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宇宙戦艦ヤマト前史

yamato2199.exblog.jp

宇宙戦艦ヤマト登場前の地球防衛軍の苦闘を描きます。

 2199に登場するガミラス側の艦艇はいままでのどんなアニメ作品より良く考えられている。

それは単純な戦艦、巡洋艦、駆逐艦という大雑把な分類ではない。

ガイデロール級航宙戦艦 全長 350m 二等航宙戦艦 
                 33cm 3連双陽電子ビーム砲塔 3基、(主砲)
                 28cm 2連双陽電子ビーム砲塔 2基X2 (副砲)
                 ミサイル発射管 33基(前方向29基、後方4基)
別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_20483028.jpg


デストリア級航宙重巡洋艦 全長 270m 二等航宙装甲艦 
                  33cm 3連双陽電子ビーム砲塔 4基、(主砲)
                  28cm 3連双陽電子ビーム砲 2基(副砲?)
                  ミサイル発射管(艦首下面) 4基
                  標準戦闘艦として用いられる。
別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_20491444.jpg


ケルカピア級航宙高速巡洋艦 全長 240m 二等航宙装甲艦 
                    33cm 3連双陽電子ビーム砲塔 3基(主砲)
                    ミサイル発射管(艦首) 10基                     
                    通商破壊活動目的に用いられる軽巡洋艦。
別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_2050697.jpg


クリピテラ級航宙駆逐艦 全長 160m 二等航宙装甲艦 
                28cm 2連双陽電子ビーム砲塔1基(主砲)
                13.3cm 2連双陽電子速射砲塔 1基(後部甲板)
                ミサイル発射管(艦首) 4基
                4連双ミサイル・ランチャー 2基(艦橋後方)
別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_20523559.jpg


注目すべきはガイデロール級航宙戦艦からケルカピア級航宙高速巡洋艦まで主な艦種の主砲が
33cm3連双陽電子ビーム砲塔に統一されている事だ。

これは明らかに量産性の考慮だが、その搭載数や搭載方法に艦種の違いが表れているのも興味深い。

いっその事クリピテラ級航宙駆逐艦も33cm3連双陽電子ビーム砲塔1基にすれば統一が取れたのだが、
それでは戦艦の副砲のサイズの根拠がなくなる・・・と考えたのであろうか?

しかし、ガイデロール級航宙戦艦とデストリア航宙重巡洋艦との主砲数を比較すると、ランクが下なのにも
係わらず、デストリア級の方が砲塔数で1基多い。

但し、副砲数はガイデロール級の方が多く、ミサイル発射管にいたってはガイデロール級はデストリア級の
約8倍の門数を持っている。
(このあたり、地球流に言えば、ガイデロール級はド級戦艦ではなく、準ド級戦艦になってしまっている。)

また、正確に測定する術はないが多分、どの艦種も搭載ミサイルのサイズは統一されているものと思われる。

このあたりまでキチンと設計された艦艇群は今まで無かったと私は思う。

ただ、残念なのはガイデロール級の副砲塔の装備方法である。

旧作のシュルツ艦の設定を引き摺ったためか、非常に死角の多い装備位置になってしまっている。

また、他の艦艇も下面砲塔はこのままでは死角が多すぎる、舷側方向射撃時には支筒が伸びて砲塔が
側面の巨大なヒレの外を指向出来る様にでもなるのだろうか?

ただ、過去にあった艦艇でも「えっ!これで戦えるの?」と言いたくなる艦もあったのでいちがいに否定は
出来ないが、それでもこれだけ他の設定がキチンとしているとオシーイッと言いたくなるのもしかたがない。

まぁ、後はどこまでこの設定を本編が生かせるかにかかっていると言う事でしょうか?

追記

1)過去にあった艦艇で 「えっ!これで戦えるの?」 と言いたくなる艦の例

 カイオ・デュリオ級揚陸戦艦(?) (イタリア 1876年~1909年)
別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_722513.jpg

別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_724225.jpg

別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_72572.jpg

別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_7225935.jpg

別項 (1) ヤマト2199の登場艦艇考察 ガミラス艦隊編_e0266858_793018.jpg

舷側装甲は550mmもあったが、装備範囲は極めて限定されており、実戦では効果を発揮できたか、
疑問であった。

また、砲の発射間隔も15分に1発と極めて遅く、実質戦力としての価値は低かった。

これでもとりあえずの要求には間に合ったのだ。



2) 砲の口径設定からガミラスの長さの単位がある程度、分析できる。(ガミラスも十進法を使っている。)

33cm(陽電子砲) → 25ガミラス・インチ(33.25cm)

28cm(陽電子砲) → 21ガミラス・インチ(27.90cm)

133mm(陽電子砲) → 10ガミラス・インチ(13.3cm)

1 ガミラス・インチ → 1.33cm

と、いう関係があるのに気が付きました。 設定者の方はここまで考えているんですね。
# by YAMATOSS992 | 2012-07-07 21:00 | 考察
 <ヤマト主計科ー飛行班ー戦闘係 >

「戦術長、ちょっと話があるんだが・・・。」当直明けで第1艦橋を出た古代進に声を掛けた男がいた。

主計科、主計長、平田一だった。

「なんだい改まって・・・。」古代と平田は同期だったから公の場以外では名前で呼び合う仲だった。

「それは・・・。」口ごもる平田に古代は言った。

「場所を変えよう。」そう言って平田を艦橋後部の展望室へ連れ出した。

「さては、平田、『恋』でもしたか?」古代は展望室の宇宙を見ながら平田に悪戯っぽくたずねた。

「いや、これは公務に関する事なんだ。」平田は言い出しかねる様に遠慮がちに言った。

「公務? 主計科のお前が戦術科の俺に何の用があるんだい。 俺が頼みに行く事なら一杯あるんだが・・・。」
古代は笑って平田の肩を叩いた。

「確かに戦術科は色々と物を無くしてくれる、ヤマトの積載量が今までの戦艦とは比較にならないとはいえ、
旅は長丁場だ、物は大事に使ってくれよ。」平田も少し緊張がほぐれて来たようだった。

「で、その公用とはなんだい?」古代はズバリと切り出した。

古代はまだるっこしい事の嫌いな、良く言えば「熱血漢」、悪く言えば「やかん」だった。

「先日、エネルギー伝道管の修理に使うコスモナイトの探索を土星の衛星タイタンで行ったよな。」
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_15302420.jpg

「ああ、あの時は初めてガミラスの地上部隊と一戦交える羽目になった、航空隊の到着がもう少し遅れたら
探索隊は全滅していたかもしれなかった。」古代は綱渡りの様な指揮をして探索部隊を救ったのだ。

しかし、土星の衛星タイタンは完全に敵地、「ヤマト」の警護が優先するのは止むをえなかった。

「要するに、このような場合、航空隊の護衛を必ず付けて欲しい・・・。それがお前の要求だな。」古代は平田の
希望を一言で言い当てた。

古代もあの時、航空隊を付けてやるべきだったと後悔していたからだ。

平田は黙ってうなづいた。

「艦長に相談はしてみるが、多分、常時、主計科の船外活動に護衛を付けるのは無理だろう。

戦術科の飛行隊はチーム編成だ、1機欠けてもその活動には支障を生じる。

人間は物と違って補給は利かないからな・・・。

まあ、そういう時は出来るだけ俺が支援に出る様にはするつもりだ。 それで了承してくれよ。」古代は平田に
戦術長として出来る最大の譲歩をしてやった。

「そ、それは駄目だ!」平田は慌てて両手を突き出して掌を激しく振った。

「戦術長のお前が席を空けて良いのは余程の時だ。 主計科の船外活動の度に出動していたら限がなくなる!
この話は無かった事にしてくれ!」そう言うと平田は自分の部署に帰っていった。

