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宇宙戦艦ヤマト前史

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宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

29.土方提督の憂鬱

宇宙戦艦「ヤマト」が発進して2ヶ月が経とうとしていた。

人類初のワープ、木星、浮遊大陸での激戦、土星圏でのガミラス地上部隊との初戦闘、そしてガミラス
冥王星前線基地との死闘と、宇宙戦艦「ヤマト」は善戦しつつもガミラスの侵略に次第に追い詰められて
いった地球防衛軍の怨念を晴らすかの様に次々と勝利を重ねていった。

特に冥王星前線基地を落せたのは大きな戦果だった。

人類の滅亡を加速する、遊星爆弾の戦略核攻撃を止める事が出来たからである。

しかし、後に残された人々は「ヤマト」が遠くなるにつれ、その旅のあまりの長さと困難さに絶望を抱き初めて
いた。

「ヤマト」との通信は途絶えた、「ヤマト」よ、お前は今、どこにいるのか?どこまでいったのか?
そして健在なのか?

そうした狂おしい想いが人々の間に広がっていた。

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「しかし、我が国民は逞しいあるね・・・。」中華連合の李中将は得意そうに言った。

ヤマト発進後の太陽系全域を対象とした戦略防衛会議が始まる前の事である。

「何か、困った事でも?」土方少将は<逞しい?>と言う言葉に疑問を抱いた。

中華連合は本体の中華人民共和国がほぼ99%の人口を失って大打撃を受けたはずであった。

それが<逞しい?>とは一体どういう事だろう、土方は歴史上、常に日本の先生であった中国の考え方に
興味を持った。

「今、中華連合の生き残り達は何をしようとしていると思うかね?」 土方は判らないとジェスチャーで示した。

「地球防衛軍への大量志願よ。 確かに朕のところには駆逐宇宙艦隊がかなりの隻数、残っているよ。 
でも、それを3交代勤務で運用しても追いつかない数の志願者が殺到しているよ。」

「宇宙勤務の方が放射能汚染による危険少ないとの考えでしょうか?」

「確かに、朕も最初はそう考えたよ。 でも我が国民はそんな消極的な民族ではないよ。」

「と、言うと?」土方がそこまで言った時、戦略防衛会議の議長が到着し、会議が始まった。

議長が会議の口火を切った。

アメリカ副大統領だった。 しかし、壇上には人影は無く、代わりに鷲の置物が置かれていた。

「現在、極東方面軍の「ヤマト」が・・・「放射能除去装置」を手・・に入れるべく、イスカンダルへ向かって・・・
困難な旅をしている・・・。

後に残った・・・我々が・・・、ただ、座して「ヤマト」の帰りを・・・待っていていいのだろうか!」その声は
途切れ々だったが力強かった。

土方はその声の元が壇上の机の上置かれた鷲の置物からしているのに眉をひそめた。

しかも、声の元はその壇の下には置かれたカプセルからしているらしかった。

土方の予想通り、カプセルの中には米副大統領、ヘリー・トルーマンが半死半生の身を横たえていた。

<ホワイト・ハウスは遊星爆弾の直撃を受けて全滅したわけではなかったのか・・・。 しかし、こんな姿に
なっても世界を牛耳ろうとする、アメリカはやはり逞しい国だ。>

土方がそんな想いを胸に同席していた藤堂長官の方を見やった。

その時、北欧のスエーデンの代表が発言を求めた。

スエーデンは巨大な岩盤の上に国家が乗っている国だった。

そして、ガミラス侵略前でも、中立を維持する必要上、強固な武装をしているので有名な国でもあった。

しかも、その武器、航空機や船舶は1970年代ごろには既に地下基地に収納されているのは当たり前であった。

ガミラスの遊星爆弾攻撃にもいち早く反応し、国民の多くを地下に避難させる事に成功していた。

各国はスエーデンから地下基地の設営、運用を学び、ガミラスの執拗な遊星爆弾攻撃に耐え続けてきたので
ある。

スエーデン代表は言った。

「『ヤマト』が出発して放射能除去装置を受け取って帰ってくるまでこの地球上で我々がなせる事は残念ながら
ありません。」

「黙って『死』を待つべきだと言うのか!」血の気の多いイタリア代表が噛み付いた。

「確かに、スエーデン代表のおっしゃる通り、この地上では我々は何も出来ませんな。」英国代表が
スエーデン代表に同調した。

「我々、ラテンの血を持つ者はこのまま黙っている事など出来ないぞ!」スペイン代表もイタリア代表に組した。

「最後までお聞きなさい。 我々は「地上では・・・」と言ったのです。」英国代表は大英帝国の末裔らしい言葉で
英国の考える計画を話した。

地球や火星の地表は放射能汚染で人の住める環境ではなくなっている、しかし、宇宙空間は「ヤマト」が
ガミラスの冥王星前線基地を叩き、太陽系からガミラスの勢力を一掃してくれたのでとりあえず、宇宙は安全
である。

