196. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(14)
ガルダ・ドガーラは旗艦防衛の為出撃し、ガラガラに空いた駆逐艦用船着き場に自分の駆逐艦を止めた。
申し訳けばかり駐在していた衛兵も着いたのがククルカン級駆逐艦で降りて来たのがガトランティス人だった為、
安心したのか、形ばかりの誰何でドガーラの率いる小隊を通してくれた。
「ドガーラ様、テレサ様の行方はどうやって確かめる御積りですか?>部下の一人が訊ねた。
「なあに、あの恐れを知らない "姫様" の事だ、我々に合流出来なかった時点で脱出の方針は捨てたはずだ。」
ドガーラは不敵な笑みを浮かべた。
「では、我々は何処に向かえば良いのですか?」別の部下が不審な気持ちを表した。
ドガーラは手書きの旗艦の略図を広げると艦橋を無言で指差した。
彼には部下達の息を呑む音が聞こえた様な気がした。
「心配するな、ここに行くのは俺一人だ、お前達はここに残って退路を確保して欲しい。」ドガーラの作戦は決して
無茶なものでは無い、テレサは個人用空間跳躍装置、"輪廻の雷" を持っている、ドガーラはテレサと合流出来
次第、"輪廻の雷" でテレサと共に空間跳躍して自分達の駆逐艦に戻れば良いと考えていた。
かえって部下達が居ると空間跳躍に手間取り脱出が失敗する可能性が高いと判断したのだ。
それより部下達は寡兵とはいえ、駆逐艦発進・着艦口を首尾している衛兵群を制圧し、脱出の足となる駆逐艦を
守るべきなのだ。
ドガーラの作戦を理解した部下達はドガーラと時計を合わせると船着き場の各所に散っていった。
部下達が着・発進口に繋がるエア・ロックに消えたのを見届けるとドガーラは意を決して艦橋を目指し通路を走り始めた。
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「ええい! まだ敵艦隊は殲滅出来んのか! この艦の巨大砲は殲滅戦艦メダルーサの備砲と同じ物だぞ! ”雷鳴”の
ゴラン・ダガーム如きが敵艦隊を殲滅したのに何故、本艦はそれが出来ぬ!」サーベラー丞相は猛り狂っていた。
しかし、殲滅戦艦の主砲は火炎直撃砲、巨大砲のエネルギーを空間跳躍させて選んだ敵に直接ぶつける兵器である。
砲身があさっての方向を向いていても跳躍終了点の座標が敵艦に合って居さえすれば命中するのである。
なんら変わりが無く、射線を敵艦に正しく向けなければ決して命中は覚束ない、また砲塔の旋回速度も巨大であるが
故に遅く、素早く跳び廻る敵艦に追従出来ないのだ。
その事を理解しろと言うのは軍事の専門家では無く、兵器に精通していないサーベラーには無理な注文であった。
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<ドガーラ殿、テレサ様救出はまだか!こちらは "自在雷" 放出用のエネルギーがもう尽き掛けている!>ナーカスは
今だ成らぬテレサ救出に痺れを切らしていた。
「自在雷に廻せるエネルギーは底を尽きました!」機関部長が冷徹な報告をした。
「航法士、慣性航行に切り替えろ! "自在雷" を含め砲撃を絶やすな!」ナーカスは航行を止めても火力は絶やさない
方針だった。
慣性航行に切り替え、等速で移動するナーカス艦隊は幾ら火力を維持していても超巨大戦艦の巨大砲にとって
止まっているも同然の良い目標だった。
超巨大戦艦の巨大砲がゆっくりと廻り、ナーカス艦隊にピタリと照準を付けた。
<俺の武運もここまでか・・・。>ナーカスはこれまでの苦しい戦いの数々に想いをはせた。
しかし、次の瞬間、ナーカス艦の艦橋・メインモニターにはガミラス艦の姿が大写しになり、大帝の超巨大戦艦の姿は何処にも見えなかった。
<・・・。>事態の見えないナーカスに向けて言葉を放ったのはメルダ・ディッツ大佐であった。
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「ナーカス艦隊、高機動戦闘を止め、慣性航行・戦闘に入りました。」探査主任が報告した。
<むぅ、航行エネルギーまで火力に廻さなければならない位、エネルギーが欠乏して来たか!>メルダは事態が
深刻な物になって来たのをひしひしと感じた。
<このままでは自滅する・・・ここは一端、距離を取って艦も兵も休ませなければならない!>メルダは冷静に状況を
分析した。
「短距離・ゲシュタム・ジャンプ! 超巨大戦艦とナーカス艦隊の間に割って入れ、ジャンプ終了後、ゲシュタム・
フィールドを全力で展開、極力広い宙域を防御し、味方艦隊の撤退を援護する!」メルダはにとって
"古への星の海往く船乗りの約定" を交わした者はその出自を問わず仲間だった。