**********************************************

 宇宙戦艦「ヤマト」が出発する10年前、まだガミラスの侵略が始まる1年前の事だ。

ガミラス戦で勇名を馳せた「ライニック姉妹」、フローラー・ライニックとフレイア・ライニックは共にまだ、15歳、
高校生になったばかりだったが、後年の才能はもう芽吹いていた。

フローラーは射撃の名手、フレイアは帆走機(グライダー、特にソアラー)の達人として将来を期待されていた。
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_20294344.jpg

「来たわ!直ぐ着陸用の誘導灯を点けてもらって!」フローラーは夜間双眼鏡を見ながらスタッフに言った。

ここはアメリカ大陸、メキシコの砂漠にある小さな飛行場だ。

そこに夜の闇に1点、小さな光が音も無く近づいて来た。

見る見るうちにその光は滑走路に点された僅かな光を頼りに高度を下げて来た。

地上数mになったところでそれが白く長い翼と細い胴体を持ったグライダー、(いや最上機種なのでソアラーと
言うべきか、)である事が判った。

そのソアラーは左翼の前縁、ほぼ中心に着陸灯を備えていた。

先ほど見えていた夜空を駆ける光の点はこの着陸灯のものだった。

通常、グライダーは夜間飛行はしない、だから着陸灯など付いているものはなかったのだが、
この「グルーナウ・ベイビーⅡ」は別だった。

この機は今年、ドイツで開催された「ハンナ・ライチェ杯」、グライダー選手権の長距離滑空部門の参加機
だったからだ。

グライダーはエンジンが付いていない、だから自力では離陸出来ないが、一度、空に駆け上がる事さえ
出来れば、後は操縦者の腕と気力、体力の続く限り、飛ぶ事が出来る乗物だった。

現に「グルーナウ・ベイビーⅡ」はドイツのグルーナウ(グライダー競技の聖地)を出発して、上昇気流を次々と
捕まえながら、約3000 km離れたメキシコまでほぼまる1日を掛けて飛んで来たのだ。

「グルーナウ・ベイビーⅡ」は見事な着陸を見せ、滑走路の中ほどで停止したが、パイロットは降りてこなかった。

フローラーを初めとしてスタッフは慌てて駆けつけ、コクピットのシールドを開けるとフレイア・ライニックが昏々と
眠っていた。

「やったぜ・・・。2,960km・・・。 世界新だ。」寝言の様に呟くフレイアにフローラーとスタッフは顔を見合わせて
笑った。

翌朝、フレイアは自分が粗末ではあるがキチンとしたベットで目覚めて驚いた。

「おはよう、フレイア、よく頑張ったわね。」フローラーがフレイアの目覚めに気が付き様子を見に来た。

「姉貴、俺がここに居るって事はちゃんと着陸できたんだな。」多分、体力的な限界まで飛んだのであろう、
フレイアは昨晩の着陸の事を全く覚えていなかった。

「そうよ。2,960km飛んで、長距離滑空部門で一応、優勝したわ。 世界新記録よ。」フローラーは
残念そうな顔で言った。

「その、一応・・・ってなんだよ。」フレイアは訝しげな顔をした。

「残念だけど、3,002kmの記録を作った人がいるの。 もっとも、彼女、年齢規定に達していなかったので
記録は非公認になったけれどね。」
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_20322067.jpg

「年齢規定に達していない・・・。 俺は規定の最低年齢だぞ。 その娘の齢は幾つだったんだ!」

「10歳だって、日本のAkira=Yamamotoって娘みたいよ。 世界は広いわね~っ」フローラーは両手を
広げて首を傾げた。

「10歳! 俺が初飛行したのは13歳だぞ! そんな幼い娘がグライダーを操縦するってのだけでも
信じられないぞ!」フレイアは悔しくて堪らなかったのだ。

「はいっ、これ!」フローラーは自分の発展型iPadでフレイアの目の前の空中にNetの情報を映して見せた。

フレイアは3D動画でにこやかにインタビューに応える可憐な少女に開いた口が塞がらなかった。

**********************************************

 「戦術長・・・。ちょっといいですか?」古代は主計科の士官、山本 玲に呼び止められた。

「おいおい、今日は主計科にやたらもてるな、今度は一体、何だい?」古代は控えめなその少女が士官だと
いう事が不思議だった。

「飛行隊に転属させて下さい。」怜はポツリと言った。

「えっ、あっ、そうか、タイタンで100式空偵を操縦したのは君か!」古代はタイタンで主計科のコスモナイト
採掘隊がガミラスの地上部隊に襲われた時、武装が全く無い100式空間偵察機でヤマトの航空隊が支援に
駆けつけるまで時間を稼いだ猛者が目の前にいる儚げな少女だと言う事が信じられなかった。
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_15311625.jpg

「あの時まで私、主計科でもヤマトで飛べるだけで満足でした。 

でも、ガミラスを相手に100式を駆った時、思い出したんです。 あの感覚を・・・。
 
私、8歳の時からガミラスの遊星爆弾攻撃が激しくなって飛べなくなるまで兄と一緒に一日も休まず、
飛んでいたんです。」

「お兄さんはヤマト航空隊にいない様だが・・・。」古代は嫌な予感がした。

「ええ・・・。航空隊の加藤隊長の部隊にいましたが、昨年、戦死しました。」玲は俯いて応えた。

「しかし、それじゃあ、加藤が戦闘が主体の航空隊入りを認めるとは思えないが・・・。」古代は玲に同情しつつ、
玲の希望にそえない事を伝えた。

「それじゃぁ 加藤隊長が認めてさえ、くれれば転属させてくれるんですね!」玲は喜んで古代の前から
飛ぶように消えていった。

「どうするんだい、戦術長?」古代はまた別の男に声を掛けられた。

「榎本さん! 聞いていたんですか?」古代に声を掛けたのは榎本 勇、ヤマトの掌帆長だったが、
彼は古代や島の訓練教官でもあった。

「あの娘の気持ち、空を飛んだ事のあるお前、いや、あなたなら判るでしょう。」榎本はいやに改まった口調で
言った。

「やめて下さいよ。 榎本さん、あなたには適わないなぁ。」古代はそういいつつ、榎本の言葉の重さを感じて
いた。

 空を飛ぶ、それは人類の夢であったが、一度それを成し遂げてしまうとそれは麻薬の様に人を虜にするもの
だった。

そして、戦争に負けて飛ぶ事を禁じられてもその情熱は更に激しく燃え上がるものだった。

山本 玲が10歳の時、大記録を打ち立てたハンナ・ライチェ杯、それは第2次世界大戦を挟んで世界の空、
狭しと飛び回った、偉大な女性飛行家(特にグライダー)を記念して創られた競技会だった。
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_6195524.jpg

彼女は第2次大戦中はテスト・パイロットとして世界初のロケット戦闘機、メッサーシュッミトMe163を
飛ばした事でも勇名だった。
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_6352978.jpg

当然、空軍の中にも知り合いが多く、ウーデット航空機総監もその一人だった。
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_6514665.jpg

彼は第1次世界大戦時のエースでもあったのだが、航空機総監というその地位ゆえに飛行を禁じられて
しまっていた。

ある時、ウーデットはライチェに「もはや、地位も名誉も軍服もいらない! 私に空を返してくれ!」と嘆いた。

空を飛ぶと言うことはそれ位、人を捕らえて離さないものなのだ。

<山本 玲もその一人なんだ・・・。>古代は本気で同情している自分に気付いて榎本に照れ笑いをしてみせた。

「戦術長、加藤隊長はあの娘を決して自分の隊に入れ様とはしないだろう。」榎本は古代の心配をズバリと
言い当てた。

「ええ・・・。 どうしたものか、俺には判りません。教えて下さい。」古代は元教官につい、甘えてしまった。

「戦術長! もはや俺はあんたの教官じゃない! そしてあんたは戦術科の長だ。 これ位、自分で考えろ!」
そう言うと榎本は立ち去ろうとした。

しかし、彼は思い出した様に立ち止まって言った。

「そうだ、あの娘は主計科だよな? 平田に相談してみるんだな。」榎本はウインクすると今度は本当に自分の
部署に帰っていった。

「平田・・・。そうか!」古代は自室に飛んでいった。

**********************************************

「これでどうだ。 お前の希望は適うし、玲の希望も適う、加藤の顔も立つし、そして何よりもヤマトは強力な
戦士を得るんだ。」古代は主計科の事務室で平田に自分のアイディアを説明していた。