幸い、月面の工業地帯もほとんど無傷で生き残っている。

この二つから我々太陽系に残された者が為すべき事は、第1に現在の生存者を安全な宇宙空間そのものに
避難させる事ではないかと考えたのだ。

第2にガミラスに破壊された木星プラントの再建も必要だった。

いまは、放射能にまみれた地球の資源を仕方なく使っているが、それも残り、僅かだった。

であれば、木星プラントの再建工事を始めれば、大量の労働者と技術者が必要となる。

地球に残った者の内、働ける者はこの工事に従事してもらえば、雇用も居住も確保出来、一石二鳥だという
意見だった。

アフリカ代表が一つの懸案を挙げた。

太陽系からガミラスを一掃出来たとはいえ、「ヤマト」帰還前に再び襲来するかもしれない、その用意は
どうするのか、と言う意見だった。

それに応えたのは欧州連合艦隊総司令、ヒッパー少将だった。

「宇宙空間居住のためのスペース・コロニー建造や木星プラントの再建にはイスカンダルからもたらされた
オーバー・テクノロジーは積極的には必要ありません。

どちらかと言うと、再来襲するかもしれないガミラスやその他の好戦的勢力の排除に用いる必要があるでしょう。

生き残った各艦隊の技術部には急ぎ、新兵器を開発させています。

とりあえず、今、生き残っている大型戦闘艦で艦隊を組み、補給船を付けて冥王星付近を警戒させます。

その間、地球本土や木星プラントはアジア艦隊が比較的大量に持っている駆逐宇宙艦で防衛、その間に
新造艦を建造する、と言う案ではどうでしょうか?」

いやがおうでもなかった。

ほとんどそれ位しか、出来る事はなかったのだ。

とはいえ、地上で、放射能の脅威に脅え、ただ、死を待つのに比べたらやる事があるというのは幸せだった
かもしれない。

会議が終わり、退出しようとした李中将は土方少将に呼び止められた。

「判りましたよ。提督、確かに貴国の国民は耳が良いですね。」

「別に彼等は今の結果を知ってはいなかったよ。 こうなると判っていただけよ。」李は心外だと言わんばかりの
口調だった。

「だから、航宙士の資格を取っておけば、後の就職が楽になるというわけですか。」土方も負けていなかった。

「違うよ。『日本人如きのみに名をなさせたくない!』と皆、思っているだけよ。」土方は自分の国名に
「世界の華」と名付けて恥じない誇り高い民族の真髄を見た想いがした。(「中華人民共和国の「中華」とは
「世界一」という意味である。)

特に中国、明の時代の宦官武将、鄭和による7度に渡る南海大航海は中国人の誇りである。

鄭和はアフリカ、ケニアのマリンディに達し、珍しい動物としてキリンを持ち帰り、時の皇帝、永楽帝を喜ばせた。

鄭和の船団は大宝船と呼ばれる大型船(約、全長140m、排水量3000t?)を中心に1700隻もの船で構成
された大船団だった。

彼は一説によると六分儀による航海術を持ち、世界1周をも成し遂げ、南極大陸にも足跡を残したという。

そういう偉人を持つ中国にしてみれば「ヤマト」は地球のため、ひいては民族のために支援しなければならない
対象ではあるものの、やはり感情的には悔しさがつのるのも無理からない事ではなかった。

「その感情を良い方向に導くのが朕達、上に立つものの仕事よ。 とりあえず、航宙士は中国が調達するよ。

船の方はソ連、米国にまかせるある。」そう言って李中将は笑って見せた。

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 「と言うことは、とりあえずの防衛は大型戦闘艦を持つ我々の仕事という訳ですな。」欧州連合の
ヒッパー少将は土方に言った。

