122.かの名はアヲスイショウⅡ(ア・ルー)(9)
彼等は以前、仕事の都合でガミラス帝星の首都、バレラスに赴いた事があり、その時、走っていた車のデザインが
今、目前に停車している車とそっくりなのだ。
車の扉が空き、イスカンダル・第三皇女・ユリーシャ・イスカンダルが、降車した。
しかし、彼等が驚いたのはユリーシャより先に降車して彼女の補助をしていたのは、女性ではあったが、ガミラスの親衛
隊員の制服を着ていた事だった。
更にもう一人、黒ずくめの服装をした女性が降りてきたが彼女もガミラス人だった。
あの ”呪われた青い肌” は忘れようもない・・・。
イスカンダル・第三皇女・ユリーシャ・イスカンダルが三人を引き連れて議会場の入り口の大扉を守るパチュとペチュの
所に来ると言った。
「イスカンダル・第三皇女・ユリーシャ・イスカンダル、第一回オルタリア講和会議参列の為、今ここに参上した!
扉を開けなさい。」
「後ろにいるガミラス人は何だ! ”青い肌の悪魔” はここを通すわけには行かない!」パチュとペチュは扉を背に
儀仗用の槍を構えた。
「君たちが任務に忠実なのは良く判ったわ、それにガミラスを如何に憎んでいるのかも・・・。 でも、私達は全てを越えて
前に進まなければならないの。 未来のために!」 ユリーシャの言葉は力強かった。
「良い! お前達は下がっておれ。」何時の間にか扉は開き、中から老人が一人出て来た、そして老人が外に出ると扉は
また閉まってしまった。
「この有様、御説明願いますかな、ユリーシャ様?」長老は前に彼女がオルタリア人とファースト・コンタクトした時に
彼女を救ってくれた男だった。
「まずは、紹介からね。 こちらはムド長老、ここ、ラシュラム市の長老よ。 私の左後にいるのは 『エリーサ・ドメル』、
今回の訪問で使ってる 『皇室・ヨット』・『アヲスイショウⅡ(ア・ルー)の船長よ。そして私の補佐官でもあるわ。
一番後ろの左右を固めているのは元・親衛隊員、エミル・ラストフ少尉とダフラ・ドーラン少尉よ、彼女達は私の護衛、でも気にしないで、私が 『ガミラス・皇室の女皇』 である『証』みたいな物で付いて来てるだけだから・・・。 武装もしてないで
しょ。」ユリーシャはさらっと自分の本当の身分を明かした。
しかし、長老にとっては 『エリーサ・ドメル』 の存在の方が気になった様だった。
「 『エリーサ・ドメル』・・・『ドメル・将軍』 の縁者の方ですかな。」長老は目を見張った。
「はい、『妻』 です。 残念ながら 『夫』 は戦死しましたので 『未亡人』 ですが・・・。」エリーサが悲しげに応えた。
「ああっ、良い人は皆、早く死んでしまう、おおっ、何て事だ。」長老はその場に泣き崩れた。
惑星オルタリアを征服したのはドメル・将軍の第六空間機甲師団だった、だから本来なら 『征服者』 として憎まれるべき
存在だった。
しかし、彼は敵を降伏に追い込んだ後、抵抗を封じる為、無力になった相手を更に攻撃するのがガミラスの常套手段
だったのにドメルはそれをを行なわなかった。
当時、オルタリアはゲシュタム・ジャンプは行えないものの強力な宇宙艦隊を持っていた。
そして最終的には壊滅させられたものの、ドメル・将軍を、悩ませる程の善戦をした、ドメル・将軍はその事に敬意を
払い、征服後も尊大な態度は執らず、ガミラス帝星から正式な総督が赴任するまで隷下の艦隊でオルタリアを防衛して
くれた。
最初、オルタリアの人々は自分達が威嚇されていると思ったが、別の部隊の艦が、オルタリアが降伏したのを良い事に略奪を行うため、来襲した時、ドメル・将軍は有無を言わさず撃破、オルタリアを守った。
もし、彼が周辺を固めていなければ、オルタリアは簡単にこうした略奪者の餌食になるところだったのだ。
長老はこの事件があった時、自分の街を襲ったガミラス艦を撃破したドメル・将軍と直接、会っていた。
ドメルは自軍の非道を詫び、二度と同じ行為をさせない事を誓ってくれた。
ガミラスは憎い、しかし、この行為のおかげでドメル・将軍の名は尊敬すべき者としてオルタリア人全体に伝わって
いった。
「 『ドメル夫人』 なら大歓迎じゃ、さ、オルタリアの代表者が内で待っておる、扉を開けよ!」長老が大声で呼ばわった。
「承知しました。」パチュとペチュが扉を再び開き、一行は内に入ろうとした。
