」砲術長は部下に確認を求めた。

「「栄光」とのデータ・リンク完全です。射撃プログラム完了!いつでもいけます。」照準を合わせた射手が
報告した。

「よし、射撃開始!」砲術長が叫んだ。

「英雄」と「栄光」の艦首からそれぞれ3本のビームが捩られて1本にまとまった様になって遊星爆弾の破片に
吸い込まれてゆく・・・。

そしてその2本のビームは更に一点に集まり、遊星爆弾の破片、4個は次々と粉々に破壊されてとりあえずの
脅威は去った。

「至近距離に金属反応出現!左舷後方です!」副航宙士が叫んだ。

「何!ワープか?」山南大佐は艦橋後部の窓に振り返った。

そこには「栄光」の右舷100メートル位の至近距離に見た事のない大型戦艦が出現していた。

これもガミラス艦か?山南は一瞬、とまどったが直ぐに「前進全速! 取り舵一杯!」を司令していた。

「栄光」もその司令に従おうとしたがガミラス指揮用大型戦艦の3連双大型フェザー砲塔に捕らえられ、ビームを
無数に浴びて爆沈して果てた。

しかし、「栄光」は爆沈する時、煙幕とチャフ、フレアーを辺りに撒き散らした。

これでガミラス艦は一時的ではあるが「英雄」の姿を見失った。

しかし、「英雄」が回頭して敵艦に艦首を向けようとしていた時、ガミラス艦も砲塔をめぐらして「英雄」を
捕捉しようとしていた。

その時、大型戦艦の右側面に次々と爆発が起こった。

古代守率いる第1宙雷戦隊が敵艦発見の報に遠距離射撃で援護してくれたのだ。

ガミラス艦にはマイクロ・ブラックホールを利用した反物性ミサイルが効果的だったが今、宙雷戦隊が
装備しているのは遊星爆弾粉砕用の反物質ミサイルなので効果は今一つだったが、ガミラス艦の注意を
そらすには充分だった。

山南艦長は「英雄」をガミラス艦の左舷に回りこませる事に成功し、必殺のショック・カノンをガミラス艦の
機関室があると思しきあたりに叩き込んだ。

「ガンツ!脱出だ!直ちにワープ!」シュルツは大型戦艦を戦闘空域から脱出させた。

ガミラス大型指揮戦艦は機関室スレスレのところを「英雄」のショック・カノンに貫通され、白紫の煙を吐き
ながらも土星宙域まで小ワープで脱出する事に成功した。

「危なかったな。ガンツ・・・。」あたかも自分の指揮が正しかったかの様に得意げな顔をしたシュルツ司令に
ガンツ中佐は複雑な思いをいだいた。

確かに脱出のタイミングの指揮は見事だった。 あそこでもう一撃、ミサイルなり、ビームなり、攻撃を
受けていたらこの大型戦艦といえども帰還は難しかったろう。

しかし、この作戦そのものは無謀の極みだった。

今回の作戦では大型の敵砲艦の機関部を狙うつもりで敵艦の後部へ小ワープで接近、攻撃を加えて直ぐに
またワープで脱出する、ヒット・エンド・ラン(一撃離脱)攻撃を行う予定であった。

そのため、シュルツは一度で大きな破壊力を集中出来る指揮用大型戦艦を作戦に投入したのだ。

しかし、木星近傍からの撮影映像では敵艦は1隻に見えていたのだが、実際にワープで接近してみると
近接した雁型にズレた単縦陣を組んだ2隻の戦艦だった。

ガミラスが遠距離映像では単艦であると誤認する程、「英雄」と「栄光」は近接した艦隊を組んでいたのである。

作戦どおり、シュルツ艦は艦隊後方にいた「栄光」の破壊には成功した。

しかし、「英雄」の反撃を受けて大型指揮用戦艦も中破してしまった。

ガンツは戦死したレッチェンス大将がこの大型戦艦が配備された時、何故、艦隊指揮用として自分の乗艦に
選ばなかったか、本当に理解した。

軍艦、特に戦艦は殆ど性能の同じ僚艦とコンビになり、戦隊と成らなければ真の実力は出せないのである。

地球上の過去でも同じ様な事が起こっていた。

1940年、ナチス・ドイツ海軍は開戦と同時に大西洋上に幾多の通商破壊艦を放ち、戦果を上げていた。

そして、海軍上層部は就航したばかりの当時、欧州一と謳われた大型戦艦「ビスマルク」をその仕上げとして
大西洋上に出撃させようと考えた。

しかし、当時、僚艦になるべき同型艦、「テルピッツ」はまだ慣熟訓練中で戦闘に参加できず、性能が近かった
戦艦「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」の戦隊はフランスのブレスト港に閉じ込められていた。

「ドイッチェランド」級のポケット戦艦は大西洋上に散らばり、合同する事は不可能だった。

またポケット戦艦では合同出来たとしても性能が違い過ぎて「ビスマルク」の足を引っ張る事になるのは
明らかだった。

そこでドイツ海軍司令部は重巡ではあるが、列強の条約型重巡より格段に強力な「プリンツ・オイゲン」を
僚艦としてつける事にした。

1941年5月18日、「ビスマルク」はゴーテンハーフェンを出撃、大西洋上での通商破壊作戦、
暗号名「ライン演習」に向かった。

英国艦隊は必死で迎撃、1941年5月24日、デンマーク海峡で「ビスマルク」を捕捉した。

しかし、英国艦隊は旗艦の巡洋戦艦「フッド」を砲戦開始から僅か8分で撃沈され、
僚艦の「プリンス・オブ・ウエールズ」も艦橋部に大損害を受けて落伍していった。

しかし、この戦いで自らも損傷した「ビスマルク」は重巡「プリッツ・オイゲン」を分離、単艦で修理と補給の
ため、フランスのブレスト港を目指したが、復讐に燃える英国海軍の執拗な攻撃のもと、ついに大西洋の
波間に消えた。

