115.かの名はアヲ・スイショウⅡ(ア・ルー) (2)
中佐から連絡が入った。
謎の装備が再び発見されたとの事で撤去すべきかどうか、判断に迷っている旨の連絡だった。
「分かった、映像を送れ。」 タランはヘルダー中佐に指示を出した。
間もなくヘルダーから映像が送られてきた。
「我々はユリーシャ様の指示、通り主砲の撤去を行っていました。」 ヘルダーは解体の進む第一、第二の陽電子ビーム・カノン砲塔群を映し出した。
「しかし、艦底の第 三 陽電子ビーム砲塔が外見は陽電子ビーム砲塔ですが、中身は正体不明の機構が詰まって
いました。」 映像は陽電子ビーム砲塔内部に切り替わった。
タランもその機械に見覚えは無かった,しかも機械その物は大分、小ぶりで砲塔の内壁との間には大きな隙間が
あったが、これは砲塔と見せかけるカモフラージュの為だと推測された。
<あの 『魔女』 め一体、何を考えていたのか・・・。>気は進まないが、これはユリーシャ皇女に相談するしかない事と
判断したタランだった。
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「何? 謎の装備が見つかったの? 面白そう!」タランの報告を聞くとユリーシャは政界再編成の打合せを閣僚達としていたのだが、それを放り出して現場に駆け付けて来た。
艦内に入り、艦底の第 三 陽電子ビーム砲塔の所に来るとその機械を見るなり、彼女は言った。
「なぁんだ、『ゲシュタム・フィールド』 発生装置じゃないの!こんなもの珍しくないでしょうに!」 ユリーシャは不機嫌に
なったが、思い直してタランに聞いた。
「あなた達、もしかして、この機械を見るのは初めてなの?」
「はい、この様な装置、今まで見た事も聞いた事もありません。」ヘルダー中佐が率直に応えた。
しかし、タランは 『ゲシュタム・フィールド』 発生装置・・・。」と呟くと、何かに気づいてはっとした。
「だいぶ以前ですが、兄が、そう、この 『シャングリ・ラー』 が建造されている時、 『セレステラ』 情報相から
『ゲシュタム・フィールド』 発生装置の製作を頼まれたと言っていました。
何でも 『波動エネルギー』 を用いたエネルギー障壁だそうですが、 『持続時間に制限があるので実用的ではない。』 と申しておりました。
だから私も実物は見た事はありませんでしたのでこれがそれだとは見当もつきませんでした。」とタランは言い訳した。
「しかし、ユリーシャ様は何で 『ゲシュタム・フィールド』 発生装置の事をご存知だったのですか?」逆にタランはガミラスで
さえ一般的でない物を何故、ユリーシャが知っていたのか、不思議だった。
「えっ、・・・ それは 『ひ・み・つ』 女の子に聞く事では無くってよ。」 ユリーシャは軽くいなした。
本当は 『ヤマト』 の艦内 Netワークに潜って艦内を隅々まで探索していた時、『波動エネルギー』を 使った障壁、
『波動防壁』 の存在に気が付いていたからだった。
<本当の事を話したら私、 『 覗 魔 』 にされちゃうじゃない! ダメダメ、ここはとぼけて置こうっと!>まだまだ少女的な
ところを残していたユリーシャだった。
「で、どうします? やはり、撤去しますか?」ヘルダー中佐は実直な軍人だったが、ユリーシャに対する態度が
タランには不遜に思えた。
「ヘルダー中佐! ユリーシャ様に対してその口の利き方は何だ! 無礼 だとは思わぬのか!」
「タラン、いいのよ。 私はいくら、イスカンダルの第三皇女でもここ、ガミラスでは所詮、新参者よ。 軽んじられても
仕方ないわ・・・。」ユリーシャはヘルダーを庇ってやった。
「しかし、私は指導者として、ここに来た。 だから 『私の意思』 は尊重して頂戴! 二人ともわかった?
