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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

207.疾風の漢(おとこ)ー(4) 

 ゴトランド・ゴース艦隊の司令官はちっぽけなガミラス艦隊が自分達の方に向かって突っ込んで来るのを見て鼻で
笑った。

「奴らは自殺する気かのう! これだけの戦力差を物ともしない武勇は買うが、何の工夫も無く突っ込んで来るだけとは
武人としては落第じゃな。」司令官は副官を見て顎をしゃくった。

確かに彼の目算は当たっていた。

ゴトランド・ゴース艦隊は戦艦十隻、巡洋艦五隻、駆逐艦二十隻、その他補助艦艇数隻からなる大艦隊なのに比べ、
ガミラス艦隊は中型輸送艦一隻、駆逐艦二隻の小艦隊、しかも艦隊の構成艦艇からしてこの艦隊が輸送艦と
その護衛・駆逐艦からなる戦闘を目的としないものである事は明らかだった。
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「敵艦隊に異常! 艦隊の規模が数倍に膨れ上がりました!」探知主任が驚いた様に声を上げた。

ゴトランド・ゴース艦隊は緩やかに取り舵を取りつつ艦首を殺到する魚雷やミサイルの方向に向け、被弾面積を減らす
努力を行った。

しかし、「遅いわ!」バーガーは闘志を剝き出しにして言った。

「司令、敵艦隊の誘導に成功しました! 敵艦隊はもはや拡散艦隊ではなく通常の密集艦隊に移行しつつあります。
こちらの誘導・魚雷の発射タイミング、慎重に図って下さいよ。」副官のディラー少尉も味方が圧倒的に不利な状況に
あるにも関わらず負ける気がしなかった。

「こちらの囮・魚雷が五十基、敵艦隊に突入します。」情報士官が冷静に告げた。

<さて、こちらの思惑通りに対魚雷・ミサイル(ATM)を使い果たしてくれれば良いのだが・・・。>ラングもバーガーも
スクリーンに見入った。

猛烈な爆炎が辺りの宙域を包みゴトランド・ゴースの艦隊の姿は一瞬、視界から消えた。

しかし、それはゴトランド・ゴース側にしても同じでガミラスの動向を見失っていた。

爆炎が晴れた時、ゴトランド・ゴース艦隊には次の対艦・魚雷の群れが指呼の間に迫っていた。
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第一群の魚雷の迎撃に対魚雷ミサイル(ATM)をほぼ使い切っていた敵艦隊は近接防御火器を使って弾幕を張るしか
無かったが、前の囮・魚雷群とは違って駆逐艦が放った誘導魚雷に率いられた大型魚雷群は巧みに敵の弾幕の
薄い所をぬって次々と敵艦に命中した。

ゴトランド・ゴースの探知主任はガミラス輸送艦隊が膨れ上がったと報告したが、これは本当に船が膨らんだ訳では無く
積んでいた魚雷とミサイルを投棄システムを使って艦隊の周りに展開させていた物を点火し発進させたものだった。

一回目は敵の迎撃ミサイル群を引付け、爆発させてしまう囮だったが、二群目は駆逐艦が発射した誘導・魚雷の出す
ビーコンに導かれて誘導・魚雷が狙った目標に一緒に突っ込んだのだ。

通常のガミラス駆逐艦は一隻あたり、前方発射管・四門、後方発射管・二門、前甲板上の垂直発射管(VLS)・八門、
合計十四基の誘導ミサイルを発射出来る。

つまり一基の誘導・魚雷は十~二十基の大型魚雷を導けるので通常の駆逐艦の場合、もし一隻しか居なかったら、
全発射管の魚雷を集中しても大型戦艦を撃沈する事は難しい。
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しかし、ラングが指示してホッファー・キルリング技術少佐とそのスタッフが実施した輸送・魚雷の急造プログラムによって
残った二隻のガミラス駆逐艦はその持てる火力を十二分に発揮出来たのだ。

しかし、問題もあった、基本的に襲撃目標は誘導・魚雷任せなのだ。

つまり、最初、ガミラス駆逐艦は目標を指定して誘導・魚雷発射するが、目標に接近すると魚雷は独自のプログラムに
従って目標を追尾する一種の”撃ち放し型”なので戦艦クラスの大物に魚雷が集中し、中型艦以下は撃ち洩らす恐れが
あったのだ。

「敵戦艦群はほぼ殲滅出来ましたが中型艦以下はほとんど無傷です!」情報士官がバーガーに報告した。

「予定通りだ! 次群の誘導・魚雷の発射準備は良いか! 目標、敵中小艦艇群!」バーガーは再び敵艦隊に魚雷の
雨を降らせて殲滅するつもりだった。

「旗艦、いや輸送艦101号から通信が入りました。」通信士がバーガーを呼んだ。

「おう、おっさんいや失礼、ラング司令、あんたの作戦通り事がはこんでいるな、喜ばしい限りだ。 だが、作戦はまだ
終わっちゃいない、俺の行動に口出しするな!」バーガーは勢いに乗っている今の状況を二等臣民に乱されるのが
面白く無かった。