時に1941年5月27日 英国本国艦隊のほぼ全力を相手に戦った「ビスマルク」ではあったが、やはり、
同型艦の居ない単艦での出撃はいかに不沈艦といえども無謀である事を示した戦いであった。

ガンツ中佐にはその様な事は知るべくも無かったが、かつての上司、レッチェンス提督が要求した通商破壊用の
重巡12隻の派遣を取り消され、代わりに指揮用大型戦艦が一隻、送られて来た時、何故あれほど渋い顔を
したのか、理解した。

今回の作戦も同型艦二隻で行えば完全に成功した可能性が高い・・・。

いや、駆逐型デストロイヤーでも効果があったかもしれない・・・そう考えるとシュルツの作戦の甘さが悔しい
ガンツ中佐であった。

「こちらもやられたが、敵の砲艦も一隻は撃破出来たのだ。 これで遊星爆弾攻撃の効果は
もう少し上がるだろう。」帰還に成功し、冥王星前線基地のドックが写ったスクリーンを見詰める司令の
シュルツは到って楽観的な態度であり、ガンツ中佐はヤレヤレといった顔でシュルツの背中を見つめた。

                                                    ヤマト発進まで 213日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-22 21:00 | 本文
 ガミラスは地球圏の懐深くに5隻の駆逐型デストロイヤーに率いられた4個の宙雷戦隊を地球の大気圏上層
ギリギリのところへワープで送りこみ、地球軌道上や地表にいた艦艇や施設を残らず叩いて大打撃を与えた
はずだった。

しかし彼等は地球の衛星である月が1大工業施設として稼動しているのを軽く見ていた。

ガミラスの攻撃時、じっと息を潜めていた月は形ばかりの攻撃しか受けず、その地下深くでは木星会戦から
辛うじて帰還した2隻の戦艦が大改装を受けていたのだ。

日本艦隊の「英雄」と「栄光」である。

2隻は「箱舟」計画に使われる新テクノロジーの実験艦に選ばれたのだ。

「箱舟」計画は激化するガミラスの攻撃で居住することが不可能になった地球から選ばれた人達を脱出させる
最後の希望だった。

エンジンは元々装備していた反物質炉から破壊したガミラス艦から得た情報で作られた準波動エンジンへ
換装された。

それによってワープも理論上ではあるが、実現出来る見込みが立ち、今までの地球型のエンジンより5割増しの
出力が得られた。

また、「箱舟」は単艦でガミラスと戦いながら長期の航行を余儀なくされる事が想像されたため、通常の移民船
では考えられない位の強武装が求められていた。

そこで南部重工業が新しく開発した多段加速式フェーザー砲が主兵装に選ばれたが、「箱舟」の一隻、
『むさし』の喪失によって更に強力な加速による破壊力増大が求められたため、その実験も行う事になった
のである。

このフェーザー砲は今までに無かった大口径18インチであり、、また、今までと異なり、ビームの加速装置を
多段に備えるため、長い砲身を持っていた。

通常、真空、無重力の宇宙空間で用いる砲の砲身は慣性モーメントの制約上からも短い方が良いのだが、
今の地球はそんな事で贅沢を言っていられる場合ではなかった。

そして、多段に分割されたフェーザー・ビーム加速装置により、この砲は光速兵器にも係わらず、発射時に
反動を伴う点が今までのフェーザー砲とは異なっていた。

南部重工業の努力によってこの反動吸収には成功したが発砲時にはまるで実体弾を撃っている様に
見えるため、この砲はもはやフェーザー砲とは呼ばれず、「ショック・カノン砲」と呼ばれる事になった。

また、普通、実験艦は1隻しか作られないものだが、今の地球の置かれている現状を考えると実験即実戦で
効果を挙げる事が必要だった。

実験としては大きな成果でも実戦的に見た時小規模な成果しか挙げていないとやたら敵の目を引き付ける
だけで直ぐに対抗策をこうじられる恐れが大きかったからである。

実用に耐える威力を持って一気に成果を上げるには最低2隻で戦隊を組む必要がある・・・。

日本の地球防衛軍上層部はそう考えたのだ。

また、この2隻は「箱舟」計画の実施エリアを重点的に防衛すると共に、「箱舟」出発時にはその護衛艦として
一緒に旅立つ事も考慮されていた。

しかし、今までとは比較にならない程、長砲身のショック・カノンの装備は問題だった。

今までのフェーザー砲塔を降ろして新砲塔を載せる案もあったが、12門ものショック・カノンを充分に
機能させるだけのエネルギーは新型のエンジンでも出せなかった。

そして一番問題だったのが長い砲身を真空・無重力の宇宙で精度良く安定させる事だった。

この解決策は用兵者である沖田提督から示された。

「艦首の軸方向に固定装備してくれ。船の躁艦ならわが軍の航宙士は針の穴を通す様な躁艦が出来る。」と。

それにこの案にはもう一つ利点があった。

従来のフェーザー砲等の武装を降ろす必要がないのである。

そしてこのフェーザー砲も機関の出力アップによって5割増しの威力を持つ様になっていた。
(もちろんショック・カノンとの同時使用は出来ないが・・・。)

