90. 使命の神託ー(9)
「ユリーシャ、遊びに行くわけじゃないんだから、ここで待っていてくれ。」古代は優しく諭した。
しかしユリーシャはしたたかだった。
「フーン、君には『ユキ』が何処にいるか、判るんだ、フーン。」
「ユリーシャ様にはお判りになるのですか?」収容所惑星レプタポーダでの一件を知らないメルダがたずねた。
「判るわ、もちろん!」ユリーシャは自信たっぷりにメルダへ応えた。
困惑した古代は沖田の方を見やった。
「古代、『森』船務長の”探知者”は必要だな。 『森船務長、救出』 任務に 『同行者』一名を認める。」沖田が
微笑した。
「ありがとう、『オキタ』、今は皆が自分に出来る事を精一杯やる時!さあ、私にも翼を!」ユリーシャが手を
広げて艦橋内を駆け廻った。
その時、探査係の岬 百合亜が叫んだ。
「ガミラスとイスカンダルのラグランジェ・ポイントから大質量の物体が落下して来ます。
推定質量六千万トン、落下予想地点はバレラス! ここです!」
「デスラーめ、第二バレラスの一部を切り離したな・・・。」メルダが唇を噛んだ。
第二バレラスの名の通り、この軌道都市(要塞)が新しき都となるのは一般市民でも知っており、秘密でも何
でも無かった。
しかし、それを都市の一部とはいえ自らの臣民の頭上に見舞うとは <指導者のするべき事では無い!>
<六千万トンもの質量がここに落ちれば「ヤマト」は破壊出来るかもしれないがバレラス、いや、ガミラスその物も
唯では済まない!>とメルダは思った。
「狂っている・・・。」メルダは腹の底から込み上げて来る『怒り』に拳を振るわせた。
「南部!波動砲、発射用意だ。」沖田は迷わず迎撃の司令を発した。
「波動砲でありますか?」南部は信じられないと言った顔をした。
「あの巨大・質量を迎撃出来るのは波動砲だけだ。
あれが落ちれば我々だけではない、無辜の民が沢山死ぬ。
そんな事は『ヤマト』が許さない! 『命を求める旅をして来たヤマト』が許さない!
南部!躊躇うな! 波動砲発射用意だ!」沖田は再度、波動砲発射態勢に入る命令を発した。
古代は慌てて自席に戻ろうとした。
「今は、俺が戦術長だ!」南部は席を空けようとはしなかった。
しかし南部は独り言の様に古代に告げた。
「彼女を頼む・・・。」
「今は皆が自分の出来る事を全力でやる時! あなたは『ユキ』のところへ行くのよ!」ユリーシャが珍しく
威厳のある言葉を発した。
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「榎本さん、コスモ・ゼロ・アルファ1を『装備B』で大至急用意してください。」古代は通路をユリーシャと共に走り
ながら、榎本掌帆長にタブレット端末を使って連絡を取っていた。
「装備B」とは本来、単座である、コスモ・ゼロを復座にして運用する事だった。
しかし、本来戦闘機としてギリギリまで減量しているコスモ・ゼロにもう一つ座席を押し込んで復座にする余裕は
無かった。
当然、代わりに外さなければならない機体構成部分があった。
それはミサイルや機銃、機関砲を操る「火器管制装置」である。
「丸腰で戦場に出る事になるが、それでもいいか?ユリーシャ・・・。」古代は念を押すように言った。
「大丈夫・・・。 何とかなるわ。それに殺し合いはいや!丁度いい。」ユリーシャは相変わらず楽観的だった。
二人がコスモ・ゼロが駐機してある第一格納庫に着くと床には取り外した火器管制装置の入ったジェリカン型
ボックスが四つ、浮かんでいた。
復座用の座席は取り付け済みだった。
古代が驚いたのはゼロが対空ミサイルで武装していた事だ、火器管制装置が使えない今、ミサイルを積んでも
意味が無いと古代は思った。
「へへ~ん、ミサイルは最新のショット&フォーゲット型です。
『手で投げて』も敵機を墜せますぜ。
機銃や機関砲もミサイル発射装置と同じく、火器管制装置を通さず、操縦桿の引き金に直結してありますから
発射は出来ます。 あとは戦術長の腕しだいって事です。」榎本は艦橋での遣り取りを知らないはずだったが、
古代が「装備B」を要求した時点で何が必要なのか、即座に判断した様だった。
古代はユリーシャを後部座席に括りつけると、操縦棹を握り、機体をカタパルトに乗せるといつもの発進の
合言葉を言った。
「コスモ・ゼロ アルファ1、クリアード、テイク・オフ!」一瞬、Gが掛りコスモ・ゼロアルファ1は宙に飛び出した。
91. 使命の神託ー(10) → この項、続く
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(語句説明)
火器管制装置・・・戦闘機の機載の探知器(今はレーダー)で敵機を捕え、銃なら最適射撃時点を知らせ、
(これをロック・オンした、又はピパー・オン・ターゲットと言う。)
ミサイルなら、敵機の近傍までミサイルをセミ・アクティヴ・ホーミング(誘導)する機器、
現代戦には欠かせない機器である。
昔は終末誘導も行っていたが、現在のミサイルは目標近傍まで誘導されれば後は、自分で
目標を捕らえ、追尾(ホーミング)する物が大半である。
もちろん、熱線感知型のミサイルの様に最初からミサイルが相手をロック・オンして追尾する
ものも存在する。( AIM-9サイドワインダー等)
(ミサイルの場合のロック・オンはミサイルの感知器が目標を認識し、何時でも発射出来る
態勢になった事を言う。)
ショット&フォーゲット型ミサイル・・・敵機に向けて「発射(打ったら)したら」そのミサイルとその敵機の事を
「忘れて」別の目標を追う事の出来るシステム。 現在はそのほとんどが赤外線感知型のミサイルではあるが、
コスモ・ゼロが搭載したミサイルは広角TV映像感知を併用しており、フレアなどのダミーに誤魔化され難い。