「しかし、こんな事が許されるのかな、俺には信じられん・・・。」平田は古代の案の突拍子無さに呆れていた。

そこへ、山本 玲が帰って来た。 そして何事もなかったかの様に自分の仕事を始めた。

「加藤の所へは行ったのか?」古代は率直に聞いた。

「ええ・・・。行きました。 でも『女は戦闘機には乗せない!』とはっきり断られました。 それと『乗せたくても
乗せる機がない、余っている機はない!』、だ、そうです。」山本の頬には涙の後があった。

「君の飛行経歴は調べさせて貰った、飛行時間は14、600時間。対するに加藤は6、270時間、加藤の倍も
飛んでいる計算だ。

しかも、グライダー競技、小型機速度競技、模擬戦闘競技とあらゆる飛行競技で優秀な成績を収めているな。

何故、軍に入らなかったんだい。」古代は不思議だった。

「兄が、私の兄が入隊を許さなかったんです。」玲は悔しそうにいった。

「失礼だが、お兄さんが戦死された後も入隊希望は出さなかったのかい?」

「出しました! でも何故か、受け付けられず、今度の『ヤマト』計画時にも飛行隊を希望しましたが主計科に
回されました。」古代と平田は顔を見合わせた。

<裏で山本 怜の航空隊入りを阻んでいる動きがある・・・。>

<ちくしょう、こんな小細工に俺達は負けないぞ!>古代は平田と山本を連れて格納庫に行った。

「戦術長、格納庫は下ですが・・・?」山本は上へ向かうエレベーターに乗る様、促され、とまどった。

「加藤が言ったろう、『99式コスモ・ファルコンに予備機はない。』と、あれは嘘じゃない。 君を乗せると誰かを
降ろさなくては成らなくなる。 

だから君には『コスモ・ゼロ』に乗ってもらう。 

こちらは俺が乱暴な男だと心配してか、予備機が1機、用意してあるんだ。」古代は平田の顔を見て笑った。

「それに格納庫が戦術科の『99式』とは別だからトラブルも起こりにくいだろう。」そういいつつ、コスモ・ゼロの
格納庫に入って来た一行は数人の甲板員が折り畳まれて格納されているコスモ・ゼロの周りで何かしているのを見て驚いた。

「よう、話はついたようだな、こっちもじき終わる。」榎本掌帆長だった。

「これは・・・。」山本 玲が駆け寄ってコスモ・ゼロの機首にさわろうとした。

「おっと、まだ触っちゃなんねぇ。塗料が乾いてないからな。」榎本が言うとおり、コスモ・ゼロ2号機の機首は
オレンジ色に塗り替えられていた。

(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_2021527.jpg

「主計科、飛行班、戦闘係だ、この色が一番相応しいだろう。」榎本は得意げに言った。

**********************************************

古代 進と平田 一、山本 玲、加藤 三郎は艦長室へ沖田十三に呼び出されていた。

「今回の騒動の主犯格は古代、お前だな、新しい組織を作ろうとは随分思い切った事をしてくれる
じゃないか・・・。」沖田は怒っている様な言場使いだったが、その顔には笑みが表れていた。

「艦長、失礼ですが、私は今のヤマトの人員配置はとりあえずの仮のものと考えています。

これから先、1年にも渡る長い旅ですから記録に残っていない個人の特性や欠点が現れてくる場合があります。

その時、欠点はともかく、長所は出来るだけ伸ばす様にすれば、ヤマトの旅にとってより有益なものになります。

特に、山本 玲はあのフレイア・ライニックですら負かした事のある飛行士です。

是非、ヤマト航空隊への転属を希望します。」古代は真正面から沖田に望みを述べた。

「戦術長、ただ飛ぶのと飛んで戦う事は違います。私は認めませんからね。」加藤も真正面から反対した。

「あの、艦長、これは山本を飛行隊に入れるかどうかの問題ではなくて、主計科に飛行隊を設けても良いか?
との申請なんですが・・・。」平田が遠慮がちに言った。

「主計科、飛行班、戦闘係と言うわけか・・・。主な任務は主計科の船外活動時の護衛だな。 

後は大きな作戦で戦術長がコスモ・ゼロで出撃する時、僚機となってその活動を支援するのも重要な任務だ。
(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_11113489.jpg

(a) 宇宙戦艦「ヤマト」2199 挿話-(1)_e0266858_11124414.jpg

どうだろう、真田君、この案、まんざら悪くないとわしは思うんだが・・・。」沖田は第1艦橋で今の会議を
聞いていた真田に意見を求めた。

真田は今は第1艦橋を空ける訳にはいかなかったので会議にはインターコムで参加していた。

「超変則的ですが、今回の場合、実験的に主計科に飛行班を設けてみてもいいんじゃないですか。」

「判った。 ありがとう。 真田君。」インターコムを切った沖田は一同に言った。

「平田主計長、主計科に飛行班を作る事を承認する。 人選は君にまかせる。 古代、コスモ・ゼロの予備機を
主計科に貸し出す用意をしろ。 加藤、主計科が選んだパイロットの訓練を君が担当しろ! いいな。 
解散。」沖田はさっさとその場を取り仕切った。

艦長室を出る時、加藤 三郎は物凄い目で古代の事を見つめた。

「加藤、おとしまえって、やつをつけたいのなら殴ってもいいんだぜ。」古代は本気で言った。

しかし、加藤は直ぐに穏やかな目に戻り、古代に言った。

「負けましたよ。 主計科で飛行班を持っている船なんて歴史上、『ヤマト』が初めてでしょうね。」

「いいんだよ。 『ヤマト』は初めて尽くしの船だ、いまさら1つ位、それが増えてもどってことあるまい。」古代は
笑った。

「確かに! それはそうだ!」加藤も笑った。

その声は厚い扉を通して沖田の耳に届いていた。

「思惑どおりにいきましたね。」真田の声がインターコムから聞こえた。

「ああ、皆、成長している、喜ばしい限りだ。」

沖田の机の上のスクリーンには「ヤマト」の人員配置が映っていたが、山本 玲の所属は元々飛行隊と
なっていた。


                                                

                                    メ2号作戦の前にヤマトに強力な戦士が加わった。
# by YAMATOSS992 | 2012-06-28 21:00 | ヤマト2199 挿話
2012、7、3、加筆

前回で私が計画した「宇宙戦艦『ヤマト』前史」は一応、終了しました。

読んで下さった方はあまり多くなかった様ですが、私が長年、「ヤマト」第1シリーズに抱いていた想いのたけは
伝える事がほぼ出来たものと自負しております。

現在、宇宙戦艦「ヤマト」2199が発表され、素晴らしい展開が期待されますが、私はこの「前史」のベースは
あくまで1974年に発表された第1シリーズをリスペクトしております。(1部、2199も入っていますが・・・。)

**********************************************

拘った点は次の8つです。

1, 地球防衛軍は決して弱くはなかった事。(ガミラスの侵略開始から9年も持ち堪えていました。)

2, 地球防衛軍には沖田提督の他にも英雄は存在した事。 
   (末期なら、ともかく、初期にも勇者が居なければ9年も持ち堪えられません。)