しかし、ユリーシャとエリーサは簡単に通したが「親衛隊員の入場は認めてたまるか!」とエミルとダフラの入場は
拒否した。
「やめよ! パチュ、ペチュ、この二人はその青い色の肌、憎むべき親衛隊の制服を隠す事無く、我等の前に現れた、
しかも殺されるかもしれないのに丸腰でだ、詳しい事情は後でユリーシャ様がお話し下さるはず、今は何も言わず
この二人の勇者を通しなさい。」長老が命令した。
パチュとペチュは何も言わず、頭を下げると、塞いでいた道を開け、エミルとダフラの通行を許した。
一行が通ると扉は再び閉じられた。
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一行が議会の席場に着くとユリーシャは辺りを見回して言った。 「これだけの机と椅子を手配するのは大変だった
でしょう・・・。」そこにあった机は長大な木製の立派なものだった。
流石に椅子は使える物を掻き集めて来たと見えて造りは立派だったが、形は揃って居なかった。
「お恥ずかしい、しかし、この机はラシュラム市の議会で使われていたものです、あの 『惨禍』 の時、議会の建物は
この通り破壊されましたが、先程の入り口の 『扉』とこの 『机』 は残りました。
この 『扉』 と 『机』は 『ラシュラム市』 の 『誇り』 です。」長老・ムドは晴々とした顔で言った。
しかし、ユリーシャ一行が案内された議会の部屋の壁や天井は殆ど無くなり、青天井になっていた。
惑星オルタリアの太陽が議会場を明るく照らしていた。
長大な長さの机の長い一辺にユリーシャとドメル補佐官が座り、その後ろに、女衛士、エミルとダフラが立っていた。
反対の机の長い一辺にはオルタリアの生き残り勢力の代表達、八人程が座っていた。
「私はイスカンダルの第三皇女・ユリーシャ・イスカンダル・・・。」ユリーシャはお決まりの挨拶と部下の紹介をした。
オルタリア側の代表もそれぞれ自己紹介をした
「この方が辛気臭い建物の中で議論するより、余程、良いかもね。」ユリーシャは青天井を見上げて言った。
集まったオルタリアの生き残り勢力の代表達は自分たちが侮辱されたかの様に感じ、険しい表情になった。
「私がこれから話す事、これは厳しい事ですが、事実です。 私はこれまでに起こった事、現状、これから行わねば
ならない事を全て、白日の下にさらします。」
ユリーシャはガミラスのデスラー政権下で何が行われていたか、つぶさに語った。
イスカンダル主義の間違った解釈による周辺星系への侵略が行われ、親衛隊によって一等ガミラス臣民にすら容赦ない
弾圧が加えられた事、イスカンダルが呼び寄せた銀河系ゾル星系の惑星テロンの船、宇宙戦艦 『ヤマト』 を撃破しようと
してデスラーは帝都バレラス毎、 『ヤマト』 を葬ろうと画策、返り討ちにあって行方不明になった事、暴虐の限りを尽くした
親衛隊もその時、大半は宇宙の藻屑になった事を伝えた。
「今や、ガミラスに拠って造られた 『共栄圏』は完全に無政府状態です。 ガミラスのくびきを離れ、自由になるには
今は最高の状況です。」ユリーシャは核心に迷わず触れた。
「しかし、『独立』 出来るのは有難いが、今の状況では、我々に自分で立ち上がる力はもうない・・・。」ベルド地区の
代表が困惑して言った。
「では諦めて、『滅びの道』 を歩むのか?」何時の間にか、ザルツの元・統括官・カノン・バーレルが崩れた壁を越えて
協議の場に入って来た。
「バーレル元・統括官、あなたは呼んでいないわよ!」エリーサが咎めた。
「いいじゃない、別の被支配惑星の現状を語ってもらうのも悪くないわ。 それより、その腕、どうしたの?」ユリーシャは
バーレルの左手首から先が無くなっているのに気が付いた。
「単なる事故です。 お気になさらないで下さい。」バーレルは無くなった左手首を撫で廻しながら言った。
「申し訳ない、バーレル氏は私の居た地区で説得活動中に若者の先走りで行った攻撃で負傷されました。 しかし、
氏の部隊は一発も撃ち返さなかった・・・。代わりに更に説得の言葉を掛けて下さった、おかげで多数いた負傷者は全員
救助され、私も今、オルタリアの未来を語るこの場にいる事が出来ます。」ラッド地区の代表が弁明、感謝した。
「ユリーシャ様、皆様に本当の事を伝える時が来たと私は思うのですが・・・。」カノン・バーレルはユリーシャに迫った。
