35. 漢(おとこ)の艦(ふね) (1)
「『メルダ・ディッツ』を尋問する、開けてくれたまえ。」古代が目的を告げると保安部員はすぐさま扉を開けた。
古代が中に入ると扉は直ぐに閉じられ、保安部員の緊張が伝わって来た。
なにしろ、史上初のガミラス人捕虜である、多分、あの保安部員も怒りと恐怖の入り混じった複雑な思いであそこに立っているのだろう。
古代自身も複雑な想いだった。
彼、個人としてはガミラスは兄、守を含め、家族全員の仇であり、地球を滅亡させんとする、憎んでも憎み
きれない存在だった。

イソカゼ型突撃宇宙駆逐艦「ユキカゼ」で戦艦「キリシマ」の撤退を殿軍として援護、戦死した古代進の兄、古代守

ガミラスの遊星爆弾攻撃によって無残に破壊され荒涼たる風景になってしまった地球。
失われた命は人類だけでなく生けとし生けるもの全ての生命に及んだ。

ただ、古代にとってメルダ・ディッツは次元断層を協力して突破した仲間であり、その母艦「EX-178」は
他のガミラス艦隊からヤマトを守る盾となって散華していった借りのある存在だった。

次元断層に落ち込んだ「ヤマト」 辺りには脱出出来ず死滅した難破船の残骸が漂っている。
次元断層を突破するには「ヤマト」の波動砲で突破口を形成し、エネルギーを使い果たして動けなくなった
「ヤマト」を「EX-178」が曳航して次元断層を突破する計画が立てられ、実行された。

途中、一時、牽引ビームが切られ、「EX-178」から怪無電が打たれるという「裏切り行為」ともとれる行動も
あったが、直ぐに牽引ビームは再接続され、2隻は何とか脱出に成功したのだった。

結束の固い「ヤマト」幹部の内でも今回の協力には否定的な見方があった。
しかも、「ヤマト」に波動砲を撃たせて脱出口を形成させた以上、ガミラス艦「EX-178」の方では敵である
「ヤマト」を牽引してやる必要は全く無かったのだ。
たぶん、あの時、ガミラス艦内では「ヤマト」協力派と単独脱出派の間で争いがあったのだろうと古代は想像
した。
だが、ガミラス艦「EX-178」の艦長、ヴァルス・ラング中佐は『漢』だった。

どんな犠牲を払ったかは判らなかったが沖田艦長との『漢と漢の約束』を守り通した。
そして脱出直後に出現したガミラス艦隊から「ヤマト」への射線上から退去する様に求められた時、メルダが
まだ帰還していない事を理由に退去を拒み、ガミラス艦隊の集中砲火を浴びて爆沈して果てた。

<『漢の中の漢』・・・>古代はその言葉を実際に見せ付けられた思いだった。 しかも敵であるガミラス人に・・・。
だから、今回のメルダへの処遇にはやりきれない想いがつきまとっていた。
だが、これも任務なのだと自分を納得させ、部屋の奥に進んだ。
漢(おとこ)の艦(ふね)-(2) へ続く