3. 最初から遊星爆弾の攻撃があったとは考え難い事。(太陽系内だけでも軍事行動が出来る能力が
   あったなら、最初の攻撃は別にしても、その後の攻撃は迎撃出来たはずです。)

 したがって、ガミラスはその迎撃手段を奪う攻撃を主体に作戦を進めるものと判断して物語を構築しました。

4,太陽系派遣軍の総司令官が(過去の)シュルツでは小物過ぎて沖田と釣り合いが取れないので沖田と
  同レベルの好敵手を配しました。

  (レッチェンス大将、シュルツやガンツと違って、純粋のガミラス人、ドメルの師匠であり、デスラーの
   教育係を勤めた逸材。

  彼は木星の地球プラント群を巡っての攻防で沖田に破れ、戦死します。 

  また、多数の艦艇を失ってガミラスは戦術的には地球に敗北します。 

  しかし、木星の地球プラント群はガミラスによって徹底的に破壊され、戦略的にはガミラスが勝ちます。)

5,ヤマト2199の第1話で戦艦「きりしま」は全砲門をガミラス艦隊に指向しますが、ヤマト第1シリーズでは
 沖田監(「英雄」?)は第1砲塔だけをガミラス艦に向けます。

  第1シリーズを見ていた当時は「何故、他の砲塔を使わないんだろう。 製作者側が艦隊戦を
  知らないんだな~っ」と思って見ていましたが、主な行動範囲が木星圏位までしかない人類にとって
  冥王星は余りにも遠い存在なのに気付きました。

  そこで私は本文にも書きましたが、最後の地球艦隊は武装を最低限まで降ろして軽量化に努め、
  代わりに、大量の推進剤を飲み込んでやっと、冥王星へ辿り付けた事にしました。

6,ガミラス艦が冥王星会戦の時だけ異様に強い事。

 (地球は地球脱出のため「箱舟」計画を実施していましたが、その船の装備として新しい武器、
  「ショック・カノン」を開発していました。

 ガミラスはこの武器を恐れて対抗策を抗じます。 その結果、地球艦隊は大敗北を喫します。

 (内容は本文を参照して下さい。24話、27話 )

 また、ガミラス戦艦は駆逐型デストロイヤーという訳の判らない名前が付けられていますが、地球にはない
 量産型の重防御駆逐艦という艦種だという事にしました。

 そしてヤマト2199ではこの艦種は重巡だという事になっていますが、私は本来の「ヤマト」の設定を重視
 して、巡洋型クルーザーを重巡だと言う事にしました。
 
 これはj「ヤマト」では巡洋型クルーザーは駆逐型デストロイヤーより砲塔が少ない代わりにより大口径の
 フェーザーを積んでいる設定になっていたからです。

 そしてガミラスの軽巡は駆逐型デストロイヤーと同じ砲塔を数少なく積んでいるもの(ヤマト2199版)と
 しました。

 装甲は厚さは同じですが、重巡の方が覆っている面積が多い事にしました。

 軽巡は艦橋と機関の部分のみを覆っています。(このため、土星宙域の通商破壊戦でシャルンホルストの
 11インチレーザー砲でも撃沈可能でした。)

 また「ヤマト」では「シュルツ艦」として登場する大型戦艦ですが、「2199」では「ガイデロール級航宙戦艦と
 してデストリア級航宙重巡航艦よりも上のクラスに位置づけられているのにその武装はデストリア級重巡
 以下というのは納得いきません。(これではド級戦艦にもならず、準ド級戦艦です。)

 このため、あえて私は「シュルツ艦」は「大型指揮戦艦」だと位置づけ、その備砲も駆逐型デストロイヤー
 より、大口径の3連双砲塔を3基、副砲として駆逐型デストロイヤーと同じ砲塔を持つ事にしました。
 (こうでないと超ド級戦艦として「ヤマト」の好敵手になれないからです。)
 
7,イスカンダルから送られた波動エンジンは設計図だけが送られてきた表現になっていますが、これだけ
  大規模な装置になると数枚の設計図だけでは済まず、基礎理論も必要です。

  また、それらを地球側が理解出来る基礎知識がある必要があります。

  9年間の戦っていれば多少なりとも敵に関する情報や、捕獲兵器がある事も考えられます。

  更には地球の命運を担うかもしれないワープ理論をぶっつけ本番でやるとはとても思えません。
  (まともな科学者なら必ず、小規模でも実証実験を行うものです。)

8,登場する地球軍艦艇は過去に実際に存在していたものと同じ命名法に従う事にしました。

 ヤマト2199では「沖田艦」=「英雄」は日本の艦艇命名法に従っておらず、戦艦「きりしま」とした、と
 ありますが、詳しく拘れば「きりしま」=「霧島」は日本初の超弩級巡洋戦艦、「金剛」型の一隻であり、
 戦艦ではありません。

 (巡洋戦艦=Battle・Cruiser=戦闘・巡洋艦、つまり、戦艦の攻撃力を備えた巡洋艦です。
 したがって、日本式の命名法に従えば”山の名前”が使われているのです。 戦艦なら、扶桑、山城、伊勢、
 日向、長門、陸奥、等”旧国”名が相応しい名前であったと考えられます。 

 『河内』なんてマニアックで良かったかも?)

 このため私は沖田艦の名前は敢えて「英雄」とし、戦隊を組む同型艦「栄光」を設定しました。

 同じ理由で私のヤマト前史には「むらさめ」型巡航艦は登場してきません。

 (「むらさめ」は天候気象名であり、本来、駆逐艦の名前です。 

 20、3センチ(8インチ)砲を装備している重巡なら”山”名。

  15.5センチ(6インチ)砲を装備している軽巡なら”河川”名が相応しいと思います。)

  外国艦はめんどくさいので実際に存在していた戦艦や巡洋艦、駆逐艦の名前をそのまま流用しています。

(通商破壊艦「シャルンホルスト」級だけは例外。この級の実艦は大砲こそ小さいものの、立派な戦艦です。)

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くだらん拘りかもしれませんが、飛行機、艦船、AFVと広く浅くかじっている身としては少ない知識を
総動員してこの物語を書き上げました。

読んでやって下さい。

また、前史の本文は一応終わりますが、加筆が必要と感じたら随時加筆しますので宜しくお願いします。

また、野田大元帥の名言「SFは絵だね~っ」と言う言葉がありますが、私もそう考えますので、随時イラストを
追加して行く予定です。

そちらも見てやって下さい。

また、ヤマト2199を見ていて気になった点など番外編的に発表したいと思いますのでそちらもよろしく!

それではまだまだ終わらない宇宙戦艦「ヤマト」前史、気に入った方は読んでやって下さい。
# by YAMATOSS992 | 2012-06-27 21:00 | あいさつ
 沖田は冥王星会戦の最中、戦場近くを猛スピードで過ぎっていった飛翔体が火星に不時着、搭乗員は
事故死したものの、異星からのメッセージが込められた通信カプセルが回収されたとの報告を受けていた。

<一体、どこから、何のために?>その大いなる疑問を残したまま地球最後の戦艦「英雄」は地下ドックに
その傷ついた巨体を横たえていた。

しかし、まだ、沖田はこの出来事が地球にとって、吉報であるとは思いもしなかった。

余りにも多くの命が失われたのだ。

幸い、本当の目的であった、ワープ理論の実証実験には成功したとの報告を大山から受けてはいたが、
それは最後の地球防衛艦隊の全滅と引き換えに得られた苦い成功だった。

沖田は冥王星前線基地の防衛を担っていた戦艦が今まで戦ってきたガミラス戦艦と姿形は変わらなかった
ものの、その攻撃力、防御力が桁違いに強力だった事に自分の読みの甘さを感じていた。