「イスカンダルからもたらされたオーバー・テクノロジーは全て開示していますが、そう、簡単に新造艦は
造れますまい。

当然、冥王星を再びガミラスの手に渡らせないためには早急な艦隊派遣が必要となります。

しかも、現有のガタが来た旧式艦ばかりでね。」土方は途方にくれていた。

「沖田提督がメ号作戦で大敗を喫した時とは違って今回、我々は大型補給船を伴って出撃する事が出来ます。

そう悲観したものでもない、と思いますよ。」ヒッパー少将は楽観的だった。

「冗談じゃない! 今ある大型艦艇でガミラス艦と一寸でも戦えるのははショック・カノン3門を艦首に
固定装備した『英雄』ただ1隻だけだ。

後の戦力は全て突撃駆逐宇宙艦でまかなうつもりですか!」土方は少し焦っていた。

少ない戦力を小出しにするのはかえって損害を大きくする愚策だと判っていたからだ。

「アジア連合、日本艦隊の早期警戒艦は何隻残っています?」ヒッパーは突然、何も関係ない様な事を
聞いてきた。

「開戦時と変わらず、2隻ですが、それが何か?」少しの間をおいて、土方はヒッパーの言わんとする事に
気付いて膝を手で打った。

「そうか! 他国も早期警戒艦の損害は非常に少なく、太陽系全域に哨戒網を張るには充分な隻数だ!

しかも、今、我々が保有している早期警戒艦「たかお」、「あたご」は元々、重巡!

それも準戦艦と言って良い位の砲数と装甲を持っている、機関も「英雄」並に出力を増やすのは不可能では
ない!

と、言う事はどちらか一隻でもショック・カノンを3門搭載すれば、「英雄」と再びリンク射撃が出来る戦隊を
組める!」

ヒッパー少将はさすが、カミソリ土方と言われた男の勘の良さに感じ入っていた。

「しかし、ヒッパー少将、これでもまだ『ヤマト』1隻の戦闘力に遠く及びませんが、欧州連合には何か策が?」土方はヒッパーと言う男の奥深い知恵に、まだ何か、考えている・・・、と踏んだのだ。

「ええ、その件なら、うちの所の「跳ね返えりども」とそちらの「大技術者」が何か、開発しているみたい
ですよ。」

<欧州連合の跳ね返えりども・・・?>、<日本の大技術者?> 一体、誰の事だ? これはさすがの
土方にも判らなかった。

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「よーしっ、もう一回やってみよう、フローラー、用意はいいか?」大山は「ヤマト」を送り出して暇になった訳
ではなかったが、

直々、空きを見つけては欧州連合の技術部を訪ねていた。

「いいも悪いも、やるしかないんだろ!」フレイヤのやけっぱちなチャチャが入った。

「試験弾頭、発射!」大山の合図でフローラーの目の前にある射撃管制盤のモニターに発射された試験弾頭の
航跡が写っていた。

そしてその弾頭は『ヤマト』がワープする時の様にワーム・ホールに突入、消えていった。

「やっぱり駄目だ・・・。」別の観測器のモニターを見ていたフレイヤが言った。

試験弾頭は超空間の中で行方不明になっていた。

「何が悪いんでしょうね、ワープの照準ってピンポイントでは設定出来ないんじゃない?」フローラーが溜息を
ついた。

「姉貴でも命中させられないんじゃ、どだい、ワープ・カノン(転移砲)なんて誰にも扱えないんだよ。 
俺はもう疲れたぜ!」フレイヤはもう嫌気がさしていた。

「この兵器、ワープ・カノンが実用化出来れば、「ヤマト」の波動砲より高威力で、しかも、目標物以外の損害は
最小限になる、画期的な兵器になるんだが・・・。」大山はまた、頭を掻き毟ってフケを飛ばした。

その有様を見てフレイアはしかめっ面をしたが、フローラーは何かウットリとした目で大山を見ていた。

フレイアはフローラーの「心の声」を聞こうとしたが、訳の判らない雑音で満たされ、とても「声」を聞くどころでは
なかった。

姉、フローラーが大山に恋しているのは明らかだった。

<俺が古代守に惚れた時でもここまで自分を失わなかったぜ・・・。>フレイアは呆れた反面、一途に恋が
出来る姉が羨ましかった。


ワープ・カノン、それはメ号作戦を陽動として行われたガミラス冥王星前線基地を地球側の遊星爆弾で狙う
作戦をベースにした新兵器であった。

当時、地球側は波動エンジンは手にしていなかったが、ガミラスから手に入れた準波動エンジンと独自の
理論でワープ機関を試作していた。

つまり、メ号作戦は「箱舟」計画に用いるワープ機関の実証実験を隠す為に行われた陽動作戦でもあった
のである。

この時、ガミラスに地球側がワープの実験をしているのを悟られないために、ワープさせる遊星爆弾には
ワープ機関を積まず、宇宙空間にワーム・ホールを形成するワープ・ゲートを作って、そこに攻撃用遊星爆弾を
潜らせ、冥王星付近の空間に出現させる、後はシャルンホルストの砲撃で進路を微調整して冥王星基地を
直撃させる作戦だった。