結果的に「英雄」「栄光」はそれぞれ3門の18インチ・ショック・カノンを同心円状に艦首に配置し、

2隻で6門のショック・カノンの斉射が出来る様になった。

これは「英雄」「栄光」のリンク射撃に必要な最低限の門数でもあった。

2198年2月20日、第1艦隊は大改装後、初めての出撃を迎えた。

しかし、一度に遊星爆弾10個の襲来を迎撃したが1個しか撃破出来なかった。

幸い、本来の目的であった「箱舟」エリアへの遊星爆弾排除には成功したが、それにしても少ない迎撃率で
あった。

「真田君、この撒布界の広さはどうにかならんかね?」沖田は技術部の実質上の頭脳である真田技術士官に
相談した。

「提督、これを見て下さい。」真田は説明用のスクリーンについさっき終了した戦闘のデータを映しだした。

それは大きな円が二つほとんど重なりあっている図であった。

「この緑の円が「英雄」の散布界、青い円が「栄光」の散布界です。」

散布界とは同時に撃った複数の弾が着弾した時、どの位の範囲に散らばるかを表すものだ。

散布界はある程度広い方が目標を捕らえ易いとの考えもあるが、命中率を考えるとやはり散布界はギュッと
絞った方が敵目標に当たる可能性は増える、今回の戦闘時の散布界の直径は100メートル前後ある事が
スクリーンには示されていた。。

「確かに散布界は大きすぎるが、ズレはほとんどない、と言う事は2隻のデータ・リンクに問題があるわけでは
ないな。」

「そうです。 もともと単艦での散布界が広いのです。」真田は事も無げに重大な問題点を指摘した。


「それは困る! 改良のしようが無いではないか!」沖田は普段なら見せない狼狽した様子を見せた。

ショック・カノンは現在の地球防衛の要にもなる重要な装備だったからだ。

「散布界が広いのは3門同時に発射されるショック・カノンのフェーザー・ビームが互いに干渉しあって
ほんの僅かですが外側に弾きあっていると考えられます。」

「それが大遠距離となると大きな誤差になるわけか・・・。

と、言う事は3門を1門に減らす必要があるということか? 運用上それは痛いなあ・・・。」

「いえ対策はあります。 発砲遅延装置です。」

「発砲遅延装置?」 沖田はその奇妙な名前に戸惑いの顔をみせた。

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 「成功です! 6個の遊星爆弾を全弾、連射で仕留めました。」 「英雄」の艦長から地下都市、大本営に
いた沖田の元に報告が入った。

さすが真田君、大昔の技術にも通じていたとは・・・沖田は真田の無限とも思える知識とその応用力に舌を
巻いた。

発砲遅延装置とは1940年代に日本海軍で開発された射撃精度の向上技術である。

当時、日本海軍はワシントン軍縮条約により、新型の戦艦が建造出来なくなり、排水量1万トン以下の巡洋艦に
出来るだけの強武装を施して戦艦勢力の劣勢を補おうとした。

これが「妙高」型「愛宕」型の合計8隻の条約型巡洋艦(通称重巡洋艦)建造である。

しかし、この条約締結前に日本は強力な偵察巡洋艦を求め、20センチ連双砲塔3基6門を備える「古鷹」型
「青葉」型の合計4隻を建造していた。

「妙高」型や「愛宕」型は当然「古鷹」「青葉」型より強武装で20センチ連双砲塔5基10門と大幅に強化されて
いた。

しかし、実際に運用してみると「古鷹」「青葉」型より、「妙高」「愛宕」型の砲の命中率が異常に低いという
問題がある事が判った。

「古鷹」型の命中率が16%位の高い数字を示していたのに比べ、「妙高」型の命中率は4~5%という低い値
だったのだ。

これでは幾ら大砲を数多く装備していても意味がない。

海軍用兵者はその原因が判らず困ってしまった。

巡洋艦は高速を出す必要上、船体が細長いので射撃時に船体が捩れて命中率が下がるのでは? とも
考えられたが、実際は超音速で飛ぶ弾丸が互いに発する衝撃波同士が干渉して弾丸が狙った位置に落ちず
バラバラの着弾になる事が判った。

そして実用化されたのが連双砲の片方の砲を自動的に0.003秒発砲を遅らせる98式発砲遅延装置だった。

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「英雄」「栄光」のショック・カノンは3門が同心円状に近接して設置されている・・・。

真田はこの事から過去の日本海軍の技術であっった発砲遅延装置の様にで3門の砲、それぞれの発射
タイミングをずらして発射、フェーザー・ビームが互いに干渉しなくなる様にした。

効果はてきめんで着弾点で100メートル位あったビームの散布界直径は数メートルにまで減少した。

これは単装で装備した時と変らない散布界であり、リンクして発砲する「英雄」と「栄光」の散布界は半分づつ
重なりあうという充分に納得出来る状況になった。

また、機関出力が50%アップした事で通常のフェーザー砲の出力も上がり、近距離なら
駆逐型デストロイヤーにも損傷が与えられる様になったが、この事が後の冥王星遠征時に悲劇を生む事に
なろうとは沖田ですら気が付かない事であった。