<奴等が拠点防衛により強力な艦を当てているのを見抜けなかったのはわしの責任だ・・・。>

沖田の計画では大山技術大佐率いる第1特務戦隊がワープ゚実験を行っている間位は「英雄」と
突撃駆逐宇宙艦の組み合わせである程度持ち堪えられると踏んでいたのだった。

しかし、現実はガミラス艦の攻撃力の前に突撃駆逐宇宙艦は突撃体制に入る暇も与えられず、次々と爆沈して
いった。

戦艦「英雄」も主機関を換装した結果、出力が50%増しており、今までのガミラス戦艦であれば
フェーザー砲3連双砲塔1基でもその装甲を打ち破れる計算だったのだが、「英雄」のフェーザー・ビームは
ガミラス艦に簡単に弾かれてしまった。

その弾かれ具合は沖田が今まで戦って来たどのガミラス艦よりも強かった。

地球側は知る由も無かったが、ガンツの命令で改良されたガミラス艦のエネルギー転換装甲は「英雄」の
フェーザーを浴びた時、攻撃力も加速力も0%にして回せるエネルギーを全て装甲の強化に使っていたのだ。

そして攻撃時には防御力や加速力の回すエネルギーを0%にして今までとは比較に成らない強力な
フェーザーを地球艦隊に見舞ったのだ。

これでは武装を減らして、大量の推進剤を飲み込んで質量が増し、機動力が落ちた地球艦隊に勝ち目が
無いのは当たり前だった。

しかし、そんな事は知らない沖田提督は失った大勢の部下にどの様に詫びたらいいか、考えあぐねていた。

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 今、地球防衛軍の地下司令部は静かではあるが、只ならぬ喧騒の中にあった。

火星で回収された異星からの通信カプセルの内容が解読されたのだ。

それには驚くべき事が記されてあった。

メッセージの発信源は地球から14万8000光年離れた惑星イスカンダルであり、その住民は地球の窮状を
知り、それを救う放射能除去装置を提供する用意があるとの事であった。

それだけなら単なる与太話として相手にされなかったであろうが、カプセルにはその星の精密な座標と
そこまで短期間で辿りつける新型エンジンの設計図とその理論が付与されていた。

早速、天文班と技術班がその真偽を確かめるために動員された。

天文班は惑星イスカンダルの存在までは確認出来なかったものの、イスカンダルが所属するであろう、
恒星系の存在までは確かめる事ができた。

技術班はそのエンジンについて全く予備知識が無かったので本物か、どうか、確認する事が出来なかったが、
その事を聞いた藤堂長官は今回の冥王星遠征計画の真の目的を思い出していた。

伊地知参謀長は冥王星からの遊星爆弾攻撃が止まない事から今回の作戦は失敗だったと決め付けていた。

彼はあくまで地球艦隊の陽動作戦により、地球側の戦略攻撃を成功させ、ガミラス冥王星前線基地を
壊滅させる事が今回の作戦内容だと思っていたからである。

しかし、沖田は藤堂や伊地知に今回の作戦の本当の目的はガミラスに知られずにワープ技術の理論実験を
行う事だと告げていた。

藤堂はその作戦に参加した技術者が今回のカプセル情報の解析に参加していないのを確かめて眉を
ひそめた。

真田は呉ドックの最高責任者に、大山は「箱舟」計画の脱出戦艦「ヤマト」の建造責任者と全く別の部署の
扱いにされていたのである。

確かに、今回の冥王星会戦を陽動作戦としてまで行ったワープ理論確率実験は脱出戦艦「ヤマト」のための
技術確立のためであった。

だが、それなら一番、ワープ技術に通じているのは真田と大山であるはずで、この二人を蚊帳の外に置いて
新型エンジンを解析しようとしてもそれは土台無理な話である。

藤堂は真田と大山を直ぐに呼び出し、カプセル情報の解析を行わせた。

**********************************************

 ドイツ、ニュルンベルグ郊外にあるドイツ艦隊秘密地下ドックには今回の作戦艦、「シャルンホルスト」と
「グナイゼナウ」が仲良く並んで入渠していた。

フローラーが艦長室の片付けを済ませ、「シャルンホルスト」を出ようとしてエア・ロックの扉を開けると銃を
構えた憲兵隊が待っていた。

「私は宇宙軍・憲兵隊、ヴァルター・クラブマン中佐です。フローラー・ライニック大佐ですな。 国家反逆罪の
容疑で逮捕します。」

「姉貴~っ、 」先に「グナイゼナウ」を出たフレイヤも逮捕された様だった。

後ろ手に手錠をかけられた彼女は、余程、暴れたのだろう、肩章が片方無くなっていた。

「国家反逆罪? 今は1国の国益にかまけて全人類の将来を失う事の方がよっぽど反逆よ。 
そうは思わない?」フローラーはクラブマン中佐を射すくめる様に見詰めた。

「私はあなた方を『国家反逆罪で逮捕しろ!』とだけ命じられました。

私には罪の内容がどの様なものなのかは知らされておりません。

黙ってご同道頂けませんか? 我々にしても故国の英雄に手錠をかけるなどと言う辱めは与えたく
ありません。」

「わかったわ。クラブマン中佐、案内してちょうだい。」

「有難うございます。!」満面に笑みをたたえてクラブマン中佐は敬礼した。

フローラーがそのままクラブマン中佐について歩き始めようとするとフレイヤが心の中で文句を言った。

<おいおい、俺はこのままかい。> <大人しくできるなら手錠を外してもらってあげるけど、大丈夫?>

<しかたない、ここまできたらジタバタしたって始まるめえ~。 大人しくするよ。>

フローラーは笑ってクラブマン中佐にフレイヤの縛めを解いてもらった。

右手首を左手でさするフレイヤの目の前に一人の若い憲兵が何かを差し出した。

先ほど、逮捕時に暴れたフレイヤの右肩から外れた肩章だった。

「あ、有難う、伍長・・・。」フレイアは受け取りながら思わず礼を言った。

その言葉に若い伍長も笑みをたたえつつ、敬礼した。

地球壊滅の危機の中にあって「東の沖田、西のライニック姉妹」は英雄として絶大な人気があったが、
当然、欧州連合では「ライニック姉妹」の方が沖田提督より人気があった。

それは土星圏での通商破壊戦で1年半に渡る活動とその大いなる戦果、木星会戦での
ガミラス威力偵察部隊の阻止、木星ー地球間での通商保護活動と活躍の場が広かった事が大きかったが、
姉妹が二人共、オリンピック選手だった事も人気の一つだった。

しかし、何より姉妹が若い美人だという事が最大の人気の秘密だった。

憲兵隊の兵士達は「姉妹」を逮捕しに来たにも係わらず、「同じ時と空間を『姉妹』と共に出来る光栄」に
高揚していた。

「ライニック姉妹」は憲兵隊をまるで護衛の様に引き連れて地下司令部の方に向かって消えていった。

**********************************************

 真田技官は興奮していた。

目の前にあるイスカンダルから提供されたワープ理論は大山技官と共同で解析したガミラス艦のエンジンから
得られたワープ理論と殆ど同じものだったからだ。

真田は隣りでモニターを見詰める大山の方に目をやると大山も顔を上げて真田の目を見詰めた。

「これはいけるな・・・。」真田は大山に声を掛けるともなく言った。

「だが、これは、・・・。 信じられん・・・。」大山はイスカンダルからもたらされた理論とエンジンの詳細設計図
から得られたデータを使って新型エンジンの能力をシュミレートしてみたのだ。

その結果、このエンジンの最大跳躍距離は1回で1000光年にも及ぶ事が解った。

ガミラス艦から得られた解析データと、冥王星会戦の裏側で行ったワープの実証実験の結果から得られた
データで地球単独でワープ機関を開発しても精々1回の跳躍距離は数十光年が精一杯だった。