『 "刃雷" の戦士、ヨダム・ナーカス殿、死ぬのはまだ先です! 我等は "迅雷" の戦士、ガルダ・ドガーラ殿から託された
役目を果たし終えておりません!」メルダはナーカスに無駄死を戒めた。
その間、メラ・ドーラⅡ(ア・ルー)は超巨大戦艦の巨大砲から送られる破壊ビームを一身に受けてナーカス艦隊の
楯となっていた。
つもりだったが、結局二基しか回収出来ず、残りの一基はクリフ・ラッド大尉が持って来てくれた、"イルダの贈り物" 、デストリア級重巡の主機関を装備した。
おかげでガイデロール級の艦体にそれが収まりきらず外部に出っ張ってしまったので第二砲塔様のカバーを付けざるを
得なかったのだが一基だけとは言え、出力が大幅にアップ出来たのは僥倖だった。
この余力が巨大砲の猛威からメラ・ドーラⅡ(ア・ルー)自体だけで無く、ナーカス艦隊まで含めて防衛出来たのだ。
「メルダ殿・・・。」ナーカスはメルダの身体を張って自分達を艦隊ごと守ってくれた事に言葉を失った。
「何をグズグズしている! 早く距離を取って安全を確保しろ! 態勢を整えるのはそれからだ!」メルダの強い言葉に
ナーカス艦隊は次々と空間跳躍して安全圏内に撤退して行った。
「我々も一度撤退しますか?」ルルダ・メッキラ艦長がメルダの指示を仰いだ。
「いや、我々まで撤退してしまったら敵の注意を引付ける役が居なくなってしまう、今の状況でそれはまずい!」メルダは
更に大胆な作戦を告げた。
「敵艦の至近距離に本艦をゲシュタム・ジャンプさせる。
敵の火砲は図体が大きい分、至近距離にいる艦を目標にするのは難しいはずだ!」メルダはメラ・ドーラⅡ(ア・ルー)が
指揮戦艦である事を最大限に利用するつもりだった。
自艦が敵との距離が近すぎて攻撃出来ない場合でも配下のデストリア級重巡戦隊は自由に誘導出来る、
また、ナーカス艦隊の撤退で開いてしまった穴は "反射遊星砲" や "光の花園" で補う考えだった。
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<なんと大胆な奴だ! ここまで接近されてはこちらの火砲は殆ど役に立たない!>超巨大戦艦の艦長は舌を巻いた。
巨大砲より大分小ぶりの口径を持つ輪動砲だけがメラ・ドーラⅡ(ア・ルー)に直撃弾を与える事が出来たが、短時間なら
巨大砲のビームすら弾くゲシュタム・フィールドを貫くには及ばなかった。
<なんとしぶとい、巧妙な戦い方だ! ガミラス恐るべし!>艦長は大損害こそ受けなかった物の、ブスブスと刺さって
来るヤブ蚊の様なガミラス艦の攻撃に次第に広がって来る損傷が艦長の不安を煽り、艦橋にいた全員の注意を艦外に
引付ける事に成功していた。
<メルダ殿、ナーカス殿、ここまで頑張ってくれるとは! 感謝しますぞ!」ドガーラは艦内集中情報管理室を制圧、
艦内監視カメラ網のネット・ワークに割り込んでテレサを捜していた。
衝撃音と共に艦が大きく揺れた,メルダの率いるガミラス艦隊の攻撃が超巨大戦艦の比較的弱い部分に命中したのだ。
ドガーラの居た情報管理室の中は長年部屋の隅や機器の上や後ろに溜まった埃が舞って一寸先も
見えない状況になった。
やがて視界が開けてくるとドガーラの目の前に信じられない人がいた。
「テレサ様、ここで一体何をしておられるのです?」ドガーラが不審そうに訊ねるとテレサは無言のまま、照れ隠し笑いをした。
彼女は情報管理室の天井付近に走っている電路や光ファイバー回線を収めた配管の上に潜んで情報収集を
していたのだが先程の被弾による衝撃で床に振り落とされてしまったのだ。
幸い、後から来たドガーラが情報管理室を有無を言わせず制圧してくれていたので改めて闘う必要は無かった。
「来たか、私なぞ放り出して置いても良かったのだが・・・。」テレサは話をそらす様に言った。
「そうは行きません! 貴女を "改革の星" と定め、慕っている者が大勢います! 簡単に見捨てる訳には参りません! 貴方はガトランティスだけで無くガミラスからでさえ有望な "指導者" として期待されているのです。」ドガーラの言葉に
テレサは船外監視モニターの一つに走った。
そこにはメルダ艦隊、デーリアン少将率いる "殲滅回廊" 守備隊残党、そしてヨダム・ナーカスの艦隊が船縁を揃えて
超巨大戦艦を攻撃している様が映し出されていた。
「ガミラス艦隊の総司令はメルダ・ディッツ大佐、ガトランティス艦隊の指揮官は "刃雷" のヨダム・ナーカス、私の古い
友人です。 皆 "古への星の海往く船乗りの約定" に従って集まった友軍です。 私がこの艦に忍び込み、貴女を
助け出すまでの間、時間を稼いでくれているのです。」ドガーラはテレサの質問を待たずに告げた。
197. ”大義”の”甲冑(よろい)” ー(15)→この続く