この後第1戦艦戦隊は「ゆきかぜ」型突撃駆逐宇宙艦と共に遊星爆弾の迎撃にいそしみ、大改装後から
約1年間、地球の防衛に力を尽くしたのだった。

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藤堂、伊地知、大山、沖田の4人は会議室に集まっていた。

「どうだね、沖田君、この案でいけるかね。」藤堂はすがる様な目つきで沖田を見た。

「いくもいかないもないでしょう。 『むさし』を失った今、『やまと』は絶対に生き残らなければならない。 
そのためには大幅な設計変更もいたしかたありません。」沖田は伊地知の方をチラリと見た。

「『箱舟』計画責任者の伊地知君はどうかね。」藤堂は答えは解り切っていたが一応、伊地知の立場を考えて
意見を求めた。

「大山造船技官、貴様のせいだぞ! 勝手に設計変更を幾つも出しおって、わしが造船の事が解らないと
思って馬鹿にしとるのか!」 大山は伊地知の反応に困って藤堂や沖田の方を見た。

「伊地知君、大山君は設計変更がある場合は必ずわしや長官に報告していたぞ。 その報告メールの
あて先には君のアドレスも入っていたのをわしは確認している。」沖田は全面的に大山の味方をした。

「それに今度の様な大変更の場合はこうして我々を集めて報告しているじゃないか、許してやりたまえ!、
伊地知君!」藤堂長官にまでそう言われてはさすがの伊地知参謀長、いや「箱舟」計画責任者も黙る
しかなかった。

「それでは 変更点を再確認します。  先ず使用する機関ですが、ガミラス艦のエンジンのコピーを2基
使います。

これで我々の夢だったワープが可能になります。」

「これは我々に対して神の恵みですな。 長官」沖田は悲報が続くなか、しばらくぶりの吉報に頬が緩んだ。

「そしてこれが一番問題な部分なのですが、『むさし』が健在だった時には2隻でお互いの弱点である
上甲板面をカバーする事を前提に艦底の装甲を分厚くして簡単には打ち抜かれないように設計して
きましたが、『むさし』がいなくなった以上、『やまと』はどの方面から攻撃されても良い様に装甲を分散する
必要が出てきました。

また、主砲を18インチ45口径砲とすると砲身が長くなりすぎ、設計No,SBA-141の時の様に舷側に
3連双砲塔を2段重ねで装備するのは主砲の安定制御の問題も絡めて砲塔重量が大きくなりすぎます。

そこで主砲は18インチ45口径砲と変わりませんが装備位置を上甲板とし、3連双砲塔3基に別けて装備します。

この配置にすると主砲に多少の死角ができますが砲塔が1基減った分、重量が大きく節約出来、弱点だった
上甲板上に装甲の施された砲塔が艦橋を挟んで縦に3基並ぶ事になりますから、装甲重量の増加も最低に
押さえられます。

勿論、艦底側は砲頓兵装こそありませんが、ミサイルの装備はVLS(垂直発射管)型で装備する予定です。

艦低部の装甲の厚みもこの面を下に惑星表面へ着陸する事は考えていますので今までの8割の厚さは
確保出来る見込みです。」

「この姿を見ると昔の戦艦「大和」がそのまま宇宙戦艦になった様な姿だな。 大山君。」沖田は思った事を
口にした。

「そうだ、沖田くん。どうだろう、『むさし』が破壊された今、『やまと』の名前は縁起が悪い、かといって『大和』ではもっと縁起が悪い、いっその事、宇宙戦艦『ヤマト』というのは希望を感じさせないかな。」
藤堂も乗り気だった。

しかし、伊地知参謀長はその様な事よりももっと重要な問題で頭が一杯だった。

「艦長室はもっと安全な、そう『ヤマト』の艦内奥深くには出来ないのかね。」伊地知は思わずそう口走った。

沖田と藤堂は顔を見合わせた。

「ここが一番安全だと君が言うからそびえる艦橋の一番高い所でも承知したんだ。 今度の話だとやっぱり
ここは一番危ない箇所じゃないか!」伊地知は恥じも外聞も無かった、自分とその家族の安全だけが問題
だったのだ。

「やっぱり、わしが行こう。」沖田提督は皆の顔を見渡していった。

                                                    ヤマト発進まで585日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-16 21:00 | 本文
地球防衛軍極東司令部の廊下を歩いていた大山造船技官は考え事に夢中で前を良く見ていなかった。

前から美しい妙齢の女性士官が歩いてきていたが、そんなものは目に入らなかった。

しかし、女性士官の方は大山に気が付いた。

服装こそ造船技官らしくきちんとしていたが、その髪はボサボサの伸び放題でその上、時々、頭を掻き毟るものだから辺りにフケをまき散らかしていたからだ。

「大山さん、お久しぶりです。 この前はいきなり技術部から消えたので驚きましたわ。」 女性士官は真田の
秘書だった。

「真田は何処にいる。 教えてくれ!」大山は彼女の挨拶など無視して自分の聞きたい事を聞いた。

彼は重要な用件で真田技官を捜していたのだが、心辺りを捜しても何処にも居なかったのだ。

秘書は悪戯っぽく微笑すると「後で連絡させます。」と言って廊下の先へ消えていった。

大山の鼻先には甘い香りが残っていたが、彼はそれを擦り払うと自分も造船部へ戻って行った。

**********************************************

その日は真田からの連絡は来なかった。

大山は腹心の一人、荒川技術少佐が提出してきた報告書とデータを何度も読み返していた。

大山は森田の設計した脱出戦艦「やまと」型のフェーザー砲主兵装案を高く評価していたが、
高出力フェーザー砲の寿命が短いと言う問題を解決しろと森田には命じていた。

しかし、本当の問題はそこよりも何よりもガミラス艦が超光速航行が可能で地球艦は亜光速航行が精一杯だと
いう事なのには気付いていた。

いくら武装が強力でも超光速艦と亜光速艦では勝負にならない、今のままでは人類滅亡は必至なのだった。

そこで、彼は自分が捕獲ガミラス・エンジンを調査した時のデータを荒川に送り、再検討させていたのだ。

その結果、荒川はこのエンジン・システムにはリミッターが掛けられているのでは? という推測をして来た。

彼はガミラスの実態を知っている訳では無かったが、このエンジンが単独で発生させる空間婉曲フィールドの
数値はたかが知れているが、複数のエンジンを同時起動した時に生まれる空間婉曲フィールドは相互に
干渉して幾何級数的な数値に増大する事を推測していた。