二人は何度となく、シュミレーションを繰り返したが、その結果は同じだった。

イスカンダルへの旅は往復29万6000光年にも及ぶが、1回の跳躍距離が1000光年にも及ぶとなれば、
航行だけに限ってだが、1日、1回のワープをすれば296日で消化出来る計算なのだ。

これは勿論、戦闘や天体現象などの障害が一切なかった場合の話であり、現実にはこの日数ではギリギリと
考えるべきだと真田も大山も思った。

1日のワープ回数を増やせば更に時間短縮できるのは明白だったが、1日に何回ワープ出来るのかは
未知数だった。

機関が持っても、人間が持たないかもしれない・・・、これはやってみるしか判らない事だった。

だが、今までの検討でこの「イスカンダル行き」が不可能ではない事が確かめられたのだ。

二人はこの検討結果を報告するために藤堂長官の待つ司令室に向かって部屋を出ていった。

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 ライニック姉妹は宇宙軍総司令官の部屋に護送された。

部屋の前にはシェーア提督の愛弟子、ヒッパー少将が二人を待っていた。

護送してきた憲兵隊はヒッパー少将に敬礼すると退去していった。

「入りたまえライニック大佐。」ヒッパーは二人を司令官室に誘った。

フローラーとフレイアは顔を見合わせたがヒッパーの言葉に従って入室した。

ヒッパーは部屋の木製の扉を閉めると二人に向き直った。

「国家反逆罪って、何の事だよ!」フレイアがたちまち切れた。

「国家の財産である巡航艦を勝手に持ち出して、他国の作戦に協力したのが反逆でなくてなんなのだ?」
ヒッパーは厳しく詰問した。

「この作戦はあくまでもガミラスの冥王星前線基地を攻撃するためのものでした。

しかも、我々の協力は後方支援で、危険は少ないものと判断できました。

確かに事後承諾を狙ったのは認めますが、それは上層部に作戦協力の可否を問うていたら間に合わないと
判断したからです。」  フローラーはサラリと答弁した。

「だが、その後方支援とやらは失敗したようだな。 ガミラスの遊星爆弾攻撃はいまだ続いているぞ。」ヒッパーはここぞと痛いところを突いてきた。

「そんな事はない! ワープの実証実験には成功した。 それが本当の目的だったんだ。」フレイヤは
思わず話してはならない事を口走ってしまった。

フローラーは<しまった!>と思った。

日本が地球脱出計画を進めている事は他の国には知られてはならない事だった。

日本が進めている計画は地球生命全部のDNAを他の星に移住させようと言うものであり、
現在生きている人間を脱出させようと言うものではなかったが、そういう計画があると知られただけで
人類同士の間に疑心暗鬼を生み、地球陣営の分裂を促す恐れがあったからだ。

「ワープ? やはりな、君達はすでに今回の事を予想していたのだな。」ヒッパーは姉妹が思いもかけない事を
言った。

ヒッパーはイスカンダルからのメッセージの件について語った。

「今、生き残っている大型艦は君達の『シャルンホルスト』と『グナイゼナウ』、日本の『英雄』しかない、
しかもこの3隻はどれもイスカンダルから提供された『波動エンジン』とかいったかな? ワープの出来る
新型エンジンを積むには小さすぎる、日本が秘密裏に建造していた『箱舟計画』の船しかこの新型エンジンを
積め、かつ、こんな困難な任務に耐える船はない。」ヒッパーは驚くべき事を告げた。

「日本の『箱舟計画』は超機密のはず、なんで提督はご存知なのですか!」フローラーは思わず聞いて
しまった。

「『箱舟計画』? そんなものはもうないよ。 我々にあるのは最後の希望、『ヤマト計画』だけさ。」ヒッパーは
悪戯っぽく笑って自分のコンピューターのモニターに写っている物を大スクリーンに写して見せた。

「これは・・・。」そこに映し出された物を見たライニック姉妹は開いた口が塞がらなかった。

スクリーンには九州坊が崎の秘密ドックで8割がた完成した『宇宙戦艦「ヤマト」』の姿が映っていたのである。

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藤堂は自室に沖田、伊地知、真田、大山を呼んでいた。

「諸君! イスカンダルからのメッセージは本物であると判断できる材料が揃った。

特に大遠距離を航行出来るワープ技術の提供は我々にとって福音以外の何物でもない。」ここで藤堂は言葉を
切った。

「問題はこの技術の用い方だとわしは思う。」

「というと?」沖田が問うた。

彼にとっては地球を救う道が示されたのならそれを全力で行うのが当然だったからだ。

「イスカンダルには行かず、ガミラスの来ないところへ素早く避難するという事ですね。」伊地知参謀長が
とんでもない事を言った。

沖田は何時に無い激しい表情で伊地知を見詰めた。

しかし、藤堂は言った。「伊地知君の意見も確かに選択支の一つだと思うが、どうかね。」

「俺は、この計画が、これだけ新しい可能性が与えられたにもかかわらず、脱出計画のままなら、もう、
この計画からは手を引かせてもらいます。」大山が伊地知の意見に反対の立場を示した。

「もはや手遅れです。 誰が流したかわかりませんが、イスカンダルからの使者の到着とそのメッセージ、
日本がその救いの手に応えて新型戦艦を建造、放射能除去装置を取りに行くという情報がNetに流れ、
世界中の掲示板にその内容が書き込まれています。」真田が真顔で報告した。

大山はその犯人が誰だか直ぐに判ったがそしらぬ顔で皆と一緒に驚いて見せた。

「決まりましたな。 火星で眠るイスカンダルからの使者は文字通り自分の死を賭して我々に希望を
運んでくれました。

その想いに応える義務が我々にはあります。」カーテンの陰に隠れていた土方提督が皆の前に姿を表して
言った。

「土方、後は頼んだ。」沖田は長年の友、土方提督に地球の事を託した。

「沖田、必ず帰ってこい!」 二人の老勇は固く手を取り合った。

「くそっ、どうしてお前等はわしを無視していい所を皆持っていってしまうんだ!

わしだって、わしだって、人類の存続にさえ拘らなければ、イスカンダルでもガミラスでも行ってやる!

でもそれでは人類は滅びてしまうんだ! おまえ達はこの旅が成功する自信があるのか!」伊地知は面目を
失って喚いた。

「伊地知君、わしにもこの旅を成功させる自信などはない! しかし、成功させる意志はある!それだけが
この29万6000光年の長い苦難の旅に必要なものだとわしは思う。」沖田は膝を突いて泣き伏した伊地知の
肩に手を置いて言った。

沖田は伊地知にも彼なりの人類愛があった事を知った。

「解りました。私も男です。『箱舟計画』は中止しましょう。 そのかわり、『ヤマト計画』を、宇宙戦艦『ヤマト』を
イスカンダルへ送りましょう。」伊地知参謀長は今までの全ての因縁を涙と共に拭う様に言った。

「忙しくなるぞ! 真田君、大山君、全ての人員、資材の動員権を与える! 3ヶ月以内に宇宙戦艦『ヤマト』を
完成させてくれたまえ!」藤堂長官は真田と大山に激を飛ばした。

土方と沖田は「ヤマト」乗組員の確保と訓練、伊地知は各種マニュアルの製作や一般事務作業の統括を
引き受けた。

ここに来て、これまで一枚岩とは言い難かった日本の体制も固まり『ヤマト計画』はヤマト発進に向けて
一気に走り始めた。


                                                      ヤマト発進まで95日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-26 21:00 | 本文
 「冥王星まで距離3万km、ガミラス艦隊の姿はありません。」探査主任が定時報告をした。

