54.勇者の砦ー(1)
次元潜航艦をロケット・アンカーで捕らえる事に成功した「ヤマト」のC.I.Cは歓喜に溢れていた。
「騒ぐな!! まだ戦闘は終わった訳ではない!」真田副長が騒ぎを鎮めた。
「終わったも同然じゃないですか! 後は艦首を敵次元潜航艦に向けて『波動砲』を打てば簡単にケリは
付きます。」 南部砲雷長が我が意を得たりとばかりに発言した。
「『波動砲』は例えそれが敵でも『生きているもの』には向けてはいけない。
これがあの『木星の浮遊大陸』で私達が得た教訓よ。」森探査主任が低い声で発言した。
「森さん、何を理想論を言っているんです。 僕達は何が何でも勝ち進まなければならない!
地球が滅んでもいいんですか!」南部も負けていなかった。
彼は木星での試射の後、「波動砲」が常に脱出するために使われ、本来の兵器として使われないのが
不満でしょうがなかった。
「滅べばいいんだわ!! 私だって他の生き物の命を貰わなければ生きていけない罪深い身体を持っているわ。
でも、何もかも破壊する力を解放して、全ての命を奪って、私達だけが生き残って何の意味があるの!」
普段の森船務長からは考えられない激情の迸りだった。
「いいかげんにしろ!! 二人とも、まだ戦闘継続中だぞ!」真田副長が叱咤した。
「で、どうする。 戦術長・・・。」真田は古代の戦術運用に賭けてみようと思っていた。
古代はその権限委譲を目で受け取った。
「島、取り舵いっぱい!! 艦首を次元潜航艦に向けろ!」
「南部! 『波動砲』射撃用意!!」
「『波動砲』射撃準備に入ります!」その言葉に南部は有頂天になった。
「古代くん!」森船務長が古代を睨んだ。
「『波動砲』は使う・・・。 でも撃たなければ良いんだろう。」古代は悪戯っぽく微笑した。
「えっ、どういう事・・・。」森船務長は古代の真意を計りかねた。
「南部、『波動砲』発射準備に『強制注入機』を使う事を禁ずる。」古代は思いもかけない事を言った。
「何故です! 強制注入機を使わないと『波動砲』が撃てる様になるまで1時間以上かかりますよ!」
南部は古代が「波動砲」を取引材料にしようとしているのが判らなかったのだ。
<なるほど、次は彼女の出番って訳か・・・。>さすがに副長の真田は古代が何を考えているのか直ぐに
判った様だった。
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フラーケンが固定式次元潜望鏡で除いた先には艦首をこちらに向けた「ヤマト」が映っていた。
そして噂の大規模破壊兵器の砲口と思しき巨大な開口部には光がどんどん集まって来ていた。
<直ぐに移動しなければあの大規模破壊兵器の餌食になってしまう。
・・・多分あの兵器は次元境界面など簡単に突破してしまうだろう。
しかも、今の様に次元境界面の直ぐ傍にいたのでは致命的だ。>
<しかし、本艦はどうして行動不能になったのだ? >フラーケンは潜望鏡をぐるりと一回りさせた。
その視界に突然鎖の列が飛び込んで来た。
その鎖の連なりの先には「ヤマト」がいた。
<馬鹿な!! 本艦は錨に絡め取られたと言うのか! 原始時代じゃあるまいし! ディッツ閣下に何んと
言って釈明すればいいんだ!>フラーケンは馬鹿々しくなった。
しかし、次の瞬間には自分がこの世から吹き飛ばされるのだと言う現実に気が付き覚悟を決めた。
一分位の時間がたったろうか、何も起こらないのに不審をいだいたフラーケンは再び潜望鏡を覗いた。
「ヤマト」 の巨体が黒々とそびえ、アンカー・チェーンもしっかりとUX-01を捕らえて離してはいなかった。
だが、「ヤマト」の艦首にある大規模破壊兵器の発射口に集まっていた光の渦は消えていた。
代わりに「ヤマト」の第一艦橋の脇から発光信号が送られていた。
フラーケンはいぶかしんだ。
それが、ガミラス式のモールス信号だったからだ。
<何故、「ヤマト」がガミラス語を知っている?しかも、発光信号だと?>
フラーケンは潜望鏡を覗きながらその信号を読み上げ、ハイニ副長に書き取らせた。
「貴艦と停戦したし、使者を送る。・・・だと? 大将、罠ですよね?罠。」ハイニははなから信じる気は無い様
だった。
<奴等は確実に勝った、あのままあの「破壊兵器」を打ち込めば確実に勝利していた、なのにここに到って
「停戦」だと・・・どう言うつもりだ。>フラーケンは自分がコケにされた様で腹が立ってしかたがなかった。
「ヤマト」の舷側の格納庫扉が開き、一機の戦闘機が飛び出した。
その機体を見たフラーケンは目を剥いた、それはガミラス機、しかもその機体は「真紅」に塗られた「ツヴァルケ」
だった。
「緊急浮上!! 使者を受け入れる!」フラーケンは命じた。
「キャプテン、今、浮上したら『ヤマト』の陽電子ビーム砲の良い餌食ですぜ!!」ハイニ副長は反対した。
「やって来る『使者』は機首から尾翼まで真っ赤に塗られたツヴァルケに乗っている。
この事の意味がお前には判らんか?」フラーケンは事態が思いもかけない展開になっているのに戸惑っていた。
ツヴァルケはUX-01の直ぐ傍まで来て停止した。
UX-01は小さい艦なのでそのままツヴァルケが着艦出来る訳ではなかった。
UX-01から作業者が多数でてツヴァルケを後甲板に固定する作業をしているのを見つめながら副長の
ハイニが言った。
「機首から尾翼まで紅く塗った『ツヴァルケ』は航宙艦隊総司令、ガル・ディッツ提督の娘、メルダ・ディッツ
少尉の搭乗機ですよね。
確か、あの跳ねっ返りは乗艦した『EX-178』と共に戦死したと聞いていますぜ・・・。」
前にメルダが「ヤマト」航空隊に説明した「赤い囮」の話は決して嘘ではなかったが、メルダはその卓越した
技能を持つ様になっても敢えて「赤い囮」の任務を続ける事で敵に対する威圧と味方の士気鼓舞を図る
任務についていたのだ。
本来の「赤い囮」の任務に就く機体は機首だけを赤く塗っており、他は標準塗装のままであり、全面真紅に
塗った機体はメルダ機だけであった。
「会ってみればわかるさ。 使者はもう既に艦内に案内済みだな。 ハイニ。」フラーケンは艦内に通じる
ハッチに身体を押し込みながら言った。
「へえ、女のパイロットだと言う事は間違いない様で・・・。」ハイニは女性が苦手だった。
55.勇者の砦ー(2) へ続く