それは単艦では数万キロの距離しかワープ出来なくても、2艦であれば数十光年のワープが可能な事を
示していた。

後の、1回のワープで千光年の跳躍が可能なイスカンダルからもたらされた波動エンジンの技術に比べれば、
まだカタツムリの歩みの様なワープであったが、現在の地球の技術にとっては飛躍的な進歩であった。

大山は荒川を信じてはいたが、問題が問題である、一人で判断するには大き過ぎると考え、真田と意見交換が
したかったのだ。

<この理論が正しいものならば、是非にとも実験してみる必要がある!>大山は大きな期待に胸を
膨らませていた。

**********************************************

  そのころ、森田造船技官は18インチ・フェーザー砲の改良という、本来の専門分野から外れた開発命題を
与えられていたが、”餅は餅屋”と割り切って南部重工の技術部を訪ね、その門を叩いていた。

出てきたのは、まだ、20代後半の若者だった。

「技術開発部砲頓兵装課長の南部です。」若者は名刺を差し出した。

「南部・・・。 もしかしたら、社長のご子息ですか?」 森田は驚いた。

「ええ、まあ、そんな所です。 ここにいるのも親の七光りです。 お役に立てるかどうか・・・。」彼は控えめ
だった。

しかし、今は危急の時だ、森田は解決すべき問題を率直に話した。

幸い、南部重工業は地球防衛軍極東部の武器調達の大手であり、「箱舟」計画にも既に係わっていたので話は
早かった。

「要するに、フェーザー砲の出力を大幅に上げても砲の寿命が下がらない様にすればいいんですね。」
南部課長は言った。

「出来るんですか?」森田はあまりにもあっけなく問題が解決しそうな雰囲気に呆れた。

「ええ、本当のところは実験してみないと判りませんが、理論上は可能です。」彼は自信がありそうに答えた。

「どうするのですか? いや、それは企業秘密ですね。」森田は質問を取り下げ様とした。

「いや、秘密でもなんでもありません。 簡単な事です。」南部課長はサラリと言うと説明してくれた。

光速兵器は普通、破壊力のあるビームの発生部とそれが飛ぶ方向を決める誘導部からなっている。

原子分解力線であるフェーザー砲も基本的な構造は変わらない。

今、問題となっているフェーザー砲の出力を上げるという命題は本来なら、フェーザーの発生部の出力を上げる
必要があるのであるが、このフェーザー発生部が高出力化に耐えられず、フェーザー砲の寿命が短くなって
しまうのであった。

しかし、最終的に敵艦に命中した時点で必要な出力があれば、フェーザー発生時の出力はそれほど高くなくて
も良いはずであった。

では、低出力のフェーザー・ビームをどうしたら高出力化出来るのか、それは誘導部で足りない出力を更に
加えてやる、つまり、誘導だけではなく、再加速をする事で、ビーム発生出力を抑え、誘導部の再加速で
足りない出力を補うと言う考え方であった。

「ただ、この方式の場合、普通のフェーザー砲に比べ、長い砲身が必要になります。 このため、有効な技術だ
と判ってはいたのですが、無重力、真空で慣性力が大きく働く環境下では照準のための砲身の安定が難しく、
採用されなかったのです。」南部課長はそこまで言うと森田の顔をみた。

森田は希望と絶望を一度に味合わされたといった、困惑した顔をしていた。

「森田さん、『箱舟』計画は人類の一縷の希望です。 なんとしても実用化してみせますよ! 
安心して下さい。」南部課長は力強く、森田の設計を後押ししてくれる事を約してくれた。