沖田はそれを聞きつつ、ガミラス艦隊の出現を確信していた。

<奴等は狡猾だ・・・。前方から表れるとは限らん。>

しかし、沖田は<このままガミラス艦隊の迎撃を受けずに冥王星の地表付近に侵入出来れば・・・。>と
いう、希望的観測に心が揺れた。

この作戦は戦略遊星爆弾攻撃のための陽動作戦ではあったが、沖田は本気で冥王星前線基地を攻撃する
つもりだったからだ。

冥王星前線基地から冥王星地表上で約2000km離れた地点の上空、約1000mの高度で進入を開始する、
この時点ではまだ、冥王星地表上にガミラス前線基地の姿は見えない、そのままの高度でガミラス基地を
目指して突撃駆逐宇宙艦を突撃させ、地平線にガミラス基地が確認出来た所で突撃駆逐宇宙艦は反物性
ミサイルではなく、反物質ミサイルを15隻で3基、計45基もの反物質ミサイルで基地の施設破壊を狙うのだ。

迎撃に上がってきた敵艦は戦艦「英雄」がフェーザー砲で迎え撃つ、冥王星まで遠征するために必要な
推進剤を出来るだけ多く積むため「英雄」は12門あるフェーザー砲のうち、9門を降ろしていた。

外観上は砲塔は残っていたが中身は抜き取られ、推進剤タンクに置き換わっていた。

エンジンを「箱舟」計画で使用するエンジンの技術を応用して出力を50%上げる事に成功していたので
フェーザー砲塔1基3門でもガミラス戦艦の装甲を貫けるはずであった。

配下の突撃駆逐宇宙艦は元々、外装式の補助タンクを付けられる構造になっていたのでその補助タンクを
大型化、ミサイルを殆ど下ろして反物質ミサイルを1連射出来るだけにしていた。

「英雄」の大改装で装備した3門の18インチ・ショック・カノンは機密保持のために降ろして来ていたが、
伊地知の言うとおり、「箱舟」計画で使用するテクノロジーは出来るだけ秘密にしておくべきだと沖田も
思った。

もっとも重量の制約上、ショック・カノンを残すとフェーザーは全門降ろさなければならなかったので沖田と
してもより融通が利くフェーザーを採らざるを得なかったのが本音だった。

「ガミラス艦隊出現、超弩級戦艦6、巡洋艦8、護衛艦多数、高速接近中!」探査主任から報告が入った。

この時、迎撃してきたガミラス艦隊に戦艦はおらず、駆逐型デストロイヤーが最大の艦だったが、
地球艦隊にして見れば、重防御型駆逐宇宙艦という地球には無い艦種は超弩級戦艦に等しい存在だった
のだ。

「総員戦闘配備、砲雷撃戦用意!」沖田の凛とした命令が飛ぶ、そこへ敵艦隊から通信が入った。

「地球艦隊ニ告グ。直チニ降伏セヨ!」その内容は地球軍を馬鹿にしたものだった。

「返信はどうしますか?」通信士が間の抜けた事を言ってきた。

「『馬鹿め!』と言ってやれ・・・。」沖田はその通信士の事を含めて言った。

「はぁ?」通信士はまだ自分の間抜けさに気付いていなかった。

「『馬鹿め!』だ!」さすがに沖田も声を荒げて命令した。

「地球艦隊より返信!『馬鹿め!』、どうぞ。」その通信士は何処までも空気の読めない男だった。

沖田はガミラス艦隊とのその奇妙な遣り取りに苦笑した。

<しかし、この調子ならもしかしたらガミラスの裏をかけるかもしれない・・・。>沖田は僅かな希望を持って
ガミラス艦にフェーザー砲攻撃を命じた。

射撃指揮システムがガミラス艦を捕らえ、照準プログラムが走る、「撃て!」沖田の命令一下、「英雄」に
残された砲塔1基、3門の14インチフェーザー砲がビームを吐き出し平行した単縦陣を作っていたガミラス
艦隊の1番艦に命中した。

しかし、50%も出力が増していたにも係わらず、「英雄」のビームは空しく跳ね返された。

<何! こんなはずでは・・・。>沖田は心の中で狼狽したが、さすが老勇、微塵もそれを顔に出さなかった。

ガミラス艦隊の反撃が開始され、多量の推進剤の質量に足をとられ、身動きがままならない地球艦隊は
次々とガミラス艦のビームの餌食となっていった。

このビームも沖田が今まで戦ったどのガミラス戦艦より強力だった。

只の一撃で「ゆきかぜ」型突撃駆逐宇宙艦が爆沈してしまうのである。

<これではまるでマリアナの七面鳥撃ちだ・・・>沖田はグッと唇を噛んだ。

**********************************************

フローラーはシャルンホルストの射撃指揮席でカール・ツァイス製の大望遠鏡で冥王星方向を観測していた。

幾つかの光点が煌いた。

「始まったわ! 日本艦隊がガミラス艦隊と交戦し始めたわ!」フローラーは大山に告げた。

「『桃、投げる』、「明石」が第一弾を放った。」大山はグナイゼナウの艦長席で「明石」からの暗号超光速通信を
受けた。

「少なくとも、超光速通信は使えそうだな!」フレイアがはるか数十光分、離れた工作艦「明石」からの通
信成功を喜んだ。

しかし、一向に予定宙域には遊星爆弾は出現して来なかった。

「失敗か! 通信士! 「明石」からの通信は入ってこないか?」大山は応急の配線で蜘蛛の巣だらけの様に
みえる通信席へ呼びかけた。

「はい、何も言って来ません。」通信士は大山に告げた。

<やはり、あの突入速度ではワープ・ゲートに入っても超空間を抜けられず、中にに閉じ込められたままに
なったな・・・。>大山は確信した。

<『桃、投げる』の暗号を打って来た以上、「明石」は超空間に消える遊星爆弾を観測しているはずだ。>

「通信士、『醜女、防げず。』と「明石」に連絡を!」大山は通信を命じた。

「了解!『醜女、防げず。』と連絡しました。」通信士が報告する。

この暗号は第二弾を予定の角速度で打ち出す事を司令するものだった。

工作艦「明石」の艦上で通信を受けた森田技術大尉は遊星爆弾のワープ・ゲート突入速度を予定通り
上げる様に指示した。

再度、『桃、投げる。』の暗号連絡が来た。

しかし、今度も遊星爆弾出現予定宙域には何も現れなかった。

<おかしい! 今度は角速度も充分なはずだが・・・。>大山はいぶかしんだ。

「遊星爆弾発見! 冥王星を飛び越えているわ。」 フローラーが行方不明の遊星爆弾を見つけた。

シャルンホルストやグナイゼナウの本来の任務は通商破壊である、大遠距離での測的はお手の物だった。

しかもフローラーは地球防衛軍一の好射撃手だ。

普通の艦や測的手には見つけられない目標も見つけられるのだ。

大山は頭を掻き毟った、辺りにフケが飛び散る。

「おいおい、俺の船をあんまり汚さないでくれよ。」フレイヤは顔をしかめた。

「通信士、シャルンホルスト、ライニック大佐を呼び出してくれ!」フレイヤに構わず大山はフローラーへの
連絡を要求した。

**********************************************

沖田の耳には次々と味方突撃駆逐宇宙艦、爆沈の悲報が入る、<もう、やめてくれ!>沖田は自分の作戦の
失敗で次々と味方艦が失われてゆくのが耐えられなかった。

しかし、老勇、沖田はこんな時どうするべきか、は骨の髄まで知っていた。

まだ若かりしころ、内惑星戦争の時、その当時、敵だったドイツ艦隊のシェーア大佐(元地球防衛艦隊総司令、
木星会戦で戦病死)と剣を交えた時、優勢だった日本艦隊は只一隻残ったシェーア大佐の指揮する戦艦と
支援の宙雷戦隊2個に戦線をかき回され、日本艦隊は旗艦を撃沈されてその他の艦も大破、中破が
続出するという敗北を喫してしまったのだ。