「フーッ、仕方ないわね。 でも、確かに何時までも ”秘密” にしておく訳にはいかないわ。」ユリーシャは覚悟を決めて
立ち上がった。
「我はイスカンダル第三皇女・ユリーシャ・イスカンダル、これは本当の事でした。 しかし、それはもはや過去の事、
今はデスラーが去り、親衛隊もいなくなってガミラス帝星は平和を取り戻しました。 しかし、デスラー総統のカリスマ性は
強大でそれがいきなり失われた衝撃はガミラス帝星に大混乱をもたらしました。
ヒス副総統だけではこの混乱を収める事が出来ない状況にありました。
そこで私はガミラスに 『皇室』 を開く事にしました。 彼等の 『心の支え』 になるために・・・。
だから今の私の本当の肩書きは 『ユリーシャ・ガミロニア』 です。」その言葉を聞いたオルタリアの代表一同は混乱した。
「惑星ザルツはデスラー総統を支持する勢力の一つだった。
オルタリアと違い、”兵士” を供給する事でデスラー政権下では被支配惑星の内では優遇される立場にあった。
だが、今度の政変でガミラスの膨張政策に歯止めがかかり、反対に 『軍縮』 が必要になった。」バーレルが無念そうに
言った。
「 『軍縮』 と言う事は惑星ザルツの存在意義は無くなったと言う事、すなわち、 『リストラ』 されたと言う事だ。」
「だから、ガミラスに 『皇室』 が出来てユリーシャ様が 『女皇』成られたから, 『軍縮』 の方向になった、と逆恨みした
我等はここオルタリアの救護に向かっているユリーシャ様の『皇室・ヨット』を二度に渡って襲撃したが、見事、
撃退された、しかも、襲撃部隊の人的損害は皆無、と言う、完敗だった。
しかし、女皇・ユリーシャ様は ”我等の罪は問わない” と仰せられた。
『混乱』を最小限度にする為に 『無かった事にする。』 とまでおしゃって下さった。
そして、救助された後、志願してオルタリアに残って居られた皆様の救援とこの会議への招聘を行ったのです。
さっ、ユリーシャ様、後をお願いします。」カノン・バーレルはそれだけ言うと議場の隅に引き下がった。
ユリーシャは立ち上がると沈黙したまま、深く頭を垂れた、そして暫くそのままの姿勢でいた。
「ユリーシャ様、頭をお上げ下さい。 確かに、この惑星に大損害を与えたのはガミラスですが、あなたがそれを負い目に
思う必要はありません。
それどころか、貴女は我らに救済の手を差し伸べて多くの民を救って下さった。
すべてはデスラーとその取り巻きが行った愚行です、あなたのせいではありません。」長老・ムドが取り成した。
「私は 『過去のガミラスの罪』を詫びようと思っている訳ではありません、どちらかと言えばこれから、皆様に味わって
貰わねばならぬ苦難についてです。」ユリーシャが思わぬ事を言った。
「私は極力、デスラー総統が作った 『共栄圏』を維持して行くつもりです。 何故なら急激な変化は必ずや政治体制に
歪を生み、その損害は必ず、『弱い者』の上に及ぶからです。
もはや、デスラー総統の愚行を繰り返してはなりません、しかし、彼の全てを否定し、政治を完全に刷新しようとすれば、
必ずや、犠牲が出ます。
だから、変革は少しづつ、ゆっくりとした変化にしたいと考えています。
ただ、一等臣民、二等臣民と言う区別は止めさせます。 人はすべからく平等であるべきだからです。
そして、私が維持しようと思っている 『共栄圏』 が気に入らなければ 『独立』 するのは皆さんの自由です。
ただ、この場合、選択肢は二つあると私は考えています。一つは完全に 『独立』 してガミラスと縁を切る事。
もう一つは 『独立』 はするが、 『共栄圏』 には残る事。 この場合、ガミラス帝星はもちろん、他の『共栄圏』 の惑星の
援助を受ける事が出来ます。
ですが、この場合、僅かですが 『税金』 を頂きます。 『共栄圏』 の 『防衛』は当面はガミラス帝星の責任ですが、
その運営・維持には資源が要りますので。」ユリーシャはビジネス・ライクな口調で壮大なビジョンを語った。
議会上は騒然とした雰囲気に包まれた。
「結論は今すぐ出す必要はありません。 皆さんでゆっくり話し合って決めて下さい。」ユリーシャは立ち上がると一行を
引き連れてオルタリアを後にした。
123.かの名はアヲスイショウⅡ(ア・ルー)(10)→ この項、続く