**********************************************

大山はやっと真田に会う事が出来た。

そして自分達、造船部で出した結論を説明した。

「ふーむ、ガミラス艦は何故、複数いないと長距離ワープが出来ない様にしてあるんだろう、単艦でも
ワープ出来なければどんどん戦闘艦を失ってしまうぞ。」

「いや、真田、ガミラスの事情はどうでもいい、肝心なのは、このエンジンが2基あれば数十光年の長距離を
ワープ出来るって事なんだ。」

「そうか! 「箱舟」にこのエンジンを2基装備すれば大ワープ出来るんだ!」

「だから、小規模なワープ実験をやってみたいと思うのだが・・・」大山がそこまで言った時、真田はまったを
掛けた。

「いや、大山、この件は慎重に取り組む必要があるぞ。 俺の解析結果だとワープは繊細な技術だという事が
判った。

もし、実験に失敗して時空に歪みを残してしまうと実験船が時空の狭間に引っ掛かって高次元から低次元へ
エネルギーの流入が起こる可能性がある。

そうなると我々のいる宇宙は大量のエネルギーの流入に耐えられず破壊される恐れすらあるんだ。」

大山も最新の理論物理学くらいかじっている、真田の心配は痛いほど判った。

「それに、ワープの実験をやるとガミラスに探知される恐れがある、彼等は長年に渡ってこの技術を使ってきた
と思われるからだ。

敵がワープの出来る文明だった場合もあったと考えるべきだ。

もちろん、杞憂かもしれないが、奴等との戦闘報告を見ると、彼等はどんな場合でも躊躇なくワープを行って
いる。

そう、これは我々が自動車を動かすに近い感覚だ。

単なる移動手段だけではなく、応用や派生技術が沢山あると考えるべきだと俺は思う。」

大山は腕組みしたまま唸った。

「確かに色々と派生技術を持っていそうな感じはあるな。」

「特に探知装置がワープ先の空間を走査出来なければ、危なくてワープなど出来はしないからな。」

大山が言っているのはワープした先の空間に別の物質が存在した場合の事を言っているのである。

全く同じ空間に2つの物質が同時に存在する事は出来ない、たとえ、旨く互いの原子が互いの原子空間に
はまり込む事が出来ても許容出来る原子間距離が大幅に狭まり、結局、大爆発を起こして全ての原子は
光子となって飛び散るのだ。

これを「物質重複による爆発」というのだが、ワープする以上、ワープ先の空間に何も無い事が
確認できなければ、常にこの「物質重複による爆発」の恐怖と戦いながらの航行となる。

これではいくら強靭な精神を持つ種族でも長期間の航行には耐えられない、そこでワープを実用化していると
いう事は、ワープ出来る距離の先まで探知出来るレーダーの様なものも持っているはずなのだ。

また、ワープは空間に歪みを作って長距離を跳躍する技術である。

当然、船が跳躍した後、歪んだ空間は元に戻るが、その時、起こる時空の振動が「時空震」である。

これはワープの規模、船の大きさや跳躍距離が大きければ、大きい程、観測され易いと考えられる。

すなわち、ワープの実験を行えば、ガミラスの知るところとなり、集中攻撃を受ける羽目になるかもしれない
のだ。

ワープを単なる移動手段ではなく、交通手段にまで昇華させているとしたら、これ位の技術は持っていて
しかるべきだと二人は考えた。

「かと言って、『やまと』、『むさし』が発進した後にテストを行うのは危険すぎるな。」大山はやはり、科学者
だった。

実験による一歩々の積み重ねこそ、進歩を生む、これが彼の信念だったからだ。

真田は今が非常時であり、新技術であっても、ある程度、ぶっつけ本番は止む終えないとは思っていたが、
ワープの件だけは別であった。

失敗がこの宇宙全体の破滅に繋がる恐れがある以上、やはり、制御できる範囲内で極小規模な実験は絶対
必要だと感じていた。

「問題が大き過ぎるな。 藤堂長官の判断を仰ごう。」大山と真田は「箱舟」計画上層部に報告する事にした。

**********************************************

 「こちら、早期警戒艦『あたご』、遊星爆弾数量5。火星軌道を通過中、迎撃艦隊を誘導します。」

月面の地下奥深くに設置された駆逐宇宙艦ドックから「ゆきかぜ」型突撃駆逐宇宙艦が発進してきた。

彼等は1年前のガミラス地球圏制宙作戦の生き残りであり、その時の戦訓で基地のドックも少数の
駆逐宇宙艦を分散配置して生存性を高めていた。

「こちら、第1迎撃小隊、『みねかぜ』、誘導進路に乗った。 3分後に自艦射撃指揮システムでの迎撃に
切り替える。

『あたご』誘導を感謝する、早々に電波管制に入られたし。」第1迎撃小隊、旗艦「みねかぜ」の艦長、
進藤大尉は「あたご」がガミラスに発見されない様、自分から電波を出さない「電波管制」に入る事をもとめた。

1年前のガミラスの地球圏制圧作戦の時、多くの早期警戒艦が宇宙に出ていたが、「電波管制」を敷いていた
ため、ほとんど全ての艦がガミラスの攻撃を免れていた。

もっとも、これにはガミラスの戦術が大きく関与しているのも事実だった。

普通、敵の目や耳である偵察機や探知システムは極力、潰して戦いに望むのが地球の戦術だが、ガミラスは
あえてそれを残し、敵がその情報によって縛られる事を重視していた。

大抵の軍は偵察結果に元づく作戦を立てる、探知システムからの情報によって軍を動かすものだ。

だが、しかし、そこで欺瞞情報を偵察させたら、どうなるか、探知システムの情報をある程度、伝えさせた
ところでその探知システムを破壊したら、どうなるか、全く違った情報が敵に流れ、現実の戦闘局面との
違いで敵を混乱させるのがガミラスの常套手段だった。