あの時、日本艦隊はドイツ艦隊をほぼ壊滅させ、勝利まで後一歩という所までシェーア大佐を追い詰めていた。

しかし、シェーア大佐は自分の艦を盾にして2個の宙雷戦隊を日本艦隊の真近まで接近させ、そこで
宙雷戦隊を日本艦隊に突撃させて戦局を逆転させたのだ。

もちろん、シェーアの指揮していた戦艦「ラインラント」は旧式ではあったがドイツ艦らしい重防御を誇る艦だ。

しかし、その性能をフルに発揮させたのはシェーア大佐の力量だった。

この時の体験は沖田に不屈の精神の重要さを再認識させ、彼はシェーアを敵ながら尊敬出来る提督として
一目置かせていた。

だから、シェーア大将が地球防衛軍の総司令官に選ばれた時、その下で働ける事を本当に喜んだものだった。

<起死回生の手はないものか?>沖田は自問したがその答えは外からもたらされた。

「突撃艦17号、ガミラス突撃艦を1隻撃沈!」味方艦から戦果の報告が始めてあった。

「誰の船か?」沖田は問うた。

「護衛隊長、古代の『ゆきかぜ』です。」 沖田は出撃前の呉ドックで激しく言い合った青年を思い出していた。

「反物質ミサイル1連射しか搭載しないなんて私には考えられません。!」古代守は沖田に詰め寄った。

「私は護衛隊長です。 私の『ゆきかぜ』だけでももう1連射、反物性ミサイルを積む許可を下さい。」
古代守は戦艦「英雄」を護衛する護衛隊長に任じられていた。

反物質ミサイルでも艦隊戦に使えない事はなかったが、ガミラス戦艦の装甲は厚かった。

だから、古代守はどんなガミラス艦でも撃破出来る反物性ミサイルの搭載を強く望んだのだ。

「だめだ! 今は1隻でもガミラス基地に反物質ミサイルを叩きこめる艦が欲しい。 それに幾ら増装をつけても
重い反物性ミサイルを積んだら帰りの推進剤が足りなくなる! 我々は特攻しに行く訳ではないんだぞ!」

そう言うと沖田は自分の乗艦、「英雄」に向かったのだが、古代守は沖田の背に意味深長な言葉を
投げかけていた。

「提督、あなたはあなたの思惑で動けばいい、私は私で好きにさせてもらいます。」・・・と。

<古代め、今、ミサイルを使ってしまってはガミラス基地攻撃時に撃つミサイルが無くなるではないか!>

沖田は「ゆきかぜ」がなけなしのガミラス基地攻撃用のミサイルを使ってしまったものだと思ったが、
本当は古代守は「ゆきかぜ」の整備状態が悪く、帰還が望めないのを知り、帰りの分の推進剤の搭載を全て
とりやめ、その分、積めるだけの反物性ミサイルを積んでいた。

「さぁ、次の獲物を片付けるぞ!」部下達に声を掛けて古代守の指揮する突撃駆逐宇宙艦「ゆきかぜ」は
ガミラス艦隊の只中に分け入っていった。

**********************************************

 大山とフローラーは協議を始めた、フレイヤには二人が何を言っているのか、まるで判らない、
本来、士官学校を出ているのだからフレイヤも全くの素人と言うわけではなかったのだが、それでも
さっぱり判らなかった。

<それでいい>フレイヤは自分の分担は躁艦だと割り切っていた。

彼女は一度、操縦桿を握れば重巡、グナイゼナウで航宙戦闘機も振り切れる自信があった。

大山とフローラーの協議が終わった。

大山は今度は超光速通信で工作艦「明石」を呼び出す様に命じた。

そして平文で長々と指示をだした。

「知らねえぞ・・・。ガミラスに見つかっても!」フレイヤは嫌味を言った。

大山はそれには構わず、シャルンホルストに注視した。

シャルンホルストの両舷に突き出た三連双二段に重なった12門の11インチ主レーザー砲塔がゆっくりと廻る。

そして、止まると同時に12条の大口径レーザー・ビームが宙を切り裂いた。

そのビームの到達点に「明石」が発射した遊星爆弾があった。

レーザー・ビーム着弾の衝撃で僅かに軌道を変えた遊星爆弾は冥王星前線基地への直撃ラインに乗った。

「離脱!」大山は命令を下した。

「おい、待てよ! まだ命中するかどうか判らないじゃないか!」フレイヤは抗議した。

<大丈夫よ! 私を信頼なさい。 フレイア >フレイアの頭の中にフローラーの声が響いた。

フレイヤが振り向いて艦長席を見ると大山が親指を突き立てていた。

ワープの実験は大成功だった、後は地球の遊星爆弾がガミラス前線基地に命中してくれる事を祈るばかりだ。

第1特務戦隊は全速力で地球圏を目指して脱出して行った。

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 「第1特務戦隊から連絡あり、暗号、『黄泉比良坂(よもつひらさか)閉じる!』です。」通信士から報告が
入った。

「おおっ!ワープ実験が成功したな!」沖田は思わず機密事項を口に出してしまった。

しかし、今、必死で戦っている部下達はそんな事を気に留めていられる状況ではなかった。

「我々の艦隊はあと何隻残っているか?」沖田はおもむろに呼ばわった。

「突撃艦が1隻です。」 「誰の船か?」「護衛隊長、古代の『ゆきかぜ』です。」

「これまでだな。 撤退しよう!」沖田は目的を果たせたので何時までもガミラス艦隊と戦うつもりは無かった。

「逃げるんですか!艦長!」部下が悲痛な声を上げた。

「このままでは全滅するだけだ! 撤退する。」沖田は部下達に命令した。

しかし、古代守の「ゆきかぜ」は後に続こうとしなかった。

「古代、どうした。後に続け!」沖田は『ゆきかぜ』の古代守に直接通信で呼びかけた。

「提督、申し訳ありません。 私は命令違反をしました。 『ゆきかぜ』は片道分の推進剤しか積んでいません。 

代わりに積めるだけ反物性ミサイルを積み、作戦に臨みました。

ですから、『ゆきかぜ』はもはや帰還不能なのです。

命令違反は重罪です。 罰として私はここに留まって殿を務めます。 提督は早く撤退を!」

それだけを言うと古代守率いる「ゆきかぜ」は群がるガミラス艦の只中に突撃していった。

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 今、ガミラス冥王星前線基地は勝利に沸きかえっていた。

地球軍の冥王星前線基地攻撃艦隊を退けたのだ。 

敵は旧式戦艦を残し、ほぼ全滅した。

今までの戦闘から言って当然の結果だったがそれでもガンツは嬉しかった。

<良かった! あの強力な砲を備えた戦艦は居なかった。>自分が地球人を買被りすぎていたのか、と
反省もした。

 しかし、反対にシュルツ司令は訝しげな顔をしていた。

今回の地球艦隊来襲に合わせ、新兵器、反射衛星砲も待機させていたのだが、そのコントロール・ルームから
不審な報告が来ていたのだ。

地球艦隊との会戦が始まって直ぐ、地球軍とは反対の方向から侵入して来た隕石があり、その軌道を
計算すると冥王星前線基地を直撃するコースだったので直ぐに反射衛星砲を起動、衛星反射のプログラムを
組んで迎撃、その隕石を排除した旨の報告だった。

<まさか・・・な。>シュルツはこれが地球軍の攻撃かもしれない・・・。と一瞬、疑ったが、直ぐに頭の中から
その恐れを振り払った。

<もう地球軍には抵抗する力は残っていまい。  遊星爆弾を落とし続けるだけだ。>シュルツは勝利の報告を
するため司令室で母星との通信回路を開かせた。

                                                     ヤマト出撃まで137日
# by YAMATOSS992 | 2012-06-25 21:00 | 本文

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