それと 『ゲシュタム・フィールド』 発生装置は絶対撤去しては駄目よ! 更に同じ物をあと二つ作って、第一、第二砲塔の
跡に設置して頂戴。
この大きさなら第一、第二砲塔の跡に設置しても装置が甲板の上に出る事は無いわ。
下部の装置はそれを隠せる位、最少の覆いを頼むわ。 砲塔には見えない様に気を付けてね。」 ユリーシャはその鉄の
意志を垣間見せた。
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レドフ・ヒス首相は今回の 『ユリーシャ様のご行幸』 が心配で堪らなかった。
軍艦に守られていては 『平和使節』 として 『被征服惑星』 に受け入れられないとのユリーシャの主張は最もな事だと
ヒスも思った。
しかし、今まで戦火が乱れ飛んでいた宙域を無防備な 『皇室ヨット』 がたった一隻で航行するなど、正気の沙汰とは
思えなかった。
今回の政変の立役者の一人、ガル・ディッツ提督に相談すると警護を付けるから心配いらない、それも飛び切りの猛者を
選んだとの返事が来た。
「首相、『皇室ヨット』 の改装が終了しました。」軍需省から連絡があった。
改装の指揮は大本営総参謀本部次官・補佐・カウルス・ヘルダー中佐が務めたが、管轄は軍需省だったのでそこから
改装終了の連絡が来たのだ。
「分かった、女皇、ユリーシャ様と一緒に拝見させて貰う。 用意して待て。」 ヒスは軍需省にそう伝えるとユリーシャに
連絡を取った。
ヒスとユリーシャは別々の車を連ねて 『皇室ヨット』 の待つ乾ドックに向かった。
乾ドックに着くとヒスは顔をしかめた、そこに在ったのは 『魔女の艦』 だったからである。

「君、何かの間違いではないのかね? ここにあるのは 『魔女の艦』 ではないか!」 ヒスは自分の高官用高級車の
運転手に訊ねた。
「間違いありません。ここが指定された 『乾ドック』 です。」 運転手は戸惑いながら答えた。
ヒスが運転手と押し問答をしているのを尻目にユリーシャは自分の車を降りて一人でさっさと乾ドックに向かった。
「女皇、お待ち下さい、あれは 『魔女の艦』 です。 ご行幸には使えません。」 ヒスはユリーシャを止めようとした。
「ヒス首相、何を根拠も無い事を恐れているの。 ちゃんと手なずけてあるから、心配しないで、これから艦内を案内して
上げるわ。」 ユリーシャは屈託のない微笑をヒスに向けた。
ヒスが概観観察用のモニターでざっと外周を点検すると、主砲を含め、大半の武装が撤去されていた。
<これなら、ほとんど無武装の 『皇室ヨット』 に見える、しかも後部の武装は残して最小限の自衛力は確保している!>
ヒスはユリーシャの理想と現実を上手く居りあわせる能力に感心した。
「どうしたの? 私のエスコートではご不満?」 ユリーシャが冗談めかして言った。
「あなた、御自身で御案内ですか? そんな、恐れ多すぎます! おい、改装の責任者はおるか?いたら女皇を御案内
しろ!」 ヒスは大声で呼ばわった。
「はっ、それでは自分が御案内します。 私はカウルス・ヘルダー中佐、改装の責任者です。」 ヘルダーが名乗りを
上げた。
<私が艦内 Net に潜ればたちどころに全てが解るのに・・・。>ユリーシャは自分の足で歩いて艦内を巡るのは
面倒臭かった。
ユリーシャはヘルダー中佐に質問をした。
「艦内巡視をする前に一つ、聞きたい事があるの。 ヘルダー中佐、艦内設備の内、艦内 Net に繋がっていない部分は
なかった?」
「はぁ、それが中央コンピューターの極一部ですが、アクセス出来ない部分があります。
ただ、私用で使うコンピュータ程度の容量だったので、問題ない、と判断し、そのままにしておきました。」ヘルダーは
率直に答えた。
「しまった! 『魔女』 め ・・・。」 それを聞いたユリーシャは顔色を変えた。

「ユリーシャ様! 何処へ行かれるのですか!」 ヒスは何が起こったのか解らず、ユリーシャを止めようとした。
「艦橋! 艦内 Net に潜るの!」 ユリーシャはヒスに短く答えると艦橋に向かって消えていった。
116.かの名はアヲスイショウⅡ(ア・ルー)(3)→ この項、続く