だから、ガミラスは敢えて探知システムや偵察機、偵察艦は狙わない方針だったのだ。

ただし、今、実施中の地球に対する遊星爆弾による戦略核攻撃はちょっと例外だった。

この攻撃は戦略攻撃であると同時に地球に対する惑星改造の意味が大きかった。

すなわち、単なる戦略核攻撃なら、既に地表は「核の冬」を迎えており、このまま放っておいても人類が
絶滅するか、降伏するかは時間の問題だったからである。

しかし、地球の環境を恒久的にガミラスの環境に合わせるとなると、まだまだ遊星爆弾の投射量は不足して
いた。

だから、地球側に遊星爆弾の迎撃を許す事は惑星改造の完成の遅れに繋がり、ひいてはシュルツ率いる
冥王星前線基地全体が責任を問われる事になりかねないのだ。

「地球陣営の遊星爆弾迎撃システムの要はやはり、早期警戒艦だと思われます。」ガンツはシュルツに
火星軌道付近の制宙を再び提案した。

シュルツも地球側の迎撃態勢の粘りに少々焦りを感じていた。

だが、地球側の早期警戒艦はアクティヴなレーダー探知より、パッシブな光学探知を主として用いていたため、
その存在を知るのは容易ではなかった。

「我が軍は今までの戦術上、敵の探知システムや偵察システムを攻撃する事に慣れていない、どうすれば
良いと思う?ガンツ・・・。」

「小さめの遊星爆弾を投射し、敵にアクティヴな探知システムを使う様、誘導してみるのが良いと思います。」

ガンツの提案は通り、ガミラスは地球の早期警戒艦狩りを始めた。

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 ガンツの作戦は小ぶりの遊星爆弾を数個、地球に向けて投射する、多分、早期警戒艦は光学探知では
それを見つけた時には迎撃の突撃駆逐宇宙艦の誘導が間に合わないであろう。

間に合えば更に小ぶりの遊星爆弾を今度は数を増やして投射するだけである。

地球に対する被害は相対的に減少するが、地球防衛艦隊にしてみれば、迎撃網をスカスカに打ち破られるのは
気持ちの良いものではない。

当然、早期警戒艦はより精密でより早い時期に探知が出来るアクティヴなレーダー型の探知を行うはずである。

その時こそ、ガミラスは長年、悩まされてきた、地球の早期警戒システムを根絶出来るはずであった。

「そろそろ、引っ掛かってもよさそうな物なんだがな。」木星の浮遊大陸を基地としている駆逐型ミサイル艦の
艦長はつぶやいた。

彼は5隻の僚艦と共に木星と火星の間の空域に潜んでいるであろう、地球の早期警戒艦を狩る
ハンター・グループの1員なのだ。

彼の戦隊と同規模の戦隊が後4個、この空域には貼り付けられていた。

「大変です。浮遊大陸哨戒基地から早期警戒艦の迎撃が何故、失敗したかと問い合わせてきています。」
通信士が艦長の顔を見ながら報告した。

「何! こちらではアクティヴな電波放射は何一つ確認出来なかったぞ! 哨戒基地、何が起こったのか
詳細に連絡されたし!」当惑した駆逐型ミサイル艦の艦長はすぐさま浮遊大陸哨戒基地に連絡を入れた。

すぐさま、事態の詳細が連絡されたが、それによると小さめの遊星爆弾をガミラスは少しづつ小さくしながら
投射し続けたのだ。

しかし、地球側は的確に哨戒、探知し続け、迎撃してきた。

しかも遊星爆弾の大きさが小さく為り過ぎて大気圏で空気との摩擦で燃え尽きる寸前までの大きさでも的確に
処理して見せたのだ。

この位の大きさになると、もはやミサイル攻撃は必要ではなく、「ゆきかぜ」型の突撃駆逐宇宙艦の5インチ・
フェーザー砲でも充分であった。

「くそっ 馬鹿にしやがって! やはり早期警戒艦などを狩るより、敵の駆逐艦を狩る方が確実だ。」ガミラス
駆逐艦の艦長は作戦を無視して自分の戦隊を地球圏へワープさせて地球の迎撃艦隊を討ち取ろうとした。

しかし、地球の早期警戒網は直ぐにそれを探知、迎撃艦隊を地球の陰に退避させてしまった。

ガミラス宙雷戦隊はワープして地球の衛星軌道付近に現れたが、地球艦隊の姿は影も形も無かった。

罠に掛った事を知ったガミラス宙雷戦隊が再びワープで脱出しようとした時、地球の裏側から反物質ミサイルが
15発も衛星軌道に沿ってガミラス宙雷戦隊に襲い掛かった。

確実に一隻のミサイル艦が反物質弾頭の餌食となった。

そしてその他のミサイルはワープして脱出してゆくガミラス艦のワープ・フィールドに巻き込まれて消えていった。

あの宙雷戦隊はワープ明けに反物質ミサイルと物質重複を起こして消滅するであろうが、それを確認する事は
適わなかった。

本来、地球艦隊にしてみれば、地球の衛星軌道上で反物質弾頭を爆発させるなど普通では考えられない
暴挙なのだが、今、地球の迎撃艦隊が持っているミサイルは遊星爆弾迎撃用のものしかなかったので
しかたなかった。

また、今回の迎撃で地球が放射能汚染されるとしても、すでに幾十発の遊星爆弾を受けて汚染が進んでいる
状況では汚染の度合いの進行は五十歩百歩であった。

地球軍による遊星爆弾迎撃は7割以上成功しているとはいえ、地球の放射能汚染は着実に進んでいたからだ。

赤くそまりつつある地球の姿を見て一筋の涙を見せた古代守であった。

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「えっ、何だって?」部下から声を掛けられた森田造船技官は辺りに轟く喧騒の中、質問を問い返していた。