「興が乗って居るところ、申し訳けないんだが右翼へ迂回させた船団と左翼に迂回させた船団が両方とも音信不通に
なった。

作戦計画では敵艦隊の中央突破する部隊は手持ちの魚雷とミサイルを全部使う予定だったのだが、迂回させた
船団群に残した魚雷やミサイルを第六空間機甲師団に渡せないと我々の任務は失敗という事になってしまう。

今現在我々が保有している魚雷やミサイルは後、一斉射分しかない、これを全部発射する訳にはいかないのだ。」
ラング司令の言い分はもっともだったがバーガー中尉にしてみれば散々積荷を摘み食いしておいて今更僅かばかりの
魚雷やミサイルを差し出して任務完了とするのは彼の矜持が許さなかった。

しかし、司令の状況判断に基づく命令を無視する訳にはいかないのもバーガーは重々承知だった。

<魚雷やミサイルが使えないならあとはビーム兵器しか無い。>幸いガミラス駆逐艦の陽電子ビーム砲はゴトランド・ゴース側で言えば戦艦クラスの大口径砲であった

但しに砲塔は一艦に連装砲塔が一基しかなく、しかも艦体下面という死角の多い場所に設置されていたので
ガミラスの駆逐艦乗りは皆、魚雷やミサイルを主力とした戦法を執っていたがそれが許されなければ仕方がない、
バーガー中尉はもう一隻の残存・駆逐艦ZR-102に命令を発した。

「敵艦隊の残存兵力を掃討する、貴艦は本艦とバック・トゥ・バックを執り死角を無くして敵に突撃を敢行する。
ガーレ・ガミラス!」本来ならガーレ・デスラー、ガーレ・フェゼロンとか言うべきなのだろうが、バーガーはそれらが持つ
特権階級的な響きが嫌いだった。
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「司令、やはりバーガー隊はこちらの援護をあてにしているんでしょうか?」副長がスクリーンから目を離してラングに
話しかけた。

「それならば放っておくだけだがあの隊形を見たまえ、ランツ君。」ラングはスクリーン上で敵残存艦隊に
吸い込まれてゆくバーガー隊を指差した。

「馬鹿な! 彼等は駆逐艦でビーム砲戦を行うつもりですか!」副長も決して新兵では無い、だからバック・トゥ・バックの
態勢で突撃するバーガー隊が陽電子ビーム砲で勝負しようとしている事に気が付いた。

<仕方ない! 彼等、ガミラスはザルツ星系を併合した存在だ。しかし、今は我々も二等とはいえガミラス臣民となった。 
彼等を見殺しには出来ない・・・。>バーガー隊がビームを閃かせ始めたのを見るとラングは”技師(エンジン)を呼んだ。

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ドーン、バーガーのいる艦橋が大きく揺さぶられる、「クソッ、どこをやられた!甲板長(ボースン)!」副長の怒号が
轟く中、バーガーの心の内は自分でも驚く程に冷静だった。

<これでやっと大事な物を救う事も出来ず、生き残ってしまった罪を清算出来る・・・。>
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だが、しかし、そんな想いを打ち消すような熱い願いがボロボロになったバーガー隊を飛び越え、敵・残存艦隊に
突き刺さっていった。

ラング司令が輸送艦に残すつもりだった最後の魚雷とミサイルを全弾発射したのだ。

今度は先の攻撃の様に駆逐艦の発射する誘導・魚雷は使えない、そこでラングは”技師(エンジン)ことホッファー
・キルリング技術少佐に魚雷やミサイルに元々組み込まれている簡易型の撃ち放しプログラムを有効にする様に依頼、
発射したのだ。

勿論、頼りは敵味方識別装置のみなので同士討ちは避けられたが、前回の攻撃の様な効率良い目標選択なぞ
望むべくもなく、同じ目標に多数の魚雷が集中してしまったり、殆ど被弾しなかった敵艦があったりとムラの多い
攻撃だったがそれでも青息吐息だったバーガー艦隊の援護としては十分にだった。

自艦隊を飛び越してゆく多数の魚雷やミサイル群を見て部下達は歓声を上げていたがバーガーの心は生き残れた
喜びと自分の悲しみを清算出来なかった苦しみに千々に乱れていた。

無数の魚雷とミサイルを浴び、再び爆炎に包まれる敵艦隊、三度に渡って無数の魚雷とミサイルの雨を受ける事など
通常の会戦では考えられない事なので彼等はもはやパニックに陥いり、動ける艦はちりぢりに母星へ潰走して行った。

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敵艦隊が去ったのでゴトランド宙域を満たしていた超空間通信すら無効にする広域電波妨害(バラージ・ジャミング)が
消え、敵が自軍の為の通信や探査の為にバラージをスポット・ジャミングに短時間切り替えた時のみ回復出来た
超空間通信も常時、通じる様になった。

「第六空間機甲師団が迎えの軽巡をよこすからそれまで現状位置に待機せよとの命令をよこしました。」通信士がラングに伝えた。

ラングはそれに了解した旨、返信をさせた。

バーガーは自艦いや護衛駆逐艦ZR-101の応急修理の指揮にてんてこ舞いだったが、それでも第六機甲師団が
すぐさま自分達の受け入れをしてくれないのが面白く無かった。

                                       208.疾風の漢(おとこ)ー(5) この項 (続く)

by YAMATOSS992 | 2016-06-11 21:00 | ヤマト2199 挿話

by YAMATOSS992