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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

110.星、越えし先の君(5)

 イスカンダルの王都イスク・サン・アリアの外れにある『展望区画』に古代 守は来ていた。

古代 守の故郷、神奈川の海とは風景、趣きは異なってはいたが潮の香りは同じだった。

古代 守は自分の病室で3D映像と共に再生された潮の香りを嗅いではいたが、やはり本物の香りを嗅ぐと
自然と涙が出てきた。
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「また病室を抜け出してこんなところに・・・。」古代 守の後ろから声がした。

イスカンダルの女王『スターシャ・イスカンダル』だった。

「病室を抜け出させたくないならこんな物、与えない方が良いのでは?」古代 守は自分が座った移動用
慣性制御椅子の肘掛をポンと叩いた。

この宙に浮く椅子のおかげで古代 守は広い王都イスク・サン・アリアを自由に移動出来るのだ。

「これは本来、あなたの治療に必要な場所がこの広い王都イスク・サン・アリアのあちこちに散っているので、
あなたにも無理なく移動してもらうために使ってもらっています。

それに、あなたはこれ(慣性制御椅子)を取り上げても、這ってでもここに来るでしょう? 古代さん・・・。」

しょうがない子といった感じでスターシャは微笑んだ。
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「しかし、この都市は静かですね。 それともここは王族の占有フロアなんですか?」守は何気なくスターシャに
聞いた。

「私には二人の妹がいます。 二人とも『テロン』・・・失礼、 『地球』 に使者として送っていますが・・・。

今頃は 『地球』 に二人が運んだ技術で作られた 『船』 で二人ともここを目指して航行している事だと信じて
います。

しかし、それだけです。今、イスカンダルにいる者は私一人です。」 スターシャは悲しげに目を伏せた。

「他のイスカンダル人は、・・・臣民は、庶民はいないのですか!」 守は驚いた。

「ええ、イスカンダルは古い星です。 種族の寿命が尽きかけていたのでしょう。 出生率は減り、どんどん
人口は減ってゆきました。

そして生き残ったもの達は自然と王都イスク・サン・アリアに集まって暮らす様になりました。

しかし出生率はどんどん低下して出生しても生き残れる新生児の数はほとんど零になってしまったのです。

そのためでしょう。ある時から新生児のうち、生存出来る生命力を持ったものは 『奇跡』 として自動的に
『皇族扱い』 される様になりました。

私達、三人姉妹も本当の親はそれぞれ別々ですが、今となってはその様な事は瑣末な事です。

私達、姉妹の結びつきには微塵も綻びはありません。
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ですが、悲劇はユリーシャが生まれて王族として 『皇室』 に迎えられた年に起こりました。

原因不明の疫病が流行り、皇室は全力を挙げて対処しましたが、国民は結局、全て死に絶えました。

父王と母王妃は私達、三姉妹をクリスタル・パレスに隔離すると星を蝕む病魔に立ち向かいました。

そして病原菌を排除する薬剤を合成する事に成功しましたが、時、既に遅く二人とも感染、病状が進んで崩御
してしまいました。

でも私達は父母が発見した病原菌に対する抗体を体内に発現させていますからもうその病気を恐れる事は
ありません。

ですが、もはや三人になってしまった私達、幼い三姉妹に何が出来るでしょう。

一時は放心した様にただ漠然と日々を送っていました。

しかし、私達は祖先達の歴史と業績の研究を時間潰しに始めました。

そして約二十年、研究を進めてゆく内に私達は 『あるもの』 を得ました。

その証拠に 『地球』 の救済のため、二人とも喜んで旅立ってくれました。」スターシャは誇らしげに天を仰いだ。

「二人・・・? ユリーシャさんだけではなかったのですか?」 守はイスカンダルからの使者 『ユリーシャ』 の
名前だけは聞いていた。 

そして彼女がもたらしてくれた新技術を使った新戦艦が建造されているという噂も知っていた。

しかし、ここイスカンダルにいては二人の安否は知りたくても知りようがない。

と、すれば二人が地球に向かった目的は全く別々のはず・・・、と、その時、守は 『メ号作戦』 の真の目的を
悟った。

あの戦場の反対側をサーシャ・イスカンダルの宇宙船が太陽系に進入したのではないかと想像された。
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<アマノイワト ヒラク・・・か。>あれは 『作戦・成功』 を告げる暗号だったのだ。

『メ号作戦』 は陽動だった・・・、しかし、古代 守の心に怒りは不思議と起こらなかった。

代わりに涙が頬を伝わった。

「妹達の身になにかあったのですか!」その涙を見たスターシャは顔色を変えた。

「いえ、違います。 これは嬉し涙です。」 守は涙を見られて照れ臭そうにいった。

自分がガミラスの捕虜になったのは太陽系最外周の冥王星近傍だった事。

旗艦の撤退を援護して踏み留まったが、結局、ガミラス艦隊に乗艦を撃破されて捕虜になった事。

普段は『逃げの沖田』とまで陰口を叩かれるほど無理をしない指揮官が旗艦と守艦の二隻になるまで奮戦した
事。

この事から自分達の作戦はサーシャ・イスカンダルを安全に地球へ導く為の『陽動』だったと考えられる事を
伝えた。
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「サーシャ・一人の為に何人の方が死んだのですか・・・。」 スターシャは震える手を押さえつつ聞いた。

「あなたが気になさる事ではありません。 我々は我々で生き残る努力をしただけです。 それに・・・。」 守は
言い切った。

「『陽動作戦』は 『武人』 の 『誉』 です、これは古来より 『地球人の伝統』 です。 

まぁ、『作戦』 に参加した者の全てが私の様に『陽動』を『誉』と感じるとは限りませんが・・・。」守は頭を掻いた。

スターシャ・イスカンダルは守の座っている慣性制御椅子の背面に付いている操作盤のタッチ・パネルを操作
すると守を病室に戻そうとした。

守はもう少しここに居たかったので左手肘掛に付いている操作スイッチで元に戻そうとしたが背面に付いている
操作盤の方が優先度が高く設定されていたので否応もなく病室に戻されてしまった。

ベットに守を寝かすとスターシャは黙って部屋を出て行こうとした。

「すみません。何か余計な事を言った様ですね。」守は何か怒らせる様な事を言ったと思ってスターシャに
詫びた。

「あなたの 『使命の神託』 はなんですか?」振り向き加減に守の方を向いたスターシャ・イスカンダルは訊ねた。

「『使命の神託』 ・・・? 何ですか、それは・・・。 『使命』 なら答えられますが・・・。」守は戸惑った。

「それは何ですか?」スターシャが短く問い掛けた。

「『ガミラス』 の侵略を退け、地球を復興させる事です。」守は自信をもって応えた。

「そうですか・・・。判りました。」 だが、スターシャは守に背を向けるともう振り返へる事なく、部屋を出て行った。

<駄目・・・。 この人は 『使命の神託』 を受けてはいない。>

スターシャは本当に落胆した。


                                       111.星、越えし先の君(6)→この項、つづく

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お待たせしました。  『星、越えし先の君』、再開させて頂きます。 また読んでやって下さいませ。
by YAMATOSS992 | 2014-01-12 21:00 | ヤマト2199 挿話

by YAMATOSS992