結果的にはガミラス側は反射衛星砲でこの遊星爆弾を迎撃し、地球側の攻撃は失敗に終わったが、
本来の目的であったワープの実験は充分なデータが得られ、成功であった。

このデータは直後に入手出来たイスカンダルからのオーバー・テクノロジー、波動エンジンの解析と理解に
大いなる助けとなった。

彼等はワープさせる物体にワープ機関を載せないでワープ・ゲートを使って外部操作的にワープさせ、
飛翔距離を殆ど無くして時間を短縮すると同時にフェザー・ビームなどが目標に辿り付くまで飛翔空間に
撒き散らす無駄なエネルギーをカットして破壊効率を上げる事が出来ないか、ひいては目標物質と飛翔弾丸が
物質重複を起こして大爆発してくれる事を願っていた。

確かに、「ヤマト」が装備した「波動砲」は史上最強の大砲である。

しかし、巨大なエネルギーを蓄積、放射して目標を破壊するという、光速兵器本来の特性は変わっておらず、
光速兵器が持つ最大の弱点、「距離の二乗に比例して威力が落ちる」という、点は変わっていない。

また、ビームが目標に向かう時、その進路上にある全てのものに破壊効果をもたらすのも見方を変えれば
弱点であった。
(無駄な破壊をもたらすだけでなく、強固な盾の様なものを敵が用意してきた場合、威力が大幅に減じる恐れが
あったのである。)

大山やライニック姉妹が今、取り組んでいるワープ・カノンはそうした光速兵器の弱点を全く持っていない、
画期的な兵器なのである。

しかも、物質重複による爆発は、物質内部から起こる爆発であり、装甲など幾ら厚くても防げない究極の
攻撃方法だった。

だが、その試験は思いのほか旨く行っていなかった。

この兵器が最大の威力を発揮するのは着弾時に目標の質量中心と発射弾頭の質量中心が完全に一致して
物質重複の状態になった時である。

ところが、地球一の射撃手、フローラー・ライニックでさえ、ことごとく、質量中心の一致はさせられず、実験は
失敗続きであった。

「この実験が成功すれば『ヤマト』のもう一つの新兵器、『三式融合弾』の普及も可能になるんだが・・・。」大山は
焦っていた。

このままではライニック姉妹は通商破壊艦のままで「シャルンホルスト」、「グナイゼナウ」を発進、冥王星近辺の
警備に付かなければならなくなる。

この2隻はいままでは通商破壊戦だったからこそ、戦果を上げれたが、艦隊戦となると事情が違ってくる。

他の大型艦と艦隊を組むのは「シャルンホルスト」型が最も苦手とする戦い方なのだ。

せめて、偵察艦隊として本隊と別行動をとらせてもらえれば・・・少しは事情が変わるのだが、偵察時、敵艦隊に
遭遇した場合、敵艦隊来襲の報を送ると同時に、敵艦隊に攻撃を仕掛け、その前進を阻み、かつ、その実力を
威力偵察する必要がある。

しかし、このためには、「シャルンホルスト」型の攻撃力を大幅に増す必要があったが、スペースの関係上、
あまり無闇に大型の波動エンジンは積めなかった。

そこで、あまり機関出力に頼らない兵器、「三式融合弾」の応用、ひいてはワープ・カノンの実用化を大山は
考えたのだ。

「今まで、俺達は何度となく、ガミラス艦のワープにこちらの反物性ミサイルを巻き込ませ、物質重複を
起こさせて撃破したぜ。」フレイアは大きな疑問を口にした。

「もしかしたら、カー・レースの時に使われるスリップ・ストリームみたいに相手のワープ・フィールドに
引っ張られる形でないとうまく物質重複は起こらないんじゃないか?」