「お客さまです。ドック南の事務所棟へ来てくださいとの事です。」それだけ言うと部下は自分の仕事に
戻っていった。

森田は来客の予定はなかったので不審に思いながら現場を後にした。

彼の後には巨大な影があった。 そしてそれは見るものが見れば判る宇宙船の船体部分だった。

事務所の会議室に着くと森田はやってきていたのが南部重工の南部課長だったので驚いた。

「課長、わざわざどうしたのです。 フェーザー砲の改良の件ならメールでも良かったのに・・・。」森田は
課長に微笑んだ。

しかし、南部課長は険しい顔つきで森田を見ていた。

「やはり、まだ、こちらには連絡が来ていないのですね?」

森田は困惑した表情で南部の言葉に頷いた。

「『むさし』が、アリューシャンで建造中の『むさし』が遊星爆弾にやられました。」

「そ、それはいつ・・・。」そう聞くのがやっとだった。

「昨日の13時です。 ドックに落ちた遊星爆弾は比較的小型でしたが船台上の『むさし』は船殻を大き
くえぐられ、再建不能の状態です。」南部課長は押し出す様に言った。

それもそのはずで今、森田がいる九州、坊ケ崎の秘密地下建造ドックで建造中の『やまと』より建造工程が
少し早くすすんでいたアリューシャン列島の秘密地下ドックで建造されていた『むさし』には新型の
フェーザー砲の製造工場も隣接して設置されていたからだ。

当然、そこには南部重工業の社員も多数、派遣されていた。

森田は南部の気持ちが痛いほど解った。

だが、南部課長はそんな悲しみを振り払うかの様に話始めた。

「やはり『やまと』は九州、『むさし』はアリューシャンと大きく離して建造ドックを設けたのは正解でした、
建造中の不便は大きかったですが、共倒れになるよりはましでしたからね。

ところで『むさし』に積む予定で製造していたフェーザー砲ですが、今までの無砲身フェーザーの倍の口径、
22口径を予定していましたが、「箱舟」が『やまと』一隻になった以上、『やまと』の主砲は確実に遠距離から
ガミラス艦を破壊できる威力が必要と考えます。」 南部課長はここで一度、言葉を切った。

森田はその意味を解し切れず、当惑した表情になった。

「今回の「箱舟」計画に必要なフェーザー砲の口径は45口径以上です。 それ以下ではガミラス艦との戦闘に
時間が掛りすぎて危険な局面を迎える事になります。」

口径、これは砲の直径を表す言葉ではない、砲身の長さを表す言葉である。

砲身の長さが砲の直径の何倍あるかで砲身の長さを現しているのである。

すなわち『やまと』型に予定されているフェーザー砲の大きさは18インチ(45.7cm)であるから、今までの
無砲身型だと約5m、22口径で10mになるはずであった。

砲身長が10m程度であれば砲耳の位置を工夫すれば砲身のほとんどを砲塔の中に収める事が出来るし、
砲身の運動によって起こる運動量(慣性力等)の制御もなんとか出来るレベルであった。

しかし、45口径、約21mもの長さの砲身はもはや砲塔内に収まりきるものではない。

また、真空、無重力の条件下での砲身運動時の慣性力たるや凄まじく大きいものになる事が想像された。

「『やまと』型の基本設計を見直す必要がある・・・という事ですか?」森田は問題の大きさに打ちひしがれた。

南部は黙ってそれに頷いた。

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ガミラスの冥王星前線基地近傍にある遊星爆弾製造、投射施設では喧騒が渦を巻いていた。

「シュルツ司令、とうとう切れたみたいだな。」忙しく手を動かしながら兵の一人が同僚に声を掛けた。

「ああ、どうやら地球方面の迎撃システム破壊に失敗したらしい。

それで敵の迎撃が間に合わない位の頻度で遊星爆弾を見舞おうと考えたんだ。」

「それにしては命令された遊星爆弾のサイズが小さくないか?」男は疑問を素直に口にした。

「シッ、お偉方がやる事だ、俺達一兵卒が口を出すと面倒な事になりかねないぞ! 黙って手を動かせ!」
そう言われた兵は仕方なさそうに作業の手を早めた。

前線基地の司令室ではガンツが苦虫を噛み潰したような顔でスクリーンを見ていた。

そこには遊星爆弾投射施設から次々に発射される遊星爆弾の姿があった。

「どうだ、作戦は順調か?」 ガンツの後で声がした。

シュルツ司令だった。

「はい、今朝から10基は地球にむけて遊星爆弾を投射しました。これから夜にかけてもう10基の投射を
予定しています。」

「ウム、よろしい。地球人め、遊星爆弾の雨霰だ。 とても迎撃出来る量ではないぞ、フフッ」シュルツはニヤリと
した。

「司令、ちょっと質問しても宜しいでしょうか?」ガンツは恐る々聞いた。

シュルツは<なんだ?>という顔をしたが別にガンツを咎める様な事はしなかった。

「今回の一連の遊星爆弾攻撃の件ですが、何故、小ぶりの遊星爆弾ばかりを投入しているのですか? 
設備的には今の10倍の大きさの遊星爆弾でも投射出来ます。 その方が敵も迎撃し辛いと思うのですが、
いかがですか?」

「確かにおまえの言う事ももっともだ。 しかし、ガンツよ、大きい遊星爆弾の発射間隔はどれくらいになる? 
せいぜい、1日1~2基がいいところだ。 それではまた敵に迎撃されてしまう。 大きいから簡単には
破壊されないだろうが、軌道を変えられる恐れは充分ある。

わしは小ぶりの遊星爆弾を大量投射して敵の迎撃システムが機能しなくなる事を狙っているだけではない、 
幸い、木星は我々の手に落ちた。 地球や月にある資源やエネルギーだけは直ぐに底を突く、迎撃しようにも
ミサイルを作れなくなるんだ。

そこで大型遊星爆弾を投射して最後の仕上げをする、それがわしの計画だ。」

ガンツはシュルツが随分と指揮官らしくなって来たと思った。

                                                     ヤマト発進まで650日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-15 21:00 | 本文

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