「でもそうだとしても私達が経験したガミラス艦の物質重複による撃破は理論的に説明のつかない確率で
成功しているわ。

しかも、ガミラス艦がワープしてくるであろう予想宙域にミサイルを待機させて物質重複を起こさせた時も
あったし・・・、

本当にどうしたらいいのかしらね。 冥王星宙域でのワープ実験はワープ・ゲート型でもちゃんと成功した
のに・・・。」フローラーは自分の射撃技術に絶大な自信があったのだが、それは脆くも崩れてしまっていた。

「冥王星でのワープ実験・・・。そうか!」大山は何か閃いた様だった。

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 「でかいなぁ~っ。」月軌道上で組み立てが終わった冥王星遠征用の補給母艦を見てフレイアが感嘆した。

<何いってるの、さんざんこの船と同クラスの船で木星と地球を往復したくせに・・・。>確かにフレイアの初陣は
輸送船の副長だった、フローラーはそれを指摘したのである。

<でもよ。 あの時は輸送船は自力で航行出来たぜ。 今度は木星まで俺達が引っ張る事になるとは
思わなかったぜ。>フレイアが愚痴った。

今の地球本土にはエネルギーがほとんど残っていない、ガミラスが去ってから衛星軌道上には多数の
太陽光発電衛星が再び並び、地球本土に生き残った人達の生活を賄う電力はかなり増えたがそれでも
充分とは言えなかった。

だから、今回の冥王星駐屯艦隊の派遣に関しても地球では超大型輸送船の建造は出来ず、月の工業力の
力でやっと建造に成功したのが現実だった。

そして、月にもこれだけ大きな輸送船と派遣軍を自力で航行させられるだけのエネルギー備蓄はなかった。

しかたないので、今回の作戦に参加する艦艇、全てで輸送船を木星まで曳航、仮のエネルギー・プラントから
採取した水素とメタンをその船体に満たしそこから初めて、自力で冥王星を目指す計画となったのだ。

もちろん、曳航するとは言っても海上で船同士が行う曳航とはちがう。

巨大な輸送船の表面にドッキング・ポイントを艦隊参加隻数分、設けそこに軍艦をドッキングさせてエンジン
代わりに使うのだ。

幸い、宇宙空間では空気抵抗がないが慣性は働くので弱い推力でも長時間に渡って噴射し続ければかなりな
高速が得られるのである。
 
<こんな、情け無い格好のところをガミラスに見つかったらたちまちアウトだぜ・・・。>フレイアの心の中は
不安で一杯だった。

巨大な輸送船の表面に豆粒のような軍艦が24隻張り付いているのだ。

その存在は目を凝らしてよく見ないと判らない位、小さかった。

「出航!」冥王星派遣艦隊の旗艦、「あたご」の艦橋に航海の始まりを告げるお馴染みの言葉が響いた。
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しかし、「あたご」は一向に動き出す気配も無かった。

探査主任が当惑した顔で航宙士の方を見やった。

しかし、航宙士も艦長もそして土方提督も落ち着いて前を向いたままだった。

考えてみれば当然である、今、派遣艦隊の各艦は自艦が単独で航行する時の巡航状態でのエンジン噴射しか
していない、これでは、ものすごく大きな足枷である輸送船を伴って動きだせるまでには時間がかかるのは
当然だった。

だが、数時間がたってもほんの僅かしか動かない艦隊に土方提督も少し、しびれをきらしてか、短時間の
最大戦速噴射を命じた。

やっと、その牛の様な歩みを始めた輸送船に土方提督は先人の苦労を思った。

<かつて人類が宇宙に飛び出し、木星に橋頭堡を作ろうとしていたころ、もう既に地球人同士ではあったが
宇宙戦はあった。

 その時はこんなレスポンスの悪いエンジンを使いこなして戦っていたのだ。>彼は先人の偉大さと共に
地球人の好戦的性格の凄まじさに身震いがする想いだった。

<この好戦的性格からくる誇りの高ささえなければ地球は今の苦境をむかえなくても済んでいた
かもしれない・・・。>土方はかつて藤堂長官が考えた事と同じ事を考えていた。

<だが、ガミラスの軍門に下る事は俺には絶対に出来ない!>やっぱり自分も骨の髄まで地球人だと思った
土方は自嘲しつつ、宇宙の彼方を見やった。


                                        ヤマト発進から2ヶ月、人類滅亡まで304日
by YAMATOSS992 | 2012-07-10 21:00 | 本文、追記

by YAMATOSS992